始まりは「すきなこと」から。リクルートホールディングスCEO出木場久征が中高生に伝えたいこと

始まりは「すきなこと」から。リクルートホールディングスCEO出木場久征が中高生に伝えたいこと

2022年7月、リクルートホールディングス代表取締役社長 兼 CEOの出木場久征(いでこば ひさゆき)が、母校である鹿児島県の志学館中等部・高等部で講演を行いました。世界を股にかけるような大きな仕事や偉業も、最初はたった一人の「すき」「やりたい」という思いから始まる――。出木場は、まずは自分の身近なところに目を向けて、「すきなこと」「やりたいこと」を探してみよう、と問いかけます。講演の内容を抜粋し、「すきを見つけるヒント」をお届けします。

「えらい」ってなんだろう?

出木場 「えらい人になりなさい」「立派な人になりなさい」──きっと皆さんも一度は、周りの大人から言われたことがありますよね。「えらい人になるために、ちゃんと勉強しなさい」と。僕は子どもの頃、「えらい人=お金持ちな人」だと思っていました。貧乏でお金がない家庭に生まれたので、とにかくお金持ちになりたかったんです。

いい大学に入ってお金持ちになるために、猛勉強して、東京の大学に合格しました。入学してから、どうしたらお金持ちになれるか考えました。当時はインターネットが普及し始めた頃。大学でホームページの作り方を習ったので、友人の父親に頼まれてホームページを作ったら、30万円も貰えたんです。それを続けたら、気が付いたらお金持ちになっていました。

子どもの頃の「お金持ちになる」という夢を叶えて、いっぱいお金を使いました。憧れの高級車を買ったり、CDを100枚くらい大人買いしたり、おいしいものを食べたり……。でも、なんだかあんまり楽しくなかったんです。

お金がなくなったら稼がないといけないから、とにかく働いてまたお金持ちになって、と繰り返しているうちに、「『えらい』ってなんだろう?」という疑問が浮かびました。お金持ちだから「えらい」のか、有名になったから「えらい」のか、権力を持っているから「えらい」のか。でも、そんなの、周りの人がすごいと思っているだけ。みんなからのただの“評価”にすぎないんじゃないかと思ったんです。

お金持ちを維持するために、ずっと働かなければいけない。それが、中学生や高校生の頃、周りの大人から「えらい人になるために勉強しなければいけない」と言われていたのと同じ状況だと気が付き、仕事がつまらなくなってしまったんです。

そんな時、僕はリクルートという会社と出会いました。

残りの人生ロスタイムと気づいたとき、自分を見つめ直した

出木場 美容室やホテルの予約をしたい時、今はインターネットの予約サイトを利用しますよね。僕がリクルートに入社した当時は、雑誌を見て、電話で予約するのが主流だったので、「インターネットで予約できるサイトを作る仕事をやりたい」と手を挙げました。最初は、『じゃらんnet』で予約できるホテルは、ほんの少ししかありませんでした。各地のホテルに足を運んで、「ぜひ『じゃらんnet』を使ってください!」とお願いして、サイトを成長させていきました。忙しくても平気。大変だったけど、とにかく楽しかった。

ところが、一生懸命仕事をしていたら、胃に穴が空いて大病を患ってしまいました。文字通り、死にかけたんです。僕は病室で目が覚めてすぐに「いつ会社に戻れるんですか」と聞いたのですが、お医者さんは、「たまたま目が覚めたからよかったけど、もしかしたら死んでたかもしれないんだよ」と呆れ顔。「ちゃんと人生を考えないとダメだよ」と僕に釘を刺しました。

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出木場 点滴をつながれて3週間、病室の天井をじっと見つめて、自分自身を振り返りました。もう、お金持ちになるとか、周りの人から「えらいね」と言われることなんか、どうでもいいな、と思ったんです。一度死にかけて、生き返ったこの先の人生は、いわばロスタイム。他の人から「すごいね」「お金持ちだね」と言われることより、自分のすきなことだけをやろう、と心に決めました。

