個性が反映された「命が入った棚」を生み出せ。ブックオフは個店を磨く

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文:葛原 信太郎 写真:須古 恵(写真は左から廣瀬真文さん、野村進一さん)

個性を引き出す、具体策はない——スタッフの個性が存分に発揮され、地域性に基づく多様な個店が生まれる。ブックオフが力を入れる「個店を磨く」戦略とは。

フロアを埋め尽くすさまざまな本やCD、DVD。立ち読みが許され、中古商品だから安く購入できる。ブックオフの店舗は、圧倒的な量のまだ見ぬ世界にアクセスできる場所であり、今で言うインターネットのような存在だった。

しかし、時代は移り変わり、情報へのアクセスもモノの売り買いもインターネットでできるようになった。要因はこれだけはないだろうが、ブックオフは2016年3月期に上場以来はじめての営業赤字に陥り、3期連続で最終赤字に苦しんでいたという。

しかし今また、業績を取り戻しつつある。それを支えるのが、中期経営方針にも掲げている「個店を磨く」というキーワードだ。個店、つまり“店舗一つひとつの個性”にスポットライトを当て、各々特性のある店舗を作るというのだ。

画一化・効率化がよしとされるチェーン店の中、個々の特性を活かすために同社はどのような戦略を取っているのか。執行役員 兼 東京支社長の廣瀬真文さんとグループ人財開発部長の野村進一さんに話を聞いた。

個店の可能性は、個店が教えてくれた

── 御社では、事業計画の柱のひとつに「個店を磨く」をあげています。この言葉を掲げるようになったのは、いつごろからなのでしょうか。

廣瀬 2017年です。それ以前は「商材変革」と「商圏変革」をテーマとして掲げていました。「ブックオフと言えば本」というイメージを変えるために家電、アパレル、ホビーなどの商材を伸ばす。リアル店舗だけでなくオンラインに力を注ぐための、インターネットオークションサービスなどにも出品する。こういった施策を全国で一斉に実施したところ、残念ながら業績が落ちてしまいました。

その原因は、店舗の条件や強みが一つひとつ違うのに、同じ施策を一律で適用したから。店舗の場所により、店舗の特性はまったく異なりますから。ただ、この施策によって飛び抜けて業績があがった店舗もあったのです。

── 好成績を出せたのはなぜでしょうか。

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執行役員 兼 東京支社長の廣瀬真文さん

廣瀬 例えばオークションに出品する際、写真の角度や背景を熟考し、気の利いた出品コメントを書ける店舗です。商品をより魅力的に見せることに長けていた。それがお客様に支持されて、売上が跳ね上がっていました。本部から細かい指示をしたわけではなく、現場のスタッフさんが自発的に考えてくれていたんです。

野村 当社には地域子会社がいくつかあり、そのなかでもとくに業績のよいのは、店舗の地域に目を向けて、地域の人に何を必要とするか考え抜いているお店でした。いい意味で、本部のことはあまり気にしてないんですよ(笑)。でもそれがよかったんだと思います。

廣瀬 トップダウンで指示を出すよりも、現場スタッフが「どうしたらお客様が喜んでくれるか」を考えて、それを素直に実行してくれたほうが売上に結びついていた。このとき「やはり個店の力が大切なのだ」ということが社内にも再認識されました。

地域性が個店のアイデンティティになる

── 「再認識」というと、それ以前も個店に注目したときがあったのでしょうか。

廣瀬 私が入社した2000年頃は、本当に個店それぞれといった雰囲気でした。入社後ほどなく店舗に配属されるのですが、そこには初歩の基本的なマニュアルのみしか存在しない。いきなり海に放り込まれて「泳いでこい!」みたいな感覚です(笑)。現場スタッフとともに、自分たちで考えるしかない。そのなかでうまくいった施策があれば、本部を通じて他の店舗にも共有される。昔から「全店舗、一律で何かする」ということは極端に少なかったように思います。

野村 その頃はどちらかというと「店長」の趣味や志向がお店の個性でした。それはそれでいいのですが、今はもう少し地域に合った店舗をつくろうという方向性です。かつ、それを現場スタッフとともにやる。この点は昔との違いでしょうか。

── 地域によってそんなにも店舗の違いが生まれるものなのでしょうか。

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グループ人財開発部長の野村進一さん

野村 かなり違います。私は昔、三軒茶屋の店長を務めていました。そこでは、飲食店や美容室向けの専門誌が多く並んでいました。他の店ではあまり見たことがありませんでしたし、店頭に置いても売れ筋にはならなかったでしょう。でも三軒茶屋店では売れるんです。地域性を理解せずに店長の好き嫌いで「飲食店に興味ないから、安くしちゃう」なんてことをやっていたら、店舗の業績はあがりません。

