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7年で85倍の成長を支えた「消費者視点」カスタマーの声と向き合うAnkerの挑戦

ものづくり , グローバル , マネジメント , 事業推進 , 人材活用

文:浅原 聡 写真:佐坂 和也

モバイルバッテリーや急速充電器のブランドとして2011年に誕生した「Anker」。

その「Anker」を中核ブランドとするAnkerグループはここ数年、顕著に成長を続けている。ポータブルスピーカーなど、新たに参入した製品でもAmazonの売り上げ上位を独占。2018年にはグローバルで約860億円の売上を記録し、2011年から7年間で約8,500%の成長率を記録した。

同社は、元Googleのエンジニア、スティーブン・ヤン氏が中国で創業し、低価格・高品質を武器に拡大してきた。ただ、彼らの成長を支えたのは製品力だけでなく、圧倒的な"顧客と向き合う姿勢"にあったとアンカー・ジャパンで代表取締役を務める井戸義経(いど・よしつね)氏は語る。その躍進の背景を伺った。

お客様の声と向き合う姿勢が支える、圧倒的飛躍

― 全社では、創業から7年で8,500%もの拡大。日本法人だけで見ても、2013年の設立からわずか5年間で約1,100%の成長率を記録されています。好調の要因を井戸さんはどのように分析されていますか?

井戸さん

井戸  Ankerはモバイルバッテリー市場に最速で参入したわけでも、最安値で製品を供給しているわけでもありません。「Pokémon GO」人気などの追い風もありましたが、大きな実績を残せたのは、シンプルに創業当初から「お客様の声」に応えて製品を改善することを追求してきたからだと自負しています。

― ユーザーのリクエストやクレームといった声を資産として活用してきたと。

井戸  その通りです。製品に対するご意見やお問い合わせ、ECサイトのレビューなど、Ankerには年間20万件以上のお客様の声が寄せられています。そこから製品を改善するヒントを正確に汲み取るために、弊社は創業当時から熟練した正社員がカスタマーサポートを担当しています。

― 他メーカーとはカスタマーサポートの体制が違うのでしょうか?

井戸  弊社のカスタマーサポート部隊は、端的に言えば発言力が強いんです。彼らがお客様の声を聞いてレッドフラッグをあげると、即座に販売をストップすることさえある。社内の"耳"や"目"として、カスタマーサポート部隊を非常に重視するという文化があるんです。

一般的にはカスタマーサポート部門はコストセンターと捉えられがちで、クレーム処理に終止してしまう場面も少なくありません。すると、お客様から集まる様々な声すべてを開発や企画部門へ報告するとは限らないですし、伝わるスピードも遅くなってしまう可能性もあります。

ただ、カスタマーサポートは本来大切な顧客接点のひとつです。そこで集まる大切なお声を、漏らさず事業へ活かすためにも、我々はカスタマーサポート部隊に強い権限を持ってもらっているんです。

Ankerの創業自体、消費者目線での課題感からだった

― Ankerが消費者目線を大切にしていることは、「高性能なのに安い」製品が多いことからもうかがえます。

井戸  もともとAnkerは、創業者であるスティーブン・ヤンが消費者として抱いていた違和感が事業の源流になっています。彼がGoogleのエンジニアとして働いていた時代にノートパソコンのバッテリーパックを買おうとしたところ、当時は「高額なメーカー純正品」か「ノンブランドの粗悪な製品」しか選択肢がありませんでした。

その理由を分析するために情報を集めた結果、製品の流通過程で取次が多いことなど、消費者にとって価値を生まない不要な中間マージンが生まれていた。そこで、品質と価格を両立した製品を提示することができれば、必ず消費者に受け入れられるはずだと考え、自ら事業を始めたんです。

― ヤンさんがAnkerを立ち上げたのは2011年。創業の地に中国を選んだのは、品質と価格の両立に不可欠だったからでしょうか?

井戸  試作機の試作や検証はアメリカで行っていましたが、このビジネスの肝は「本当にいいものを作ること」でした。アメリカという市場にいることより、ものづくりの現場である中国に身を置くことが大事だと。ヤン自身が中国出身だったことも大きいですが、やはり工場と綿密にやり取りができる深センに拠点を置かなければAnkerはここまで早く成長しなかったと思います。

井戸さん

― ヤンさんにとって、ハードウエアの開発はGoogle時代の経験を生かせる事業だったのでしょうか?

