イベントレポート
2019年08月02日
株式会社リクルートジョブズ

HR Intelligence Forum Showcase Conference2019 ~ロイヤルグループの取り組み~

賃金上昇や働き方改革など、昨今の人事課題の多くは、従来通りのやり方で推し進めることが難しい時代になっています。
もはや現場任せではなく、人事の課題を会社のアジェンダに昇華し、テクノロジーを活用しながら解決する時代へ――。
2019年7月8日に開催された「HR Intelligence Forum Showcase Conference2019」では、企業の枠組みを越えて、課題解決の糸口やヒントとなる貴重な講演が行われました。

サービスの現場とテクノロジー
~ロイヤルグループの取り組み~

ロイヤルホールディングス株式会社 代表取締役会長 菊地 唯夫


人口減少局面に対応する新たなモデルが必要

今、日本は人口減少局面に入っています。人が減り続ける社会では、「多くの働き手を確保して低い生産性をカバーする」という、これまでの産業化モデルに依存することはできません。「生産性」をいかに向上させるかがポイントです。
生産性とは、売上総利益(粗利)を従業員数で割ったものです。人口減少やデフレといった現在のメガトレンドは、お客さまの減少と単価の引き下げにつながり、売上は抑制されます。一方、世界の人口は増え続けているので、世界的な食料不足から食料の獲得競争がグローバルに進む可能性が高く、「売上原価」が増大します。つまり、生産性の分子(売上総利益)は縮小傾向にあります。生産性を上げるためには、分母(従業員数)を減らすしかありません。
しかし、ここで問題となるのが、「サービスの提供と消費の同時性」です。製造業の場合、モノを安くつくり、ストックし、高く販売するという一連のプロセスの中で効率性を高めることができます。しかし、人が提供するサービスはストックできません。従業員を減らせば、生産性は一時的に上がりますが、サービスの量やレベルは低下。いずれはお客さま離れを招き、結果として分子(売上総利益)を減らすことになってしまうのです。


お客さまに認めていただける付加価値を提供

生産性の分子(売上総利益)を大きくするために、付加価値の向上と新規市場開拓に取り組んでいます。
付加価値は、お客さまに価値を感じていただける商品・サービスを提供することで向上を図ります。同時に、サービス対価の向上も図ります。バブル期はサービスの対価が価格に含まれていましたが、長いデフレ期間中にサービス対価が縮退したため、現代日本はおもてなしレベルへの期待は高いものの、その「対価は低い」のが特徴です。
今、高価でもお客さまが納得するのは、国産食材の使用やマニュアルに依存しないサービスなどです。
しかし、これは規模が大きくなるほど難しくなります。そこでロイヤルホストでは、早朝や深夜の営業時間を短縮し、24時間営業もなくして、ランチやディナーの時間にスタッフを増やしました。また、220店舗という店舗数だからこそできる国産食材フェアを2001年から実施しています。当初売上7億円減を見込んでいましたが、フタを開けてみれば7億円増となりました。
さらに分子を増やすための努力として、増加するインバウンドやアウトバウンドの可能性を狙った新規市場開拓にも取り組んでいます。
しかし、サービス産業は製造業と違い、規模と価値が非線形です。規模が大きいほど飽きられやすくなり、人材の確保も難しくなります。そこでお客さまにとっての価値を最大化させるためのカギを握るのが、人手不足を補うためのテクノロジーの活用です。

テクノロジー活用の実験店舗「GATHERING TABLE PANTRY」

テクノロジーを活用して「生産性向上と働き方改革の両立」を目指した研究開発店があります。「GATHERING TABLE PANTRY」という店舗です。この店舗をイノベーションのプラットフォームとして、三つの取り組みを進めました。
一つ目が、IT活用による店長業務の効率化です。完全キャッシュレス、セルフオーダーのオペレーションを導入し、現金管理を無くすことで、売上管理業務の作業数を軽減。店舗業務の効率化につなげています。
二つ目が、キッチンオペレーション改革による調理工程短縮と料理の質の両立です。長年蓄積した自社セントラルキッチンの知識・ノウハウを最大限に活用し、最新の調理機器を導入してコックが調理したときと同じ火の入り方になるよう緻密な調整を行い、調理の仕込み時間の短縮を実現しながら、質の高い料理を提供しています。
三つ目が、設備のコンパクト化による小規模・低投資型店舗の展開です。最小限の調理機器で厨房を省スペース化し、狭小立地でも客席を確保。また、油や火を使わず、生ゴミも少ないためレストラン用の物件以外へも店舗物件の候補対象が広がり、小規模・低投資型店舗の展開が可能です。
研究開発店でのイノベーションは、その店舗での取り組みを進化させるとともに、お掃除ロボットやレジ締め頻度を圧縮したPOSレジのロイヤルホストへの展開など、既存店事業への横展開を進め、イノベーションの連鎖を図っています。

テクノロジーを活用し、ヒトが担う本源的価値の提供に集中

ロイヤルホスト約20店舗でAIによる来客予測を実験するなど、AI活用に向けた準備も進めています。AIと聞くと、自分たちの仕事がなくなってしまうのではと不安になる従業員もいます。しかし、その心配はありません。
今、求められているのは、顧客満足を得るために常に模範的で適切な言葉・表情・態度で応対する「感情労働」です。ただ、感情労働には顧客満足を得るために感情のコントロールを強いられるため、働く人にかかるストレスが大変大きいという課題があります。しかしストレスの原因を探ると、実は接客ではなく、清掃や報告など機械で代替できる作業が原因であることもわかりました。
一方、外食産業での顧客満足度は、基礎的満足度と付加的満足度の2層構造をなしています。
「適切な提供時間」「清潔な食器」「メニュー写真通りの商品」「価格に見合った価値」などの基礎的満足度がまずあり、その上に「笑顔」「臨機応変な対応」「心のこもったサービス」「お客さまの意をくみ取ったサービス」などの付加的満足度があります。
私たちは基礎的満足度に関わるサービスをテクノロジーで代替し、ヒトはヒトにしかできない付加的満足度に集中させる「ハイブリッドなサービス産業」を実現していきたいと考えています。今後も「ヒトが携わることでお客さまの満足度が向上するサービスは何か」という視点でサービス産業を再定義し、テクノロジーの活用による生産性の向上を追求していきます。


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HR Intelligence Forum Showcase Conference2019~ロイヤルグループの取り組み~

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