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「男女間賃金格差」は、なぜなくならない?!日本におけるジェンダーギャップをひもとく ~世界と比べる『働く×ジェンダー平等』座談会【前編】~

共働きお金キャリアジェンダー平等

2023年03月29日

「男女間賃金格差」は、なぜなくならない?!日本におけるジェンダーギャップをひもとく ~世界と比べる『働く×ジェンダー平等』座談会【前編】~

「男女間賃金格差」という言葉を聞いたことがありますか?
これは、男性の賃金の中央値を100としたときに、女性の賃金との差がどの程度あるかを示すものです。OECD(経済協力開発機構)によると、日本の女性の賃金は男性と比べて22.5%(2020年時点)も低い状況で、これはG7(主要7か国)の中ではもっとも格差が大きく、OECD平均と比較しても開きがあります(図表1)。
この男女間の賃金格差を解消するための取り組みとして、2022年7月から「男女間賃金格差の開示」が、従業員数301人以上の企業を対象に義務化されました。これにより2023年6月以降、多くの企業のホームページなどで自社の男女間の賃金格差について開示されることになります。


(図表1)「世界の主な国の男女間格差(OECD)」世界の主な国の男女間格差(OECD)


法改正により、これまでになく注目を集めるようになった男女間の賃金格差は、そもそもどのような背景から生じているのでしょうか。また、開示をすることで男女間の賃金格差は解消に向かうのでしょうか。
日本だけでなく海外諸国にとっても「男女間賃金格差」は、ジェンダー平等を考える上で、重要なテーマとなっています。より格差の小さい国と日本では何が違うのか、また格差の解消のためにどういった取り組みをしているのか。
SDGsの目標のひとつでもある「ジェンダー平等の実現」が世界的に重要なテーマになっている今、我々『iction!(イクション)』は「ジェンダー平等視点で考える世界と日本の働き方」というテーマを掲げました。その中で、男女間の賃金格差の実態やその背景について掘り下げることで、男女の区別なく、働く誰もが自分の思うワーク・ライフ・バランスで働くためのヒントが見つかるのではないかと考えたからです。


今回の「世界と比べる『働く×ジェンダー平等』座談会」では、株式会社Will Lab(ウィルラボ)代表取締役で、内閣府男女共同参画推進連携会議有識者議員である小安美和さん、労働政策研究・研修機構 労働政策研究所長の濱口桂一郎さん、リクルートワークス研究所 「Works」編集長 浜田敬子の3名が、日本と世界を比較しながら男女間の賃金格差をテーマに語る様子をお届けします。



日本の「男女間賃金格差」は、根強く残る「性別役割分業意識」が影響している?!

(図表2)「日英独の男女間賃金格差(OECD)」 日英独の男女間賃金格差(OECD)


── 日本における男女間の賃金格差は、改善はしているものの諸外国よりも格差が大きい状態が続いています(図表2)。この格差にはどのような原因が潜んでいるのでしょうか。

濱口:賃金格差について言及する前に、ジェンダーギャップを国際比較するときの前提をお話したいです。ある時点の数字だけ比較すると日本が遅れていて海外が進んでいるという論調になりがちですが、もう少し長期的な視点で歴史的背景を知る必要があると思うのです。
このグラフで比較されているイギリスを例に挙げると、これ以前の1960年代のイギリスではあからさまに男女で賃金に差をつけていた。「女の賃金は男の3分の2」と性別によって堂々と区別をしていた時代があったのです。日本も男女平等ではありませんでしたが、イギリスのように性別で賃金を変えるような露骨な差別ではなかった。そもそもの状況も違えば、格差を是正する動きが始まった時期も違うので、一概に比較はできないと考えています。

── たしかに、前提条件が違えば単純に優劣では語れないものですよね。それでは日本独自の事情はどこにあるのでしょうか。

濱口氏

濱口:日本における男女間の賃金格差について考えてみると、性別によって賃金を区別したというよりも、性別によって任せる仕事を区別してきたことが賃金の差となって表れています。雇用機会均等法以降、法律上は男女で就ける職業に差はなくなりました。しかし、実態としては男性がリーダー的な役割を担い、女性の多くはケア・サポートをする仕事に従事してきた。つまり、仕事や役割が性別によって固定化していて、仕事内容の違いが給料の差になっている。この点を無視して海外のやり方を日本に持ち込んでも効果がない可能性があります。

── 法律や制度上では、性別での差はなくなったものの、企業側にも働く側にも「この仕事は男性が(女性が)やるべき」という性別役割分業意識が残っていて、これが男女の賃金格差にも影響しているんですね。

