占星術研究家 鏡リュウジが語る、柔軟さを大切にする「人生100年時代」の生き方

占星術研究家 鏡リュウジが語る、柔軟さを大切にする「人生100年時代」の生き方

文:葛原 信太郎 写真:須古 恵

2017年、政府主導の一億総活躍社会実現へ向けた「人生100年時代構想推進室」が発足。本格的な「人生100年時代」を我々はどう生きるべきか。

2016年2月の『LIFE SHIFT』(リンダ・グラットン、アンドリュー・スコット著/東洋経済新報社)出版以来、多くの人たちが「人生100年時代」というキーワードを意識するようになった。一方で「そうは言っても、一体何からはじめたら良いのかわからない」と、戸惑いを感じる人も多いだろう。

私たちはビジネスのふとした瞬間に、ロジックやファクトに基づかない、感覚的な行動を取り入れている。年始の仕事始めに初詣へ行ったり、年末に熊手を買ったり、建築現場では工事の前に地鎮祭が行なわれる。

今回話を聞いた占星術研究家の鏡リュウジ氏は、日本における占星術の第一人者。心理学的アプローチをまじえた占星術を日本に広め、占いファンだけでなく、広く一般社会に知られている。個人鑑定をするのではなく、あくまでも研究家として占星術を探求する。占星術の聖地であるイギリスに通い、研究調査に長年取り組み続けてきた。そんな鏡氏に、占星術への向き合い方や考え方から人生100年時代について語ってもらった。

夢のある悩みから、現実的な悩みへ。時代によって変わる人々の悩み

― 鏡さんは、人生100年時代をどのように考えていますか?

長生きは、基本的にポジティブなことです。私の母はかなり高齢にはなってきましたがとても元気で、広い交友関係を持っています。たまに母が主催するパーティーへ遊びにいくと、母の周りには同年代で未だに現役でバリバリと働いている元気な人が多い。これは素晴らしいことです。しかし、健康や体力がいつまでも持つ人ばかりではありません。

今、私は51歳。いい年になったと思いますが、100年時代と聞くと「まだ半分か」と思う時もあります。私自身キャリアが長いこともありますが、一般的な人も不安なことも多いですよね。「100年、頑張り続けないといけない」と考える人が多くなるのは、あまり良いことではないかもしれません。

― 長年占星術に携わってきた鏡さんの元には、様々な人々の悩みが集まってくると思います。それらは、時代と共にどのように変化してきていますか?

鏡リュウジさん

私が占星術研究をはじめた高校生のころと比べると、人々の悩みや占いへの関心は変化してきたように思います。例えば、1980〜90年代は、心理学への関心高まっていた時期です。このあたりからオカルト的な立ち位置だった占いが少しずつ世間一般の人にとって普通なものとして受け入れられてきます。バブルの頃は、占いはもっとロマンチックな役割を担っていたんです。自己実現や上昇志向、自分の人生をポジティブに切り開くためのヒントを求めている人が多かった。

しかし、最近はもっと切実です。どうやったらお金が入ってくるか、リストラされないか、など、現実的な相談にシフトしています。統計をとったわけではないですが、景気と連動している部分があると実感しています

現代人は、ロジックと感覚を行き来している

― 人々の悩みは、その時々の世相を反映しているのですね。変化し続ける社会に不安を覚える人も多いと思いますが、占星術は私たちへのヒントをどのように導いているのでしょうか?

科学的に見ると、占星術に根拠はありません。占星術は元々、地動説でなく天動説に基づいてさまざまな答えを導いてきたものです。地動説が証明される17世紀までは、占星術は天文学と分かれていなかった。同じ学問だったのですしかし、地動説が証明されて以降、天文学と分かれ、科学とは別物として発展してきました。

いまの占星術は、科学的根拠がないことを理解した上で、「火星がここにあるから、あなたは◯◯だ」と答えを導いているんです。科学的にはナンセンスかもしれないのですが、不思議と当たると感じられる。占星術を生業にしている人間としては、主観的な人生経験を語る言葉としてはかなりいい線行っていると思う。

― つまり、長年研究され社会に浸透してきた学問だったが、非科学的と証明されたのは、人類史から見れば最近だったと。

鏡リュウジさん

そうですね。ただ、科学的ではないとわかっても占星術が必要とされ続けるのは、単に当たるからだけではないと思っています。人間はロジカルな部分と感覚的な部分を行き来しながら生きている。

