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2024.01.31 Wed
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【学校事例紹介】「総合的な探究」の学びに、
アントレプレナーシップ教育プログラム
『高校生Ring』を取り入れて

【学校事例紹介】「総合的な探究」の学びに、
アントレプレナーシップ教育プログラム
『高校生Ring』を取り入れて

高校生向けのアントレプレナーシップ・プログラムとして、リクルートが実施している『高校生Ring』。自らの半径5mに目を向け、見つけた課題をビジネスプランのテーマに設定してもらいます。決められたテーマやお題ではなく、自分たちのアイデアを基に事業化するまでのプラン作成に取り組んでいただくプログラムです。

2022年度の「高校生Ring AWARD」(3次審査を通過した5組によるプラン発表)を見た方からは、そのプランの完成度の高さから「高校生はどのようにプランを作っているのでしょうか?」「先生はどのように指導しているのでしょうか?」「総合的な探究の時間を活用されていますか?」などと問い合わせが相次ぎました。

2023年度は『スタディサプリ』を導入している高校を対象にプログラムを提供しており、参加生徒数は2万5,000人以上に。初参加や導入を検討中の高校からもたくさんの問い合わせやご相談を頂いています。そこで今回は、2023年度の『高校生Ring』に参加された2校(三重県立松阪商業高等学校、大妻中学高等学校)に、導入を決めたきっかけや、1年間の具体的な授業の進め方、生徒たちの成長を感じた点などについてお伺いしました。

学校事例1:三重県立松阪商業高等学校

(左から)福田清徳先生(主幹教諭)、日比一海先生(商業科主任)

(左から)福田清徳先生(主幹教諭)、日比一海先生(商業科主任)

(左から)日比一海先生(商業科主任)、福田清徳先生(主幹教諭)

(左から)日比一海先生(商業科主任)、福田清徳先生(主幹教諭)

【学校の特色】

総合ビジネス科と国際ビジネス科があり、いずれも単位制。生徒の進路希望先は民間企業への就職や公務員、大学・専門学校への進学など多岐にわたる。
2023年から1年次の「ビジネス基礎」の授業に「ビジネス探究プログラム」、2年次の「マーケティング(総合ビジネス科)」と「ビジネスコミュニケーション(国際ビジネス科)」の授業に「問いを立てる」、3年次に「課題研究」をそれぞれ週2〜3回導入し、2年次の教材として『高校生Ring』を採用。

── なぜ、『高校生Ring』を導入されたのでしょうか。

福田本校は商業高校ですので、資格取得が学習の一つの大きな軸として据えられています。資格試験対策では、決められた問題に対して正解を導き出す力をつけることが目的になります。一方で探究学習は、生徒自身が問いを立てて最適解を考えなければなりませんから、正解がありません。自分自身でビジネスプランを組み立てる『高校生Ring』のプログラムは、2年次の「問いを立てる」授業に適している上に、生徒たちが社会に出たときにも生かせる内容だと思いました。

「アントレプレナーシップ」という言葉は起業と結び付けられることが多いのですが、自分で問いを立てたり改善策を考えたりする能力は起業する時だけでなく、会社や組織に所属して仕事をする中でも求められます。さまざまな進路を考える生徒たちにとって、「半径5メートルの身近な気付きから問いを立てる」というコンセプトは非常にマッチしていました。また、コンテスト形式になっていることで、生徒たちが適度な緊張感を持ちながら取り組めるのではないかと思いました。

── 『高校生Ring』は、具体的にどのようなカリキュラムで実施されましたか。

福田導入1年目の今年度は、丁寧に進めました。はじめに、昨年度の「高校生Ring AWARD」に選ばれた5組の発表動画を生徒たちに見せて、どの発表が印象に残ったか答えてもらいました。「Ring NOTE」、提供されるガイダンス動画を参考にしながら、授業の中で「Ring NOTE」を記入していくのが基本的な進め方です。全体を通して、私たち教員からはあえて指導はせず、アドバイスを求められた場合には別の視点や想定される問題点を伝えることで、生徒たちが主体的に考えるように促しました。

