2020年 キャリアトピック「ふるさと副業」 地方企業と都市部人材との新たな共創のカタチ

株式会社リクルートキャリア(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:小林 大三)は、2020年に注目されるであろう新しい働き方を「ふるさと副業」と称し、その働き方が訪れる背景と具体的な事例についてレポートいたしましたので、ご報告申し上げます。



「ふるさと副業」とは?

本業だけでは得られない挑戦機会を望む働き手と、事業創造のヒントや知見の不足に悩む地方企業との新たなマッチングのカタチ

「地元やふるさとの活性に貢献したい!」
「自身の貢献をダイレクトに感じたい!」
「将来的なキャリア自立の備えをしたい!」
「培った経験やスキルで腕試しをしたい!」

都心や大企業の本業だけでは得られない、長期スパンでの挑戦機会や志を共にする仲間を望む働き手が、働き方改革、副業解禁、テレワーク普及の後押しによって、地方の中小事業社の事業変革という仕事を、月数日もしくは週1回のペースで関わり合う。そんな新しい働き方「ふるさと副業」が始まろうとしています。

働く個人の志向の変化

「働き方改革」に伴い、余剰時間を自己啓発と副業に使う意向もみられる

(左図出典)
総務省統計局 「労働力調査2019年11月」の非農林業従事者の平均月間就業時間から算出
※年間総労働時間の算出にあたっては平均月間就業時間を12倍し、小数点以下第1位を表示。

(右図出典)
国土交通省 「平成29年度国土交通白書」内のライフスタイルに対する国民の意識と求められるすがたより算出

まず、働く個人の志向の変化についてです。2015年頃から政府の主導により段階的に推し進められてきた「働き方改革」の影響により、働き手の労働時間は年々減少する傾向にあり、総務省の労働力調査では、2013年から2018年の間に年間労働時間が約60時間減少しています。

そして、国土交通省の調べによる余暇の使い方の現状と動向からは、自己啓発や副業を今後充実させたい余暇として選択している傾向があることが分かります。働き方改革に伴い生まれた余剰時間の使い方の選択肢に、自己啓発や副業が入ってくるような変化が見て取れます。

年収や規模よりも、貢献感・成長・やりがいを志向

(出典) 株式会社リクルートキャリア 「リクルートエージェント」登録者向けアンケート調査 2017年調べ

また、リクルートキャリアが行った調査から、入社選びの決め手となる上位3項目は、「経験やスキルが活かせる」「やりがいのある仕事に携われる」「新しいキャリアを身につけられる、成長が期待できる」であり、「年収があがる」「会社・団体の規模が大きく、知名度がある」の項目よりも上位にランクインしました。

働く個人が、年収や規模よりも、仕事を通じて得られる貢献感、成長感、やりがいを求めるというインサイトが見て取れます。

地方企業と中小企業の人材ニーズの現状

地方の企業では人材不足が続いている。中小企業では、特に成長・拡大フェーズ期において中核人材のニーズが逼迫している。

(出典) 株式会社リクルート リクルートワークス研究所 「UIターン人材活躍のセオリー」(2016)より作成

(出典) 中小企業庁 2017年度版「中小企業白書」より作成

次に、リクルートワークス研究所が実施した中途採用実態調査の結果によると「採用時に人を集めにくかった」と回答した企業の割合は関東が32.7%であったのに対して、他エリアでは軒並み40%を超えており、依然として地方の企業での人材不足は解消されていないことがわかります。加えて、中小企業白書によると「事業展開の方針別にみた中核人材の過不足状況」において、特に事業展開の方針が「成長・拡大」の企業で中核人材の不足が顕著であることもわかります。

