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"障がい"を忘れるアツさに価値がある!VR動画でパラスポーツを体験

2020年09月15日

"障がい"を忘れるアツさに価値がある!動画で障がい者スポーツを体験

株式会社リクルート
サステナビリティ推進室
細貝 智博

株式会社リクルート所属
株式会社リクルートオフィスサポート勤務
アスリート支援グループ
車いすバスケットボール選手
山口 健二

障がい者理解において、重要になるもののひとつは「想像力」と言っていいだろう。しかし、健常者が、たとえば動く手を動かないように、ある足をないように想像することはむずかしい。ならば、そのままの視覚的に体験を共有できるのであれば--。障がい者理解を目的とした、リクルートのある取り組みを紹介する。

ストイックな性格がアスリート支援制度とマッチした

「トラベリングとか、ゴールリングの高さとか、車いすバスケットボールのルールはバスケットボールと変わらないんです。車いすがぶつかり合うので『想像よりずっと派手』と言われますが、実はすごく緻密な面もあって、いすがほんの1cm前後でも変わると勝敗が決まる。それをどう埋めるかが勝負の競技です」

そう語るのは、車いすバスケットボール選手の山口さん。「ルールが変わらない」とは驚いた。試合では、片輪を浮かせてシュートしたり、巧みにタイヤを操り相手をかわす。バスケットボールから何か引いたどころか、競技用車いすというマシンの要素が加わって、見る側にも楽しむ要素が多いと感じる。

山口さんは、リクルートオフィスサポートに勤める社員。リクルートのアスリート支援制度を活用し、週5日のうち、火木の2日を時短勤務に切り替えて、競技活動にあてる。競技活動の拠点は千葉にあるため、制度を活用する前は満足に練習ができなかったという。

「以前はフルタイム勤務で、残業もあったので、チーム練習に向かっても30分しか参加できない状態でした。2015年からは日本代表合宿の招集を受けたため、合宿のたびに有給を使って参加していたのですが、それもなくなってしまって。それで翌年から制度の活用をはじめたんです」

それからは、合宿はもちろん、チーム練習にもはじめから参加でき、ウェイトトレーニングの時間も確保できるようになったという。しかし、彼にとって起こった変化は競技活動だけではなかった。

「以前は、競技時間が取れないストレスが仕事にも影響して、『どっちも中途半端だな』と感じていました。それが解消したことで、仕事にも良い影響があったんです」

一日24時間が増えた訳でもない。使う配分が変わっただけ、しかし、それこそが彼にとって重要だった。少ない時間での両立は工夫を生み、かえって仕事のパフォーマンスも高まったという。それは「中途半端を許さない」という、山口さんのストイックな性格があってのものだろう。

山口 健二

アスリート、会社員、体験会の出演者、3つの顔が引き上げ合う。

その性格はアスリートとしての成長にもあらわれている。今でこそ日本代表強化選手にも選ばれたことのある山口さんだが、彼は障がいを持つ以前、バスケットボールどころかスポーツ経験はほとんどなかったという。

競技の存在を知ったのは19歳のとき、バイク事故で右足を失って間もなくのことだった。

「入院中、車いすバスケットボールをやっているという人が突然見舞いに来て、チームに誘われたんです。でも当時は自分の状況を受け入れられていなくて、『興味ねぇよ』って感じで、断った。しばらくしてから社会復帰したけど、胸に穴があいたような感覚がつづいていたんですね」

義足をつけたことで以前と環境は違えど、日常生活は送れるようになった。しかし、何かが足りない。「右足がなくなった代わりに、できることはないのかな」、そんな思いもあったという。そこでふと、入院中に誘われた車いすバスケットボールの話を思い出し、試合を見に行った。

「もう、衝撃でした。車いすの固定概念を覆された。めちゃくちゃ速いし、ぶつかりまくってこけてるし、選手同士で喧嘩みたいなことも起こってる。それを見て思ったんです。これをやろう、これをやるために俺は障がいを持ったんだって」

車いすバスケットボールは団体競技で、チーム所属がほぼ前提。そう考えてみれば、山口さんの入院後すぐにチームから誘いに来たというのも納得だ。そこでいざ入ってみれば、サッカーや陸上など、プロやセミプロ級のスポーツ経験者の顔ぶればかり。

しかし、「同じ年代には負けない」「同じ障がいには負けない」、そんな持ち前の負けん気とストイックさで毎日何百本とシュートを打つなど練習に明け暮れた。スポーツ経験はないが、高校時代は学校まで自転車通学往復4時間半、そこで鍛えられた心肺能力と精神力も伊達じゃない。

山口さんはアスリート支援制度活用以降、「3つの顔ができた」という。アスリートとして、会社員として。そしてもうひとつは、リクルートが定期的に開催する、パラスポーツ体験を通した障がい者理解をテーマとする車いすバスケ体験会などのイベントでの、出演者として。

「3つとも違うけど根っこは同じ。ひとつが成長すると、ほかのふたつも引っ張られる。すべてにおいて良い影響を与えてくれていると思っています」

細貝 智博

イベントに参加できない人も、パラスポーツをアスリート視点で疑似体験できないか

「より多くの人にパラスポーツを知って、興味を持ってもらいたい」・・・

リクルートではパラリング(「パラダイムシフト(考え方の変化)+「リング(輪)」の造語)と掲げ、障がいの有無に関わらずそれぞれが活躍できる社会の実現を目指す活動に取り組む。これは以前から掲げる「一人ひとりが輝く豊かな世界の実現を目指す」とも合致する。

