週末旅で世界一周!「リーマントラベラー」は会社員のハイブリッドな人生を伝える

週末旅で世界一周!「リーマントラベラー」は会社員のハイブリッドな人生を伝える

文:森田 大理 写真:須古 恵

平日は広告代理店で働きながら、週末は世界中を旅する——。会社員×旅人という二つの肩書を持つ東松寛文氏に、双方の活動を両立する意義を訊く

広告代理店の営業として多忙な毎日を送っているにも関わらず、7年間で58ヶ国123都市に渡航。3ヶ月間、毎週末海外旅行に行き、働きながら世界一周を成し遂げた男。それが「リーマントラベラー」東松寛文氏だ。活動が発展し、最近は講演活動やメディア出演・執筆など、活躍の場を広げている。

ワークとライフ、どちらかを犠牲にして成り立つのではなく、どちらにも軸足を置いているかのような東松氏の生き方からは、一般的な「ワークライフバランス」とも異なる、ワークとライフの相乗効果をもたらすような新たな関係性が見えてくる。東松氏の活動を通して、会社員+αを生きる人の価値観を探りたい。

週末の過ごし方を変えたら、平日の働き方も変わった

東松 寛文さん

― 旅をする以前の東松さんは、どのような生活でしたか。

今では信じられないかも知れませんが、僕が社会人になった頃は、毎日のように早朝から終電まで働いていました。終業後も取引先と飲みに行くことが頻繁にありますし、平日は仕事だけの生活でした。

一方で、貴重な週末はほぼ合コンに費やしていました。楽しくはありましたが、誘いを断りづらくて参加していたのも正直な気持ちです。

― そんな日々から一息つくために旅に出たのでしょうか。

いえ、忙しかったのは間違いないですが、「社会人とはそういうもんだ」と思って受け入れていましたし、どちらかと言えば"社畜寸前"で仕事に没頭することに充実感がありました。だから、何かが嫌で旅に出たのではなく、旅行をしたことでそれまでの自分の生活が絶対ではないと気づいたんです。

社会人になって初めて旅行したのは、アメリカのロサンゼルス。NBAの試合を見るための旅でした。ただ、僕が試合以上に衝撃を受けたのはアメリカの人たちの生き方です。大人たちが平日の昼間からお酒を飲み、早い時間からバスケ観戦のために会場に集まっている光景を目にし、仕事以外を楽しむ人生があることに気づきました。3泊5日の弾丸旅行で、旅慣れていたわけでもなく、トラブル続きだったのですが、短期間でも、英語が得意じゃなくとも、心の底から楽しめた。海外旅行の概念が覆った瞬間でした。だから週末ごとに旅をする生活をやってみようと決意したんです。

― 週末だけとはいえ、仕事に支障は出ないのでしょうか。どのようにバランスを取っているのか教えてください。

たしかに仕事には影響していますよ。ただし、悪い影響ではなく良い影響。昔に比べると、仕事ができるようになったと感じています。たとえば、金曜の夜便で出発して月曜の朝帰国する予定だとしたら、月曜締め切りの仕事は金曜の夕方までに前倒して終わらせておきたい。そのためにはどうすればよいのか、逆算して仕事の段取りを考えるようになりました。

以前の僕なら、誰かに決められた締め切りまでに目一杯時間を使ってダラダラと取り組んでいましたし、そのせいで週末を満喫できないことも良くありました。今は、自分のために自分で期限を設定している感覚。自分で決めるということがすごく重要みたいで、取り組む姿勢も変わりました。効率的に仕事をする癖がついたおかげで平日にも余裕が生まれ、仕事に繋がる知識をインプットする時間を持てるようにもなりましたね。

旅と日常を行き来すると、自分の内なる声が聞こえてくる

― 仕事と旅。どちらも全力で取り組まれているご様子ですが、上手く頭や気持ちを切り替えられるものでしょうか。

飛行機に乗っている間で切り替えていますね。移動はちょうど仕事と旅の中間にある存在。特に帰りの飛行機は日常に戻るまでのモラトリアム期間だと思っているので、飛行機での時間は大切にしています。

東松 寛文さん

― 具体的にはどのように過ごしているのか教えてください。

飛行機は、携帯の電源をオフにする空間です。必然的に外部からの連絡を遮断できる。その時間を使って、余計な雑念なく自分に向き合うようにしています。僕の向き合い方は、旅行中に気持ちが浮き沈みするなど変化が生じた瞬間をカメラに収めておき、飛行機のなかで見返して「なぜ心が動いたのか」を考えること。旅という非日常の中で心が動いたものには、日常の中ではなかなか見えない本当の自分に出会うヒントがある気がしています。

