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第3回 12月2日実施

クラシゴト改革

コロナ禍を背景にテレワークの普及が加速した2020年。「テレワーク」という新しい働き方への対応方法を模索するなかで、「働き方」はもとより「暮らし方」に対する意識にも大きな変化が生まれました。今回はデータとリアルな事例を通じて、社会人の「生き方・暮らし方」に対する価値観の変化と、それに対応する企業の取り組みなどについて2名の話者が語りました。

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セミナーレポート

クラシゴト改革

3回目のテーマは「"働く"と"住む"の関係性のコレカラ」。リクルートキャリア HR統括編集長 藤井 薫と、リクルート住まいカンパニー『SUUMO』編集長 池本 洋一が、テレワークの普及に伴って起こりつつある兆しを、「暮らす人・働く人」「企業」双方の観点から多数の事例を交えて語ります。

左から岩下 直司(ファシリテーター)、藤井 薫、池本 洋一

東京におけるテレワーク経験率は約7割。継続意向も8割超え

藤井:リクルートキャリアの藤井と申します。普段は「働く」の領域で人と組織の新しい在り方について調査・編集・発信を行っております。

今回は「"働く"と"住む"の関係性のコレカラ」ということで、「働く」と「住む」という視点を重ね合わせることで見えてきた新しい潮流についてお話できればと思いますが、まずは私から「働く」の観点で、今起きていることについてお伝えいたします。

この一年で加速したのは、なんといってもテレワークです。緊急事態宣言下で首都圏を中心に急激に普及したのですが、全国平均で48.0%、東京ではなんと71.1%の方がテレワークを経験されています。

さらに実際にテレワークを経験された方の多くからポジティブな声があがってきています。例えば、「自己の判断で自由にテレワークができるようになって良かったですか」という問いに対して66.1%は「良かった」と答えていて、「今後もテレワークを続けたい」という方は84%。このテレワークによって「働く」という領域に、新たな兆しが生まれたのはもちろんですが、「住まい方」「暮らし方」の領域にも大きな影響を与えることになりました。

住み替え検討24%。在宅時間が長くなったことで「住まい」への欲求アップ

池本:リクルート住まいカンパニーで『SUUMO』編集長をしております池本と申します。よろしくお願いいたします。私どもは『SUUMO』を通じてさまざまな住まいの選択肢のご提供をさせていただくとともに、「住みたい街ランキング」などの情報発信も行っております。

さて、先ほどから話題にあがっているテレワークですが、「住まい」の領域にも大きな影響を与えております。こちらをご覧いただくと(下図)、「今後もテレワークが続く場合、今の家から住み替えを検討したいか」と聞いたところ、なんと24%の方が「検討したい」と答えています。日本で一年間に引っ越しする世帯は約5%ですから、かなり高い数字だとお分かりいただけると思います。賃貸住宅にお住まいの方が30%と特に高く、在宅時間が長くなったことで部屋の狭さや古さなどが気になったり、さらに上下階での音のトラブルも今まで以上に増えているということです。

そして、2019年のトレンド予測として発表させていただいた「デュアラー」、つまり二拠点居住への意向ですが、発表当時は14%くらいだったのですが、このコロナ禍でその倍にあたる27.4%まであがってきています。都市の利便性を享受しながら、 郊外や田舎の暮らしも楽しむという暮らし方はより広がるのではと考えます。

閲覧数の伸び率ナンバーワンは、三浦市(中古マンション)、富津市(中古戸建て)

これはSUUMOのログデータから分析したものになりますが、今年1月の閲覧数を100とした時に、8月の時点でどこの市区町村の閲覧数が伸びたのかを調べたところ、中古マンション(オレンジ)の1位は神奈川県三浦市。2位が逗子市、3位が横浜市瀬谷区、4位が千葉県成田市となりました。郊外のマンションの関心が高くなっていることが分かります。さらに中古戸建て(ブルー)でいうとなんと1位は千葉県富津市、2位が館山市、3位には栃木県那須町がランクインしています。
このデータを見ていると、風光明媚でリゾート性を兼ね備えたエリアの閲覧数があがっており、二拠点目を視野に入れて閲覧されている方も相当数いるのではないかと思います。