ふるさと副業の兆し

柔軟な働き方の施策として、テレワーク、兼業・副業容認が加速している

(出典) 株式会社リクルートキャリア 「企業の採用戦略策定に関与している方向けアンケート調査 2018年調べ」より作成


ここまでをまとめると、働く個人には「貢献感・成長・やりがいを重視する」「働き方改革の影響で生まれた余剰時間が副業や自己啓発に向かう」という志向性を見て取ることができました。そして、企業には「地方企業では人材が逼迫」「中小企業では特に中核人材の枯渇」という課題感を見て取ることができました。ここからは、この両者が「ふるさと副業」というかたちでマッチングをする兆しについてレポートします。

1つめは、テレワークと兼業・副業の容認です。リクルートキャリアが人事担当者向けに行った「中途採用の成功を目的として新たに導入したい取組み」について調査を行ったところ、計16項目のうち「テレワークなど働き方の柔軟性向上」「兼業・副業容認など人事制度改革」が上位2項目にランクインしました。

地方での「月1~3回」程度の副業に、約半数の求職者が興味がありと回答

(出典) 日本人材機構 「首都圏高度人材意識調査」より加工

次に、求職者の「地方での副業に対する意識変化」です。日本人材機構が1,650人に行った「地方企業での副業意向調査」によると、約51%の方が1ヶ月に1~3日であれば地方の副業に「興味がある」「やや興味がある」と回答していることがわかりました。

地方の副業求人数は、ここ2年間で約13倍に伸長

(左図出典)
株式会社リクルート 『副業人材向けジョブマッチングサービス BizGrowth』 累計掲載案件数 2019年10月時点
※2018年10月の首都圏と地方を合わせた累計副業求人数を100とした場合の推移

(右図出典)
株式会社リクルートキャリア 『サンカク ふるさと副業イベント』への累計参加希望者数推移 2019年11月時点
※2018年9月時点での参加者数を100とした場合の推移


企業においても、リクルートの副業マッチングサービス『BizGrowth』の累計掲載案件数は、2018年から2019年にかけて約13倍に伸長していることがわかりました。地方の副業求人を働き手と結ぶサービスとして、『BizGrowth』以外にも『ふるさと兼業』『SkillShift』『YOSOMON!』『ふるさと副業会議(サンカク)』などが登場し始めています。
企業の副業件数の伸びに呼応してか、リクルートキャリアの社会人インターンシップサービス『サンカク』の中で募集した「地方での副業イベント」の累計参加希望者数は、2018年9月時点での参加希望者数と比較して524%に増加しています。

週末の地方での兼業・副業による「関係人口」の創出を政府が後押し

09_第21回まち・ひと・しごと創生会議.jpg

(出典)第21回まち・ひと・しごと創生会議での安倍総理発言より

2020年からスタートする第2期まち・ひと・しごと創生総合戦略を見据えた、第21回まち・ひと・しごと創生会議の中で、安倍総理が以下のように述べており、政府からの後押しも見て取れます。

  • 第2期では、関係人口の創出・拡大を強力に推し進めていく。
  • 都市に住む皆さんの地方での副業・兼業を促す新たな制度をスタートする。

まとめ

地方企業と都市部人材の相互成長を実現する、新たなマッチングのカタチ 「ふるさと副業」

ここまでの話をまとめると、まず地方の企業においては「新たな事業創造のヒントとなる知見やノウハウの不足」が課題でしたが、1)「関係人口という新たな関わり方の登場、2)副業向けの仕事分解の技術ノウハウが蓄積し、関連するサービスが増えたこと、が相まって、地方企業の副業求人が生まれ始めました。次に、都市部や大企業で働く個人においては「経営視点の身につく挑戦的なテーマの経験」という課題に対して、1)労働時間の減少、2)本業側での副業/兼業の容認、3)テレワークを可能にするツールや環境の整備、が進んだことにより、地方にある副業に従事する意向が高まりました。

