コロナ禍で激変する観光業界に明るい未来を── 今だからこそ重要なじゃらんリサーチセンターの役割

コロナ禍で激変する観光業界に明るい未来を── 今だからこそ重要なじゃらんリサーチセンターの役割

新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響を大きく受ける業界の一つに「観光・旅行」があります。2021年6月、UNWTO(国連世界観光機関)が発表した「世界観光指標」によると、2021年第1四半期の国際観光客到着数は、83%減少しており全世界で大きな影響が出ています。

日本国内でもその影響は顕著です。緊急事態宣言やまん延防止等重点措置の発出で旅行客が激減し、苦境に立たされた地域も少なくありません。そんな地域に対して、「変わる地域の力になりたい」との想いで地域振興活動を行っているのが「じゃらんリサーチセンター」です。

2021年7月、地方自治体、宿泊施設などの地域事業者といった全国の観光振興の関係者に向けて、じゃらんリサーチセンターが毎年主催している「観光振興セミナー」が開催されました。その中では今年で17年目となる「じゃらん宿泊旅行調査2021」の調査解説も行われています。

今回、じゃらんリサーチセンターのセンター長である沢登さんに「観光振興セミナー」の反響をはじめ、じゃらんリサーチセンターの活動背景や観光業界の現状、そして業界に対する想いなどを聞いてきました。

コロナ禍で苦境に喘ぐ観光業界を支える、じゃらんリサーチセンターの存在価値

── 先日、「いまこそ、『変わる地域』の観光イノベーション戦略」というテーマを掲げて開催された「観光振興セミナー2021」が終了しました。今年はどのような反響だったのか教えてください。

コロナ禍で昨年に続きオンラインでの開催になったものの、反響はとても大きかったです。今年は昨年より開催日を2日増やして、5日間にした影響も大きいかもしれませんね。「ポストコロナ時代の観光戦略編」と「エリア別最新旅行実態編」という二つのテーマに分けて19の研究、調査、地域事例の発表を行い、延べ1万人の方に申し込みをいただきました。

開催に当たって力を入れたのは、ライブ感の演出です。観光振興セミナーは2005年の開催以来、コロナ禍前の2019年まで、オフラインで全国各地で開催してきました。そのため、臨場感があり、参加者はその場で発表者と名刺交換をして、質問することができたのですが、オンラインのセミナーではそうはいきません。ともすると、一方通行になってしまい、参加者に負担を強いることになってしまいます。

そこで、少しでも双方向のやりとりが生まれるようにチャットで質問を集めて、発表の最後にじゃらんリサーチセンターの研究員から質問の回答をしました。研究員は、初めて聞く質問に緊張感をもって答えるため、臨場感や一体感がうまれたと思います。

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延べ1万人の方に参加申し込みを頂いた2021年の観光振興セミナー

── コロナ禍での開催となりましたが、参加者の方はどのような課題感を持って、セミナーに参加されていたのでしょうか。

現在、コロナ禍で観光業界全体が、先の見えない状況に置かれています。一方で、行政の方々は、7月から9月の間に来年度の事業の検討を開始します。それを決める上で、どんな新規事業を考えるべきか、昨年の事業をブラッシュアップするならポイントはどこか、新型コロナウイルス感染症の感染拡大でカスタマーニーズにはどんな変化が起きたかなど、知っておくべきことが山ほどあります。

そこで、われわれも政策への反映や事業化など、セミナーの発表内容ではアクションにつながることを意識し、少しでもヒントを提供できるように努めました。実際、参加者の満足度は90%近くになりました。昨年が80%弱でしたので、今年は10%近く伸びた計算です。数字からも好評だったことが裏付けられ、われわれ自身、観光振興セミナーに寄せられている期待の大きさを改めて感じています。

── じゃらんリサーチセンターでは、観光振興セミナーの開催だけではなく、調査を実施して地域にフィードバックしたり、地域の観光振興に伴走したりと、地域と向き合った活動をされています。どのような役割を持って設立された組織なのか教えてください。

じゃらんリサーチセンターが立ち上がったのは、2005年8月です。その設立当初から、 “変わる地域の力になる”ということをモットーに掲げています。主人公はあくまでも、地域です。われわれの役割は、未来につながるありたい姿を、地域とともに作り上げることだと考えて取り組んできました。

しかし、気持ちだけでは、なりたい姿に近付けません。そこでわれわれは「観光振興セミナー」と研究冊子「とーりまかし」、そして「じゃらん宿泊旅行調査」の三つを情報提供の柱に立てて事業展開をしてきました。この三つは、地域とのコミュニケーションツールという側面も持っています。例えば「じゃらん宿泊旅行調査」ですが、調査開始当初、観光宿泊に特化した調査は世の中にありませんでした。

