これからの働き方は十人十色。サイボウズ株式会社 青野社長に学ぶ

これからの働き方は十人十色。サイボウズ株式会社 青野社長に学ぶ

文:塚田有那  写真:佐坂和也(写真は左から青野さん、林さん)

これまでの慣習を打ち破り、前例のない働き方を提示しつづけるサイボウズ株式会社。社員の個性に応じて変化する働き方とは?

一人ひとりの「働き方」を考える。それは今後の社会のあり方や産業そのものを見直す機会にもなる。リクルート・ダイバーシティ推進部が進めるプロジェクト「Be a DIVER」のイベントでは、毎回さまざまなゲストを交えて、「働き方」や社内のダイバーシティを考察・実践する機会を生んでいる。今回は、独自の社風と働き方を実践することで知られるサイボウズ株式会社のオフィスにて、サイボウズ青野社長を招いたレクチャーとトークセッションが行われた。

「3回も育児休暇を取った代表取締役」としても知られる青野社長。当のご本人は「何十時間でも働きたいワーカホリックな人間だった」と笑うが、そんな青野社長率いるサイボウズの働き方は注目の的であり、最近ではITソフトウェア開発の事業にとどまらず、官庁等で働き方改革に関するアドバイザリーも行っているという。サイボウズはなぜここまで独自の社風をつくることができたのだろうか。

社員の声を集めて生まれた、創造性あふれるオフィス環境

サイボウズを訪れると、まず飛び込んでくるのは極めてユーモラスなオフィス環境だ。イベント当日はオフィス内のツアーが行われた。

オフィス写真1

まるで動物園? 「FOREST」をイメージした打合せフロアのエントランスでは、動物たちがお出迎えしてくれる。オフィスの各スペースには空中に浮いているような内装の「SKY」、社員のデスクルームは野外のベースキャンプなど、それぞれにユニークなコンセプトがある。

オフィス写真2

「サイボウ樹」と呼ばれるオフィスのシンボル。モニターにはニュース番組を流したりするほか、その日の天気を伝えてくれる。フロア内には、山小屋のカフェのようなしつらえの打合せスペースが各所に点在している。

オフィス写真3

キッチンルームを完備した「とりカフェ」と呼ばれるダイニングスペース。ランチタイムなどによく利用されるが、社員一同を集めたパーティなどもよく行われている。この空間の奥には、子連れ出勤や育児休暇中の社員のための授乳室と、休憩用の仮眠室もある。

モチベーションの多様性から、働き方を「選択」できる会社に

サイボウズの働き方の最大の特徴は、その多様性にある。週3日勤務や時短勤務など、社員のワークスタイルは十人十色だ。500人以上が勤務する企業において、ここまで多様な制度を取り入れている会社は珍しい。しかし、サイボウズが変わったのはここ10年ほどのことだ。 きっかけは、青野氏の社長就任後、2〜3年のうちに離職率が上昇していたことにあるという。給与の引き上げや業務転換などを行い、必死の引き止め工作を試みたが、結果は「あっけなく全敗」(青野社長)。

「あるとき、若い社員のひとりが退職を申し出てきました。そこで引き止めることをやめ、「やめるんだったら、新しい仕事は何をしたいのか相談にのってやる」と言ったところ、彼は「なぜ僕はとめてくれないのか」と言うわけです。そこで詳しく尋ねてみると、会社の勤務内容がイヤなのではなく、部署間で起きていた問題が一向に解決しないことに不満があるんだと言うんです。そして、翌日に部署の問題の改善案をプレゼンしてくれました。そうして密なやり取りをしていった結果、彼は会社にとどまっただけでなく、その年の社内MVPにも輝きました。私はこの経験から、モチベーションというものは一人ひとり違うことに気が付いたんです」

モチベーションが多様であるならば、その人にあった人事制度に変えようと青野社長は決断した。「100人いれば、100通りの人事制度があっていい」という方針を打ち立てたのだ。そこでのポイントは「公平性」よりも「個性」を尊重すること。

残業の有無、週3日や短時間勤務など、社員それぞれが自由に働き方を選択できるようにしたほか、労務制度においても育児休暇を6年(!)にまで延ばすなどの見直しをはかったという。それだけにとどまらず、「サイボウズは好きだけれど、一社しか知らない自分を成長させるため、他の会社を経験してからここに戻ってきたい」という新卒社員からの声があったとき、退社しても再入社できる「育自分休暇」を導入。6年間有効な「再入社パスポート」を発行し、現在までに7人ほどの社員が「再入社」しているのだという。