例えば、ボウリングの玉がガーターになりそうになったら、思わず手であおいで進行方向を変えようとしちゃいますよね。そんなことしたって、方向は変わらないのに。他にも、私たちは「日が沈む」「日が昇る」と表現します。科学的に、地球の自転による太陽の入射なのだと考えると正しい表現ではないのですが、今でも言葉遣いを改めない。いずれも、感覚的にフィットしているからこそ、使われているんだと思います。不思議な力や目に見えないものは、人間の深いところに根ざしている感覚なのでしょう。

― 確かに、ついつい「曲がれ!」と体が動くことがありますね。多くの人が、無意識のうちに「ロジカルでないもの」を信じている部分はあるように感じます。

現代社会を生きる私たちは、占星術的な世界と近代主義的な世界を、行ったり来たりしています。以前、イギリスの占星術の先生を日本の神社へ案内した時です。スーツ姿の日本人男性がおみくじを引いているのを見て「彼らはおみくじに書いてあることを信じているのか?」と聞かれて、答えに困りました。

「信じているとも言えるし、信じていないとも言える」と返すと「宗教的なものか?」と再び質問。そういうわけでもない気がする...。説明が難しいんです。おみくじを頼りに判断することは確かにあると思うんですが、全てをおみくじに従って選ぶことはできません。無意識に、おみくじを信じたり、信じなかったりするんです。この切替は非常に高度な知性だと思います。

予測のつかない未来のための宇宙視点

― この高度な切り替えは世界共通なのでしょうか?

主観ではありますが、日本は特に高度なのだと思います。価値観や文化、ロジックなどの「コンテクスト」が共有されていて「暗黙の了解」が通じる状態を「ハイコンテクスト」と言いますが、日本は非常にハイコンテクストな社会です。だからこそ、曖昧なものを、曖昧なままにしながら、なんとなく社会として許容してきたのでしょう。

― なるほど。ですが、情報が溢れる現代では、価値観は多様化し、共通のものさしは持ちづらくなっているように思います。加えて、グローバル化が進み、接する外国人の数も年々増えている。人生100年時代を考えると、日本人も「ローコンテクスト」な社会と向き合うことが必要ではないかと思うのですが、我々はどのような意識や価値観が必要だとお考えですか?

柔軟に生きることが大事になると思います。情報の流れが速い中では、これまでの常識がいつの間にか否定されたり、新しい常識が次々と生まれていきます。ひとつの価値観に頼りすぎず、様々な考え方やいろんな人がいることを知っておく。白黒はっきりさせることばかりでなくてもいいのです。そう考えられると、生きていくのが楽になるのではないでしょうか?

鏡リュウジさん

そのためには、自分なりの軸が必要になります。軸があれば、相対的な価値観の中で生きる必要がなくなります。既存のフレームで捉えると100年生きることは辛いようにもみえますが、自分軸で見れば、そうではない捉え方もできる。私にとっては、占星術がその軸のひとつだと思います。

― 最後に、鏡さんが占星術から学んだ、人生100年時代を生きる上で大切な視点を教えてください。

あらゆる物事はサイクルがあり、変化し続けているという点でしょうか。たとえば、月は29.5日で必ず満ち欠けを繰り返し、土星は29〜30年で1周して新しい周期がはじまる。地球に毎日朝が来て夜が来るのも同様です。

人間も同じで、どんな人も様々な苦労を経て、年をとり老いていく。今すでに高齢な人も、かつては今の私たちと同じようにこれから来る老いと向き合ってきたわけです。全ては同じように回りながら動いている。自分だけがその周期からズレて、一人だけ何か違う世界にいくということはありません。そう考えれば、もっと楽に生きていける気がしませんか。

鏡リュウジさん

プロフィール/敬称略

※プロフィールは取材当時のものです

鏡リュウジ(かがみ・りゅうじ)

占星術研究家、翻訳家。国際基督教大学大学院卒。10代の頃から雑誌などさまざまなメディアで活躍、圧倒的な支持を得る。日本における「占い」のイメージを一新した。主な著書に『占星術の文化誌』『占星綺想』『占星術の教科書』、翻訳書に『ユングと占星術』『世界史と西洋占星術』ほか多数。京都文教大学、平安女学院大学客員教授。

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