ここまでの話をまとめさせていただきますと、テレワークの普及が起点となってふたつの大きな変化が起きています。

ひとつめは「住む場所」と「働く場所」の選択肢が広がったということ。最近郊外エリアの人気が出ているという話がありますが、都心近郊外・田舎移住、ワーケーション、二拠点/多拠点居住、サテライトオフィスのように、さまざまな選択肢が広がってきています。

もうひとつは、「時間の使い方」ですね。仕事の前にちょっと時間を作って趣味や副業にトライしたり、ボランティアへ参加できるようになったということなどですね。つまり、仕事と暮らしの「自由度」「裁量度」が増したということだと思います。これによって、住まい手側が起点となってさまざまな変化が起こっているのが現状だと考えています。次は、人々の価値観の変化をお伝えしたいと思います。

コロナ禍に「将来のキャリアを見つめ直した」人は約6割にものぼる

藤井:仕事と暮らしの「自由度」「裁量度」など、自分でコントロールできる領域が増えていくのに伴って、人々の価値観にも変化が出てきているように思います。

コロナ禍で「人生を見つめ直した(あてはまる13.1%)」「他人の目を気にせず、自分の幸せを追求する生き方がよい(あてはまる42.7%)」という人が増え、キャリアにおいても「見つめ直した」という方が約6割もいらっしゃいました。「セルフリフレクション」という言葉がありますが、コロナ禍で人生、そしてキャリアについてもう一度見つめ直した方がとても多かったというのは、2020年の大きな動きだと思います。

もうひとつはそうしたなかで、転職検討時の仕事選びの重要項目が変わってきているということです。今までだったら、「仕事内容」などが上位に来ていたのですが、「プライベートの時間を十分に確保できる」「働く時間を柔軟に変えられる」「テレワークが認められている」など「働く場所・時間の自由度」を重視する方々がとても増えているんですね。さらに「副業が認められていること」も重視する人が増えています。働く「時間」や「場所」だけでなく「仕事の内容」を、自身のありたい生活を中心に考えながらもう一度選び直す。そんな人たちが増えているというのは新しい兆しです。

岩下:ここまでのお話で、コロナ禍において住み替えや転職を検討する人が急に増えるという、今まであまりなかったような事象が起きていて、そこから生活されている方や働く方の価値観の変化の兆しが読み取れましたね。

我々はこれらを、「人生をもっと豊かにする暮らし方、働き方の変化の兆し」というふうに捉えて、「クラシゴト改革」というキーワードを設定させていただきました。先ほども説明がありましたように、時間も場所も個人の裁量度が広がっています。そのなかで自分を見つめ直す人が増え、暮らしや仕事を見直す人が増えています。「本当の幸せとは何なのか」「本当に大切にしたいことは何なのか」を考え、そちらへシフトしていく。コロナ禍がこういった変化を加速させているという面もありますが、こういった価値観の変化が、今後も恒常的に起きていくのではないかと我々は予見しています。

この「クラシゴト改革」というキーワードについて補足させていただくと、従来よく言われていた「働き方改革」は、やや会社起点な言葉だったのですが、この「クラシゴト改革」というのは、生活者とか働く人が自ら変わる、暮らしごと変えていくということを意図して名付けさせていただきました。

テレワークならどこでも仕事できる!自分らしい暮らし方・働き方の実践者

池本:ここからは少し具体的な事例紹介をいたします。まず私からは、この「クラシゴト改革」の実践者をご紹介したいと思います。

おひとり目は20代後半独身の方でIT関連企業にお勤めされています。元々サーフィンが趣味だったのですが、今までは職住接近の方が暮らしやすいということで、都内での勤務に合わせて都内にお住まいでした。それがコロナ禍でフルテレワークになり、人との関わりがなくなってしまい、プチうつ状態になってしまったんだそうです。そこで、実家のある鎌倉に戻り、朝夕に時間を作りサーフィンするという生活に変えたところ、格段にコンディションが良くなったそうです。

そのことをきっかけに、小田原で友人とシェアハウスを借りたり、長崎の五島列島で仲間とワーケーションできるような場所を借りたり、数ヶ月そういう暮らし方を実践されたそうです。勤務先では自宅以外の場所での勤務に関する明確な規定が定まっておらず、まさに議論中だったこともあり、この方は試験運用という形で会社からも承諾され、この暮らし方を実現されたということです。「ワーケーションで 新たな仲間もでき、"仕事""自分"だけではない広がりができ、心身ともに成長したことで今の仕事にプラスの影響が出ている」というお話も印象的でした。

