ミラキャリ通信 Vol.7:製造業における「DX」の課題とは ー成功している企業の事例を紹介

『サンカク』では正社員採用はもちろん、副業という新しい働き方も推進し、企業の事業成長に本当に必要な人材獲得を支援しています。例えば、人材不足にお悩みの地方企業に対して、副業による新しい働き方の定着や、リモートワークによる地方創生の推進など、既存の採用手法では獲得が難しい人材に対して今までにない切り口の採用活動を支援しています。

一方で、新型コロナウイルス感染症の影響も受け、働く人にとっても今後のキャリアや働き方について"もやもや"を感じる方も増えてきたのではないでしょうか?『サンカク』ではそんなビジネスパーソンに対し、「一歩踏み出すきっかけをつくり、自分では気付かないキャリアの可能性を発見したり、自分にフィットした働き方を見つける」、そんな場を提供しています。

『サンカク』から「未来の採用」「未来の働き方」「未来のキャリア」についてお届けするニュースレターが「ミラキャリ通信」です。

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『サンカク』の現場から

製造業のDXを成功させるポイントは、戦略部門と製造現場の「橋渡し」

リクルートキャリア 事業推進室 マネジャー 古賀 敏幹
リクルートキャリア 製造業担当コンサルタント 井上 和真

あらゆる業種が「DX(デジタルトランスフォーメーション)」に本腰を入れている昨今。製造業ではどのような動き、課題が見られるのでしょうか。今回は、製造業のDXに着目して、事業推進室『サンカク』責任者の古賀 敏幹と、製造業の採用支援・転職支援を手がけるコンサルタントの井上 和真がお伝えします。

井上  製造業で「DX」にあたる取り組みは、6~7年前から始まっています。ドイツより「インダストリー4.0」の概念が持ち込まれ、工場のオートメーション化・データ化が模索されてきました。ここ数年は「DX」のキーワードが注目され、新型コロナウイルス禍以降、取り組みが加速しています。

多くのメーカーは海外に顧客や生産拠点を持ちますが、新型コロナウイルス禍においては現地に赴くことができません。そこでVR(仮想現実)ツールやリモートによる立ち上げ・サポートの仕組みの導入が進んでいます。

今後は5G(次世代通信規格)の普及に伴い、工場内を高速ネットワークでつなぐことでの可視化、シミュレーションが促進され「スマートファクトリー」化への動きがさらに活発化するでしょう。

しかし、DXに課題意識を持ちながらも、遅々として進まない企業が多いのも現実です。製造業のDXが壁にぶつかる要因は次のとおり。

  • ITに対する経営陣の理解度が低いこと、効果の予測が難しいことから、投資判断ができない
  • 既存のレガシーシステムの刷新が進まない
  • IT人材の採用が進まない

製造現場ではすでに何十年にもわたって改善の努力を続けています。「ITを入れて、これ以上どれだけの改善ができるのか」という現場の疑念に対し、経営側が明確な答えを出せず、停滞してしまうケースが多いようです。

では、そうした状況を打開し、DXを推進できるのはどんな人材なのか。

うまくいっている企業とそうでない企業を見ていると、ある違いがあります。「経営サイド(DX戦略部門)と製造現場の橋渡しができる人材がいるかどうか」です。

ITの専門家は製造現場が分からない、製造現場で全体像を把握している人はITが分からない。両方の知見を兼ね備え、それぞれ異なる言語を翻訳しながら結び付けてプロジェクトを回していくリーダーが必要ですが、そのような人材はなかなかいません。

そうした「橋渡し役」がいない状況で、AIやデータ分析の専門人材を採用しても、コミュニケーション不良に陥り、現場の課題がつかめない。結果、プロジェクトが進まないばかりか、せっかく採用した人材が辞めていく現実があります。

橋渡し役を担える人材を外部から招くのは難しいため、既存社員でITの知見がある人を登用する、あるいはIT教育を施すなどしてプロジェクトリーダーに据えるのが第一段階と言えるでしょう。

デジタル人材と接点を持つ機会として活用される『サンカク』

「採用まで至らなくても、デジタルの知見を持つ人材と接点を持ち、ディスカッションをしたい」――そう考える製造業各社が、リクルートキャリアが運営する『サンカク』を活用しています。

