出社する?しない?これからの働き方、オフィスの存在意義を考える

出社する?しない?これからの働き方、オフィスの存在意義を考える
写真は左からリクルート海津、リクルート山口、コクヨ山下さん、リクルート野口

コロナ禍を機に、「オフィスで毎日顔をあわせて仕事をする」ことが普通ではなくなった職場は少なくないのではないでしょうか。リモートワークが日常化したリクルートでも、「出社」にまつわる迷いや問題は尽きません。そこで今回、コクヨ株式会社WORKSIGHT編集長 兼 ワークスタイル研究所 所長である山下 正太郎さんをゲストにお迎えし、リクルートの野口 孝弘(執行役員/働き方変革担当)、山口 文洋(執行役員/働き方変革推進PJT)、海津 優子(人事・組織開発室)が語り合いました。世界の働き方の潮流、日本特有の文化を踏まえながら、これからの働き方についてともに考えてみませんか。

2021年11月に実施されたリクルート社内向けトークイベントのダイジェスト記事です/敬称略

“言葉”よりも“雰囲気”でコミュニケーションを成立させる日本

野口:今日は宜しくお願いします。まず山下さんより、世界の視野から、働き方やオフィスに対する考え方の変化についてシェアいただけますでしょうか。

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山下:はい。日本同様、世界でもコロナ禍前から一部の企業において変化の予兆はありました。ひとつが、“「近接性」こそイノベーションの源泉だ”とする考え方のもと、とにかく人を集めて長く一緒に居させることでコミュニケーションの量を増やす「イノベーション型」の働き方。もうひとつが場所や時間に捕われない柔軟性のある「分散型」、ABW(Activity Based Working)とも称される働き方です。
どちらが良い悪いということではなく、国や組織ごとの「文化的コンテクスト」によって適しやすい働き方が異なるということも押さえておきたい点です。例えば、明示的な言葉でコミュニケーションが成立する“Low-context”な文化を持つ欧米諸国では「分散型」が、行間を読み取りながらコミュニケーションする“High-context”な文化の国には「イノベーション型」の働き方がフィットしやすいと言えるでしょう。その点、日本は世界で最も“High-context”な文化を有しているんですね(図1)。つまり、お互いの空気や雰囲気を読み合うために自然とオフィスに集まりやすい特性があるというわけです。しかし、コロナ禍を境に、日本人に適していると言われる「近接性」を大事にする働き方は難しくなりました。

20211220_v003図1)文化的コンテクストの違い

「コンテクスト×スケジュールド」のポートフォリオで働き方を選択する

野口:リクルートでもコロナ禍前から働き方に関する議論や取り組みはさまざま行ってきましたが、コロナ禍を経てそもそもの前提が大きく覆った感はありますね。

20211220_v004対談は2021年度グッドデザイン賞を受賞した九段下のオフィスよりオンラインにて開催された

山下:コロナ禍前は「近接性」を重視していたGAFAもリモートワークへ切り替えざるを得ませんでしたが、最近では再び「やはり対面でのコラボレーションが不可欠だ」とし、リモートと出社を掛け合わせる「ハイブリッドワーク」へ舵を切っています。一見、ABWと形態は似ているのですが、ABWは発想の起点が「ワーク」にあるのに対し、ハイブリッドワークの起点は「ライフ」、つまり、「ワーカーがどんな人生を歩みたいか」にあります。
こうした変化は、コンテクストの高/低を縦軸(=コンテクスト)に、時間の同期/非同期を横軸(=スケジュールド)にしたポートフォリオで整理すると捉えやすくなります(図2)。例えば、デジタルでは補いづらい「ハイコンテクスト×スケジュールド」な仕事はオフィスに集まろう、となるし、一方、個々の役割が明確なローコンテクストな会議はオンラインでやろう、となる。そうなると、自ずとオフィスは毎日来る場所ではなくなり、逆に出社する日はみんなで予定をあわせて集まり、ハイコンテクストなことだけやる場所へと変化していく。こうした流れを見ても今後、オフィスはワーカーが企業のカルチャーを共有し合い、チームビルディングするに必要な精神的なやりとりをする場へと役割を変えていくのではないかと考えています。

20211220_v005図2)ワークプレイスポートフォリオ

野口:みんなで予定をあわせて集まり、ハイコンテクストなことだけやる場所、なるほど。しかしそうなると、偶然の出会いはどうやって生み出したらよいのでしょう?