── 扱う商品に違いがあるということは、買い取りに集まる商品に地域性が現れるんですね。

廣瀬 私が関西のお店に配属になったときに驚いたのは、宝塚関連の本がたくさん入ってくることです。東京にいると滅多にないので、大切に売るのですが、関西にいるとどんどん買い取りができる店舗もある。地域によって、流行りも違います。東京では流行り過ぎてだぶついている本も、他の地域では売れたりすることもあるんですよ。

── 「個店」にフォーカスすると決めて、どんな施策に取り組んだのでしょうか。

廣瀬 エリアマネージャーと店長が協力し、全店舗で「店舗方針書」をつくりました。店舗の地域性を細かく分析し、スローガンを定めたのです。「このお店はどんなお店で、どういうお客さんが来てくれていて、どんなお店を目指すのか」を、スタッフルームに貼るなどして周知し、お店の強みや特徴を理解してもらいました。

内容も本当に店舗によって千差万別。大真面目なものも、くすっと笑ってしまうようなものも、いろいろです。「一世紀付き合います。全世代ウェルカム」といったユニークなものもありましたね。

── 「店舗方針書」はなぜスタートしたのでしょうか。

廣瀬 もともとは、方針書までしっかりしたものではなく、全店ではないですが、こういう店舗にしたい!というものは店舗ごとに存在していました。

店長の人事異動が多くある中、店舗の方針・方向性や、せっかくスタッフさんが工夫して結果を出していた施策が、人事異動のたびに精査されていては無駄が大きい。そこで、店の特徴をまとめて、都度更新しようとなった。それが「方針書」です。このアイデアはおもしろいので、全店舗で実施することにしました。会社として「個店を大事にするんだ」という思いを全店舗に伝えるという意味でも、価値があったと考えています。

スタッフの個性を活かせば、地域を飛び越え話題になる

── 御社のオウンドメディアでは、プラモデルが大好きな店長さんや、国内の大規模ロックフェスティバルにも出演した現役バンドマン店長さんなど、個性豊かなスタッフに着目しています。個店と同様、個性にもフォーカスされているように感じますが、その狙いを教えていただけますか。

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野村 店舗ごとに、求められる人材が異なるからです。当社の店舗には駅前の店もあれば、ロードサイドにある店もある。大型店舗もあれば、小型店舗もあります。それぞれに店舗によって、どんな人が活躍できるかも変わってくるんです。

大型店舗はお客様が多くて出入りが激しく忙しいので、体力的にも精神的にもタフさが必要です。ロードサイドのお店では、パート・アルバイトに年配の方も多く、お客様もリピーターが多いので、ここでは丁寧なコミュニケーションを取れる人が好ましいでしょう。こうした店舗の特徴と、個々の特性・個性を配慮しつつ、社員の成長も促せるよう人員配置もアレンジしています。

廣瀬 当社では社員に対しては、一律で「こうなってほしい」といったイメージはあまりありません。人の強みを活かすマネジメントを大切にする文化があるんです。わたしもそうやって育ててもらったし、なるべくそう育ててきたつもりです。

今でもよく覚えているのは、ある店舗のCDフロアは売上がとても高かったことです。その地域だけでなく、遠くからもお客様が来るようになったほどでした。その理由は、売場を担当しているスタッフさんが自他ともに認める音楽好きで、売場をしっかりつくり込んでいたから。店長もそこを理解してCD売場を任せていた結果でした。これも、そのスタッフさんの個性があったからこそ。こういった事例は、各地でよく目にします。

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野村 経営のセオリーどおりにいけば、事業があり、事業に沿ったお店があり、お店にそった人材を採用しようという順番になるでしょう。それを、私たちは逆から考えているのかもしれません。まず人がいて、どんな店を経験してもらおうかと考える。こういったことを続けた結果、会社として個性を活かす文化が根付いてきたように思います。