『サンカク』とは、ビジネスパーソンが会社に勤務しながら他社の課題を体験できる「社会人向けインターシップサービス」。製造業の企業も複数参加しています。

製造業各社はどのような課題を抱いて『サンカク』を活用しているのか、事業開発担当の古賀 敏幹がお伝えします。

古賀 製造業各社から、DX推進目的で『サンカク』活用のご相談をいただく際、課題は主に2種類。「内部の構造変革」と「ビジネスモデル変革/新価値創造」です。

一方、インターシップに参加して各社とのディスカッションに臨むのは、コンサルタント、新規事業開発、Webサービス企画といった職種の人たち。あるメーカーによる募集時にはエントリーが100名を超えるなど、注目度の高さが見て取れます。

ディスカッションの中で、メーカー側は自社で模索している課題について投げかけ、参加者からフィードバックを受け、まだ曖昧な状態の考えやアイデアを言語化していきます。

DX経験者の意見を聞き、「この考え方の方向で合っているんだ」「以前、社内で出てボツになったあのアイデアには価値があったんだ」など、気付きや確信を得る場面が見受けられます。

製造業の悩みとして、ここ1年ほど多く聞こえてくるのが、先ほども挙がったキーワード「橋渡し」です。

DX推進は、組織を横断する取り組み。製造業はステークホルダーが多岐にわたるため、とりまとめが難しいと言われます。そのため、中央で推進する組織「CoE(Center of Excellence=センター・オブ・エクセレンス)」の役割が重要となります。

CoEが強い企業では、現場へのDX装着がスムーズに進み、性能や精度が向上する。これまで経験と勘に頼っていたものの再現性が高まります。

『サンカク』をご利用になる企業の中で、CoE含めて先進的な取り組みをされていると感じたのが「ヤマハ発動機」様(※)です(※以後、敬称略)。

「データの民主化」により、DXで成果を挙げているヤマハ発動機

DX推進部門と現場の連携を円滑に進め、DXを成功させているヤマハ発動機。「DX銘柄2020(※)」にも認定されています。

(※)DX銘柄/東京証券取引所に上場している企業の中から、企業価値の向上につながるDXを推進するための仕組みを社内に構築し、優れたデジタル活用の実績が表れている企業を、業種区分ごとに選定して紹介するもの。

DX推進活動や人材活用について、ヤマハ発動機IT本部デジタル戦略部の藤井 北斗さんにお話を伺いました。

―― ヤマハ発動機においては、データ分析の専門組織だけでなく、各現場が自らデータ分析を行う「データの民主化」が進んでいるとお聞きしています。多くの製造業がDXを推進するにあたり「現場の巻き込み」に苦労しているのですが、どのような工夫をされたのでしょうか。

藤井さん ヤマハ発動機では「期待を超える価値と感動体験の提供」を掲げており、その理念が現場にも浸透しています。DX推進のために必要な文化がもともと根付いているのが、我々の強みと言えるかもしれません。このような背景があり、現場のデータ分析への期待度が高いと思います。

しかしながら、一般的にデータ分析などの新しい技術を導入する際は、 現場のコストとなりがちで「従来のやり方でできているのに、なぜ変えなければならないんだ。余計なコストがかかるのに」という意見がよく聞かれます。そのような場合、目先のコストよりも将来のメリット――「DX推進によって、従来の仕事が楽になり、生産性が上がる」「品質を高められる」「その積み重ねがコスト削減につながる」といった部分にフォーカスして話をするように心がけています。コストを削減できれば、その分新たなチャレンジもできると考えています。

―― 実際にどんな成果が表れていますか。

藤井さん 例えば製造現場では、不良率の低減が実現しています。金型鋳造工程(ダイキャスト工程)では、溶融金属や金型の温度、金型充填時の圧力、金属に内包したガスや空気など、不良品を生む要素が複数ある。 不良品を生む事象が起こりうる条件とそうでない条件をAIによって分析することで、良品条件での製造が可能となり、コスト削減に寄与しています。

このデータ収集・分析は当初、デジタル戦略部のメンバーが主導しましたが、現在では現場のメンバーが日々自動化プログラムを運用して改善プランの作成を行っています。

―― そのプロセスではどんな人材が活躍したのでしょうか。

藤井さん 製造業におけるDX推進人材は、「ビジネス力」「データサイエンティスト力」「エンジニアリング力」を兼ね備えている必要があると考えています。デジタルの知識だけでもダメ、経営のスキルだけでもダメ。現場の課題を吸い上げ、デジタルの知識やツールを現場へ落とし込める「エンジニアリング力」が欠かせません。

DXによる不良率低減の取り組みを主導したのは、もともと生産管理部門で船外機を担当していたエンジニアです。社内ITシステムの開発にも携わり、ITの知見を持っていたことからデジタル戦略部に招き入れました。彼がDX戦略部と現場のすり合わせを適切に行ったことで、ドライブをかけられたのです。