イノベーションを起こすための働き方は、リデザインできるか?

山口:まさにそのことが気になっていました。コロナ禍以降のリモートワーク主体となった日々を振り返ってみると、私自身は、イノベーティブなことをあまり生み出せなかった。では新しいことは何から生まれていたか?と思い返すと、誰かとリアルに会っての「雑談」からだったんですね。誰かのふとした言葉が、気づけば創造の種になっていた。リクルートの“らしさ”はこうした「雑談」に、惜しげもなく時間を使ってきたことにあったのでは、とすら感じています。

山下:仰る通り、これから課題となってくるのが「ハイコンテクスト×ノンスケジュールド」な場、例えば従来の職場の喫煙室などで生まれていた偶発的な出会いをどう作るか?ということなんです。メタバース(※注)に代表されるようなデジタルツールで補完しようとする動きも生まれていますが、これを単なるオフィスの代替として考えない方がいいと個人的には思っています。これまでオフィスで偶発的に出会えるチャンスのある人数は、せいぜい数十人から数百人の単位でしたが、メタバースの世界ではそれが数千万人レベルになります。人類がまだ体験していないこの空間で、どのような偶発的なコラボレーションが生まれるのか。大きな可能性を持っているのではないかと思います。

※コンピューターやネットワーク上に構築された3次元の仮想空間

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海津:私は自分の好きなことに没入したいタイプなので、リモートという働き方はぴったりだろうという自認があったんです。でもリモートしかないという世界を体験したことで分かったのは「自分のアウトプットを誰かに受け入れてもらい、フィードバックをもらえないと前に進めにくい」ということでした。やるべきタスクが明確な場合はさておき、抽象的で複雑なお題に対応していく際には、やはり他者との協働・協業が不可欠なんですよね。リモートにおける効果的な協働をどうデザインしていくのかはもう一段考えるべきだと思っています。

野口:そもそも“ハイコンテクスト”とされる日本の文化においては、イノベーションを生むためには「集まる」ことが欠かせない、ということなのでしょうか?

山下:イノベーションを「遠くに離れた知と知がぶつかったときに生まれる」と仮定すると、今まではその知が偶然出会うネットワークが“オフィス”でした。同様のオフィス内のネットワークをオンライン上で築けるかというと、これは難しい。ただ、視点を変えてみれば、オンラインならこれまではアクセスできなかった、社外のさまざまなプロフェッショナルとつながることが容易になります。旧来のネットワークに固執せず、新しい「知のぶつかり方」を模索してもいいのかもしれません。

キーはアイコンタクト!? 「集まる」ことの価値を突き詰めよ

野口:今後、「ハイブリットワーク」を選択するという流れもあるなか、「集まる」ことの意味が改めて問われていると思うのですが、集まることの価値をどう考えますか?

山下:大きく「機能的な価値」と「精神的な価値」の2つがあると考えています。前者はある程度時間が経てば、テクノロジーで担保できる部分が増えていくものの、後者の「精神的な価値」は今後も残り続けると見ています。
オンラインとリアルのコミュニケーションの決定的な違いとしてあるのが、アイコンタクトの有無なんです。オンラインって顔は見えていても、目は絶対にあわない。実際に会って目を見ながらのコミュニケーションでは、バーバル以外の莫大な情報のやりとりがあり、精神的つながりを得ているんです。そうした精神的価値を担保する場として集まることは意味を持ち続けますし、今後のオフィスは、みんなで一緒に映画を観たり、音楽を聞いたりして語り合う場所になっていくかもしれません。

山口:まさに今、リクルートの次のオフィスについて検討を進めていますが、そのコンセプトとしているのは「柔軟性」と「インフォーマル」、そして「DIY」の3つです。会社側が作り切ってしまうのではなく、そこで働く人たちがチームごとに自由に柔軟性をもってDIYすることで「ここは自分たちの基地なんだ」と思える実体的な空間が生まれ、その空間同士が緩やかにつながることでインフォーマルな出会いも生まれ、結果、新しい価値も創造されていく。そんなオフィスをイメージしています。