出張や帰省や修学旅行など地域が動かすことが困難な市場を除くことで、地域とのコミュニケーションは促進されました。行政のKPIは地域消費額となる流れの中、人がどれだけ動いたかの数値と共に、動いた人が、どこで、どれだけの消費をしているかの地域消費の数値が、行政の方々の次なるアクションにつながりました。

このような情報を提供し、地域とコミュニケーションすると新しい発見があるのはもちろん、地域や業界に対する理解も深まります。重要なのは、地域全体、業界全体が活性化していくことです。だからこそ今後も3本柱を進化させながら、やり続けることを大切にしていきたいと考えています。

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「観光振興セミナー」と共に情報発信の柱となる研究冊子「とーりまかし」「じゃらん宿泊旅行調査」

── 地域に寄り添う姿勢や、観光業に携わる方々とのコミュニケーションを大切にされるスタンスは、どのような経緯があって生まれたのですか。

私自身の経験が大きいかもしれません。私はじゃらんリサーチセンターのセンター長になる前、ある地域の担当を任されていました。そこはとても魅力的な観光資源があるにもかかわらず、地元の子ども達は出身地を言いたがらず、地元のタクシー運転手も「終わった街だからね」と旅行客に言ってしまうような地域でした。

そのままだと地域の魅力が発信されないまま、宝が輝く場所を失います。そんな状況を前に「どうにかしたい」と悩んでいる、すごく情熱的な市役所の職員と出会いました。「自分たちだけでは地域を変えることができないから一緒に手伝ってほしい」と声を掛けられました。私は二つ返事で承諾し、地域の魅力のポイントを探すため、その方と一緒に街中を回ったのです。すると地元の方は魅力的だと気付いていない、かけがえのない観光資源がたくさんあると気付きました。

特に魅力的だと感じたのは海です。地域の人は人工ビーチのため魅力的に見えていないようでしたが、実は水質が良く、バリアフリー対応もされ、禁煙でサーフィンも禁止。小さい子どもを持つ親でもあったため、お子様の海デビューに最適だと感じたのです。しかし、地域はその価値に気づいていない。気付いてもらう為に、地域の合意形成の場で、消費者の定量データ(声)を活用しました。それを感覚的に伝えてはいけません。資源の客観的価値が見える化し、行政・地域の合意プロセスが進み、理解者・推進者が増えました。

地域には本気で頑張る方が必ずいます。だからこそ、合意形成に必要なデータをわれわれから提供できたら、彼らの背中を押し地域を大きく変える支えになることができるのです。当時のこうした経験が、じゃらんリサーチセンターの取り組みのヒントになっています。

地域の方々との協力関係を築く秘策

── 地域と向き合いたいという沢登さんの思いの源泉を教えてください。

私は多い時で年に10回は旅をするほど、旅行が好きです。旅行での地域体験は生活を豊かにしてくれます。また、非日常が心をリセットしてくれるだけでなく、旅のギフトとして、日常に戻った際も新たな刺激を与えてくれます。日本の地域には魅力と力があり、私はそうした魅力を伝えたくて、この仕事をしているといっても過言ではありません。

また、旅の最中で「もったいないな」と思うシーンが数多くあります。例えば、水がどんなにおいしくても、毎日飲んでいると魅力だと感じなくなります。しかし、都会から来た旅行者にとっては魅力であり、その地域の武器となります。また、朝採れ野菜も毎日食べていると当たり前になりますが、旅館などのメニューに「何時何分に収穫した野菜なのか」を書くと立派な観光資源になります。

私は東京生まれ、東京育ちですが、だからこそ、カスタマー観点を持って地域の魅力を見付けることが得意なのかもしれません。

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── 地域の魅力を見付けても、「街を変えたい」という情熱を持った方との出会いがなければ、それを活かすことができません。沢登さんは、なぜそのような方と出会うことができるのですか。

私は地域と関わるとき、三つのスタンスを大切にしています。それが「地域のことを良く知る」、「地域の人と同じくらい、その地域を好きになる」、そして「地域の未来に責任を持つ」の三つです。こうしたスタンスがあるから、地域に共感していることを感じ取っていただき、相手が心を開いて話してくれるのだと思っています。

── コミュニケーションもリクルートの強みの一つだと思います。リクルートで学んだ経験が生かされていますか。

ええ、大いに生かされています。リクルートが大切にする価値観として“個の尊重”があります。英語では「bet on passion」と翻訳していますが、リクルート社内でもよく「あなたは何がしたいのか?」を問われ、意思を尊重されます。そこから生まれる個々の仕事のスタンスは、リクルートの持っている本質的な強みに他なりません。

