両立支援 企業視点で考える「男性育休のすすめ」

企業が変わる!男性の育休取得率向上によるメリットとその対応策とは【前編】

企業が変わる!男性の育休取得率向上によるメリットとその対応策とは【前編】

男性が育休を当たり前のように取れる社会を目指して

2022年に育児休業に関する法律が改正され、国を挙げて男性育休の取得率向上を目指す中、企業側の取り組みの義務化も始まっています。「義務」と言われるとネガティブに受け取りがちですが、従業員の育休取得には企業側にもさまざまなメリットがあることをご存じでしょうか?そこで今回は、男性の育休取得率に課題感を持つ企業の皆さんに向けて、自治体などでセミナー講師として活動する広中 秀俊さんに、企業の視点から、男性育休制度の改正ポイントや取得率を向上させるメリットと、そのための対応策について教えていただきました。

※この記事の内容は、リリース当時(2023年9月現在)のものです。最新の情報については、公的機関のサイトなどをご確認ください。


育休の専門家に聞く!育休制度の改正ポイントや育休取得率を向上させるメリットとは

育Qドットコム広中 秀俊さん

育Qドットコム株式会社代表取締役社長
広中 秀俊さん

東京都パパ育業事業 アドバイザー兼セミナー講師(令和4年度)
大学卒業後、ミサワホーム入社。2児の父親であり、厚生労働省から「イクメンの星」に認定される。2019年に独立。「育休で日本を元気に、世界を平和にする」をミッションに、男性育休が当たり前になる世の中を目指し、自治体や企業向けに研修やコンサルを展開。ファイナンシャルプランナーとしてお金に関するアドバイスも実施。


育休に関する企業の義務化とは?育児・介護休業法改正の3つのポイント

育児・介護休業法改正ポイント

まずは、2021年6月に改正された育児・介護休業法の3つのポイントについて、目的と概要を説明します。
2022年4月に施行されたのが「育児休業を取得しやすい雇用環境整備」と「妊娠・出産の申し出た労働者 に対する個別の周知・意向確認の措置」の義務化です。一言で言えば、従業員が育休を取得しやすい環境整備と社内の雰囲気づくりをしましょうということです。


育児休業を取得しやすい雇用環境整備

育児休業と産後パパ育休の申し出が円滑に行われるようにするため、企業は以下のいずれかを実施しなければいけません。また企業には、「従業員が希望する休業期間を申し出て、それを取得できるように配慮すること」も求められています。



1.育児休業・産後パパ育休 に関する研修の実施
2.育児休業・産後パパ育休に関する相談体制の整備等(相談窓口設置)
3.自社の従業員の育児休業・産後パパ育休取得事例の収集・提供
4.自社の従業員へ育児休業・産後パパ育休制度と育児休業取得促進に関する方針の周知

1.育児休業・産後パパ育休に関する研修の実施
対象は、全従業員が望ましいですが、少なくとも管理職は、研修を受けたことがある状態にする必要があります。

2.育児休業・産後パパ育休に関する相談体制の整備等(相談窓口設置)
相談窓口を設ける場合、形式的に設けるだけでなく、実質的な対応が可能な窓口を設けて、それを従業員に周知し、利用しやすい体制を整備する必要があります。

3.自社の従業員の育児休業・産後パパ育休取得事例の収集・提供
自社の育休の取得事例を収集し、事例が掲載された書類の配布やイントラネットへの掲載などを行い、従業員へ広く周知することを意味します。性別や職種、雇用形態にかかわらず可能な限りさまざまな事例を収集・提供することにより、特定の従業員が育休の申し出をちゅうちょすることがないように配慮することが必要です。

4.自社の従業員へ育児休業・産後パパ育休制度と育児休業取得促進に関する方針の周知
育休に関する制度および取得促進に関する会社の方針を、社内やイントラネットに掲示することを意味します。

