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パラアスリート支援自動販売機からひろがる情熱の輪

2020年12月25日

パラアスリート支援自動販売機からひろがる情熱の輪

パラリングでは、パラアスリートに売上の一部が寄付される「パラアスリート支援自動販売機」の取り組みを推進しています。自動販売機設置の第一号となる酒井重工業株式会社と、実際に支援を受けているパラ馬術アスリート 稲葉 将選手にお話を伺いました。

 写真左:シンプレックス株式会社/静岡乗馬クラブ 所属 パラ馬場馬術アスリート 稲葉 将選手
 写真右:酒井重工業株式会社  執行役員  吉川孝郎さん

リハビリではじめたパラ馬術

「もともとアスリートを目指していたわけではないんです」と語るのは、パラ馬術日本ランキング2位(※1)の稲葉 将選手。先天性の脳内麻痺により両下肢に障がいがあり、股関節のリハビリのため自宅から通える乗馬クラブに通うようになったのが、きっかけだといいます。

「最初に乗馬クラブに行ったときは、馬の大きさにびっくりしました。またがってみると目線の高さが怖くて、とてもじゃないけれど続かないだろうと思いました。でも、月に1回の利用が週に1回となり、そのうち週2回、3回と増え、気づけばリハビリという目的を超えた趣味となりました」。その後、インストラクターから競技としての馬術があることを聞き、東京2020パラリンピック開催が決まったことでアスリートになることを決意した稲葉選手。世界を目指すことで、意識に変化が生まれたそうです。

「それまで障がいがあることに引け目を感じていましたが、そもそも障がいがなければエントリーの資格さえなかったんだよな、と思いいたって。そうした意識の変化も含め、世界に挑む僕の姿が誰かの励みになれば、これほど嬉しいことはありません。そのためにもできるだけアスリートとして長く活躍し、結果を残したいですね」

 1996年大会から正式競技となったパラ馬術。常歩(なみあし)、速歩(はやあし)、駆歩(かけあし)を基本に、
 多彩なステップや図形を描いて点を競う。
 写真は稲葉選手とパートナーのカサノバ号。人と馬が違いを超えて一体となる美しい演技で魅せる。

一方で、難しさも感じているという稲葉選手。それは、活動資金。競技に一緒に参加する馬を2頭所有しているので、エサ代や馬具、大会参加費など、費用がかかります。所属している会社の給与をほとんど費やす形となり余裕はありませんが、演技を磨くには馬とできるだけ多くの時間を過ごす必要があり、副業やアルバイトといった選択肢も持てません。馬術の本場であるヨーロッパのアスリートと競うにあたり、もどかしさを感じることもあるといいます。

頑張っている人を応援したい

活動費の課題は稲葉選手だけでなく、多くのパラアスリートに共通するもの。こうした状況を緩和し、寄付によって活躍を支えようと誕生したのがパラリングの「パラアスリート支援自動販売機」です。この活動にご賛同いただける企業のオフィスに、売上の一部が寄付される機能付きの自動販売機を設置していただき、パラアスリートや競技を身近に感じてもらいながら支援の輪をひろげてゆきます。この取り組みにどこよりも早く賛同してくださったのが、酒井重工業株式会社でした。「つくる、道がある。つなぐ、世界がある」をコーポレートスローガンに、国土開発をはじめとする分野で社会に貢献しています。稲葉選手の想いと、酒井重工業株式会社の想い。立場やアプローチは違いますが、障がいの有無に関わらず、一人ひとりが活躍できる社会を実現しようという想いは同じ。両者をつなげることで、その社会の実現に向けた情熱の輪をひろげたいと考え、お話をお伺いしました。

酒井重工業株式会社で稲葉選手を迎えてくださったのは、執行役員の吉川さん。「馬に乗るのって、怖くないですか?目線、高いですよね?」という質問を皮切りに、稲葉選手が語るパラ馬術の面白さや見どころ、世界にかける想いに耳を傾けていました。そして「パラアスリート支援自動販売機の設置を決めたのは、稲葉選手のように頑張っている人を応援したかったからなんですよね」と自動販売機導入の経緯も話してくださいました。