浜田:正社員同士の男女で生じている賃金格差の背景としてよく言われるのは、「勤続年数」「管理職登用率」です。女性は結婚・出産などのライフイベントによって休職・退職をする割合が高く、これにも性別役割分業意識が大きく関わっています。
まずは勤続年数ですが、年功序列の賃金体系が残る会社がまだまだ多く、結婚・出産などのライフイベントによって休職・退職をする割合が高い女性は、平均すると男性と比べて勤続年数が短くなり、それが平均賃金のギャップにつながっています。管理職については、企業側が女性の登用に積極的でなかったことに加え、管理職になるのを躊躇しがちな女性が多いことも背景にあります。

── 確かに家事育児の中心が女性であるという性別での役割意識の影響が見えますね。日本では結婚や出産育児などのライフステージの変化による働き方への影響が、男性より女性の方がはるかに大きい。働く女性の多くは管理職になれば、さらにワーク・ライフ・バランスをとりづらくなると考えて、管理職へのキャリアパスが描きにくいのかもしれません。

浜田:あとは、「コース別採用」という人事制度の影響もあるでしょう。いわゆる「総合職」と「一般職」という区別が、男女を分ける仕組みとして機能してしまっている。かつては、総合職=男性の仕事、一般職=女性の仕事という認識の時代がありましたよね。就職氷河期以降、一般職採用は減少していくものの、最近では転勤のない「地域限定正社員」のような雇用形態として残り、そこに女性が多く採用されています。このように、採用条件や役割が違うことで、当然賃金にも差が出るという構造です。

濱口:コースの問題は大きいでしょうね。それだけでなく、同じ総合職コースで働いている男女が、キャリアを積むうちになんとなく差がついてしまうということも実態としてあります。この点は以前から議論されていることで、「形を変えた男女差別」の側面が指摘されており、これは20~30代の時期の仕事の任せ方が男女で異なることも原因。男性の場合は全国転勤や大胆なジョブローテーションをさせるのに対し、女性は総合職といえども、男性のような異動をさせられないと本人の能力とは関係なく手加減をしているケースが多いです。その結果、年齢を重ねるほど昇進・昇給の機会差となって表れてしまいます。

── 入り口は「総合職」として男女平等でも、入社後に知らず知らずのうちに機会に差がついている。これはなぜ起きてしまうのでしょうか。

濱口:最大の問題は評価の仕組みです。日本式の人事評価は、個人の業績や能力よりも情意(やる気)を重視している傾向が強い。例えば部下に急な仕事を依頼したときに「(育児の負担が大きい女性から)子育てがあるので明日やります」と言われるか「(育児を妻に任せている男性から)今夜中に仕上げます」と言われるか。上司はどちらにやる気を感じるでしょうか。このように、男女で区別するつもりはなくても、人事評価の仕組みによって実質的に差がついてしまっていると言えます。

女性の平均賃金が低い理由のひとつは、子育て世代以降の女性にパートや派遣などの非正規で働く女性が多い「L字カーブ問題」

小安:おふたりがおっしゃるように、このテーマには日本の社会において男女の役割分担意識やそれによる無意識の思い込みといった壁が立ちはだかっているように感じます。男性の仕事、女性の仕事、という話もありましたが、日本の場合は仕事だけでなく家庭も含めた性別による役割意識が社会規範として根強く残っている。家事育児において女性に大きな負担がかかっており、ここが解消されない現状では、女性と男性が同じように働きキャリアを築くのは難しく、また男女間の賃金格差は縮まらないと思います。

── 女性がキャリアを継続し、その中でキャリアアップしやすい環境を作ることが大事だということでしょうか。

小安氏

小安:その通りです。ただ、世の中はそう進んでいないのが現状です。その事例として、かつて私が取り組んでいたプロジェクトの話をさせてください。私は以前、女性の求職者の意欲を醸成し、女性が働きやすい求人を増やすことで女性の就労促進をしていた時期があります。この取り組みによってたしかに雇用側と働く側のマッチングは生まれました。でも、女性の賃金を上げるまでには至らなかったのです。というのも、育児などで時間の制約がある女性が魅力を感じて応募する求人は、働く場所や時間がフレキシブルなパートなどの非正規雇用が中心で、正社員に比べて賃金は高くありません。働きはじめはそれで良いとしても、子どもが大きくなって時間的制約が外れたり、経験を積んでスキルを身につけたりした後に、雇用する側が適切に社員登用や昇進などの機会を提供できなければ意味がない。彼女たちの活躍に期待せず、賃金が据え置かれてしまうことも問題です。
また、働く側にも夫の扶養の範囲内で働きたいという意識が根強い。しかし扶養控除は、「夫が外で働き、妻は家を守る」というモデルが主流だった時代に生まれたものです。「扶養控除の存在」が、女性が働くことをセーブする方向に作用しているのは、女性の経済的自立やキャリアップを後押しする政策と矛盾しています。

