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【後編】価値観の断絶を埋めるための『翻訳』。m-flo VERBALの国際感覚とは

グローバル , グローバル人材 , ビジネススキル , 事業推進 , 海外から見た日本

文:葛原 信太郎 写真:須古 恵

アーティストだけでなく、経営者でもあるm-floのバイリンガルラッパー VERBAL氏。日本と海外を行き来する中で磨かれた国際感覚と、コミュニケーションの断絶を埋める方法を聞いた

日本語と英語を縦横無尽に操り、まるでひとつの言語のようなラップを紡ぎ出す「m-flo」のバイリンガルラッパー VERBAL氏。アーティスト活動の他、EXILEや三代目 J SOUL BROTHERSを擁する「LDH JAPAN」の国際事業部プロデューサーや、アパレルブランド「AMBUSH®︎」の経営者としても手腕を振るう。海外のビッグアーティストとの親交も深く、国内外の音楽・アパレルシーンに対して、プレイヤーと経営者、双方の目線も持ち合わせる稀有な存在だ。本記事では、VERBAL氏に「海外から見た日本」をテーマに話を聞く。

海外を意識しつつも、日本の独自性を深掘る

前編では、VERBAL氏が所属し、国際事業を牽引するLDHの話と、その中で見えてきた海外と日本の音楽市場の対比を語ってもらった。K-POPと対比したときに大きな差をつけられた日本の音楽シーンはどのように世界を見据えれば良いか。日本のアーティストが海外で戦うために必要なマインドを聞いていく。

「僕は、日本の音楽は、その独自性を保ったままでいいと思っています。中途半端に相手に合わせて、ブラックミュージックの本丸のアメリカに『僕たちなりのブラックミュージックを聴いてください』と提案したところで『いやいや、間に合っています』と言われてしまうのがオチです。音楽だけでなく、あらゆる場面で言えることだと思いますが、相手の迎合することなく日本らしさを際立たせて、他にはないユニークなコンテンツにしたほうが、興味を持ってもらえるはずです。あとは、如何に相手を巻き込んでエンゲージメントを高めるかが重要です。相手に合わせるのではなく、こちらの世界観の「コンテクスト」を理解して頂き、有りのままの自分を表現することで世界に進出できると信じています。」

海外のビッグアーティストが訪日した際に、もてなす機会も多いVERBAL氏。海外のゲストたちも、日本の独自性を楽しんでいるという。

VERBALさん

「日本人は、自分たちの良さに慣れすぎていているから気付けない。でも、日本には日本の良いところがあります。例えば『普通』のレベルがとても高い。とある海外アーティストを高級レストランに連れていったホテルへの帰り道、某コンビニエンスストアに立ち寄ってホットスナックのチキンを買ったんです。そして食べた瞬間に『Best chicken in the world!!!』っていうんですよ(笑)。海外のコンビニにも、その場で食べられるフィンガーフードは売っているんですが、とにかくおいしくない。高級レストランで美味しいものが食べられるのは万国共通。日本は、期待していない場所で思わぬ質の高さに出会う。低価格の商品のパッケージがすごく洗練されていたり。期待値とのギャップに驚き、深く印象に残るようです」

鍵は、グローバルプラットフォーム

独自性はそのままで良い。とは言え、戦略は必要ではないだろうか。日本のユニークさを伝えるために、何が必要か問うと、様々な要素があるから一概には言えないけれど、と前置きした上で、鍵はグローバルプラットフォームを使いこなすことにあるのではないかと答えてくれた。

「海外では、YouTubeにミュージックビデオをアップロードして広告費による収入を得るのは既に王道です。日本の場合は、DVDやブルーレイにして販売する戦略を取ることが多い。すると、YouTubeやSpotifyの再生回数が低くかったり、そもそも公式の音源が上がっていないこともある。海外の基準は、グローバルプラットフォームでのフォロワー数や再生数。日本のアーティストは同じ土俵に上がれないわけです。僕がやっているのはそのギャップを埋めること。例えば『三代目 J SOUL BROTHERS』の日本国内ツアー動員数を伝えると驚かれますし、一気にアテンションを得ることができます。改めて、日本の音楽市場の「コンテクスト」を理解して頂いてからお話を展開させると、様々なビジネスオファーに繋がります。」

日本独自の文化を育んできたのは、音楽だけではない。例えばファッション。日本が生んだヨウジヤマモト、Comme des Garçons、ISSEY MIYAKEは言うまでもなく、A BATHING APE®などのストリートブランドも様々なものが生まれ世界に羽ばたいていった。VERBAL氏は現在世界でも注目が熱い東京発のアパレルブランド AMBUSH®(アンブッシュ)の経営者でもあり、世界的なファッションマーケットにも造詣が深い。日本のファッションは海外からどのように受け止められているのだろうか。

「既に存在するものを進化させてリブランディングし、新たな息吹を吹き込む『リミックス』スタイルは日本人の得意分野。あとは、多ジャンルを独自の観点で混ぜる『ミックス』感覚。ファッションに置いても、海外からも評価されているポイントのひとつです」

VERBALさん

そこには、2つの新しさがあるはずだとVERBAL氏は分析する。

「1つ目は、本来の常識やルールを知らないが故に『それとそれを混ぜちゃ駄目でしょ』という世界の固定概念を壊す新しさ。日本の若者はこれが上手です。僕が若い頃から、原宿にはブレイクダンサーもロカビリーもスケーターもゴスロリもいた。ひとつの街に多様な文化が共存していて、それを良しとする貴重な環境があります。2つ目は逆の考え方。ルールや歴史をよく知っていて、それを踏まえた上で自分自身のセンスや今っぽさを付加してつくる新しさです。例えば、HUMAN MADE(元A BATHING APE)創業者のNIGO®さんは、ヴィンテージデニムはもちろん、玩具、家具など、様々な分野でも有数のコレクターです。彼がつくる洋服にはマニアを唸らせるディテールもあれば、多くの人に受け入れられるポップさも兼ね揃えていて、そのセンスは世界中から注目を浴びています。」