「働き方は選択できる。人事制度を『変える』のではなく『増やす』方向にシフトしたんです」

働き方を変えるために、社内の風土を育てていく

ワークスタイル変革の要件は3つある。ひと目で社員の状況が総覧できる情報共有クラウドなどの「ツール」の共有、そして在宅勤務や育児休暇などの「制度」の変革がある。しかし、最も重要なことは社内の「風土」を育てることにあるという。実際、他の企業にも男性の育児休暇制度は存在するが、実際にそれを使えるかどうかは社内の風土や価値観に関わってくる。多様性を認める文化が根付けば、異質を排除しない文化へとつながっていく。

そこで青野社長は「子育ては長期にわたる顧客を創造する業務だ」というメッセージを社員全員に送るなどし、一人ひとりの共感を得ることに努めた。どれだけ斬新な働き方制度を取り入れても、社内に少しでも不公平だという声があがれば、チーム内の関係不和につながりかねない。何度も対話を試み、何が最も必要かを社員自身が考えられるようにコミュニケーションしていったという。

「社内では、『生産性を上げる』という言葉はほとんど使われません。そもそも『生産性』という言葉自体が、非常に工業社会的な発想から来ていると思います。知恵やクリエイティブで勝負する企業においては、お客さんにとってどんな価値を提供できるかが最重要課題。作曲家はきっと、名曲が生まれるまでの時間を効率的に短くできればいいなんて考えていませんよね。そのとき次第で、5時間にも、10時間にもなったりする。そう考えていけば、それぞれがどんな働き方をしていても、自ずとベストな答えが見えてくると思うんです」

青野 慶久

自分の理想を、つねに自問自答する

基本原則として、人は理想に向かって行動する。自分は何を強く願っているのかが、これからの働き方を変えていく鍵となる。

「経営者として会社の目標を設定するとき、売上を増大したいかと自問しましたが、そこには真剣になれないと思ったんです。では何なら真剣になれるかといえば、ぼくたちが作ったソフトが世界中で使われること。一点突破で世界へいく、それが自分の持っている理想なんだとわかったんですね。どんな人と働きたいか、どんな社会をつくりたいか、それを追求していった結果、『チームワーク溢れる『社会』と『会社』を創る」というコンセプトが生まれました。何を理想としているかを常に自分に問う。それが一番のモチベーションにつながるんです」

また、育児を実際に体験した青野社長は、24時間365日子供と一緒にいなくてはならないという育児の大変さを知ったという。

「子育てはいつ落ちるかわからないサーバーをひとりで管理しているようなもの(笑)。男性が家事育児に参加することが、妻の負担を減らし、第二子の誕生にも大きく影響しているというのは統計データを見ても明らかなんです。なかなかそれが浸透しないので、「イクボス企業同盟」という連盟に参加し、変革を呼びかけています」

青野 慶久

「働き方変革」を実現するために

最後は、リクルートホールディングスで『働き方変革プロジェクト』リーダーを務める林宏昌と、青野社長の対談がスタート。

林宏昌(以下・林) 時短勤務という理想はあっても、会社でひとりだけ抜けて早く帰るのは忍びないという思いが生まれやすい気がします。

青野慶久(以下・青野) 一度、仕事の棚卸しをしてみてほしいですね。自分のしていることがお客さんのためになっているかを考えてみる。もちろん自分ひとりではできないと思うので、まずはチーム間で話し合ってみることから始めるのがいいと思います。

 たくさん働きたいような人も数多くいるなかで、早く帰る人もいれば残業して働く人もいる。それでも結果は平等というのが難しいところです。

青野 サイボウズでは、社員を比較して考える給与の評価基準をやめたんです。社員がどれだけの時間をかけてがんばったかではなく、一人ひとりの特性やスキルで評価するようにしました。そして、給与の評価基準を外に見出して、市場価値ではかることにしたんです。

 本質的なスキル、アウトプットの質で評価をする。つまり社内で比べるのではなく、市場価値で評価するということですね。マネジメント能力の質も問われるような気がします。一方で、「あいつ、毎日何時間もがんばっているよな」ということが話題とされるような風土があると、変革は難しいようにも思います。個人はどういうことに気を付けた方がいいのでしょうか?