もちろん私の中でも知らず知らずの間に、そのスタンスは根付いています。それはじゃらんリサーチセンター全体を見ても変わりません。自らの「地域のために行動したい」気持ち(passion)と、地域に対しても地域の方が持っている「こうしたい」「ああしたい」という思いを受け止めた上で、コークリエーションしていく。そのスタンスを大切にできるのも、“個の尊重”を重視したコミュニケーションが取れているからだと思うのです。リクルート文化の“個の尊重”を、社内だけではなく社外に対しても無意識かもしれませんが行っているのだと思います。

もしかすると、ソリューション提案などは、同業他社でも行えるかもしれません。しかし、このようなスタンスで地域の方と共創関係を築いて、二人三脚で地域を変えていく取り組みはなかなかできないのではないでしょうか。その意味で、じゃらんリサーチセンターの活動はリクルートだからこそできる事業だと考えています。

地域の方々と紡ぎ出す、日本の観光業界の未来

── 長引くコロナ禍で、苦しい状況に立たされている観光関係者も多いと思います。今、そうした方々にどんなことを伝えたいですか。

コロナ禍前、観光業界は成長産業でした。インバウンドの観光客も多かったので、日々の仕事で忙しく過ごしていた方もたくさんいたことでしょう。だからこそ、今は一歩立ち止まって、未来を考える時間だと捉えていただけると良いかと思います。10年後、20年後はどんな地域にしたいか。そこから逆算して、今は何ができるだろうかと考える時間になるのではと考えています。これから重要になるのは地域の個性です。しかも、世界中から見つけてもらえるキラリと光る個性を出していかなければなりません。そこに投資をして磨き続けることで地域のブランディングができていくでしょう。一つ一つの地域が個性的に輝く日本を、地域の皆様と一緒に創っていきたいと考えています。

── 一方で観光業界には、人手不足や地方創生など課題は山積しています。沢登さんは、そうした不にどう立ち向かっていこうとお考えですか。

コロナ後の未来に向けては二つの「三方よし」を意識しています。観光業界は裾野が広い産業です。新型コロナウィルス感染が収束、その後の中流層の世界的な増加により、国際観光客数は、回復・増加していきます。今後、観光客の満足度を高め、リピートしてもらう為には、「環境の保全」と「社会(住民)の協力」が欠かせません。

そうした背景を踏まえて、「三方よし」の一つ目は経済、社会、環境の三つになります。起点は観光の経済効果を、まず住人に理解してもらうことかもしれません。観光が自分にも価値をもたらしてくれる産業だと分かれば、住人の意識が変わって、観光客を迎える姿勢にも変化が表れるでしょう。地元のすばらしい資源を期待している方々のためにも、住民自身が環境を守る意識がうまれ、生活にも反映される。観光客は、「住んでよし、訪れてよし」を実感でき、満足度が高まります。

もう一つの「三方よし」は、観光事業者と旅行者、住人の三者です。この三方が皆、幸せになることがこれからの観光産業は必要不可欠です。住人が推奨したい資源とは何か、観光事業者がお薦めしたい資源とは何か、そして旅行者が最も感動してお薦めしたいポイントは何か。この三つが重なるところが磨き上げポイントに他なりません。インバウンド成長期は、エクスターナルマーケティングが主流となっていましたが、コロナ以降は、インターナルマーケティングを行い、本質的な価値創造が必要になります。

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観光地経営における「三方よし」についてはとーりまかしvol.62でも特集記事を掲載

── そうした流れを踏まえて、じゃらんリサーチセンターでは今後どのような取り組みを行っていかれますか。

じゃらんリサーチセンターでは、旅行を通じた地域の魅力の増加と、それによる地域経済の活性化を目指しています。地域が今より少しでも魅力的になれば、そこで消費がうまれ、地域経済が豊かになるでしょう。まず地域と旅行者が幸せになって、その結果として、じゃらんリサーチセンターも幸せになる。そんな三方よしの関係を築いていきたいです。

それを実現するには、やらなければいけないことが山のようにあります。戦略立案やKPIマネジメントなどを駆使して、引き続き“個の尊重”を意識して地域の人とコミュニケーションを取りながら実現していけたらうれしいですね。

プロフィール/敬称略

※プロフィールは取材当時のものです

沢登次彦(さわのぼり つぐひこ)

じゃらんリサーチセンター センター長、とーりまかし編集長。1993年入社。教育機関広報事業部を経て2002年10月に旅行事業(現 株式会社リクルート)へ。関東近郊観光地のエリアプロデューサーとして地域活性に携わる。2007年4月より現職。観光庁を始め中央省庁や地方自治体の各種審議会委員を務める。

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