― これまでは、その方法でどのようなことに気づかれたのでしょう。

たとえば、「なぜ海外旅行が好きか」。

はじめのうちは漠然と珍しいものに触れたいという気持ちだったんですが、キューバからの帰りに「自分は世界中の人々の多様な生き方に触れることが好き」なんだと気づきました。

僕は、先ほどお話したロスでの自由な生き方に憧れる気持ちが強かったのですが、それは、「アメリカだからできるんだろう」と感じていたんです。ですが、経済的には豊かとはいえないキューバの人たちとお茶をしたり一緒に踊ったりしてみたことで、いろんな幸福のかたちがあって良いんだと心から思えた。そうした多様性に触れたいからこそ、僕は世界遺産を観るよりも、現地の市場をまわったり、ガイドブックに載っていないレストランに行ってみたりする方が好きなんだと分かりました。

こんな風に僕にとって飛行機で過ごす時間は、「自分を探求する時間」。この時間を間に挟むことで仕事と旅のモードを上手く切り替えられるようなりましたし、結果的に「深く考える習慣」が身に付きましたね。

会社を辞めることだけが、自分のやりたいことを実現する道じゃない

― 東松さんは「リーマントラベラー」と名乗られていますよね。その肩書きには「会社員」であることへのこだわりを感じます。

まさしく、その通りです。僕は旅を仕事(本業)にしたい訳じゃないんです。むしろ、日本でサラリーマンをやりながら世界中を旅することに意味があると思っています。

自分のやりたいことを実現している人生は素晴らしいですが、「職業:旅人」みたいな生き方をみんなができるかと言えばそうではないですよね。腹を括ってリスクを取るような生き方を、世の中の全員ができる訳じゃない。僕みたいに、サラリーマンを"半歩"だけ飛び出しつつ、双方を上手く活かす生き方だってあると示したい。日本には"社畜寸前"になるまで仕事に人生を捧げている昔の僕のような人がまだたくさんいて、その人たちにちょっと違う生き方を提示できたらいいな、とも考えています。

東松 寛文さん

― 0か100かの選択肢ではなくて、その中間のような生き方を提示したいと。

はい。僕は会社員としての軸があるからこそ、安心して会社の外で活動できます。新しいチャレンジをはじめる方法って、何も自分を追い込んで鼻息荒く肩をぶん回しながらやるだけじゃない。仕事があるからこそ旅ができるし、旅をしているからこそ仕事においても"戦い方"が変わり、自分に自信が持てるようになりました。

― 「戦い方が変わる」とはどんな意味でしょうか。

以前は、「どんなに頑張っても先輩たちに勝てるわけがない」と無力感を覚えたこともありました。でも、担当する仕事そのものの知識や経験の量で比較すれば当たり前ですよね。それが旅という軸を持ったことで、自分には先輩たちにはない知識やアイデアを持っているという自信を持てた。

会社という一つの世界だけで生きていると物事の捉え方が一元的になりがちで、なかには追い詰められてしまう人もいる。もう一つの世界を生きることで救われる人もいるはずですよ。

― では、最後にリーマントラベラーとして実現したいことを教えてください。

僕は、"社畜寸前"になるまで仕事に没頭した昔の自分に、生き方の選択肢を伝えたいんです。多様な選択肢の中から意思を持って決めたのなら、仕事一筋の人生でもいい。ですが、その選択肢を知らないまま生きるのは違うと思うんです。今の僕は自分で決めて行動をしたことこそ、仕事も旅も両方を充実できている。そう思えているからこそ、選択肢を伝えられる人でありたいんです。

東松 寛文さん

プロフィール/敬称略

※プロフィールは取材当時のものです

東松寛文(とうまつ・ひろふみ)

1987年岐阜県生まれ。平日は激務の広告代理店に勤務するかたわら、週末で世界中を旅するサラリーマン。日本にいる時はトランジット期間。社会人3年目以降、7年間で58か国123都市に渡航。TOEICは575点につき、海外ではもっぱらボディーランゲージ。2016年、3ヶ月間、毎週末海外旅行に行き、5大陸18か国を制覇し「働きながら世界一周」を達成。現在もサラリーマンを続けながら、TV、新聞、雑誌など多数のメディア出演・執筆を行う。著書に『サラリーマン2.0 週末だけで世界一周』(河出書房新社)、『人生の中心が仕事から自分に変わる! 休み方改革』(徳間書店)がある。

『人生の中心が仕事から自分に変わる!休み方改革』

『人生の中心が仕事から自分に変わる! 休み方改革』(徳間書店)

東松寛文/著 田中正秀/監修
定価:本体1,500円+税
サラリーマンでありながら、週末だけで世界旅行をしている"リーマントラベラー"が実践&提唱する、新時代の休み方+働き方=生き方本!

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