「問題解決力を上げるための思考法」-エンジニア“的”に考える力とは?

「問題解決力を上げるための思考法」-エンジニア“的”に考える力とは?
対談はオンラインで実施。写真はBMコンサルティング 代表取締役 深沢真太郎さん(左)、リクルート甲斐(右上)、リクルート渡部(右下)

社会課題や業界課題を解決する方法として、エンジニア“的”な思考法に注目が集まっています。そこで今回は、ビジネスにおける問題解決力をアップするための「ビジネス数学」を提唱し、『数学的に考える力をつける本』の著者である深沢真太郎さんを迎え、「問題解決力を上げるための思考法」をテーマに座談会を開催しました。リクルートのエンジニアリング部門から甲斐駿介、プロダクト担当者と専門部署の間をつなぐクオリティコーディネート室から渡部純子が参加し、語り合います。
※リクルートグループ報『かもめ』2021年11月号からの再編集記事です/敬称略

「数学的」とは思考の整理法。問題の「本質」を見極めることから始めるべき

―本日は、「問題解決力を上げるための思考法」について、考えていきたいと思います。最初に、基礎力としての「数学的に考える力」について、どういうスキルなのか、深沢さんからご紹介いただけますか。

深沢:私の提唱している「ビジネス数学」とは「数学的に考える方法論」。アタマを一瞬で整理する技術です。いわゆる学生時代に学んだ数学や計算も必要はないので安心してください(笑)。実は数学の「肝」はコトバにあります。このコトバの使い方を数学的に変えるだけで、物事を構造的につかむことができ、関係者との間に「納得」を創り、簡潔に分かりやすく「本質」を伝えることができるようになります。
では「本質」とはなんでしょう。例えば、「無駄な会議が多い」という問題を考えるときに、「そもそも無駄とは何か?」「本当に1時間も必要?」「本当に10名も必要?」「本当に会議室が必要?」など、言葉の定義にこだわりながらそぎ落としていったら何が残るか? と、大胆に考えていくことで「本質」が見えてきます。あるいは、「具体」から、余計な要素をそぎ落として「抽象化」していくと、物事の構造、いわゆる「メカニズム」が浮かび上がります。これが「本質」です。このように「本質」を見出す行為を数学的思考と呼び、シンプルに表現すると「定義×分析×体系化」で表せます。

―「定義」「分解」「取捨選択」にも言い変えられそうですね。

深沢:はい。定義とは「明らかにしたいこと」でゴール設定のようなものです。分析とは、分解と比較により可能になります。体系化とは構造化やモデル化。物事の因果関係を明確にして、数字で測れる状態にすることで解決に向かう打ち手が明確になり、進捗も可視化できるようになります。
先ほどの「無駄な会議が多い」という問題では、無駄な会議とは何か? 多いとはどういう状態か? 具体的な解決策として、1回当たりの時間数を減らすのか、回数を減らすのか、参加人数を減らすのかなどが不明確で、テーマが曖昧だと気づきます。本当に解くべき課題は何か、まずは明確に定義することが必要。つまり、数学的な思考とは、自問自答するコトバを変えることから始めるべきだと考えています。

「定義」は、解くべき課題。常に問い直すことが必要

甲斐:それ分かります。子どもにも伝わるように、とにかくシンプルにすることも大事ですよね。社内用語や専門用語にトラップがある。例えば「クライアントセグメント」など、実は定義が曖昧なまま議論が進んでしまっていたり、時代に合わなくなっていても誰も疑わなくなってしまって、本質的な議論ができていないことも。
そんな時、「クライアントセグメントってなんですか? どうして分けたんですか?」と、社内用語や過去の取り決めを知らない子どもが質問するように、改めて問い直すと、気づきが多い。そういう意味では、「定義」は、トレードオフの側面があります。定義すると物事を認識しやすくなる一方で、疑わなくなる。常に、問い直し続けないと非連続な成長の機会を見失ってしまう怖さはありますね。
また、確実に時代が変わってきている。過去「定義」されたものや常識だと定義されてきたものが、どんどん塗り替えられている。「解くべき問題を決める力」を鍛えていくことがますます重要になると思います。