ルールを破った新しいもの。ルールに則った上で自分たちらしさを付加した新しいもの。どちらにせよ、0→1ではなく、1→10の部分に、日本のファッションの強みがあるようだ。

相互理解に向けた「翻訳者」が求められる

日本で独自の進化を遂げた音楽とファッション。だが、世界からの注目度には差がある。この2つにはどういった違いがあるだろうか。VERBAL氏は、丁寧に言葉を選びながら話を進めてくれた。

「言語の壁は大きかったと思います。日本語の歌詞は、海外に真意が伝わりません。一方、ファッションはプロダクトを見ただけで良さが伝わります。ただ、これからは変わってくると思います。とくに若い人たちの感覚の変化を感じます。グローバルな環境で育った人や、英語を学んでいる人も増えてきました。インターネットを通じて、海外のカルチャーにも詳しい。SNSを通じて憧れの人にも直接連絡がとれる時代ですから、物怖じもしない。あらゆる分野で日本と海外の溝は埋まってくると思います」

もちろん、コミュニケーションに言葉は欠かせない。だがしかし、それだけでは相互理解は深まらないとVERBAL氏は言う。大切なのは、海外の文化をうまく日本に伝えて、日本の文化を海外にうまく伝える『翻訳』の力だ。

「僕らがデビューしたころは、海外で今ほどお寿司が食べられていた時代ではありませんでした。当時、海外の人にお寿司をオススメするときは、いきなり生魚を食べさせちゃいけない、とされていた。カルチャーギャップが大きすぎるから、まずはカルフォルニアロールからスタートして、だんだん慣れさせていく。通訳も一緒です。英語は敬語をそれほど意識しない言語。英語から日本語に翻訳する場合に、『今日は最高だったよ!』なんてフランクに目上の人に伝えたら、失礼な印象を与えてしまうかもしれない。そこは翻訳者が、意図を汲み取り、敬語にして伝えないと誤解が生じてしまいます」

YouTubeの再生回数とライブの動員数のギャップも同じだ。『日本ではこういう事情があって...』と海外の音楽関係者にコンテクストを説明することで、相互理解を促していく。

「すでに日本と海外はお互いに興味を持ちあっています。ただ『ちょっと怖いなぁ』とか『なんでこんなことするんだろう』と、ギャップを埋められていない。そこにうまく架け橋かけてくれる人が増えてくればいいなと思っています」

m-floは、ボーカルであるLISAが不在の間、メンバーの☆Taku Takahashiと共に、m-flo loves ◯◯ (◯◯には様々なアーティスト名が入る)というクレジットで、合計41組のアーティストとコラボレーションを続けた。それはコラボレーション相手となるアーティストとリスナーの間に立ち、相互理解を深めるための『翻訳』だったとVERBAL氏は振り返る。

「アーティストにも、個人やグループの名義だとけっこう縛らみがあるものです。僕らとのコラボだということを言い訳に、本人のやりたいことを自由にやってもらって、逆にもっとこうしたら良いんじゃないかという提案をさせてもらいながら曲をつくっていきました」

前編でVERBAL氏はLDHの仲間に背中を押してもらったと語っていたが、VERBAL氏もまた、多くの人々の背中を押してきたはずだ。

今後、インターネットやテクノロジーの向上で、国境や言語の壁はますます低くなっていく。しかし、それと反比例するように、世界の分断が広がっている。

文化や価値観の違いは、そう簡単には埋められないだろう。だからこそ、相互理解のための『翻訳』を続けなくてはならない。VERBAL氏が持つ、丁寧なコミュニケーションと国際感覚は、その『翻訳』に欠かせない。

社会の中に一人また一人と『翻訳家』が増えてきたとき、私たちは断絶を乗り越えられるかもしれない。

【前編】m-flo VERBALがLDHで見つけた「夢をサポートする」ことの大切さ

  1. 前編
  2. 後編

プロフィール/敬称略

※プロフィールは取材当時のものです

VERBAL(バーバル)

【Producer. MC. DJ. Designer.】
m-floでの活動の他、超豪華ラップグループ TERIYAKI BOYZ® 、クリエイティブユニットPKCZ®
新たにスタートしたユニット HONEST BOYZ® のメンバーとしても知られ、独自のコネクションを活かし数多くのアーティストとコラボレーション。
Pharrell Williams、Kanye West、AFROJACK など海外のアーティストとも交流が深い。

近年はDJとしても飛躍を遂げ、そのスタイルはファッション界からの注目も熱い。
デザイナーのYOONと共に2008年にスタートしたアクセサリーブランド "AMBUSH®" ではクリエイティブディレクションを手掛け、これまでに Louis Vuitton (Kim Jones)、sacai、A Bathing Ape® など錚々たるブランドともコラボレーション作品を発表している。

2016年9月2日には東京にてブランド初となるショップを東京にオープンし、従来のショップ形態の枠を超える新たなクリエイションやカルチャーを発信するスポットとして大きな注目を集めている。
世界のファッションビジネスを中心とするオンラインニュースサイト"Business of Fashion (BOF)" が発表する「ファッション界を変える世界の500 人」にVERBAL & YOONの2人が2015〜2018年度、4年連続精選されるなど、その活躍の場は多岐にわたる。

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