私のクラスでは、プランの骨組みを考える「3 Step Challenge」が終わった段階で全員の「Ring NOTE」を共有し、1人でもOKとしながら、類似した課題を感じている人同士で最大3人までのチームを組んでもらいました。ここからはチームで進め、1人で進める生徒同士で相談することも可として、6月末までに「8 Questions」を終えました。夏休みの取り組みはありません。9月中は学校行事が重なっていましたので、プレゼンテーションの資料作りに集中しました。
そして10月半ばにプレゼンテーションを行い、各クラスから3チームずつ、学年で計12件のプランを選出し、同月末の2次審査へのエントリーを迎えました。残念ながら2次審査を通過するチームはありませんでしたが、今回は生徒に視点を持ってもらうことが目的だったので、発想のトレーニングという意味で非常にいい経験になったと思います。

日比「高校生Ring AWARD」に残らなくても、生徒たちが考案したプランはできるだけ実現していきたいと考えています。一部のプランは2次審査には提出せずに、高校生に向けて大学で学べる機会を提供する「高大連携」という取り組みを活用して、大学と連携しながらプランの内容を深掘りしました。

── 初めて『高校生Ring』を導入して、感じられた課題はありましたか。

福田私たちは学校教員という視点で物事を見てしまいますから、生徒たちが立てたプランをどのように評価すべきか非常に悩みました。ここが今後の大きな課題だと思います。

日比本校では、1年次の「ビジネス基礎」で商業やビジネスに興味を持ってもらい、2年次に『高校生Ring』に取り組みながら問いを立てる学習をした上で、3年次の「課題研究」で自分のテーマに則した深掘りができるようになることを理想としています。しかし、生徒たちにとってビジネス視点で問いを立て、ビジネスプランとしての質を高めていくところが非常に難しい。このプロセスをどう導いていけばいいのかが課題だと思いました。

福田「Ring NOTE」の最後にある取り組み後のワーク「『高校生Ring』を通じて気付いたこと・考えたこと」に記入しながら振り返りを行いました。うまくできなかったことも含め、自分の気持ちを言語化することで、生徒にとって非常にいい自己分析になったようです。
また、正解のない問いを立てることによって、より深く考えられるようになった印象を受けました。全体を通して、私たちが思っていた以上に楽しみながら取り組んでいましたね。

日比最初、生徒たちが立てたプランは自分に関するものばかりでしたが、ビジネス視点で考える段階に入ると、身の回りのことや社会にも目を向けなければならなくなります。プログラムを通して、少しずつ世の中のことを自分ごととして捉えるようになったと感じました。また、生徒と一緒に取り組む中で、生徒一人ひとりの意外な発見もありました。教員としても生徒の理解につながる機会だったと思っています。


学校事例2:大妻中学高等学校

(左から)森弘達先生(進路指導部長・探究科主任)、宮下凌輔先生(探究科教諭)

(左から)森弘達先生(進路指導部長・探究科主任)、宮下凌輔先生(探究科教諭)

(左から)森弘達先生(進路指導部長・探究科主任)、宮下凌輔先生(探究科教諭)

(左から)森弘達先生(進路指導部長・探究科主任)、宮下凌輔先生(探究科教諭)

【学校の特色】

中高一貫教育の女子校。「課題解決能力を高める21世紀型教育」を掲げアクティブラーニングに取り組み、中学からICT機器を導入。海外研修や留学などグローバル教育にも力を入れている。
進路指導部長であり、同校独自の教科「探究科」の主任も務める森弘達氏がカリキュラムを設計し、高校1年次の週1コマの「総合的な探究の時間」の授業の中で2022年度から『高校生Ring』を活用。

── 大妻中学高等学校が行っている「探究学習」について教えてください。

探究の大きな目標は、生徒一人ひとりが「学習する人」になり、所属する組織が「学習する組織」として自走していくことです。そのためには知識や技能のみならず、対話、思考、表現、協働、主体性などもしっかり学んでいくことが大切だと考えています。

本校の探究学習は、高校1年次の「総合的な探究の時間」から本格的にスタートします。ここでは、問題解決のプロセスをデザインする「デザイン思考」、対象の物事や人のつながりをシステムとして捉える「システム思考」、データや数値、ファクトによって論理的に考える「データ思考」という3つの思考法を学び、探究のベースをつくります。