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「分解」は、優先順位。ゴールと照らし合わせることが大事

渡部:クオリティコーディネート室では、プロダクト担当者と専門部署の間に立ち、幅広い観点からプロダクトに潜むリスクを論点化し、対応策を事業とともに検討します。ビジネスは、納期があります。「プロダクトの目指す価値」をゴールに見据え、課題と時間軸を見極めて、対応策を絞り込んでいます。常にゴールから逆算して、必要な要素を分解する。そのなかから本質的な要素を見極め、それ以外の情報をそぎ落とす。最終的に人が動けるようになる状態をイメージして、「伝える」ことを心掛けています。
例えば、「法律改正」。関係する専門部署からは膨大な関連情報が寄せられます。でも、私自身も、1度に3つくらいのことしか覚えられないので、相手も同じだろうなと。100%の情報量を伝えても3割しか覚えていないなら、最初から必要な情報を30%にそぎ落として伝えるほうが確実ですよね。

深沢:複雑な問題や情報、状況を「分解」して、「比較する」ことで、シンプルにすることができますね。ゴールに照らし合わせて、不要なものをそぎ落とし、優先順位をつけることはとても大事なステップです。

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目の前の策に飛びつく前に、構造化で本質をつかめ

深沢:これまでのお話でも何度か出てきましたが、「本質」となる物事の構造をつかむことが課題解決の山場。構造化というと難しく感じますが、「メカニズムを明らかにする」というと分かりやすくなると思います。メカニズムを明らかにしないまま、目の前の対応策に飛びついても本質的な課題は解決しません。
例えば、「彼女ができない」という問題を解決するために、何も考えずに婚活サービスに登録しても、結局、状況は変わらないかもしれません。「なぜ、彼女ができないのか?」のメカニズムを先に考えるほうが大事なんです。出会いが少ないのか、出会った人から好意を持たれないのか、その理由はなにか…。課題の本質が明らかになれば、改善するための方策を数値に落とすことができ、進捗も確認できます。

甲斐:確かにビジネスでも、短期的な売上に飛びつくより、中長期的に価値を上げるためのメカニズムを把握し、そこに対して予算も人も集中投下することが肝要です。
本質的なメカニズムを捉えるために心掛けているのは、小学生にも分かるような当たり前の質問に自ら答えを出していく、自問自答すること。イスラエルでは、小学生から徹底的にこのトレーニングをする。パソコンも辞書も使わずに、ひたすら問答するんです。新たな価値を生み出す力のベースになっていると思います。
その時に、やっぱり、論理やサイエンスではキャプチャできないことが多い。何かを生み出す時に、半分はフィーリングというか、想像やこれまで見てきたもので補うことが必要になります。

渡部:共同購入型クーポンサイト『ポンパレ※』を担当していた時に、当時、手編成だった商材の並び順をビッグデータ解析のAIを開発し、自動化したことがあります。結果は、手編成より売上が3割減少に。再度分析したところ、必要なものは、掲載順が下にあっても買われている、一方、お得感のあるものや季節感のある商材は、予想外の出会いが衝動買いを生んでいることに気づきました。そこから、現場営業の感覚や季節感などの変数を取り入れ、手編成だった時代の売上を3割アップすることができました。どんなに凄いアルゴリズムでも、感覚や感性との融合が必要だと実感しました。
※ポンパレ:2010 年サービス開始した共同購入型クーポンサイト(17 年サービス停止)。現在はEC サイト『ポンパレモール』に