青野 同じオフィスで顔を見合わせて何時間も働く人のほうに信頼が生まれるのは仕方ありません。普段からサボりがちな人が週3日しか来ないとしたら、当然不信感が社内に芽生えてくる。しかし、普段の仕事をきちんとこなす人であれば、オフィスにいなくても信頼して仕事を任せられますよね。もうひとつは自立性。若い社員に「ぼくは何時に来たらいいですか?」と聞かれたら、「君の理想の働き方は何だ?」と聞くようにしているんです。

 現在リクルートでも働き方を見直しているのですが、おっしゃる通り働き方は会社が決めるのではなく、ぼくたちが選んでいくことが大事だと気が付き、社員にアンケートを取りました。しかし、それまで労働時間などは会社が決める、という制約があるのが当然だったので、自分がどんな働き方をしたいかと突然問われても、なかなかビジョンが描けない人がほとんどだったんです。

青野 オフィスにまったく来ない人がいるなど、多様な働き方の事例が間近で見えてくれば、自ずと考え始めるんですよね。

 とはいえ、実際の業務を変えていくのはなかなか難しい。最初の一歩はどこから始めればいいと思いますか?

青野 一気に全体を変えるのは難しいものです。でも、問題を細切れにしていって、当たり前ですができることから始めてみるといいと思うんです。たとえば、自分のグループが5人くらいいるとしたら、今週はこんな働き方をしてみようと提案してみる。一回やってダメだったらやめればいいんです。でも、やってみると次はこうしてみようというアイデアが出てきたりもします。ぼくが育児中に短時間勤務を始めた際、すべての経営会議を16時までに終えることにしたんです。はじめは絶対に無理だと思われましたが、そもそも経営会議を16時までに終わるために、自分の役割の中で何が最低限必要なのかを細分化してみたとき、部署間での決めごとは部署長が細かく見ていてくれるので、それに対して社長としての意志決定をすればいい、ということに気が付いたんです。実際にやってみるとものすごく好評で、意志決定が早い時間に終わる分、そのあとの仕事がスムーズになったという声があがってきました。みんなの足を引っ張っていたのはぼくだったのか、と焦りましたね。実践してみると意外なところで良い方向に向かうことはたくさんあって、知恵を絞ればなんとかできたりするものなんです。

 時短勤務の社員の仕事を補うために、余剰人員を確保されたりしているのでしょうか?

青野 もちろん人員が充分いるのに越したことはないですが、「いまやっている仕事のクオリティを下げない」という発想自体を変えてもいいと思うんです。日本社会はオーバークオリティを追求してみんな泥沼にハマっているんじゃないかと。仕事の質から生活の質へ価値基準をシフトしたら、みんな幸せに働けると思います。

 最後にメッセージをお願いします。

青野 「法人」に縛られる「個人」という関係を見直す必要があると思います。「法人」というと、何か絶対的な個があるように感じてしまう人も多いと思うのですが、そもそも「法人」という「人」などは実在しないんです。そんなバーチャルなモンスターにぼくら人間は縛られてはいけない。「サイボウズは」なんていう主語があったとしたら、そんな人は存在しません。このことに日本中の人が気付けば、きっと社会は変わっていくと思います。

林・青野

プロフィール/敬称略

青野慶久(あおの・よしひさ)
サイボウズ 代表取締役社長

1971年、愛媛県今治市出まれ。大阪大学工学部情報システム工学科卒業後、松下電工(現 パナソニック)を経て、1997年愛媛県松山市でサイボウズを設立。2005年代表取締役社長に就任し、現在に至る。社内のワークスタイル変革を推進し、離職率を6分の1に低減するとともに、3児の父として3度の育児休暇を取得。著書に『ちょいデキ!』(文春新書)『チームのことだけ、考えた。』(ダイヤモンド社)がある。

林宏昌(はやし・ひろまさ)
ワークスタイルイノベーション 働き方変革推進室 室長

2005年リクルート入社。住宅領域の新築マンション首都圏営業部に配属。1年目の目標達成率は50%だったが、当時の部長に「営業はお客様と商談している時が一番恰好いい。WIN-WINになることが出来る価値を提供して、商談が終わった後握手できる関係性をつくれ」とアドバイスを受け急成長。優秀営業を表彰する全社TOP GUN AWARDを入社4年目と5年目に連続受賞、6年目でマネジャーに。2015年4月より広報ブランド推進室 室長兼『働き方変革プロジェクト』プロジェクトリーダー。2016年4月よりワークスタイルイノベーション 働き方変革推進室 室長。

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