『高校生Ring』は、「デザイン思考」の授業で活用しています。高校1年次ではチームを作って『高校生Ring』に取り組みますが、2年次になると一人でテーマを設定して課題研究に取り組み、論文を発表します。なお、中学では「総合的な学習の時間」にプレゼンテーションやスライドの作成、ディベート、論文について学び、探究の基礎作りをしています。

── 『高校生Ring』にどのようなことを期待していましたか。

私が設計した「探究」のカリキュラムを進める上で、『高校生Ring』はちょうど良くはまったプログラムでした。アントレプレナーシップはよく「起業家精神」と訳されますが、自ら社会課題を発見し、周囲のリソースや環境の制限を超えて行動を起こし、新たな価値を生み出す精神とも定義されています。起業家を目指す上でも、社会で仕事をしたり、社会活動を行ったりする上でも必要な精神なのです。

自分で問いを立て、チームでプランを共創し、発表するという『高校生Ring』のプログラムを通じて、正解のない問いに悩んだり考えたりしながら納得解を導き出す経験ができます。また、チームでやるからこそ、一人ひとりの弱みや強みを補い合うこともできる。一連の学習を通して、チームで質の高い対話をする力、思考法、表現方法といったスキルのみならず、アントレプレナーシップを身に付けてほしいと思いました。

── 具体的にどのように取り組んでいたのでしょうか。

高校1年次の「総合的な探究の時間」に、6月から「デザイン思考」の授業を始めます。ここで考え方の基礎を学んでから、『高校生Ring』のプログラムに入りました。4〜5人のチームを作り、「Ring NOTE」を使用しながら進めます。全チームが、プランシートだけではなくスライドも作成し、夏休みの間に発表ができる段階まで進めますので、生徒たちにとっては少々ハードなスケジュールだったかもしれません。

考え方の基礎として、デザイン思考の「共感/問題定義/創造/プロトタイプ/テスト」をしっかり学び、何度もそこに立ち返ってもらいます。その上で、自分たちのチームが決めたテーマにはどのような社会課題があり、それを解決するためにどのようなサービスや商品を生み出せばいいかを考える。こうしてプランを夏休み最終日までに提出してもらうのです。

9月にはクラスごとに全チームの発表を行い、生徒による相互評価によって各クラス上位3チーム、学年全体では計21チームを選出して2次審査に提出します。互選ですので、私たち教員がいいと思ったプランを出すわけではありません。

実際にビジネスの現場に足を運んで情報収集をしたり、企業情報を調べたりして提案するチームもありました。選ばれなかったチームの中にも、優れたプランがたくさんありましたね。この一連の流れの中で、生徒たちはアントレプレナーシップを身につけることができたのではないかと思います。

プランを作成している間に、私からアドバイスすることはほとんどありません。発表の後で良かった点を伝えたり、不明点などを質問したりすることはありますが、基本的なやり方を教えた後は生徒の自主性を尊重します。世の中にはたくさんの情報やデータがありますので、自分自身で見つけて考えることを促します。

── 『高校生Ring』を通じて、生徒たちに変化は見られましたか。

宮下『高校生Ring』はコンテスト形式ですから、授業の中で自分の思考がどこまで成長したのか、非認知能力をどこまで高められたのかを全国レベルで可視化できるという点で、非常にいいプログラムだったと思います。生徒たちは「参加するからには勝ち抜きたい」というモチベーションがあったようで、限られた時間の中で楽しそうに取り組んでいましたね。各チーム全体的にプランの完成度は高かったと思います。本当によくできており、企業の方に褒めていただいたプランもありました。

コロナ禍をきっかけに本校でもICT機器の活用が一気に進んだのですが、プレゼンテーション資料を作成するなど『高校生Ring』を通じてさらにうまく使えるようになったと思います。それから、授業で対話の場を設けたことで対話のレベルが上がりましたね。異なる立場の人たちの意見を聞き、自分が知らないことを取り入れる傾聴力、相手に正しく伝えるために資料をしっかり読み込みポイントをまとめる説明する力が伸びたと思います。