おふたり目は、フォトグラファーの夢をコロナ禍を通じて実現された方です。元々は学生時代から写真を撮るのが好きで仕事にしたいと思いつつも、なかなかそれだけでは生活が難しいということで、現在は民間の気象会社に勤務をされています。コロナ前から平日は会社で働き、週末はフォトグラファーとしての副業でいろいろなところを飛び回っていたのだそうです。そんな折、コロナ禍でフルテレワークが認められることになり、現在は平日は朝7時に仕事を始めて15時には終了。その後の時間はワーケーション先でフォトグラファーとして活動されています。以前に比べて、ハードな移動がなくなり心身ともに楽になったのはもちろん、新しいアイデアを会社に持ち込むなど平日の業務にもよい影響を与えているそうです。

とはいえ、さまざまな土地でワーケーションをするとなると、金銭面の不安があります。この方は、定額でいろいろな拠点が使い放題になる「HafH(ハフ)」というサービスを活用しながらやりたいことを実現しているそうです。

三人目の方は、住まいを他に移したという事例ではありません。コロナ禍で経営が苦しい地元の飲食店の方の話を聞き、何か自分にもできることがないだろうかということで、近隣の飲食店でお酒や食事を買い、家に持ち帰りオンライン飲み会をやる「浦和パーティー」というサークルを立ち上げたそうです。飲食店の方々からも喜ばれるし、コロナ禍でテレワークとなり、地元滞在時間が延びたことで、働くお父さんが地元の活性化やネットワークづくりに貢献することができたという事例です。

他にも、東京の自宅を引き払い「ADDress(アドレス)」という住まいの定額サービスを活用してテレワークで仕事をしながら多拠点生活を実現されている方、30代女性で、フルテレワークをやりながら、長期休暇のタイミングではお子さんを連れて塩尻市で「ふるさと副業」をされている方、山好きが高じて今は高尾山の近くに住み、朝トレイルランニングをやってから仕事をするという生活をされている方、鎌倉移住をきっかけに、街の人たちと一緒に街を盛り上げていこうというムードに感化され、今ではご自身の実家のある神戸にUターンされて神戸の街を盛り上げるような活動をされている方もいらっしゃいます。

このようにコロナ前後で、住まい方や暮らし方を変えた方がたくさんいらっしゃいます。次は企業側でどのような動きがあるかをお伝えします。

転勤辞令が出ても引っ越し不要!従業員の自分らしい生き方を支援する企業の施策

藤井:皆さんとても楽しそうですよね。最近では、このように自分の暮らしを中心に考えて仕事を新しくデザインしていこうという方々を応援する企業もどんどん出てきています。

まずは株式会社JTB。ニューノーマル時代の新しいワークスタイルを掲げ、従業員のライフステージにあわせて一人ひとりが新しい生き方や働き方を選択することを応援するような制度を多数導入しています。そういった従業員の自主選択を支援することによって、企業側としては生産性向上やエンゲージメントをあげるという狙いもあるそうです。

まず、2020年10月から導入スタートした「ふるさとワーク制度」。これは、転勤辞令が出ても、今、いる場所に住み続けながら、異動先の業務にはテレワークで従事するというものです。家族がバラバラになったり、好きな趣味から離れることなく働くことを支援する制度です。

ふたつ目は、勤務日数を自ら選べるという「勤務日数短縮制度」というもの。今までは週5日間働くのが当たり前でしたが、週に3日間、4日間だけなど働く日数を選択できるというものです。こういう制度を活用すれば、仕事しながらでも、大学で学び直しをしたり、副業をしたりボランティアで活動したり、介護や子育てに参加したりしやすくなりますよね(2021年4月から施行)。その他にも副業やテレワークのガイドラインを見直して、働く人たちが自らの暮らしと仕事をデザインする支援をする動きが出てきています。

