卒業おめでとうを伝えたい。『スタディサプリ』が18歳へ贈る想い

卒業おめでとうを伝えたい。『スタディサプリ』が18歳へ贈る想い

現在YouTubeにて配信中の、『スタディサプリ』が高校3年生へ卒業おめでとうの気持ちを伝えるムービー。既にご覧になった方もいるでしょうか? あの動画、実は2007年にTVCMとして流れていたリクルート社の「卒おめ」CMを強く意識して制作がスタートしたもの。あのCMに憧れた、当時大学生だった当社従業員が15年越しにリバイバルを果たし、コロナ禍の18歳へ想いを込めて「卒業おめでとう」を伝えたムービーの制作秘話をお届けします。

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動画URL:https://youtu.be/U5zeyGHV7rM

ムービーの誕生は上司との雑談から

―今回のムービー、コロナ禍だからこその想いも伝わってきて、観ながら泣いてしまいました。

赤土:私もこんなに良い映像になると思っていなくて。ずっと立ち会ってきたはずなのに、初めて完成版を観た時は思わず固まってしまいました。今年卒業を迎える高校3年生って、コロナ禍でほとんど何も学校行事を楽しめていない世代なんです。この2年、大人も迷う状態が続いた。誰も正解が分からない中だったので、仕方ないと思う側面が大いにありつつも、大人たちの決定に振り回され続け、それでも懸命に生きてきた。そんな生徒たちがあの映像に映し出されていて、自分も何だかいろいろな感情が浮かんできました。

―大人にもいろいろなことを考えさせる作品だと感じました。今回のムービーはTVCMではなく、YouTubeだけでの公開とのことですが、そもそもなぜこのムービーを赤土さんが作ることになったのでしょうか?

赤土:2021年の春に上司とよもやま(雑談)をしていた際、「何かやりたかったことはないの?」と訊かれまして、「ずっとやりたかったことがあるんです」と思いの丈を訴えたことに始まります。

―ずっとやりたかったことですか?

赤土:そうなんです。私は高校生の進路選択をサポートする『スタディサプリ for SCHOOL』というアプリサービスの授業体験設計を担当しているのですが、その関係で全国各地の高校を訪問し、たくさんの生徒さんに接する機会があったんです。そんな日々の中でふと、高校生のためのサービスである『スタディサプリ』って、卒業とともにいつの間にかログインされなくなって、使われなくなるよな、ちゃんとお礼もお別れも言えないなんてなんか凄く寂しいなぁと思いまして…。ちゃんと「卒業おめでとう」ってみんなに言えるような施策があってもいいんじゃないかと上司に訴えたんです。特にコロナ禍では、世間的にもあまり「おめでとう」と言う雰囲気ではなかったと思いますし、尚更伝えたいという思いがありました。

赤土豪一,スタサプ

―上司の方はどういう反応を?

赤土:「良いじゃん! やりなよ」って(笑)。私の意見を尊重してくれて、予算をつけてくださいました。

―予算もついた後はどういう風に動いていったのですか?

赤土:最初の始まりは僕の妄想でしかなかったのですが、自分ひとりではもちろん何もできないので、「誰かいないかな」と思っていたところ、大学時代の友人であるコピーライターの藤田卓也さんが、広告制作などを手掛けるPARTYにいらっしゃると聞きまして。「こういうのを作りたいんだけど、そんなに予算もなくて…」と相談してみました。PARTYさんって、名だたる有名CMとかも担当しているような会社なので、そんな会社にこんな提案は無理だよなとダメもとでの相談だったのですが、「めちゃくちゃ社会的意義のあるものだと思うから、1回社内でチーミングできるか確認します」と言ってくれて。1ヶ月後に「チームができました。一緒にやらせてください!」って連絡をくれたんです。この時は、想いが伝わったんだってめちゃくちゃ嬉しかったですね。そこからは社内からも3人、チームに兼務で入ってもらって、進めていきました。ただ、みんな兼務ですし、初めての試みだしで、本当に産みの苦しみがありました。

―PARTYさんのOKが出た後、ムービーのテイストはどんな風に決めていったのでしょうか?

