INSEAD教授 ベン・ベンソウさんのリクルート考

INSEAD教授 ベン・ベンソウさんのリクルート考

ミドルマネジャーが鍵を握る イノベーションを習慣化した先進企業 海外事業とのシナジーに期待

リクルートグループは社会からどう見えているのか。私たちへの期待や要望をありのままに語っていただきました。

リクルートグループ報『かもめ』2022年4月号からの転載記事です

イノベーティブな組織の鍵はミドルマネジャー

私は現在、INSEADの教授としてテクノロジー・マネジメント、アジアビジネス研究、比較経営学の研究を国際的な視点から研究しています。また、ビジネス・イノベーションのコンサルタントとして、企業に対してイノベーションを企業のDNAに組み込むための支援も行ってきました。

約20年に渡る研究と実践の成果をまとめたのが『Built to Innovate: Essential Practices to Wire Innovation into Your Company's DNA』です。この書籍のなかで実践例のひとつとしてリクルートを紹介させていただいています。

イノベーションを創出するためには、天才的なリーダーの存在や、先鋭的なスタートアップでなければならないと思われがちです。しかし複雑化する世界において、ひとりの天才や研究開発部門が全てのイノベーションを担うだけでは不十分です。

重要なことは、組織に属する全ての人材の能力を引き出し、継続的かつ体系的なイノベーションを組織に定着させることだと確信しました。

その鍵を握っているのは、ミドルマネジャー。事業の最前線にいる社員が自信を持ってアイデアを提案できる環境を作り、モチベーションを高め、継続的にサポートするコーチの役割や実現のサポートをしなければなりません。

さらに、経営・管理層と現場をつなぐ「接着剤」として、役割、領域、部署を越えたつながりを作ることもまた、重要な役割です。

着想のきっかけは、20年前 リクルートとの出会い

ベン・ベンソウさん

実はこのアイデアは既に20年前からありました。その着想のきっかけこそ、2000年代初頭のリクルートとの出会いだったのです。

2001年にINSEADが依頼を受け東京で開催した「ブルー・オーシャン戦略」(当時の名称では「バリュー・イノベーション戦略」)トレーニングプログラム。大手企業や政府機関の管理職約30名が参加するなか、ひときわ若く、エネルギッシュなふたりがいました。当時、人事部門の中堅マネジャーだった長嶋由紀子さんと『カーセンサー』のマネジャーだった岩下直司さんです。

最終講義のために再び東京を訪れた際、岩下さんとともに『カーセンサー』の営業現場に同行。その時、岩下さんから得たヒントが、私にとっても大きなターニングポイントとなりました。

「メンバーから提案があった時には、否定せず、最初に感謝の言葉を伝える。そして、メンバー自ら考えることを習慣化できるよう、3つの質問を投げかける。“顧客にどんな価値をもたらすのか?”“会社にどんな価値をもたらすのか?”“そのアイデアをどう実現するのか?”。これらの問いの繰り返しによりイノベーションが習慣化し、自ら考えるメンバーが増える」と話していました。

そして一昨年、書籍の執筆中に、リクルートの最新イノベーションについての共有を受けました。ひとりの現場社員が提案したB2Bビジネスのアイデアは、その難易度の高さゆえ当初は却下されました。

しかし、当時の事業責任者は、その提案に可能性を見出し、約5年間をかけて最終承認まで至ったのです。まさにミドルマネジャーの役割が発揮され、現場のアイデアがイノベーションにつながった好事例でしょう。

リクルートとの最初の出会いから約20年、まるで点と点がつながったように感じました。本書に、この事例を掲載することになったのは、ある意味、必然の流れだったともいえるかもしれません。

20年前から豊かなダイバーシティを育んできた

そしてもうひとつ印象的だった出会いは、長嶋由紀子さんです。当時まだ珍しかった女性管理職でしたが、年長者のなかにいても堂々と発言し、リーダーシップを発揮する姿に驚かされました。現在は常勤監査役を務めていると聞き、これまた合点がいきました。

創業から約60年、“継続的な変化とイノベーション”を支えてきたリクルートの強みは、学習意欲の高い積極的な人材プールとその多様性。加えて、「Ring」(リクルート社内の新規事業提案制度)や「FORUM」(リクルートグループ横断でナレッジのシェアを行う社内イベント)といった、いわばイノベーションを習慣化するための装置が根付いていること。

ぜひ今後も、グローバルでの事業展開から良い面や高いポテンシャルを持つ人材を取り込み、既存の文化や事業とのシナジーを生み出しながら、社会に大きなインパクトを与え続けて欲しいと思います。

プロフィール/敬称略

※プロフィールは取材当時のものです

Ben M. Bensaou(ベン・ベンソウ)
INSEAD 教授
Technology Management, Asian Business and Comparative Management

INSEADにおいて2018年から20年までエグゼクティブ教育の学部長、現在はテクノロジー・マネジメント、アジアビジネス研究、比較経営学の教授を務める。イノベーションに関するケーススタディでは、2006年、2008年、2009年にThe ECCH Best Case Awardsを受賞(W. Chan Kim、Renee Mauborgneとの共同研究)。ハーバード・ビジネス・スクール、ペンシルバニア大学ウォートン校、UCバークレーなどでも教鞭を執る。MIT博士、一橋大学修士

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