海津:一方で「それぞれのチームで、オフィスの使い方を全部自由に決めていいよ」と言われることは、受け手側の心理を考えるとそう簡単なことではないとも思います。個性によって「働きやすい」と感じる感覚も異なりますからね。チームで決めていく際に大事なことは、前提として一人ひとりが「自分が最も生産性が上がりやすい状況」を自覚し、自らのやる気スイッチを押しやすくするための「セルフマネジメント」ができていることではないかと思っています。自分のベストと相手のベストを掛け合わせたときに、そのチームにとっての最適な働き方が見えてくる。そうすれば、与えられた自由を楽しみながら価値を生み出していけるのではないでしょうか。

山下:「自由は難しい」に関してひとつエピソードがありまして。ある先進的な設計がなされた日本のオフィスを海外の方にご紹介したとき、彼らから「幼稚だね」という感想をいただいたんです。日本の場合、「このブースは〇〇の時にこう使いましょう」という取り決めをしがちなのですが、海外の方からすると「自分で考えて勝手に使えばいいじゃないか」と。指摘されてなるほど…と思う一方、「決めてもらったほうが楽」という気持ちもありますよね。日本もセルフマネジメントのもと、自ら働き方を選択する「ワークスタイルの民主化」の方向にシフトしていく、今はその過渡期なのでしょう。

野口:これからの働き方を考えるとき、「集まる/集まらない」「オンライン/オフィス」といった二項対立のなかに答えはないのかもしれません。これまでとは違う視点で、一人ひとりがいろいろと試すなか、「このやり方が良かった」という体験がどんどん積み上がり、数年後にはひとつの自分たちらしい形となっている…。そんなふうに進化させていけると良いですね。本日は皆さん、どうもありがとうございました。

全員:ありがとうございました。

プロフィール/敬称略

※プロフィールは取材当時のものです

野口孝広(のぐち・たかひろ)

執行役員/総務・働き方変革

1991年新卒入社。3年間の人事部勤務ののち、住宅領域営業、ディビジョン長、本部長を経て、2013年リクルート住まいカンパニー代表取締役社長に就任。2017年からは、リクルートホールディングスの働き方変革推進を担い、2020年4月より人事・総務の執行役員、2021年4月より現職

山下正太郎(やました・しょうたろう)

WORKSIGHT編集長/ワークスタイル研究所 所長

コクヨ株式会社に入社後、戦略的ワークスタイル実現のためのコンセプトワークやチェンジマネジメントなどのコンサルティング業務に従事。2011年にグローバルで成長する企業の働き方とオフィス環境を解いたメディア『WORKSIGHT(ワークサイト)』を創刊。また同年、未来の働き方と学び方を考える研究機関「WORKSIGHT LAB.(現ワークスタイル研究所)」を立上げ、研究的観点からもワークプレイスのあり方を模索。九段下オフィスのアドバイザリーを務めた

山口文洋(やまぐち・ふみひろ)

執行役員/働き方変革推進PJT

進学事業本部に配属。2011年「New RING」でグランプリを受賞し、『受験サプリ(現『スタディサプリ』)』を立ち上げる。2012年 RMP執行役員に就任。2015年 RHC執行役員及びRMP代表取締役社長に就任。2019年4月よりRCL執行役員(プロダクト本部 教育・学習)に。現在、働き方変革推進プロジェクトのクリエイティブディレクターとして、リクルートの新しいオフィスの在り方について検討を進めている

海津優子(かいづ・ゆうこ)

横断人事統括室 人材・組織開発室 人材・組織開発部

2007年新卒入社。ブライダル領域での営業を経て、2010年より『赤すぐ』『妊すぐ』(2017年に休刊)のMDや副編集長を務める。2017年4月から人事部の次世代人材開発部に所属し、人材育成に携わりながら、FFSパーソナルアナリスト1級を取得。現在はリクルート社内におけるFFS活用推進プロジェクトを担い、「自律・チーム・進化」の実現を目指して自己理解・相互理解の支援を行っている

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