一般的には1の研修を実施する企業が多く、研修内容や方法は特に決まっていないため、それぞれ工夫して実施しています。厚生労働省のサイトに社内研修用資料と動画が公開されていますので、自社用にアレンジするなどして活用することができます。
参考リンク:男性の育休に取り組む社内研修用資料について


妊娠・出産を申し出た従業員に対する個別の周知・意向確認

企業は、妊娠・出産の申し出をした従業員 や配偶者に対し、以下4点に関して個別の周知と取得意向の確認を行わなければなりません。


・育児休業・産後パパ育休に関する制度
・育児休業・産後パパ育休の申し出先
・育児休業給付に関すること
・従業員が育児休業・産後パパ育休期間において負担すべき社会保険料の取り扱い
※周知の方法:面談/書面の交付/FAX/電子メール等のいずれか

実施時期について
従業員が希望の日から円滑に育児休業を取得することができるように、上記周知や確認は適切な時期に実施する必要があります。具体的な時期は、従業員からの(配偶者の)妊娠・出産の申し出のタイミングによります。
・出産予定日の1カ月半以上前に行われた場合:出産予定日の1カ月前まで
・それ以降、出産予定日の1カ月前までに申し出が行われた場合:2週間以内
・出産予定日の1カ月前から2週間前の間に申し出が行われた場合:1週間以内などできる限り早い時期
・出産予定日の2週間前以降に申出があった場合や、子の出生後に申し出があった場合:できる限り速やかに措置を行うことが必要

義務化の背景について
「妊娠・出産を申し出た労働者に対する個別の周知・意向確認」を行うことが義務化された背景には、厚生労働省が行った「仕事と育児等の両立支援に関するアンケート」において、「妊娠・出産を会社に伝えた際に会社から説明や働きかけがあったか 」という質問に対し、「特にない」と答えた男性・正社員が63.2%にも上ったことがあります。
会社から育休についての説明が十分に行われていない状況が、育休取得率の低さの要因の一つにあると想定されたため、制度について男性を含めた全ての対象者に確実に伝えることが義務付けられました。
出典:「令和2年度 仕事と育児等の両立に関する実態把握のための調査研究事業報告書」より

その他ルールついて
確認した従業員の育休の取得意向はエビデンスとして残さなければいけないルールになっています。厚生労働省のサイトに「個別周知・意向確認書記載例」が掲載されており、好事例と必要最小限事例の2パターンのテンプレートから自社に合ったものを利用することができます。
また、これらの義務化を怠った場合、罰則などはありませんが、指導・勧告の対象となり、最終的には企業名を公表されることもあります。必ず実施するようにしましょう。
参考リンク:「男性育休に取り組む社内研修資料について」(イクメンプロジェクト)


育児休業取得状況の公表

育児・介護休業法により、2023年4月から「育児休業取得状況の公表」が義務化されました。男性の育休取得促進のために、従業員が1,000人を超える企業は、年1回、男女別の育児休業等の取得状況を誰もが閲覧できるようインターネットなどで公表する必要があります。公表の内容は、公表の前年度に、男性従業員が産後パパ育休を含む育児休業や企業ごとに設けている育児目的休暇を取得した割合です。

また、 休業法とは別に、上場企業が開示する有価証券報告書においても「男性の育休取得率」が「女性管理職比率」「男女の賃金の差異」と共に開示項目に追加されました。対象は2023年3月決算期の企業からで、各企業の有価証券報告書がすでに開示されて始めており、徐々にメディアでの注目も高まっていくことが予想されます。育児・介護休業法の義務化と違って、有価証券報告書の虚偽記載には刑事罰がありますので、育休取得状況の公表という点において、有価証券報告書での開示が始まったことの意味は非常に大きいと言えるでしょう。

このように各企業の男性の育休取得率が公表されることにより、男性の育休に対する注目も高まり、企業側からも男性の育休取得率をアップさせようという動きが加速していくと思われます。

参考リンク:「育児・介護休業法について」(厚生労働省)



