両立支援 夫婦すれちがい会話相談室

子育て学協会会長の山本直美氏が解説!家事が溜まっても気づかず「子どもの前でイライラはよくない」とたしなめる夫。自主的に動いてもらう言い方は? - #06

何気ない夫婦の会話なのに、ふとしたきっかけで"すれちがい"が発生すること、ありませんか? そこで、「夫婦すれちがい会話相談室」では、実際の会話と相談内容を元に、専門家が会話のポイントをアドバイス! 今回のアドバイザーは、NPO法人子育て学協会会長の山本直美氏。長年の幼児教育を通して、これまで6000人以上の子どもと向き合いながら、その保護者に対して「ファミリー・ビルディング」の視点からアドバイスをされてきました。イクメンブーム到来前から、父親の育児参加と伸びる子どもの関係を具体的に示唆されてきた山本氏に、夫から協力を得られる対応をアドバイスいただきます。

山本直美氏
  • 忙しくて疲れてるのはわかってるけどさ。

  • え、なに?

  • 家事、手伝ってほしいんだけど。

  • わかってる、やるよ。

  • わかってるって、いつも言わないとやってくれないじゃん。

  • そうやって、子どもの前でイライラするの、よくないよ。

  • 。。。。

【相談内容】

家事が溜まっているとき、自分から気付いてやってほしいのに、こちらから言わないとわかってくれません。「手伝ってほしい」と言うと「子どもの前でイライラするのはよくない」と子どもを盾にします。誰のせいでイライラしてるんだと腹が立ちます。どう言えば夫が自主的にやるようになるのでしょう?(公務員妻)

【妻側】子どもを盾に家事を手伝わない夫、自主的にやるようにするには?

パパのこの言い方は、あまりよろしくないですね。せめて「子どもが見てるから」と優しく言って、動いてくれたらいいのですが、ママが手伝ってほしいのを我慢しながら、訴えても遮られてしまうというパターンは、多くのご夫婦でありがちなことだと思います。

発達心理学の視点からみると、人は自分が経験したことしか再現できません。お二人のやり取りを聞く経験をして育ったお子さんが、嫌な気持ちにさせてしまう言い方を覚え、同じように嫌な言い方をママにしてしまわないかと心配です。私が多くのご家族と接してきた経験上、パパが使う言葉によってその家の"文化"が形成されます。「家の文化は父親がつくり、家の習慣は母親がつくる」と言えます。パパの言葉遣いはとても重要なのです。

一方で、お互いに嫌な言い方をしてしまうということは、どちらも「相手にわかってほしい、受け入れてほしい」という期待と甘えがあるからですよね。まずは、自分の中にその「甘えがある」のだとお互いに自覚できれば、前に進むことができます。では、2ステップでお答えしますね。

<ステップ1>「あなたのことを知りたいから」と、二人で対話する時間をつくりましょう

山本直美氏

子育て真っ最中の30代のパパやママは、職場でも責任ある仕事を任される世代でもありますよね。お互い「仕事が大変!」と訴えながらも、実は相手がどのような仕事の何をどう大変と感じているのかは、話し合われていないのではないでしょうか。誰でも自分のことは気にかけてほしいものですし、夫婦であればパートナーは一番応援してもらいたい存在であり、逆に一番応援してあげたい存在でもあるはずです。ところが、忙しい日々に追われていると、お互いを気にかけていない日常が当たり前になってしまうのですね。

私たち子育て学協会では、定期的な家族会議(夫婦の定例ミーティング)をおすすめしています。大切なのは、特別な2人の時間を意識してつくることです。とはいえ、いきなり家族会議を提案しても、素直に賛成してくれるパパはそうそういませんよね。「お互いに忙しくて、私のことも聞いてほしいけど、あなたのことを知りたいから、今月中に一度二人で話す時間をとってもらえないかな」のように持ちかけてみるのです。まずは月1回、忘れないように曜日と時間を決めてカレンダーに書き込んでみるようにしてください。

実は、私たち協会のスタッフも、家族会議を活用しています。たとえば、パパが好きなお酒とおつまみを準備して、パパにとって楽しみな時間になるよう、子どもが寝静まった土曜の夜にセッティングする、といった工夫をして、隔週で続けているスタッフもいます。パパが旅行好きで、家族旅行の計画を楽しそうに話すそうです。ママからの話は子どものことが中心ですが、パパを頼って解決策をアドバイスしてもらうように心がけているとか。お互い相手に話したいことが溜まって、かけがいのない時間となっているようです。

最近は、メールやSNSでのコミュニケーションが主流で、対話の仕方がわからないという人も増えていますが、「親子の対話が大事」とばかりに、幼少期の子に向かって「今日は保育園どうだった?何が楽しかった?」と質問攻めにするママを見かけます。でも、今日という時間の概念がまだない子どもに、このような質問を一方的にするのは、健全な対話とは言えません。同様に、忙しいご夫婦が、ゆったりとした気持ちで相手のことを傾聴するという対話は難しく、パパがママの話を聞きながら「結論から言ってよ」と急かしてしまいがち。結論や答えを性急に出そうとする対話は危険です。対話をしながら「あなたはそんなふうに考えてるのね。自分にはない視点で面白いわ」と、相手と自分の違いを楽しんでみる。つまり、答えを探す対話ではなく、お互いの違いを楽しむ対話をしてみるのです。