── 社会の制度や仕組みが、女性が働くことにブレーキをかけている側面もあるのですね。

浜田:今の日本は、女性が結婚や出産を機に一度退職をしてしまうと、正社員での再就職が極端に難しいことも問題です。そのために子育て世代以降の女性にパートや派遣などの非正規で働く女性が多い、いわゆる「L字カーブ」の問題が解消されないのです。企業が子育て世代の女性を敬遠していたのは、「働く時間が限られる」「転勤や異動の融通がきかない」といった理由でした。しかし、今の時代リモートワークが可能な仕事も増えていますし、転勤制度そのものを廃止する企業も登場しました。それなのにいまだに正社員への採用を「残業や転勤ができるか」で判断している企業もあり、それが労働市場に女性が入っていきにくい要因のひとつではないでしょうか。

──コロナ禍でリモートワークが進むなど働く環境もだいぶ変わってきてはいるものの、採用段階では、やはり制約のある人が敬遠されてしまっているのが現状ですよね。雇用側の意識が変わらないと、子育て世代の女性が正社員として再就職するのは難しいのでしょうか。

小安:私は、女性の再就労支援の一環で中小企業経営者とお話する機会も多いのですが、比較的若い世代の経営者には女性の雇用に対してバイアスのない人が多いです。一方で、経営者の中には、未だ固定的な性別役割分業意識を持ったまま、採用や配属、登用を行う人も少なくありません。その結果として、子育て世代の女性の再就職が難しいというジェンダーギャップが生み出されているのだと思います。

男女間の賃金格差の解消に必要なのは、正規・非正規や男女で格差がないスキルアップ・キャリアアップへの支援

──ここまで男女間の賃金格差の背景について、お聞きしましたが、それでは、この男女間の賃金格差を解消するにはどうしたらいいでしょうか。

浜田氏

浜田:人手不足が加速している今の状況では、新たに人を採用する難易度も上がっています。それにも関わらず、女性従業員が働きやすい環境やキャリアアップの道を整えないことは、経営危機にも直結する問題なのだと、企業は現実を直視して欲しいです。
分かりやすいのは、配偶者の扶養の範囲で働こうとするパート従業員の労働時間。今、最低賃金がかつてないスピードで上昇を続けているなか、パート女性の就業意欲を高められないと、彼女たちは扶養の壁を越えないようにするため労働時間の上限がどんどん短くなっていきます。例えば最低賃金が今の1.5倍になれば、これまでは月30時間働いていたパート従業員が月20時間までしか働けなくなる。まずはこの現実を企業側が受け止めることが重要です。その上でパート従業員により活躍してもらうために、正社員登用も含めキャリアアップの道を用意して、モチベーション高く働ける環境や仕組みを作ることが大事です。これは企業の人手不足対策として有効なだけでなく、最初に話した、男女間の賃金格差の要因である「勤続年数」や「管理職登用率」の問題の解消にもつながるのではないでしょうか。

──政府の政策として、女性活躍推進法の改正により、2022年7月に男女間の賃金格差の開示が義務化されました。これは企業経営者の意識を変え、男女の賃金格差の解消を後押しすることにつながるでしょうか。

濱口:そもそも、女性活躍というテーマにおいて、これまでの政策では女性の賃金の話には踏み込んできませんでした。例えばリーマンショックを契機に非正規社員の待遇改善に向けた議論が起きたときでさえ、「正規雇用に就けない若年男性を救済する」という意味合いが強かった。パートや派遣で働く女性の賃金にスポットが当たってこなかったのは、それが「家計の補助」的なものだという昔からの刷り込みが続いているからです。こうした性別役割分業意識を社会全体で変えていく必要があるでしょう。

小安:まさしくそうですよね。例えばひとり親家庭の貧困が問題になっていますが、特にシングルマザー家庭の貧困率が高い。彼女たちは一家の大黒柱として働きながら家事育児もワンオペという立場です。働く時間はこれ以上増やせないが、今の収入では子どもに十分な教育を受けさせることもできない。決して「家計の補助」という感覚ではなく、より高い所得を得ようと必死で働いているんです。働く女性、特に非正規で働く女性に対し社会はもっと真剣になるべきだと思います。社会全体が、今よりもっとスキルアップ・キャリアアップを支援し、収入を上げていくアプローチをしていく必要があると思いますよ。

