Googleデベロッパー アドボケイト 松内良介さんのリクルート考
“コンピテンシー”と“知のつながり”で世界を牽引するエンジニアリング力を
リクルートグループは社会からどう見えているのか。私たちへの期待や要望をありのままに語っていただきました。
リクルートグループ報『かもめ』2021年4・5月号からの転載記事です
常にカスタマーとクライアント 双方への価値提供が最優先
リクルートとの出会いは、2013年頃。Googleでデベロッパー アドボケイトとして、企業に対してAndroidアプリの開発技術支援を担当し始めた時期でした。
私の所属するGoogleのデベロッパーリレーションズ部門は、主に社外・社内の開発者に対する最新技術情報の周知や開発支援を行いながら、開発者からのフィードバックに基づいて開発者向けAPIやツールの改善をすることを目的に活動しているチームのひとつです。
当時はまだアプリ開発の方法論も定まっていなかった状況のなか、リクルートでは、既に『じゃらん』『SUUMO』などいくつもの有力アプリを展開していました。そこで、Google Playを通じてユーザーにより良いサービス提供ができるよう、技術改善などについてリクルートの皆さんと話し合いを始めていきました。
ディスカッションのなかで、皆さんの当事者意識に圧倒されることがしばしばありました。それは、口癖ともいえるものかと思うのですが、エンジニアでもビジネス側の担当者でも、議論のなかでとにかく「カスタマーとクライアント」という言葉が頻出するのです。
それまでさまざまなIT関連の企業とディスカッションをしていましたが、ともすると、「話題になっている新しい技術への興味関心」が会話の中心になることが多くなりがちです。しかしリクルートの皆さんは、常にカスタマー、クライアント双方に価値を提供することを最優先で意識し、技術的な判断や意思決定をしていく。その姿勢はとても印象的でした。
事業の進化を支える基盤にも光を当てる絶妙な「バランス力」
ENGINE FORUM(リクルートグループ横断でナレッジのシェアを行う社内イベント「FORUM」のテクノロジー部門)社外審議員も、2015年から6年目となり、これまでさまざまな技術アイデアの評価の機会をいただきました。審議員をお引き受けした当時は、モバイルアプリ技術に関する案件も多かったのですが、その後は機械学習、顧客へのデータ活用支援など、案件のトレンドはめまぐるしく変化していきます。一方、ぶれることなく筋の通ったリクルートとしての評価基準に、非常に共感しています。それはいわば「バランス力」です。
新技術や新機能開発だけでなく、既存インフラの改善やメンテナンスなどのなかで生まれる技術進化や革新にもバランス良く光を当てる。いわゆる、その時々に注目される新技術や卓越したカリスマ個人由来の技術力に依存せず、「組織のコンピテンシー」としてシステムに昇華していこうとするスタンスは、エンジニアリングの現場に必要なことを深く理解していると感じています。
世の中では「イノベーション」に光が当たることが多いのですが、それはエンジニアリングのほんの一部でしかありません。イノベーションの裏側で圧倒的な作業量で行われている既存システムのメンテナンスや磨きこみなど、普段は光の当たらない仕事にこそ、社会が前に進むための価値が内在しています。
つまり、イノベーションは「アウトプット」、コンピテンシーはシステムに「内在する力」。まさに、組織力を支えるコア。改善、メンテナンス、磨きこみといったものは、リクルートの皆さんが大切にしている「カスタマーとクライアントに価値提供をしていく」ために必要なキーワードなのだと思います。
ブランドを創るエンジニアリング世界にも貢献を
現在、日本人エンジニアの課題として感じていることは、グローバルのオープンソースプロジェクトなどに貢献する人が、まだまだ少ないこと。
世界中のエンジニアは今、凄いスピードでアップデートや開発情報を発信しあっています。欧米のエンジニアが中心で、最近では中国やインドからの発信も増えています。ここに日本からももっと積極的に参加すべきだと感じています。
最新の情報、アイデアは情報発信に貢献しているエンジニアや組織に集まる仕組みになっていて、フォロワーに情報が入ってくるまでにはタイムラグが生まれてしまうからです。これからの開発は、連携、貢献が重要なキーワードなのです。
リクルートでは2020年度はCROSS FORUMとして職種や領域を越えてナレッジ共有を実施されていました。今後もさらに、経営やビジネス視点を持つエンジニアが増え、異職種人材との連携が活性化されていくことを期待しています。
プロフィール/敬称略
※プロフィールは取材当時のものです
- 松内良介(まつうち・りょうすけ)
- グーグル合同会社 デベロッパーリレーションズ デベロッパーアドボケイト
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東京大学計数工学科卒業後、1997年マイクロソフトに入社。エンジニアとしてExcelの縦書き編集機能やはがきスタジオの住所録編集機能の開発を担当。2001年米国マイクロソフトに転籍し、WindowsのText ServicesFramework と Windows Presentation Foundation の製品テストとその自動化に取り組む。2006年DeNAへ。初期モバゲータウンのSNS機能やアバター課金機能の開発、米国支社の立ち上げ、エブリスタの立ち上げに携わる。2011年Googleに入社。東京オフィスのデベロッパーリレーションズ部門のマネージャーのひとりとして社内外の関係者を支援。アジア地域の主要企業のアプリ開発、ゲーム開発の成功を支援するために主にAndroid, Google Playの話題を中心とした開発者向け技術情報の提供と各種APIやツールの改善に取り組んでいる。