<ステップ2>「自家発電」を切るタイミングを決めましょう

山本直美氏

私が出会ってきた仕事ができるご夫婦は、ご自分の中に仕事に向かう「自家発電」を持っていて、家を出たら仕事モードにスイッチオンするのですが、帰りはそのスイッチをオフせずに、そのまま仕事モードを家庭に持ち込み、効率や結果を求めてしまう人が多いように思います。そうなってしまうと、家族は仕事モードでは動きませんから、イライラもしますよね。特にママの方が、気持ちの切り替えは苦手なようです。パパは会社で猛烈に働いても、家ではゴロゴロ寝てばかり、というケースはよく耳にしますよね。

私から見て、うまくいっているご家庭というのは、ママが少し呑気です。けれど「大丈夫、なんとかなる」という、少々のことで動じない胆力があります。だから、パパも子どもたちも、安心していられるご家庭なのですね。相談者様もぜひ、仕事から帰ったら「なんとかなる」の呑気モードに、気持ちを切り替えるタイミングをご自分で見つけて、意識していただきたいと思います。

子育て学協会では、ネガティブな場面でもユーモアを交えて言葉かけをする「ユーモアアプローチ」を推奨しています。ユーモアは心に余裕を持たせてくれます。同じ言葉なら笑顔で楽しそうに言った方がいいですよね。私が知っているママの中に、気持ちの切り替えも、家族へのユーモアアプローチも上手な方がいました。彼女は仕事が忙しく、疲れて帰ってきても、パパの帰宅時にさっとエプロンをかけて「おかえりー!大変だったわねー」と、満面の笑顔でパパを迎えていました。パパの目には、笑顔のママのエプロン姿が「急いで帰って来て、家事を頑張ってあなたを待っていたわ」といった姿に映るのではないでしょうか。そんなママに「今日はゴミ捨てとお風呂掃除を手伝ってくれたら助かるわ」と具体的に言われたら、パパは喜んで手伝うと思います。つい、疲れた姿のままで「今日は忙しかったの」と訴えてしまいがちですが、パパの視覚に訴えるエプロン姿の笑顔の方が、はるかに効果があるかもしれませんね(笑)。

「ユーモア」は、日本語で「おかしみ、なごみ」と訳されます。「おかしみ」って、おかしなことを言ってみたくなる言葉ですよね。温かな家庭には、この「おかしみ」があります。家族がうまくいくためには知恵と工夫が必要ですが、うまくいかない時でも、ママが笑ってさえいれば、家族の心が落ち着いて収まるものです。

【夫側】自主的に手伝ってと言われたら

自分が楽しめる手伝いを提案してみましょう

家事や育児の役割分担をしようとすると、お互いがやりたくないことを押し付けあってしまうことにもなりかねません。子育てが大変な時期だからこそ、「これだったら楽しくやれそう、楽しみながら手伝えそう」ということを奥さまに提案してみませんか。たとえば、外出好きで、お子さんと散歩することならできるというパパは、天気のいい日は毎朝、お子さんを散歩に連れ出していたそうです。たまにベーカリーショップに寄って、パンを買って一緒に食べたり、お子さんも喜んでいたそうです。ママも「とても助かった」と喜んでいました。

家族で一つのカレンダーに予定を書き込み、「来週のこの日とこの日、パパは忙しいから帰りが遅くなるけど、この日のこの時間なら大丈夫」と、スケジュールを見える化して、共有できるようにしてみてください。「結局、私がやるんだから」と、パパにとっては否定されているような言葉を言ってしまうのは、ママが子育てに一生懸命な証拠。チームとして一緒にやろうとするスタンスが伝わるようになれば、徐々にお二人のコミュニケーションも変化していくと思います。

そのためにも、奥さまと対話できる家族会議の時間をつくってみてください。そして、「子どもの前でイライラするのはよくない」なんて、冷たい言葉ではなく、もう少し優しい言葉を選んで、奥さまにかけてあげてくださいね。

プロフィール

山本直美氏

山本直美氏

特定非営利活動法人子育て学協会会長。(株)アイ・エス・シー代表取締役。幼稚園教諭を経て、大手託児施設内の立ち上げに参画。95年より自らの教育理念実践の場として、保護者と子どものための教室「リトルパルズ」を運営。キッザニア日本進出時の安全管理監修、リクルート事業所内保育室やウィズブック保育園、リトルパルズ・アカデミーなどを運営。独自の教育プログラムや保護者向けの講座を提供。著書に、『できるパパは子どもを伸ばす』(東京書籍)、『子どものココロとアタマを育む 毎日7分、絵本レッスン』(日東書院)など。
(株)アイ・エス・シー
特定非営利活動法人子育て学協会

【夫婦すれちがい会話相談室】

アドバイザー:『伝え方が9割』の著者 佐々木圭一氏

アドバイザー:映画『うまれる』『ずっと、いっしょ』の監督 豪田トモ氏

アドバイザー:NPO法人子育て学協会会長 山本直美氏

アドバイザー:NPO法人ファザーリング・ジャパンの元祖イクボス 安藤哲也氏

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