苦労して手にした情報だから、シェアしたい。校則のデータベース化に取り組む現役高校生の視点

苦労して手にした情報だから、シェアしたい。校則のデータベース化に取り組む現役高校生の視点
文:森田 大理 写真:須古 恵

全国各地の校則をオープンにすることで生徒と学校の建設的な対話を後押し。「Change of Perspective」代表 神谷航平さんの取り組みから、Z世代ならではの価値観を紐解く

1990年代中盤以降生まれの「Z世代」が、いよいよ社会で活躍をはじめている。彼らはどんな社会背景を持って育ち、どのような価値観を持っているのだろうか。今回話を聞いたのは、「全国校則一覧」というWebサイトを運営する団体「Change of Perspective」代表の神谷航平さん。群馬県内の高校に通う、2005年生まれの高校2年生だ。

中高生が校則を変えようと声を上げることは、上の世代でも時折見られたことだろう。しかし、神谷さんの場合は自身が通う学校の校則を変えるために行動しているのではない。全国各地の校則を行政に開示請求し、2023年1月現在集めた校則は2,500、掲載している校則は1,500を超える。この活動は、果たして何が狙いなのだろうか。神谷さんの取り組みから、Z世代ならではの価値観を探った。

発信するだけなら難しくない時代。それ以上の行動を起こしたかった

—— 神谷さんが校則に関する活動をはじめたきっかけを教えてください。

中学時代に自分自身が通う学校の校則に疑問を感じたのがきっかけです。例えば、「登下校時の靴は白とする」と色まで規定する必然性が分かりませんでした。また、「4時禁ルール(午後4時までは外出禁止)」というのもあって、下校してからの行動まで制限されることが純粋に疑問だったんです。担任の先生に理由をたずねても、「近所の人からクレームが来るから」という返答。午後4時前に外出することの何がいけないのか、僕には納得できませんでした。

そこで、何とかして校則を変えられないかと考えたものの、ただおかしいと不満をぶつけるのでは学校側とまともに議論できないと思ったんです。自分の気持ちを感情的に押し付けているみたいで、正しいやり方ではないと思いました。そこで、比較材料として他校の校則がどうなっているのかを調べ始めたんです。

校則に関する活動について語る高校生の神谷航平さん

—— 意見を通すために客観的な証拠集めをした、ということですね。

はじめのうちは同じ塾に通う他校の生徒に校則を教えてもらうような地道な活動だったんです。でも、それだけでは十分な数を集めるには限界があって…。そこで、Twitterに「校則を変えるために、他の学校の校則集めをしています」と投稿したところ、興味を持ってくれた人から「公立校なら自治体に公開請求の手続きを取れば見せてもらえるのではないか」とヒントをもらいました。教わった通りに自治体の手順に従って申請してみると、中学生でも市内の中学校の校則データを入手できた。それが原体験になっています。

—— 世代を問わず多くの人が校則を窮屈に感じる経験をしていると思います。でも、文句を言いながら渋々従っている人が大半ではないでしょうか。なぜ、神谷さんは行動に移せたのですか。

SNSが少なからず影響している気がします。うちの校則が嫌だ、おかしいと気持ちを伝えるだけなら、今の時代は手軽に出来るじゃないですか。SNS上では誰でも等しく発言する権利がある。声を上げること自体はそんなに難しいことじゃないと思うんです。でもネットの世界で不平不満をつぶやくだけでは現状は変わらないとも思う。

だからこそ、僕はただ発信をするだけじゃなくもう一歩踏み込んだアクションを取ろうと思いました。また、SNSを介して学校の外の世界とも繋がれたことも大きいですね。自治体への公開請求という手段を教えてくれる人がいなかったら、この行動はなかったと思います。

情報は、他者と共有することで使い道が広がる

—— はじまりは、あくまでも自身の環境を変えるためのアクションだったものが、現在は全国的な活動に発展しているのはなぜでしょうか。

今在学中の県立高校に進学した際、純粋な興味で高校の校則も集めてみようと入学したその日に公開請求をしました。この時点ではあくまでも自分がこれから過ごす環境について知りたかったくらいなんです。ただ、中学校は市役所に申請したのに対し、高校の管轄は県庁。中学校と同じように情報開示請求の手続きをしたのですが、「不存在決定」という通知が来て開示はされませんでした。

これは、「県庁には校則に関する文書が存在しないから提供できない」というもの。でも、実際に校則は存在するのに、管轄する役所にないと言われるのは納得できなくて、Twitterで状況をつぶやいたんです。すると、他の自治体で情報公開を担当しているという人が、県庁に掛け合うやり方を教えてくれました。それをヒントに時間をかけて県と交渉し、群馬県の県立高校の校則を入手することができた。ここまで苦労して手に入れたものを、ただ自分の手元に置いておくのはなんだかもったいない気がしたんですよね。そこで有効活用できる方法を考えて、広く一般に公開しようと思いました。

—— 「自分だけで持っておくのはもったいない」という神谷さんの感覚は、非常に現代的な気がします。

言われてみればそうかもしれないですね。僕たちの世代は日常的に何を食べたか、誰とどこで遊んだかをInstagramに投稿しているし、Twitterで僕を助けてくれた人のように、自分が知っている情報はみんなでシェアして他の人に役立ててもらうのが当たり前。実際に校則データをどう使うのかはその人次第だけど、よかったらどうぞという感覚でした。

