コーチングメソッドを取り入れた、リクルートの人材育成プログラムとは?多様なキャリア構築を目指して

コーチングメソッドを取り入れた、リクルートの人材育成プログラムとは?多様なキャリア構築を目指して

これまで以上に働き方や考え方が多様になっている昨今。1960年の創業以来、一人ひとりの違いを引き出し、その違いを“強み”として生かす人材マネジメントを大切にしてきたリクルートにおいても、そのアップデートが求められています。

2023年度より、リクルートは社内向けに、管理職(以下、組織長)による人材育成を支援する独自のプログラムを開発。組織長が従業員一人ひとりの内発的動機を引き出し、それに基づいた多様なキャリア構築を支援できるよう、組織長を対象とした研修を行っています。組織長はコーチング要素を取り入れた対話や育成計画の手法を学び、従業員との対話セッションを実施。その対話に基づき、従業員の育成計画やその後の育成支援まで行います。創業以来大切にしてきた「個をあるがままに生かす※」人材マネジメントを形式知化する取り組みでもあります。
推進した人材・組織開発室・企画グループマネジャーの石原苑子と、コーチ兼マネジャーとして現場で活躍するHRサービスDivisionの佐藤正享に、その内容について聞きました。

※元リクルート専務取締役・大沢武志の著書『心理学的経営』より

従業員の多様なキャリア構築を目的にした人材育成プログラムとは

― プログラムを開発した背景を、教えてください。

石原:リクルートは、大切にする価値観「個の尊重」に基づいて、人材マネジメントにおいても「個をあるがままに生かす」ことを大事にしてきた会社です。

ただ、組織が拡大するなか、人材マネジメントを担う組織長がマネジメントを体系的・実践的に学ぶ機会はなく、属人化しつつあることに課題を感じていました。また、社会全体でみても、従業員や、その働き方が多様化するなかでの人材マネジメントは、難易度が高くなっていると言えます。

そこで、組織長のマネジメント歴の長さやこれまでの経験だけに頼らず、人材マネジメントスキルを形式知化し、誰もが一定レベルで、従業員の「深い人物理解」と「育成計画」が描けるようにプログラムを開発しました。

通常、従業員のキャリア構築支援は直属の上長が行うが、このプログラムでは3人が関わり、複眼ですり合わせを行う
通常、従業員のキャリア構築支援は直属の上長が行うが、このプログラムでは3人が関わり、複眼ですり合わせを行う

― どのような内容ですか?

石原:大きく2つのパートに分かれています。1つ目が、コーチとなる「Co-AL Partner(コアルパートナー)」の育成。そして2つ目が、上長への育成支援として、育成したCo-AL Partnerと従業員のコーチングセッションによる内省・自己理解支援、およびCo-AL Partnerと対象従業員の上長と育成計画のすり合わせを行います。

まず「Co-AL Partner」になるためには、コーチング技術・人物理解の手法・育成計画のスキルを学ぶ、約16時間の研修を受講します。

一般的なコーチングでは、コーチと対象者が1対1であることが多いと思いますが、リクルートのプログラムでは、「複眼的に人を理解する」ことを大事にしており、「Co-AL Partner」がふたり1組で対象従業員とのセッションを実施します。その後、対象従業員の上長が加わった計3人で、対象従業員の育成計画を策定します。

― 「コーチング」要素を取り入れたとお聞きしていますが、一般的なコーチングプログラムとは違うのでしょうか?

石原:コーチングで行う対象者の内省支援に加えて、このプログラムは育成計画のブラッシュアップまで行い、コーチが深く対象者を理解し、その後の育成支援までを行うところがポイントです。つまり、“点”でのコーチング施策ではなく、“線”での人材育成施策です。

そういった意味で、コーチングという言葉からイメージする内容よりも踏み込んだリクルート独自のプログラムのため、本施策を「Co-AL施策」と呼称し推進しています。

Co-AL(コアル)という名称は「Co-Authentic Leadership」の略。一人ひとりの違いを大切にした「“個”を“ある”がままに生かす(コアル=個ある)キャリア構築支援やリーダーシップ発揮を共創する」という想いを込めた呼称で、コーチ役を「Co-AL Partner(コアルパートナー)」と呼んでいます。

― 育成計画というのは、どのようなものですか?

石原:従業員のキャリア構築を支援するうえで、短期~長期のキャリア展望に向けて、経験や段階に応じた役割、ネクストアクションの設計をし、一人ひとりの“その人らしさ”を生かした育成ステップを明確にすることです。

従業員は、プログラムのステップのなかで自己理解が深まり、自身の強みに気づくという
従業員は、プログラムのステップのなかで自己理解が深まり、自身の強みに気づくという

複眼でのキャリア構築支援が生み出すメリット

― 対象従業員からすると、「Co-AL Partner」という直属の上長ではない人とキャリアについて会話することへの抵抗はないのでしょうか?

石原:むしろ、普段接することがない第三者の「Co-AL Partner」ふたりと話せたからこそ気づきが得られた、という声が多いですね。

実際にプログラムを受けた従業員にアンケートを実施していますが、「将来やりたいことや、なぜそれなのか明確になった」「自分の理想のキャリアを話すことに対して遠慮がちだったが、早速改善していこうと心に決めた」など、キャリアを考える機会になったり、自己理解が深まる方が多いです。

このプログラムで従業員と対話する際は、人生の棚卸し・資質の読み解き・キャリア展望などについて対話していきます。日常の仕事ぶりをよく知っている直属の上長との関係性だけではなく、「Co-AL Partner」のフラットな視点も加わることによって、客観的、本質的な問いかけが発生しやすくなるのではないでしょうか?