退院後のある日、バス停でバスを待っていたら、目の前で二人の女性が僕が作った美容院予約サービス『ホットペッパービューティー』について話しているのが耳に入ってきました。「このアプリ知ってる? すぐ予約できて、すごい便利だよね」「絶対使った方がいいよ」という声を聞いて、すごくうれしかったんです。僕が作ったサイトやアプリを、みんなが使ってくれている。自分が本当にやりたいことはこれだ!と悟りました。

アフガニスタンで65万人もの命を救った中村医師や、日本の女性の地位向上に貢献した津田梅子さん、昆虫記を書いて業績を讃えられたファーブル。みんな「えらい」と言われているけれど、「えらい」と言われたくて行動していたわけじゃない。やりたいこと、すきなことだから一生懸命取り組んで、その結果「えらい」と言われるようになったのです。

じゃあ、僕はこれからどうするか。日本ではもう1,000万人が使ってくれるサイトを作ったから、次は世界の70億人が使ってくれるサイトを作りたい。世界中で使ってもらえるものを作るために、アメリカに渡りました。

いろいろな経験をして、自分の「すきなこと」を知ろう

出木場 ところが、いざアメリカに行ってみると、英語が全然話せない!それもそのはず、僕は学生時代、英語の勉強が大嫌いだったんです(笑)。ハンバーガー店での注文もままならない状況で、このままでは世界中の人が使ってくれるものを作ることはおろか、アメリカで生きていくことすらできない、と焦って勉強を始めました。

「やらなきゃいけない」と思うと手に付かないから、勉強の仕方を工夫しました。僕はお笑いが大好きだから、アメリカのお笑い番組を何百時間も観て、出演者が話しているギャグを真似していたら、だんだん英語が話せるようになりました。教科書とにらめっこしていたら、いつまでたっても話せるようにはなっていなかったかもしれません。

「やりたいこと」のためにやらなきゃいけないことも、「すきなこと」で工夫したらできるようになりました。皆さんはどうでしょう。自分が本当にすきなことを知っていますか?

例えば、スポーツ。僕は小学校3年生から野球をやっていて、将来は野球選手になりたいと言っていたくらい、のめり込みました。でも、ある時ふとサッカーをやってみたら、サッカーも楽しかったんです。あれほど野球がすきだと思っていたのに。

冷静に考えてみたら、リフティングの練習している時や、壁に向かって一人でピッチングの練習をしている時が一番楽しかったのではないかと気が付きました。サッカーにしろ野球にしろ、僕はチームプレーより、一人で黙々と練習して上手くなる方がすきなんだ、と。一見、全く違うすきなことの中に、共通点を見出したんです。それは、僕がいろいろな体験をしたからこそ、わかったことでした。

だから、「あれをやってみよう」「これもやってみよう」と、いろんなことを経験して、自分の「すき」を探したり、すきなものの中に共通点を見出したりすることが、まだ若い皆さんにとってすごく大事だと思います。

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出木場 今では世界中で毎月約3億もの人が、僕たちの作ったサービスを使ってくれています。特にユーザーが拡大しているインドやアフリカからは、「新しい仕事を見つけることができた」と、お礼のメールがたくさん届いていて、すごくうれしいですね。お金儲けではなく、世界中の10億、20億人に使ってもらって、役に立ちたい。そのためにできることを考えるのが、僕が今、一番楽しいと感じることです。

皆さんもぜひ、恐れずにいろいろな体験をして、自分のすきなことを探して、やりたいことを実現していってほしいと思います。

プロフィール/敬称略

※プロフィールは取材当時のものです

出木場 久征(いでこば ひさゆき)
株式会社リクルートホールディングス代表取締役社長 兼 CEO

1999年リクルートに入社。『カーセンサー』の営業を経て、『じゃらん』『ホットペッパービューティー』など販促系事業のオンライン化や、ネットビジネスに適した組織開発に従事。2012年リクルートホールディングス執行役員に就任。13年Indeed CEOを兼任。16年リクルートホールディングス常務執行役員、グローバルオンラインHR SBU(現HRテクノロジーSBU)長に。19年取締役 兼 専務執行役員、20年取締役 兼 副社長執行役員を経て、21年4月より現職

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