廣瀬 個店をつくるのは人。人があってのお店であり、人がいなければお店はただの入れものにすぎませんから。

お客様を誰よりも理解しているのは現場スタッフ

── とはいえ、それぞれに合わせたマネジメントは力がかかります。個性を大切にするためにとった施策はありますか。

野村 「具体的にない」ということ自体が、ある種の施策でもあります。当社では、型にはめていくような研修や、点数性の昇進試験はありません。統括エリアマネージャークラスのメンバーを見ても、いろんな人がいます。守りに強い、攻めに強い、数字に強い、人情にあつい。いろんな人がいて、それぞれに強みを合わせることではじめて弱点がなくなるようなイメージです。

廣瀬 評価制度も減点方式ではありません。弱点があったとしても、飛び抜けて良い点があればそれで評価します。

野村 でも過去には型にはめようとした時期もあったんですよ。結局はうまく機能しなかったんですが。

── なぜうまく機能しなかったのでしょうか。

野村 わたしたちのビジネスがそもそも「一律」という形に向いていないのだと思います。ご存知の通り、扱っている商品が多種多様で一律ではありませんから。当社は、同じものをどの場所でも同じ値段で売るようなビジネスではありません。なにをいくらで売るかも常に変化する。だからこそ、柔軟であることが大切なんです。

廣瀬 社外のマネジメント研修を受けたときはびっくりしました。世間ではこんなにきっちりしているのか、と(笑)。良い悪いではなく、わたしたちに合うスタイルではないのだと思います。

── 御社ではそれぞれの判断が尊重されているということでしょうか。

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廣瀬 そうですね。特に現場の判断は何よりも大切にします。お客様に一番近いところで働いていますから、当然お客様の気持ちにも近い。わたしが店長時代にも、自分なら絶対に選ばないようなジャンルを、スタッフさんが一番目立つ棚に並べたことがありました。おそらく売れないだろうと思ったのですが、実際は真っ先に売れていったんです。

── 現場の感覚を信じることで売上にもつながるんですね。

廣瀬 現場スタッフの自主的な工夫引き出し、許容できる店舗は業績も良いんですよ。逆に日頃からあれこれと指示して、アルバイトさんの判断を聞く耳がない店長がいたら、誰も自ら「こんな工夫をしたい」という発想を持つこともなくなってしまいます。すると、お客様の気持ちに沿った売り場にもなりません。

また別の事例ですが、書評がとてもうまいスタッフさんがいました。その方が書評を書いた本は、どんどん売れていくんです。でもこちらから「これについての書評を買いて」と依頼しても売れなかったんです。自主的に書いたのか、書かされたのか、お客様に伝わるんでしょうね。

どこまで手を出さずに任せられるか。「この棚はあなたに任せるから好きにしてよい」と言えるか。スタッフさんが本当に力を込めてつくった棚には「命」が入ります。

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写真提供:ブックオフ

── しかし「任せる」ことにはリスクも伴いますよね。

野村 ダメなことはダメだと伝えますが、前提として善意に基づいたマネジメントをとっていると思います。だから、任せる前には「あなたを信頼しているんだよ」ときちんと伝えます。

廣瀬 渋谷にある古着専門店舗「BINGO渋谷モディ店」のInstagramも良い例ですね。そこは、更新作業を現場スタッフ主導でやっています。SNSは事故が起こりやすいですし、マネジメントサイドからすれば、「やりたい」と言われると多少身構えてしまう。でも、信頼して任せてみると、やっぱりスタッフさんは上手ですね。

野村 多くの店舗で、社員は1〜2人しかいません。となると、現場スタッフも含めて、みんなで一緒に店舗つくっていかないとまわらない。良い店舗は店長があれこれと指示を出さずとも、勝手に運営されていきます(笑)。店長や本部にとって大事なのは、現場スタッフにとっていい刺激となり、適宜課題をみつけて、一緒に考える姿勢。そしてなにより、いろんなことに挑戦しながら、許容する力を鍛えていくのが大事なのだと思います。その積み重ねが、個店を磨くことにつながっているんです。

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プロフィール/敬称略

※プロフィールは取材当時のものです

廣瀬真文(ひろせ・まさふみ)

執行役員 兼 東京支社長。2002年入社。店長・エリアマネージャー・統括エリアマネージャー・西日本営業部長を経て、2019年から東京営業部長(2021年6月組織名変更により東京支社長)。

野村進一(のむら・しんいち)

グループ人材開発部長。1995年早稲田大学理工学部卒業。車関連のエンジニア職を経て、2000年ブックオフコーポレーション株式会社に入社。企業戦略担当として全社施策の推進や、現場店長の経験など、上場前後の急成長期に幅広い経験を積む。その後、直営事業統括マネージャーを経て2009年に人事部門へ就任。

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