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観光事業におけるLGBT等のセクシュアルマイノリティ対応の研究成果を発表 旅行時は特別な配慮より個を尊重した多様な選択肢が重要

株式会社リクルート

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株式会社リクルート(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:北村 吉弘、以下リクルート)の観光に関する調査・研究、地域振興機関『じゃらんリサーチセンター』(センター長:沢登 次彦)は、ユニバーサルな旅行サービスの提供に社会全体で貢献する目的で、旅行におけるLGBT等のセクシュアルマイノリティ当事者へどのように対応すべきかを調査しました。本リリース2・3ページ「個人に合った選択肢の提供とプライバシーの確保がLGBT当事者から求められる」の項目は筑波大学との共同研究として実施しました。本リリースでは、調査内容と結果の概要をご報告致します。
詳細は『とーりまかし 別冊 研究年鑑 2023』に掲載しており、観光振興セミナー2023(オンライン)においても発表予定です。

「性や関係性に基づく宿泊施設のプランの選択」「宿泊施設の大浴場の利用時」などで困難と回答

LGBT等当事者は幅広い同行者・旅行場面で困難を抱える

インターネット調査によりLGBT当事者に対して「同行者別の困難」および「旅行場面ごとの困難」を聴取しました。トランスジェンダー・バイセクシュアル(本調査ではパンセクシュアルを含む)を中心にさまざまな同行者との旅行において困難があり、割合として最も高かったものは「会社の同僚・関係者との旅行(社員旅行など)」であり、バイセクシュアルは47.7%、トランスジェンダーは45.3%が困難を抱えていました。旅行の各場面では、「宿泊施設の性や関係性に基づくプラン(カップルプランやレディースプランなど)の選択」や、「宿泊施設の大浴場の利用時」、「プール・海水浴場・ジムの利用時」などで幅広いセクシュアリティにおいて困難が生じていることが判明しました。

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個人に合った選択肢の提供とプライバシーの確保がLGBT当事者から求められる

量的調査の結果を踏まえて、LGBT当事者8名にヒアリングを実施し、より具体的な旅行における課題を聴取しました。
男女二元論的な性別に基づくサービス提供や、カップルは男女であるという先入観に基づくサービス提供、カップルや夫婦のみの割引の提供、性別の聴取などに問題意識があることが分かりました。また、プライベートを確保したい場合や、トランスジェンダーからは個室風呂が望まれるものの、大浴場と同じ泉質なのかが分かるようにしてほしいという状況であることが分かりました。

LGBT各属性に共通して見られた意見
・カップルプランのように利用者の関係性に基づいて提供されるプランが利用できない
・浴衣やアメニティはオールジェンダー化してほしいわけではなく、男女であらかじめ決められている状況よりは、自由に選べるようにしてほしい 
・チェックイン・チェックアウトは人と対面しないような機械式の方がうれしく、旅行予約もオンラインで予約している

レズビアンを除く当事者に見られた意見
・他人に肌やプライベートを見せるような、大浴場やトイレの利用で不都合がある

ゲイ・バイ/パンセクシュアルに見られた意見
・恋愛対象となりえる性の人と、大浴場やトイレを一緒に利用したくない気持ちがある

トランスジェンダーに見られた意見
・性自認と異なる性別として取り扱われる「ミスジェンダリング」が問題である
・予約や宿泊時の性別の聴取がなぜ必要なのかわからない
・大浴場を利用することはなく、個室風呂や貸し切り風呂を利用したいために、事実ベースで個室風呂や貸し切り風呂が施設にあるのか、またその泉質がどうであるかを明らかにして、検索できるようにしてほしい(部屋風呂や個室風呂のみ水道水というケースがあるため)

調査方法:対面またはオンラインミーティング 聴取期間:2022年10月~12月 ヒアリング対象: Aさん(30代):レズビアン、Bさん(20代):ゲイ、Cさん(30代):トランスジェンダー(FtM)(恋愛対象は女性)、Dさん(30代):トランスジェンダー(MtF)(恋愛対象は男性)、Eさん(20代):ジェンダーフルイド(出生時女性)、パンセクシュアル、ポリアモリー、Fさん(30代):ノンバイナリー(出生時男性)、パンセクシュアル、Gさん(30代):ノンバイナリー(出生時男性)、パンセクシュアル、Hさん(30代):ジェンダークィア(出生時男性)、バイセクシュアル

LGBT当事者が利用しやすい施設は特別なことをしているわけではない

量的調査・質的調査の両面から捉えた「不の解消」の観点について、これを解消・あるいは解消しようとしている施設9施設、および関係する観光協会と行政機関へのヒアリングを実施しました。
取材対象の施設のいずれからも聞かれたことは「利用する全ての顧客を差別することなく、平等に接している」ということでした。LGBTフレンドリーを表明している施設でも、LGBTの顧客だからといって特別なことは行っておらず、過剰な配慮が差別にならないように考慮していました。LGBTに限らず顧客ニーズが多様化・個別化しており、顧客情報として男女二元論的な性別情報は必ずしも必要ないという意見もありました。
各施設での対応方法はそれぞれ異なっており、LGBTフレンドリーを表明している施設でもレインボーフラッグを掲示する施設もあれば、しない施設もあり、アメニティもバイキング形式にするところもあれば顧客の要望に沿ったものを提供しようとする施設もありました。
部屋風呂のほかに大浴場しかない施設については、仮にトランスジェンダーから大浴場を利用したいという要望があった場合は、一般の人の利用時間終了後に利用いただくように案内し、既存の施設を柔軟に運用することで対応が可能であるという意見がありました。
施設へのヒアリングから見えたこととしては、LGBTの顧客への対応方法は一つの正解があるわけではなく、それぞれの施設に合った方法を模索することが必要であり、それぞれの顧客の個を尊重することが重要であるということでした。