そんなパラリングを実施する部署が、サステナビリティ推進室であり、国際スポーツ大会競技である車いすバスケットボールの体験会などのイベントはその一環とも言えるが、日々のイベント開催にあたってある課題を抱えていた。同部署所属の細貝さんはこう話す。

「これまでイベントを約30回開催し、5500人以上の方が参加してきました。しかし、場所や、車いすなどの器具の確保、練習や仕事を抱える所属選手とのスケジュール調整…。すべてが合わないとできないため、回数はどうしても制限される状況だったんです」

参加者の顔はいきいきとし、パラスポーツを通して障がい者に対しての意識の変化を感じられることはうれしい。しかし一方で開催にはハードルも高く、そして何よりも「イベントに参加できない人もふくめて広く伝える」という点ではもどかしさもあった。決して置き換えられるものではないが、物理的な制約を取り払う形でパラスポーツの疑似体験の場をつくれないか。そこで行きついた答えが、360度の空間を見渡せるパラスポーツのVR動画だった。

アスリート視点でパラスポーツを撮影し、一般に公開。いつでも、誰でも動画にアクセスでき、スマホの上下左右の向きと動画の視点が連動することによって没入感が生まれ、ユーザー自身が疑似体験できる。

現在、制作した6種類の動画にはそれぞれ、リクルートに所属する4人を含むパラアスリートたちに協力してもらった。車いすバスケットボールに加え、車いすテニス、シッティングバレーボール、車いすフェンシング、パラローイング(ボート)、パラ馬術を制作。アスリートのインタビューも交え、対象は健常者の方に加えて、障がいを持つ方にもパラスポーツの魅力を体感・理解して貰えることを意識した動画に仕上げられている。

撮影現場では、アスリートからも積極的にアイデアが出たりとまさに共同制作。車いすバスケットボールでは、さきほどの山口さんも出演するが、障がいの程度によって選手の身体の可動域が異なるこの競技では、上体が動かせられる山口さんの頭上にカメラを取り付けると大きくブレてしまう。そこでその役割は相手の、同じくリクルートに所属する村上慶太さんに任せ、山口さんには車いすにカメラを取り付けて機敏に動いてもらったりと、競技やアスリートの特徴に合わせた撮影を行うことで臨場感と没入感を両立させた。「車いすバスケットボールならではの、ダイナミックさだけでなく、かなり緻密なスポーツでもあることが伝わると嬉しいです」と山口さんは語る。

パラスポーツVR動画

パラスポーツVR動画

配慮は必要だけど、遠慮は要らない。

冒頭にある「片輪を浮かせてシュートしたり」とは、まさしくこの動画で見たものだ。山口さんが初めて試合を見たとき、「車いすの固定概念を覆された」と話した。体験会への参加や試合観戦など、生の体験には及ばないであろうが、筆者もまた動画を通じて固定概念は覆された。

車いすバスケットボールだけじゃない。車いすテニスではカメラのすぐそばをビュッとボールが抜ける様だったり、フェンシングで剣先が目の前をすり抜けてカンカンと音を立ててぶつかり合う様だったり、臨場感はたっぷり。視聴中、障がいという言葉が頭の中から消える感覚。「アスリートってすごいな」というシンプルな尊敬が生まれる。この感情をどう語るか探していると、細貝さんが話す言葉がうまくはまった。

「障がい者理解において腹落ちした言葉があって、『配慮は必要だけど遠慮は要らない』というもの。障がいを抱えるとできないことは確かにある。ただ、きっとできないだろうと勝手に決めて、遠慮して声をかけないというのは違います。配慮は必要、だけど飲みに行こう、遊びに行こうと思えば誘えばいいし、一緒に仕事をすることもなんでもそう。 障がいの有無に関わらずそれぞれが活躍している人、そういう考え方が当たり前になればいいなと思っています」

障がいに関わらず活躍している。パラスポーツのVR動画で伝わるメッセージの本質は、それかもしれない。

※掲載記事内容は、2020年8月時点のものです。


パラリングでは、パラスポーツの魅力を体感・理解していただくことを目的とした動画を無償提供しています。
公開しているYouTube動画へアクセスいただき、どなたでもご活用いただけます。
紙製VRスコープや動画アクセスへの二次元コード一覧チラシの提供も行っております。
ご興味のあるかたは、下記ご案内・活用事例をご確認ください。

パラスポーツVRコンテンツ活用のご案内

パラスポーツVRコンテンツ活用事例

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『考え方を変える=パラダイムシフト』で『つながりの輪を広げる』パラリングは、これからも障がい者理解のための プログラムを通して誰もが自分らしく生きる社会づくりに貢献します。

<お問い合わせ先>
パラリング事務局よりご連絡させていただきます。

パラリングとは?

「パラリング」とは「パラダイムシフト(考え方の変化)」と「リング(輪)」の造語で、障がい者理解を広めていくリクルートの活動です。リクルートは障がいの有無に関わらずそれぞれが活躍できる社会の実現を目指して活動をしています。

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