—— 実際にはどう活用されているのでしょうか。

昔の僕がそうしたように、校則を変えるための手がかりとして参照したいという高校生からの連絡はよくありますね。また、ある高校生からは探究学習の授業で校則について調べているからと連絡をもらったことがあります。生徒にとって校則は自分に影響する最も身近な「ルール」ですから、問題意識を持ってフィールドワークに取り組むには良いテーマなのかもしれません。

また、他校の先生から連絡をいただいたこともあります。例えば、ある中学校の先生からは「高校受験を控えた生徒の進路指導の材料にしたい」という問い合わせがありました。僕はこの使い方がすごく良いと思っていて。多くの人は自分の学校の校則を細かく知らずに入学し、後になって「この校則が嫌だ」となるじゃないですか。情報の透明性を高めることは、本当に自分にあった学校選びの助けにもなるはず。校則データをオープンにすることで、いろんな人が多様な目的で活用するようになり、価値が拡がっているように感じます。

校則データを保有しオープンにすることについて語る神谷航平さん

—— 校則の情報をオープンにすることで、生徒一人ひとりが自分にあった選択肢を選ぶ助けになっているのは、リクルートが掲げる「まだ、ここにない、出会い。」とも共通点を感じます。一方で、たくさんの校則データを保有することは、神谷さんにどんな気づきを与えてくれましたか。

事実やデータの大切さを再認識しています。例えば一般的に、「偏差値が高い学校は校則が自由」と言われますが、それはごく一部の学校のイメージに引っ張られているだけで、データを俯瞰して見る限り偏差値による違いはみられませんでした。一方で、商業高校・工業高校などは校則が細かく記載されている傾向が強い。社会人としての基礎を養うための教育方針が校則にも反映されているようです。これらの傾向は県によって差異が大きいため、今後は全国的に調査をしたいと考えています。

また、地域特有のルールがあるのも分かってきたこと。例えば僕が中学時代に疑問に感じた「白靴」という校則は、群馬県全域では多くの学校が採用していますが、隣県にはなかったり、他県では一般的だったり…といった地域性のあるローカルルールのようでした。自分の見える範囲だけではなく、視野を広げて比較してみることの大切さを感じています。

オンラインを介する、令和的アプローチ

—— 活動を広げるにあたって、SNSで仲間を募っているのも今の時代らしいと思いました。どんな人たちが集まっているのですか。

中高生はもちろん、大学生や大人も多いですね。活動を全国に広げようとすれば、一人ではできないことは明白だったので必然的にSNSで仲間を募ったのですが、実際に呼びかけてみると現役の学生以外の様々な年代や立場の方から手が上がったことに驚きました。それだけ多くの人が校則に問題意識がある表れなのだと感じています。

—— オンラインを介して活動するうえで気を付けていること、大切にしていることを教えてください。

全国の仲間とは基本的にzoomなどのオンラインツールを通したやり取りなので、直接会って話すよりも伝わりにくいことを前提に意思疎通を図るよう意識しています。それに、距離が離れているだけでなく一人ひとり立場が違うからこそ、それぞれが見えているものが全く同じとは限りません。相手の立場を想像しながらかみ砕いて話すことを心掛けていますね。

立場の違いはハンデでもあり、武器でもあると思っているんです。僕はインターネットを通じて、リアルの日常ではまず出会えないような全国各地の人たちとつながることができた。普段の生活で接する大人と言えば親や先生くらいですが、SNSでやり取りをする相手にはいろんな職業の方々がいます。全く異なる立場の人から刺激を受け、相互に協力しながら目的を達成していく。それが“令和の戦い方”なんじゃないですかね。

今後の展開や将来の夢について語る「Change of Perspective」神谷航平さん

—— 最後に、今後の展開や神谷さん自身の将来の夢についても教えてください。

僕は学校生活には一定のルールが必要だと思っていますし、校則をなくしたいわけではないんです。時代にあわせた校則のアップデートが健全に議論できる状態にしたい。ただ、その視点で各地の校則を見てみると、多くの校則で“校則を変えるプロセス”がルールとして明記されていないことに気づきました。これって、極めて曖昧な判断基準でルールが運用されている状態だと言えますよね。そこに多くの人が感じる校則の理不尽さがあるのかもしれません。だからこそ、校則を変える手順やプロセスを明記するような進化が必要ですし、そうした先進的な校則を私たちのデータベースを通して全国に広げられたら嬉しいです。

一方で、僕自身がこの先も校則に関する活動を続けていくかは分かりません。僕も4月からは受験生ですし、来春には高校を卒業します。今のところ社会学や教育学には興味がありますが、自分がチャレンジする事柄をまだまだ限定したくはない。だからこそ、この活動を持続的なものにするために、「Change of Perspective」の法人化を目指しています。高校在学中にとはいかなくても、そう遠くない将来に活動のバトンを次の世代に渡し、個人に依存するのではなくみんなで取り組みをシェアしていける状態に移行させることも、今後の挑戦の一つです。

学生団体「Change of Perspective」を立ち上げた神谷航平さん

プロフィール/敬称略

※プロフィールは取材当時のものです

神谷航平(かみや・こうへい)

群馬県の公立校に通う高校2年生(2023年1月現在)。中学時代に自身が通う学校の校則に違和感を覚えて、市内の他中学校の校則を調べた経験から、高校進学後は全国の高校の校則をWebサイトで公開する活動をスタート。SNSでメンバーを集め、学生団体「Change of Perspective」を立ち上げた。

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