こうした対話が、本人の“内発的動機”を引き出し、自ら「やりたい」「変わりたい」と心から感じることができるため、その後の行動にもつながりやすいのではないかと思います。

― 「Co-AL Partner」からは、どのような感想がありましたか?

石原:現場でもメンバーを持ちマネジメントを行っている組織長に「Co-AL Partner」を担ってもらっています。「この施策のフレームを用いて自組織のメンバーとも対話し、強みの整理を行ってみたところ、本人の納得度も高く、能力開発の具体アクションの設計ができた」という声がありました。

「Co-AL Partner」の皆さんは、通常業務が忙しいなか、この活動にも参加している状態ですが、このプロジェクトに共感し、施策をより良くしていきたいという熱量が高いことは私自身とても嬉しいですし、まさにこれがリクルートらしさなんだなと思っています。

「Co-AL施策」を推進した人材・組織開発室・企画グループマネジャーの石原苑子
「Co-AL施策」を推進した人材・組織開発室・企画グループマネジャーの石原苑子

体系的に学べる人材マネジメントスキル

― ここで実際に「Co-AL Partner」になった佐藤さんにも感想を伺いたいと思います。

佐藤:私は営業グループのマネジャーをしながら「Co-AL Partner」の活動もしています。実際にやってみると非常にたくさんの気づきがありましたね。

― 気づきというのは?

佐藤:今回のプログラムで体系的にコーチング技術・人物理解の手法・育成計画のスキルを学んでからは、「その人らしさ」や「なぜ、このような考えに至ったのだろう」ということを、相手に深く聞けるようになりました。これまでも、自分なりに自組織のメンバーのことは理解しているつもりでいましたが、今思えば属人的なマネジメントをしていたのかなと気づいたんです。

人は一人ひとり考え方や働き方はもちろん、リクルートに入社した動機やキャリア構想も違います。一方的に押し付けてしまうマネジメントだと、本人は、心の底からは、頑張れないように思います。じっくりと話を引き出しながら、「今、目の前にあるやるべきこと」と「本人の強み」を、どう結びつけるかを考える。そうすることで、より具体的に、次の目標や行動をともに考えることができると感じています。

― “複眼”つまり複数人で従業員の育成計画を話すことについて、どのように感じていますか?

佐藤:「Co-AL Partner」である自分自身も、すごく勉強になりますね。対象者である従業員の話に対して、もうひとりの「Co-AL Partner」や上長が着目する観点・考え方の解釈に自分との違いがあることが発見でした。複眼的、多角的に人を理解する視点を得られたように思います。

実は、私はマネジャーになりたての頃、やるべきことを推進することに頭がいっぱいで、メンバー理解ができていなかったというか、知ろうともしていなかったかもしれません。なので、メンバーからの信頼も得られず、「本人の強み」を引き出し、期待・要望することもできていませんでした。

私の場合は、ありがたいことに軌道修正する機会がありましたが…。やはり目指すべきは、全ての組織長が、一人ひとり違う「その人らしさ」を導き出すこと。さらには、多様化するメンバーに応じて、組織長自身の引き出しを増やす必要があると思っています。

そういった意味でも、このプログラムはとても意義のあるものだと感じています。

Co-AL Partner兼マネジャーとして現場で活躍するHRサービスDivisionの佐藤正享
Co-AL Partner兼マネジャーとして現場で活躍するHRサービスDivisionの佐藤正享

従業員がいきいきと働ける世界を実現したい

― 今後どのような展開を予定していますか?

佐藤:「Co-AL Partner」の研修を受けた時はもちろん、現場で実践する度に、新たな気づきが生まれるんです。この学びを、自身の組織にも広げていきたいですね。

石原:2023年度には、「Co-AL Partner」の研修・および研修講師も全て内製化が完了し、より拡大していく準備が整いつつあります。

現在は一部の組織を対象に行っているプログラムを、来期から全社に展開していきます。2025年度から数年以内にはリクルートの全ての組織長、約1800人に広げることが目標。組織長全員が多様な人材をマネジメントできるようになれば、リクルートで働く従業員全員がいきいきと働ける世界を実現できると考えているからです。

「個をあるがままに生かす」という”人“に対するリクルートの考え方を、未来につなげていきたいですし、社会全体でいきいきと仕事ができる人が増えることに少しでも貢献できたら嬉しいです。今後も、より多様な従業員の違いを強みとして最大限発揮できるキャリア支援をしていきたいと思っています。

リクルート従業員の石原苑子(写真左)と佐藤正享(写真右)

プロフィール/敬称略

※プロフィールは取材当時のものです

石原苑子(いしはら・そのこ)
株式会社リクルート スタッフ統括本部 人事 人材・組織開発室 キャリア開発部 企画グループマネジャー

2013年に新卒入社。経理、人事を経て現職。本施策の企画推進に加え、Co-AL Partner、さらにCo-AL Partner育成の研修講師も務める。「DEI推進プロジェクト」も兼務している

佐藤正享(さとう・まさたか)
株式会社リクルート Division統括本部HR本部HRサービスDivision エリアセールス3部 北陸甲信社員グループマネジャー

大学卒業後、北海道のリゾートホテルにて2年間従事。その後、2008年にリクルート入社。HRマーケティング事業部を経て、現在は『リクナビNEXT』営業マネジャーを務める

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