──男女の区別はもちろん、正規・非正規といった雇用条件の区別なく、働く誰もがスキルアップ・キャリアアップの支援が得られる必要があるということですね。

三人

浜田:行政の対応としてまだまだ完璧とは言えないし、気になる点はありますが、少なくとも政府が女性の賃金に関して言及したのは一歩前進だと思います。これをきっかけに社会全体で議論が深まり、女性管理職比率を高めることをはじめ、正社員・非正規社員間の同一労働同一賃金などの取り組みが進むことを期待したいです。

濱口:政府はわざと賃金の話を避けてきたところはあると思いますよ。これは私見ですが、年功序列と曖昧な評価基準で賃金を決めてきた日本においては、今支給している(受け取っている)賃金に説明がつかないからです。賃金について具体的な議論を進めるには、ブラックボックスになっている賃金体系をつまびらかにする必要がありますが、誰もやりたがらなかった。それが今になって急に話題にあがりはじめたことが、私は興味深いです。どう動いていくかはまだ分からないものの、本気でやろうとするなら、単に給与システムの話ではなく、終身雇用や年功序列を前提としたメンバーシップ型なのか、ジョブ型かといった雇用システムも含めた議論を進めていくことが大前提だと思います。

女性活躍推進法における男女賃金格差の開示義務化は第一歩。性別役割分業意識を社会全体で変えていこう

座談会で皆さんのお話を聞くなかで、日本における男女間の賃金格差は、日本社会に根強く残っている「性別役割分業意識」が大きく影響していると感じました。性別役割分業意識とは、「男は仕事・女は家庭」のように、男性・女性という性別を理由として役割を分ける考え方です。職場においても、本来は男女を問わず個人の能力等によって役割分担を決めることが適当であるにも関わらず、「男性は主要な業務・女性は補助的業務」といった固定観念がさまざまなジェンダーギャップを生み、男女間の賃金格差が根強く残っているのではないでしょうか。
話にもあがった男女間の「勤続年数」「管理職登用率」「非正規雇用率」のギャップも性別役割分業意識に強く結びついています。例えば家事育児の負担が極端に女性に偏っている限りは、「勤続年数」や「管理職登用率」のギャップはなかなか解消されません。「男は仕事・女は家庭」があたりまえだった時代につくられた扶養控除制度が、女性活躍を推進する今となってはかえって女性の働く意欲を削いでおり、その結果女性が非正規雇用にとどまり続ける要因となっているという話もありました。また、「長時間労働」や「プライベートより仕事を優先すること」をよしとする評価制度に表されるような日本企業特有の文化も、こういった性別による役割意識に支えられてきたと言えそうです。

働く人々

こうした意識を変えていくことが男女間の賃金格差の解消に有効だと言えるでしょう。但し、そのためには働く側、雇用する側双方が、性別による固定観念を取り払うことが必要です。その上で「男性が育児休暇を取りやすくなる」「女性が子育てを理由に管理職をあきらめない」といった男女の区別がない働き方が実現できれば、男女間の賃金格差の解消だけではなく、日本はもっと誰もが働きやすい社会に変わるのではないでしょうか。
そのためにも政府が企業に男女間賃金格差の開示を要請したのは、男女に差があるという実態をまずは理解し、その解消に向けた議論を進めていく上では一歩前進だと思います。効果は未知数なものの、この取り組みをきっかけに変化が起きることを期待したいと思います。

この後も座談会は続きます。後編では、諸外国のジェンダーギャップの状況に注目。ジェンダー平等先進国の特徴や世界の潮流をヒントにしながら、日本の働く環境における格差解消について考えていきます。




座談会参加者プロフィール/敬称略五十音順

※プロフィールは取材当時のものです。

小安

小安 美和
株式会社Will Lab(ウィルラボ)代表取締役
内閣府男女共同参画推進連携会議 有識者議員

1995年日本経済新聞社入社。リクルート等を経て2017年株式会社Will Labを設立。全国の自治体と連携し、女性の就労支援、リーダー育成等、女性のエンパワーメントに取り組んでいる。2019年より内閣府男女共同参画推進連携会議有識者議員。

濱口

濱口 桂一郎
労働政策研究・研修機構 労働政策研究所長

労働省、欧州連合日本政府代表部一等書記官、衆議院調査局厚生労働調査室次席調査員、東京大学客員教授、政策研究大学院大学教授、労働政策研究・研修機構の主席統括研究員を経て現職。日本型雇用システムの問題点を中心に、労働問題について幅広く論じている。

浜田

浜田 敬子
リクルート ワークス研究所 「Works」編集長
ジャーナリスト
前Business Insider Japan統括編集長/元AERA編集長

1989年朝日新聞社に入社。2014年からAERA編集長。2017年に同社を退社し、Business Insiderの日本版を統括編集長として立ち上げる。2020年末に退任し、フリーランスのジャーナリストに。2022年リクルートワークス研究所が発行する『Works』編集長に就任。

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