取り組まないともったいない!男性の育休取得率向上による企業のメリットとは

男性育休取得率向上に取り組む3つのメリット

男性の育休取得率向上への企業側の取り組みが強化される一方で、申請業務の煩雑さや、育休取得による事業や組織への影響の懸念から、取得率向上に取り組むことをためらう企業もまだ多くあります。しかしながら、企業とって男性の育休取得率を上げることは、社会的にもそして人材確保の面でもさまざまなメリットをもたらすことをここでご紹介します。


企業価値評価のアップ

昨今、投資家の間では、売上高や利益、純資産といった数値で表すことのできる財務情報とは別に、非財務情報への関心が高まっています。非財務情報とは、経営者の能力の高さや経営戦略、社員のモチベーションの高さやスキル、ESGやCSR、サステナビリティの取り組みといった数値化できない資産のことです。こうした背景から、先ほどお伝えしたように有価証券報告書への非財務情報の掲載が進み、機関投資家向けのアニュアルレポート(統合報告書)、CSRレポート、またサステナブルレポートでも、男性育休取得率などの情報が開示されているのです。そして今後は、その取得率の高さも企業ブランディングや企業価値の評価向上につながっていくことが想定されています。


離職防止・採用力アップ

若い世代を中心に仕事も家庭も大切にしたいと考える人が増える中、企業が男性の育休取得を積極的に促進させることは従業員のモチベーションアップにつながります。従業員満足度(ES)が高まれば、会社に対するエンゲージメントも高まり、離職防止にも大きく貢献するでしょう。また、育休取得率が上がることで、ワーク・ライフ・バランスの整った職場として、企業のイメージアップにつながります。家庭を持つ人が多いキャリア採用においてはもちろんのこと、新卒採用においても希望条件として「従業員の健康や働き方に配慮している」ことを重視する傾向が高まっており、育休取得率の高さは採用においてもプラスになります。


業務の効率化による生産性アップ

従業員が長期間育休を取得する際の引き継ぎは、業務を「見える化」する良い機会となります。組織としても業務の棚卸しが進むことで、効率化だけでなく、「その業務は●●さんしかできない」といった属人化を防ぐことにもつながります。
また、育休取得による従業員個人のスキルアップも期待できます。育児経験者からよく聞くのは、マルチタスク能力が高まったという声です。育休期間中は複数の家事や育児を同時進行することも多いからでしょう。また育休からの職場復帰後も、育児との両立のために長時間労働を避けようと業務の効率化やタイムマネジメントを常に意識するようになったという声も多く、個々人の生産性のアップも期待できます。加えて私自身の経験から言えば、保育園のパパ友など仕事以外のコミュニティーを持つことや家事・子育てにより、これまで気付けなかった視点を持つことができましたし、それが新規事業を考える上でのアイデアにつながったこともあります。

最後に、男性育休が企業(仕事)にもたらすメリットに関する調査データをご紹介します。大手ハウスメーカーが行った企業で働く男性の育休取得実態を探る調査「男性育休白書」によると、男性育休には、「離職防止・採用力アップ」「生産性アップ」といった効果があることがみてとれます。


積水ハウス男性育休白書


ここまでは改正後に企業に義務化された内容と、企業がこれから男性の育休取得率を向上させるメリットについてお伝えしてきました。男性育休は今や世の中の流れであり、今後ますます定着していくでしょう。この変化をチャンスと捉え、ぜひ前向きに対応していただきたいと思います。

後編では、男性の育休取得率を向上させるさまざまな対応策やアイデアをご紹介します。男性育休への取り組みはこれから…という企業が取るべきファーストステップから、長期間の育休取得者が増えつつある企業が抱える「欠員による職場への負担」に対する考え方まで、幅広くご紹介しています。ぜひ後編もお読みください。

企業が変わる!男性の育休取得率向上によるメリットとその対応策とは【後編】はこちら




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