甲斐:感覚と組み合わせながら、最終的に人間を超えていく。ビジネスでは、論理と感覚だけでなく、もっと多角的に見ていく必要があります。例えば、ユーザー観点、ビジネスモデル観点、リスクや法的観点、投資家観点、10年後のビジョンや社会的価値…。天才でない限り、同時に脳内で、いろんな観点で考えることはできない。人間がオプティマイズできる限界はある。一度に考えられるのはひとつのパラメーター。だから自分はそれぞれ時間を分けて考えるようにしています。ちなみに、CEOの出木場久征さんは、5分おきにこの視点を行き来することができる。僕はこの2年間トレーニングしてだいぶできるようになってきたけど、そこまではできないんです。

最終的には動かしてなんぼ。相手とのメジャーを揃えて

深沢:教育者という立場でビジネスの現場を見ていると、提案相手や上司と話がかみ合わないという人が多い。例えば、経営層に対して、現場の指標と熱意だけで話しているケース。上司や経営層が何を気にしているのか、どうしたら心が動くのかという、エモいポイントを全く無視してしまっているのが原因。ビジネスは、最終的には人を動かしてなんぼ
例えば相手が経営層なら、損益分岐点、コスト、回収期間…など意思決定に必要な情報を理解し、そこにリンクさせる情報を整理して「正しそう」に伝えることが大事。必ずしも、正確である必要はないのです。ビジネスに不確定要素はつきものですから。

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甲斐:議論する時に、互いの物差しを揃えることが必要ですね。お互いの視座や担当領域の違いなどでズレが生じやすい。例えば、短期的に利益が出ても、中期的にメンテナンスコストが莫大な開発にOKを出すことはできません。ターム(短期・中期・長期)×インパクト(売上)/スピード/コストの3×3=9のフォームで整理するなど決めればよいだけ。お互いのメジャーを揃えるチェックリストみたいなものが必要だと思っています。

渡部:私は専門家と現場をつなぐときに、やっぱり相手の専門分野のメジャーと事業のメジャーのズレと向き合いながら、通訳をするケースが多いです。相手が伝えようとしてくれていることが分からなくても、自分なりに解釈して、「例えばこういうことですか?」、「ここがOKなら、こちらもOKということですか?」など例えや、言葉の変換をしながら丁寧に確認します。まずは、自分と相手のメジャーを合わせる。最後は、「3行で語れる、または、スライド1枚で説明できる」という状態まで情報をそぎ落とすことを目指しています。

深沢:課題解決のためのベースとなる数学的に考える力も、最後は、伝えて、人を動かすことがゴール。リクルートの皆さんとお話しできて楽しかったです。

一同:ありがとうございました。

プロフィール/敬称略

※プロフィールは取材当時のものです

深沢真太郎(ふかさわ・しんたろう)

BMコンサルティング株式会社 代表取締役/一般社団法人日本ビジネス数学協会 代表理事

論理的に課題解決をするための「ビジネス数学」を提唱し、延べ1万人以上を指導。理学修士(数学)。外資系企業を経てビジネス研修講師として独立。大手企業、プロ野球球団、大学などの教育研修を手掛ける。2018年「ビジネス数学インストラクター制度」を立ち上げ、指導者育成にも従事。その他、コメンテーターとしてメディア出演。著作は『数学的に考える力をつける本』(三笠書房2020年)他、国内累計25万部超

渡部純子(わたべ・じゅんこ)

リクルート クオリティコーディネート室

大日本印刷株式会社で研究職、ベンチャー企業を経て、2004年リクルートに入社。旅行領域でWeb業務を担当。10年CRMを立ち上げ後、全社CRM統括、ID全社統合を担当。12年リクルートライフスタイル執行役員に。2019年リクルート内のプライバシー3.0プロジェクトに参画、20年8月現部署設立に伴い室長に

甲斐駿介(かい・しゅんすけ)

リクルートホールディングス経営企画本部/Indeed Japan/

リクルート プロダクトマネジメント統括室 HR領域プロダクトマネジメント室
2016年リクルートライフスタイルに入社し、『Air BusinessTools』の開発を担当。17年リクルートホールディングスで「Airメイト」の開発兼責任者に。19 年Indeedに異動し渡米。21年4月帰国し現部署

 

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