施設における対応方法の具体例

KPG HOTEL & RESORT(沖縄県)
2015年ごろからLGBTQに関する社員教育を開始し、カミングアウトしている従業員も多い。LGBTQのお客様も対応を変えることはなく、差別なく普通に接客をしており、レインボーフラッグを置くようなこともしていない。従業員から同性ウエディングをしたいという声があり、現在までに50組以上が式を挙げている。従業員への合理的配慮として更衣室内に誰でも使えるカーテンを用意している。

ホテルパームロイヤルNAHA国際通り(沖縄県)
2014年からレインボーフラッグを掲示して日本で最初にLGBTフレンドリーホテルの宣言をした。逆差別とならないように、LGBTへの特別なサービスは行っていない。フレンドリー企業になるためにはハード面の改修は必要なく、いつでも経営者の意思でなることができる。今のところ要望はないがトランスジェンダーから大浴場の利用を希望された場合は、一般の利用時間終了後に利用いただくことを考えている。
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相鉄ホテルズ(東京都ほか)
2021年からLGBTに関する全社的な研修を行い、サービスの見直しを行ってきた。レディースルームの提供の終了や、予約時の性別確認をやめて多様性を尊重して個に向き合うこととした。アメニティは性別に限らずフロントでのバイキング形式とした。スタッフの採用時にはLGBTに差別感情のない人を採用するようにしており、スタッフが安心して着替えができるよう更衣室内にカーテンの設置を進めている。

由布の彩YADOYAおおはし(大分県)
2010年から大人2名限定の離れの宿をコンセプトにしており、コロナ禍以降にLGBT当事者の方も利用できるフォトウエディング会社と提携しているが、LGBTだからといって特別扱いはしていない。身体障がいと同様に偏見を取り除く必要がある。アメニティは男女別としているが、男性用セットにもパックを入れるなどして多様性を尊重できるように対応しようとしている。

調査方法:対面でのヒアリングおよび現地取材 調査期間:2022年12月~2023年1月 調査対象:ヒルトン東京ベイ(千葉県)、相鉄ホテルズ(東京都)、箱根パークス吉野(神奈川県)、由布の彩YADOYAおおはし(大分県)、レイクサイドホテルみなとや(福島県)、ホテルパームロイヤルNAHA国際通り(沖縄県)、KPG HOTEL&RESORT(沖縄県)、はげのゆ温泉くぬぎ湯(熊本県)、家族湯湧泉(熊本県)、山鹿温泉観光協会(熊本県)、別府市観光・産業部温泉課(大分県)

調査担当者 研究員 五十嵐大悟のコメント

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日本におけるセクシュアルマイノリティの割合は8.9%でおおよそ11人に1人という結果でしたが、調査で示された要望は、男女二元論的な考えに基づく一方的なサービスの提供ではなく顧客の要望に沿ったものにしてほしいということや、プライバシーの確保でした。つまり、個々人の尊重を求めるものであり、セクシュアルマイノリティ以外の人にも求められるような要望であると言えるでしょう。
つまり、セクシュアルマイノリティの「不の解消」を行うことは、当事者以外のあらゆる人の多様性にも応えることに通じるものであり、多様性の尊重が求められる現代社会において、男女二元論的な考えから脱却して個々人に向き合う重要性と向き合う良い機会になると考えられます。
具体的な対応方法も、オールジェンダー化や、トランスジェンダー当事者を他の利用者と混浴させるようなことは求められておらず、多様な選択肢からそれぞれの個人が必要とするものを提供したり、泉質を明示した個室風呂の提供や大浴場を一般の利用時間以外に短時間利用していただくといったことが求められており、従来の生活習慣や文化と衝突するようなことはありません。
またカップルプランを提供するのであれば、さまざまな性の組み合わせも対象とすることや、宿泊時の性別の聴取では「その他」の記載を認めることも求められています。なお、旅館業法が定める宿泊者名簿への性別記入のルールは自治体により違いがあり、多くの自治体では「その他」の記載が認められているものの、少数の自治体では男女どちらかの記載しか認めていないなどセクシュアルマイノリティ対応が統一されておらず、全国的なルールの見直しも必要でしょう。
LGBTを含めたセクシュアルマイノリティへの対応は障がい者への対応と同様に、偏見や差別的意識をなくしたうえで、合理的配慮が求められている性質のものであり、一つの正解があるわけではなく、対話を通じた個別の調整が求められているものです。それぞれの施設がその在り方を模索する必要があるでしょう。

【参考】日本人口の8.9%がセクシュアルマイノリティ そのうちLGBTに分類される人は6.6%

本調査実施に際して、日本人口に占めるセクシュアルマイノリティを推計するため、日本国内に所在する約13万人に対して、出生性・性自認(Gender Identity=GI)・性的指向(Sexual Orientation=SO)をインターネット調査により聴取しました。
日本人口に占めるセクシュアルマイノリティは回答者全体の8.9%で、レズビアンが0.9%、ゲイが1.3%、バイセクシュアルが1.6%、トランスジェンダーが2.8%、上記以外のアセクシュアルやセクシュアルクエスチョニング等が2.3%でした。また、出生性・性自認・性的指向のいずれかについて回答を拒否した人は2.5%ありました。
また、トランスジェンダーにおいて、さらに性的指向がマイノリティである人の割合は少なくとも4割を超えており、日本国内の1.2%を占めることが分かりました。

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