赤土:ちょっと個人的な話で恐縮ですが、2007年にリクルートが放映していた「卒おめ」のTVCMに、当時大学生だった私は動けないくらいの衝撃を受けまして。「まだ何も終わっていないし、何も始まっていない。卒業おめでとう」のコピーとチャットモンチーの曲とCMの空気感が何とも印象に残って…。自分も大学生で、これから社会に出ていく当事者だったからこそ心に響いたものがあり、いつか自分も同じように、何か学生に伝えられるものをリクルートで作れたらとずっと思っていたんです。そのことをPARTYさんにお話したら、「僕もこのCMめっちゃ好きだったんです」って意気投合して。もちろんタレントさんを使った作品も考えたりはしたんですが、僕たちが伝えたい「卒業おめでとう」はこの形だなと思い、進めていきました。

撮影を受け入れてくる高校がない!直面した課題

―今回のムービーは「18の問い」がキーになっていますが、まずこれから作っていったんですか?

赤土:そうですね。会議を重ねる中で「18歳にかけて、18の問いを作る」っていうのはどうかというアイデアをPARTYさんが出してくれまして。自分と対話することになるこの問いの形式は、凄く良いと進めていったんですが、この18問を作り出すのが本当に大変でした。私たちが提供している『スタディサプリ』の授業は、正解があるもの。でも、これから18歳の子たちが旅立っていく社会は、ほとんど正解がない世界。それでも『スタディサプリ』は応援しているって伝えたい。だから、問いは「正解がないもの」にしたいと思っていたんです。でも、その正解がないというのが本当に難しくて…。1度18問を作った後に、調査会社に依頼して、高校生約1000人に実際に回答してもらいました。そこで、この問題は答えやすそうだけど、この問題はダメだねと取捨選択して研ぎ澄ませていったんですが、それでも最後の18問目「あなたの答えを正解に変えられるのは誰か、答えなさい」という問いは、10時間ぐらいみんなで議論しても出てこなくて…。何とか固まりました。

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―何とか18の問いを作り出したら、早速撮影に入っていったんですか?

赤土:その撮影がまた大変でして(笑)。今回のムービーは前例がない、初めての試み。「18の問い」を持って、高校に「撮影させてください」と相談に行っても、企画のイメージがつきづらいのか、お断りされることばかりで…。どうしようと途方に暮れていたところに、ある出会いがありました。

―ある出会い?

赤土:今回メインで撮影させていただいた愛媛県立今治西高等学校伯方分校さんとの出会いです。実は昨夏、伯方分校さんからスタディサプリ教育AI研究所に、「閉校になってしまうかもしれないから、『スタディサプリ』さん、何とかしてくれませんか」ってSOSが来たんです。

―そんなことがあったんですか!

赤土:インパクトのあるお話ですよね(笑)。伯方分校が定員割れして閉校の危機に瀕していると気づいた今治西高等学校が、生徒確保のため、学習支援を通じて学校の魅力を向上できないかと考え、『スタディサプリ』を活用できないかとリクルートに話をしてくださったんです。流石に驚きましたが、そうなった以上は頑張りました。21年10月からは実際に『スタディサプリ』も導入いただき、進学塾がほぼない島嶼部が抱える教育環境格差の懸念を払拭できるように動き出しました。学校存続は、学校関係者だけでなく島民や今治市の願いでもあったので、期待に応えたいと夢中でした。

―その流れで今回の撮影許可も得たと?

赤土:この過程で伯方分校の先生方とも仲良くなりまして、そこからですね。それにコロナ禍にも関わらず、島民の方も凄くあたたかく迎えてくださったことも大きいです。島ですれ違うと「なんかサプリっちゅうもんが入ったらしいな」と喜んで話してくださって、本当に有難かったです。それに、閉校になってしまった場合を考え、今の姿を残しておきたいという先生たちの気持ちもあったのではないかなと思います。

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―『スタディサプリ』自体、「経済的、地理的な理由から発生する教育環境格差を解消し、全ての人たちに学ぶ機会と楽しさを提供したい」という思いから生まれたサービスですが、その意義を感じるような体験だったのでは?