現場にいるメンバーでも、データ分析・デジタルツールの基礎知識や興味関心、ビジネスへの課題意識を持っていれば、十分「DX人材」と言えると思います。実際今も生産技術部門に在籍し、DX推進に携わっているメンバーもいます。

―― 社内でITの研修体制も整えていらっしゃいますか。

藤井さん 「データの民主化」を図るための研修として、オンラインデータ分析を学ぶ「セルフペースラボ」を運営しています。製造現場から管理部門まで、幅広い人に受けていただいています。DXによって目指す将来像を共有できる仕組み作りには力を入れていますね。逆に、デジタル人材に対しては、現場の課題や過去の改善事例を伝えています。

今後は、課題ごと・現場ごと・レベルごとなどに細分化して対応できるような教育コンテンツを充実させていきます。

―― 製造現場以外での、DX推進状況もお聞かせください。

藤井さん 製品の売上につながる仕掛けにも取り組んでいます。これまでヤマハの製品は、お客様が販売店で実物を見たり試乗したりして購入に至るものでした。しかし「乗ってみれば良さが分かる」だけにとどまらず、「乗りたい」というニーズや興味をキャッチし、1to1マーケティングで訴求していきます。

例えば、スマートフォンからのヤマハサイトへのアクセス履歴を分析すれば、「オフロードバイクとボートを見ている人」→「アウトドア志向か?」「電動アシスト自転車と発電機を見ている人」→「家庭を守る人か?」といった推測もできる。そうしたデータ分析からキャンペーン施策を考えるチームもあります。

あくまで主体は営業やマーケティング部門。デジタル戦略部はあくまで「サポート役」の立場で、提案をしながら一緒に進めていくことが大切だと考えています。

―― DX人材の採用については、どのように進めていらっしゃいますか。

藤井さん 以前はWebサイトや求人サイトに掲載して、「興味を持った人に来てもらう」というスタンスでしたが、それだけでは良い人材は確保できないと。こちらから積極的に動いてアプローチしていく方針に切り替えました。最近は、外部のイベントにも参加しています。『サンカク』もその一つで、我々の考えや活動を知っていただく機会になると期待しています。

DX人材の獲得に必要なのは「魅力の言語化」

製造業がDX人材の採用を成功させるためにはどのような工夫が必要なのでしょうか。

前出のコンサルタント・井上と、『サンカク』責任者・古賀は、「魅力の訴求」が課題だと考えています。

井上 DX推進人材の中途採用市場において、製造業は選ばれにくい傾向が見られます。IT業界に比べて年収水準がやや低めであること、勤務地が地方や郊外となることがネックとなりがちです。「やってみたい」という興味や熱意とこれらの条件面を天秤にかけたとき、「やってみたい」が負けてしまうケースが多い。

しかし、「やってみたい」気持ちが湧き上がるように訴求すれば、このハードルは乗り越えられると思います。

現状、求人票から仕事の中身や魅力が伝わりにくい企業が多いと感じます。詳細に記述しようとしても、そもそも人事担当者自身が「何を書けばいいか分からない」状態なのです。それを読んだ転職検討者も「何をやればいいのかイメージがつかない」となってしまう。

DXで何を実現したいのか、目的やビジョンをより明確に示し、転職検討者に伝わりやすくすることが大切だと考えています。

古賀 レガシーな製造業は、旧態依然の風土が根付いているという先入観を持たれがちですが、『サンカク』に参加して取り組みに触れたビジネスパーソンたちは印象が変わるようです。「こんなに面白いことをやっているんですね」「ここまで進んでいるとは」といった声が聞こえてきます。製造業への理解が深まり、DXの取り組みに興味を持たれる機会になっていますし、これを機に副業の契約を結んだ事例も生まれています。

外から見ると「すごいことをやっているんだな」と感心するようなことも、当の企業の人たちは「すごい」とは思っていなかったりする。だから、外部の人に「伝える」意識が希薄になりがち。これではもったいないですね。外部への訴求力の弱さは、縦割り型組織の弊害とも言えます。先ほども触れた「CoE」を強化し、全体を俯瞰した上で、今の動きや今後の目標を語れるようにするといいのではないでしょうか。

井上 採用ターゲットとなる人材に魅力が伝わるように「言語化」する力が重要になってくるでしょう。だからこそ、全体を見渡した上で、各部署の課題や状況を言語化・発信できる人材を育てる必要があります。私たちとしても、言語化・発信のサポートに力を入れていきたいと思います。

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