井戸  いえ、電子部品の設計などは素人同然のレベルから始めたようです。ただ、ヤンはGoogleで検索エンジンの開発を担当していたこともあり、製品をネットで売ることに関してはアドバンテージがありました。AmazonやeBayといったプラットフォームで上位に表示されるためのノウハウがありましたし、そこでお客様の反応を見て素早く製品を改善してきました。

クオリティの高い製品を作るだけでなく、早い段階で世界各国のEコマースに進出してきたことが我々のコア・コンピタンスになっていると思います。"お客様の声"というマーケティングデータを集めるパイプと、それをものづくりに反映させる体制を強化してきました。

― 単なる製品力だけでなく、お客様の声と製品が適切に繋がっていることがAnkerの強みであり、創業以来注力しているポイントと。

井戸  単に「安くてよいもの」だけでは戦えない市場であると私たちは認識しています。最近では、我々の製品に酷似した製品を作り少し安く販売するような業者や、我々がかつて使っていた工場に依頼して金型を流用し作っていると思われる業者も見受けられます。

ただ、そこで単純にコストダウンして利益を削っていくだけの戦いをしていては、お客様の本質的な支持は得られません。お客様の声を正確に吸い上げて、実際のものに反映していく工程は非常に難しく、蓄積が必要な領域です。他のメーカーがどんなに頑張っても、その蓄積を活かし我々は戦っていく。その成果が、今の成長だと自負しています。

実店舗も消費者目線には欠かせない要素

― 顧客の声を製品を活かしていくにあたり、国ごとにも特徴があるのでしょうか?

井戸  そうですね、例えば日本と海外ではかなりの違いがありますね。日本人のお客様は本当に"コンパクト"が大好きです。日本ではACアダプターとモバイルバッテリーが2in1になった「Anker PowerCore Fusion 5000」の人気が2017年の発売以来ずっと衰えず、海外の拠点から驚かれるくらいです。幸いなことに、充電は世界共通の課題ですし、Ankerは幅広い課題に対応した製品ラインナップを持っています。私たち日本チームは、日本のお客様の好みにあったものをピックアップして提供しています。

Anker PowerCore Fusion 5000

Anker PowerCore Fusion 5000

― すでにAnkerのモバイルバッテリーはものすごく小さいと思いますが、今後もコンパクト化への挑戦は続くのでしょうか?

井戸  もちろんです。今年発売した「Anker PowerPort Atom PD 1」は非常に画期的な製品で、iPhone純正の充電器を一回り大きくしたくらいのサイズで、USB Type-Cを経由してノートパソコンも充電することが可能です。窒化ガリウムという新たな半導体素材を世界に先駆けて採用したことで、かつてない小さなボディでハイパワーな充電器を作ることができました。出張に行かれる際の荷物の軽量化に繋がりますし、多くの日本人のお客様のご不満を解消できると思っています。

Anker PowerPort Atom PD 1

Anker PowerPort Atom PD 1

― 昨年からは日本で直営店を展開しています。Eコマースでの販売がメインであるAnkerにとって、実店舗の役割とは?

井戸  たしかに、販売チャネルとしてはEコマースや家電量販店がメインです。ただ、プラットフォームやお店側がコントロールする売り場では、どんな製品をプッシュするべきか、お客様が売り場でどんな反応をしているかなど、お客様の声を理解しづらい部分もありました。そこで、お客様からカスタマーサポートに寄せられる声以外にも、もっと能動的にお客様の声を集めるために、実店舗の展開を強化しているんです。

― 店舗の展開も、今度どんな製品を生み出して、どんな事業を展開していくかも、すべては「お客様の声」次第ということでしょうか。

井戸  もちろん、「言われたものをなんでも作ればいい」とは考えていません。企業のスローガンとして「Empowering Smarter Lives(スマートな生活を後押ししよう)」という考え方を持っています。モバイルバッテリーは、お客様が外で活動的に電源を気にせずに自分の人生を楽しむのを後押しするような製品群ですし、オーディオ製品はお客様が音楽のある生活を楽しむのを後押しするような製品群です。

ただ、その軸の中で最大限お客様の声と向き合うことが我々の強みであり、持つべき姿勢である。まだまだ答えを出せていない、お客様がご不便を感じていらっしゃるような領域はいっぱいあります。それに対して、Ankerグループとしての最適解を出していけるような業態に進化していきたいですね。

井戸さん

プロフィール/敬称略

※プロフィールは取材当時のものです

井戸義経(いど・よしつね)

アンカー・ジャパン株式会社 代表取締役

2002年に東京大学経済学部を卒業後、ゴールドマン・サックス証券に入社。顧客企業のM&Aや資本市場での調達を支援する業務に従事した後、米投資会社・TPGキャピタルにてプライベート・エクイティ投資に携わる。12年、モバイルバッテリーや急速充電器、スマートフォンやタブレット端末の関連製品をグローバル展開しようとしていた、モバイルライフ・パートナーブランド「Anker」の創業者スティーブン・ヤンと出会い、日本事業の立ち上げを提案。13年、日本法人を設立、代表取締役に就任する。

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