もう一社の事例をご紹介します。ヤフー株式会社は2014年から「どこでもオフィス」といって働く場所を問わない労働スタイルを支援してきた企業ですが、コロナ禍でこの「どこでもオフィス」を無制限化(リモートワークの回数制限を解除、フレックスタイム勤務とコアタイムを廃止、最大月7,000円の補助、通勤定期券の支給を停止し実費支給化)しています。まさに「ワーク」と「ライフ」をバランスさせるということを超えて「ワーク・アズ・ライフ」、つまり生活の中で仕事をどうデザインするかというところまで踏み込んでいるように感じます。さらに100 名を超える「副業人材」に会社を開き、多様な視点、アイデア、価値観を交流させることによって、さらに新しいユーザー体験やサービスを作ろうという意欲的な取り組みもされています。

駆け足で二社の事例をご紹介してきましたが、どちらの事例も従来型の「会社中心の働き方改革」ではなく、「生活者中心のクラシゴト改革」にすることによって、最終的に企業自身もサービスの進化、ユーザー体験の向上という合理的な果実を狙っているのがとても象徴的です。今後もこうした「クラシゴト改革」を積極的に支援する企業がますます増えていくのではないかと考えています。

「仕事」か「生活」かのトレードオフではなく、両方を大事にするためのヒント

岩下:実際の生活者の方々の事例とそれをバックアップする企業の実例を話していただきました。我々が「クラシゴト改革」と呼んでいる現象がなぜ起こっているのか、そしてこれからも進んでいくのかということを「イママデ」と「コレカラ」の比較の中で整理させていただきます。

基本的には、これらの変化は元々起きつつあったものがコロナ禍によって加速したと我々は捉えています。「テレワークが当たり前」になり、「時間・場所の自由度が向上」したことなどが大きなきっかけになっていると思います。

事例のなかにもいくつかありましたが、働く人々、生活する人々の価値観にも大きな変化が生まれています。仕事とか人生とかキャリアという観点に関しても、今までのどちらかといえば「会社中心の単線的な考え方」から、本当の意味での「充実した社会人として複線的なキャリア」というところに価値観が移行しています。以前から言われていたことでありますが、経済的な豊かさよりは心理的な豊かさの比率として上げていきたいという変化が起きていると我々は考えています。

このように制約条件が外れたことによって、今までのように「仕事か生活か」「仕事か家庭か」というトレードオフの考え方ではなく、「どちらも大事」であり、「どちらも大事にすることは可能だ」という方向に進んでいくのではないかと考えます。

ここまで説明してきました「クラシゴト改革」を進めていく上でのヒントをまとめてみました。

生活者としての体験を大事にする「クラシゴト改革」は企業にとっても合理的

1時間にわたり、「暮らし」×「仕事」=「働き方」で「クラシゴト改革」という新しい潮流についてお話させていただきましたが、「クラシゴト改革」は今まで起きていた変化と質的にどう違うのかどこが一番違うのかを、最後に教えていただけますか?

藤井:従来の「働き方改革」は会社を中心にして「会社の中で生産性をどうあげるのか」が目標でした。会社の「場所」や「時間」の規制のなかをどうやって変えていくかだったのですが、今回の「クラシゴト改革」は暮らしを中心に「働き方」を変えるということ。新しい価値の創出は、もはや会社やオフィスのなかだけでは難しくて、ユーザー体験やオンライン体験のなかで生まれてくるものだと思うんです。そのことに企業自身も気づきはじめているからこそ、会社に閉じた働き方ではなくて生活者の体験のなかにある「クラシゴト改革」に合理性が移動しているのだろうと考えます。

池本:すこし強すぎる言い方かもしれませんが、「主権の移動」かなと思います。つまり、欧米だと労使の関係は対等で、自分の希望条件を提示したうえで、ジョブの内容をすり合わせるのが当たり前だったのに、日本ではなかなかそうした機会は少なかった。しかし、実際に今回の事例は、自分たちはこういう暮らしをしたい、働き方をしたいということを、自ら会社に働きかけて実現している事例ばかりで「主権の移動」を感じました。もちろんそういうことが難しい職種の方々もいるとは思いますが、できる人からすこし主権を発動して自己裁量権の拡大を望むという地殻変動の兆しと捉えてもいいんじゃないのかなと思っています。

岩下:今回の「コレカラ会議」は以上となります。ご視聴ありがとうございました。

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