そうした中で考えさせられたのが、雇用を創出する経営層ならではの視点。「重機を扱う弊社では、障がい者の方は、安全に配慮し、配属先を決定しています。ここにプラスする形で、採用に加えてもっとできることはないかと考えていたので、自動販売機の取り組みは非常に良いと感じたんです」とのお話に、想いのある企業が社会に貢献する選択肢を増やすことの大切さを感じました。

考えるきっかけを届けたい

吉川さんに「パラアスリート支援自動販売機」に対する社内の反応を伺うと「職場の中に自動販売機が自然と溶け込んでいるのを見ると、持続性のある取り組みに思えます。一方で、わたしの役目としては設置だけで終わらず、自社のコーポレートブランディングやインナーブランディングの一環として、この取り組みを社内外に発信する必要があると感じます。定期的に伝えることで、自然な形をとりながらも社会貢献への意識を高めてゆきたいからです。たとえば持続可能な世界をつくる国際目標「SDGs(持続可能な開発目標)」を弊社も推進していますが、経営層だけでなく、社員一人ひとりが問題意識を持たなければ目標を達成できません。普段の仕事だけで意識を醸成することは難しいので、身近な自動販売機を通して、一人ひとりがより良い社会づくりに貢献していることを意識してもらう。そして同じ思想が、わたしたちの事業にも通底していることを示し、社会をより良くする活動の輪をひろげてゆけたらと思うんです」。この話にうなずく稲葉選手。「まずは知ってもらう、意識してもらうことが大切ですよね。わたしの場合、成績をあげることでパラ馬術を盛りあげることが自然な形ですが、それだけにとどまらずSNSによる発信やメディアに対する取材対応なども意識的に行っています。健常者スポーツはメディアで日常的に目にしますが、パラスポーツはまだその段階にありません。世界に挑戦しながら注目を集めることで、ひとりでも多くの人に知っていただきたい。パラ馬術だけでなく、障がい者の理解にもつながるのではないかと思っています」

 SDGsにも力を入れる酒井重工業株式会社。日本の国土開発だけでなく、新興国の環境整備なども支援。
 「たとえば、道路をつくることで病院にアクセスできるようになる。道をつなぐことは、生命をつなぐことでもあります」
 と吉川さん。

障がいの有無に関わらず活躍できる社会

「パラアスリート支援自動販売機」から、話題は障がいの有無に関わらず活躍できる社会のあり方にまでひろがりました。稲葉選手の「障がい者だからという先入観で能力を低くはかられることや、健常者と同じ仕事はできないと決めてかかられることに抵抗がありました。能力は障がいの有無ではなく、個人の差からうまれるもの。一人ひとりの志向や得意、不得意といった違いを見てもらえたら嬉しいですね」との言葉にうなずく吉川さん。「採用する立場からいえば、稲葉さんのような気持ちでいらしてくれたら嬉しいですね。できることは任せたいし、できないことはサポートしたい。障がいに対して配慮はしながらも、健常者と変わらず遠慮なく仕事を任せ、自分らしく活躍してもらう機会をつくりたいと思っています」

おふたりのお話を伺う中で、障がいの有無に関わらず、一人ひとりが活躍できる社会をつくるには、人や企業が、知識や技術、想いを持ち寄ることが大切だと改めて感じました。リクルートはこれからもパラリングの活動を通して、「考え方の変化」と「つながりの輪」を増やしていきます。

 「馬術といえばヨーロッパ。世界のトップアスリートと競って、たくさんの人にパラ馬術の面白さを届けたい」と
 馬のゼッケンを手に語る稲葉選手。
 「世界大会で、日本の国旗を見る日が楽しみだね」と吉川さん。

パラアスリート支援自動販売機の導入について

・資料: ファイルを開く

・お問い合わせ先:リクルート パラリング事務局 recruit_pararing@waku-2.com

※1:日本ランキングは2020年12月時点 

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「アスリート応援プロジェクト」の活動

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パラリングとは?

「パラリング」とは「パラダイムシフト(考え方の変化)」と「リング(輪)」の造語で、障がい者理解を広めていくリクルートの活動です。リクルートは障がいの有無に関わらずそれぞれが活躍できる社会の実現を目指して活動をしています。

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