これらを政府が後押しすることにより、2020年に「ふるさと副業」という新しいマッチングの働き方がトピックになるのではと考えています。

ここからは、いくつか事例を紹介します。

事例1 「枡」を活用した新規事業の創出

建材業界への新規参入に向けたブランディングプロジェクト



  • 個人の想い
    都内でブランドコンサルティングに携わる中澤千咲さんは、将来的に出身地への恩返しに繋がる経験を探していました。

  • 企業の想い
    岐阜県大垣市にある有限会社大橋量器は、伝統産業である「枡」を活用した新規事業の創出において、新たなブランディング強化ができる知恵やノウハウ探していました。

  • 共創のカタチ
    「ふるさと兼業(G-net)」を通じて出会った両者は、月に数回のWebミーティングを通じて、建設業界への新規参入に向けたブランディングプロジェクトを力強く推進しました。

事例2 伝統工芸品「博多織」の未来と世界への伝達

銀座店のオペレーション改善と在庫の管理体制強化プロジェクト



  • 個人の想い
    都内で独立系スタートアップの事業開発に携わる大石教博さんは、地元福岡への恩返しに繋がる経験を探していました。

  • 企業の想い
    福岡県福那珂川市にある株式会社岡野は、伝統産業である「博多織」ルーツとする、創業1897年のきもの制作所です。その岡野は「博多織」の魅力を世界へ伝達するための知恵やノウハウ探していました。

  • 共創のカタチ
    「ふるさと副業会議(サンカク)」を通じて出会った大石さんを含む3名の参画者は、月に数回のWebミーティングを通じて、都内店舗のオペレーション改善と在庫の管理体制強化プロジェクトを力強く推進しました。

事例3 外国人旅行者向け宿泊プラン作り

海外からのインバウンド顧客の宿泊体験を高めるための宿泊プラン制作プロジェクト

  • 個人の想い
    米国のIT企業でプロジェクトマネージャーをされている中村美穂さんは、欧米でのグローバルなメンバーとのビジネス経験を活かした、海外に住みながら母国の恩返しにつながる経験を探していました。

  • 企業の想い
    石川県能登半島の和倉温泉でホテル業を営むホテル海望は、拡大する外国人旅行者を魅了する宿泊プラン作りのための知恵やリアルな声を探していました。

  • 共創のカタチ
    「ふるさと兼業(NPO法人G-net/株式会社御祓川)」を通じて出会った両者は、Web会議やメールを通したミーティング、中村さんが帰国時の3日間の滞在で感じた強みや改善点をレポートするというカタチで共創しました。

事例4 コワーキングスペース「いちぼし堂」の事業開発

次代を担う地域活性化のための新規事業立ち上げプロジェクト



  • 個人の想い
    現在は個人事業主としてM&Aアドバイザリなどに携わる土井宏哲さんは、その当時本業で携わっていた事業承継のスキルや経験の幅を広げたいと考えていました。

  • 企業の想い
    静岡県にあるいちぼし堂は、地域の方々と一緒に、はたらくをともに育むコワーキングスペースの立ち上げに求められる知恵やノウハウ探していました。

  • 共創のカタチ
    過去に仕事上で関わりのあった両者は、月に数回のWebや対面でのミーティングを通じて、時代を担う地域活性化のための新規事業立ち上げプロジェクトを力強く推進しました。

事例5 遠州地域の独自のイノベーション創出システムの創造

域内ブランディング強化とマーケティング支援プロジェクト



  • 個人の想い
    静岡県浜松市でフリーでアナウンサーをされている大久保結奈さんとWebディレクターをされている加藤ゆみさんは、浜松での持続的で新しいコネクションが得られる経験を探していました。

  • 企業の想い
    同じく静岡県浜松市にあるTUMUGUは、遠州地域の独自のイノベーション創出システムの創造を実現する事業の立ち上げに必要な知恵やノウハウを探していました。

  • 共創のカタチ
    本業やコワーキングスペースで知り合った両者は、月に数回の対面でのミーティングを通じて、域内ブランディング強化とマーケティング支援プロジェクトを力強く推進しました。

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