赤土:学校存続の危機に『スタディサプリ』を頼ってくださったので、学校や島全体の期待を背負っていると肌で感じる日々で、改めて身の引き締まる思いでした。何とか応えたいと必死でしたね。それにしても、今回の伯方分校との出会いは本当に引き寄せられたとしか思えないんです。私たちも撮影の協力校を探している最中でしたし、そこに現れた伯方分校は本当に撮影にピッタリの高校で…。協力的な地元はもちろん、1学年に2クラスしかない小規模校というのも大きかったと思います。どこか1クラスだけを選んでの撮影となると、普通の学校は「差」を生んでしまうからと敬遠します。伯方分校では人数が少ないため、2クラスの生徒をまとめて撮影できたので、その心配もなく。本当に奇跡だったと思います。

解く時間にも表れるそれぞれの「らしさ」

―2クラス分の生徒さんに侃侃諤諤して作り上げた「18の問い」を実際に解いてもらったわけですね。

赤土:50分授業の中で解いてもらうのですが、早く解き終わる生徒もいれば、時間いっぱいかかる生徒もいて、時間の使い方にも、その生徒らしさが表れていました。回答後、先生が回答用紙全てに赤字でコメントを入れて返却されたんですが、それが本当に感動的でした。「〇〇大学受かって良かったね」とか、「君なら〇〇になれるよ」と生徒それぞれにメッセージを書き込んでいて、それを読んだ生徒たちも「ちゃんと見てくれていたんだ」って本当に嬉しそうで…。

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―それは嬉しいと思います。伯方分校以外に大阪や東京などで撮影した画像も組み合わせて作り上げた今回のムービー、素敵な映像に音楽もマッチしていました。

赤土:今回監督は、サンボマスターやくるりのMVなど数多くの映像作品を手掛ける藤代雄一朗さんが企画に賛同して協力してくださいました。音楽に関しては有名バンドの起用も考えたのですが、より高校生の心に響くようなものをと考えて、長崎大学の学生インディーズバンドSundae May Clubさんの曲を選ばせてもらいました。いろいろと聴いた中で、一番しっくりくる曲だったんですよね。

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コロナ禍もポジティブに捉える18歳へ。未来はきっと明るい

―赤土さんの熱い想いが皆さんに伝わってできていったんだなと感じます。最後になりますが、今回のムービー、どういう風に高校生たちに届くことを願っていますか?

赤土:繰り返しになってしまいますが、一番は「おめでとう」を言いたくて作りました。それに、これから学校でも指導要領が変わり、「探究学習」など自分で問いを見つけるという学習に光が当たっていきます。そんな時に、「18の問い」を通して、「問いを持って、その問いに対して自分らしく答えを出していくことが大事なんだよ」ということを伝えたいな、伝わるといいなと思って制作しています。でも、今はまだムービーが公開される前なので、正直「受け入れられるかな、ちゃんと届くのかな」とドキドキしているというのが本音。もちろん再生回数が増えてくれたら嬉しいですが、何より誰かひとりにでも、「おめでとう」の気持ちが伝われば、それが一番かなと思っています。

それに、今回のムービーはTVではなくYouTubeでの公開ですし、きっと部屋でひとりで見るんだろうなと思っていて。その時に、このムービーを見て、「私だったら何て答えるかな」って思ってもらえたらめちゃくちゃ嬉しいですが、そこまで至らなくても、ムービーを見たことで、未来に対してちょっと前向きになってくれれば嬉しいです。先日、高校生とその保護者を対象に「高校生と保護者の進路に対する意識調査」という大規模調査を行ったのですが、「コロナ禍を経て社会に対して希望を感じますか?」という問いに対して、保護者は「いいえ」が多かったんですが、高校生は「はい」と答えた子の方が多かった。理由は「コロナ禍を経て社会が変わる気がする」というポジティブなもので。自分はこの結果に希望しか感じませんでした。こういう風に捉えてくれている高校生たちがいる未来は、きっと明るいと思います。

このムービーがどこまでできるか分からないですが、卒業を迎える高校3年生に対して、あなたたちに「おめでとう」を伝えたい大人たちがたくさんいるよ、未来はきっと明るいよと伝えられたらいいですね。

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プロフィール/敬称略

※プロフィールは取材当時のものです

赤土豪一(しゃくど・ごういち)

リクルート まなび教育支援Division 支援企画部 キャリアガイダンス・教育AI研究所グループ

ベネッセコーポレーションを経て、2014年、リクルートマーケティングパートナーズ(現リクルート)に入社。以来一貫して『スタディサプリ』における高校生向けキャリア教育プログラムの開発に従事。『スタディサプリ進路』編集デスクを経て、21年より『キャリアガイダンス』編集長。今回の「卒おめ」企画担当も務めるほか、高校生に向けてさまざまな施策を実施し続けている

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