2000年生まれの化学者 村木風海が、10年間否定されても二酸化炭素研究を続けた理由

2000年生まれの化学者 村木風海が、10年間否定されても二酸化炭素研究を続けた理由

文:森田 大理 写真:須古 恵

デジタルネイティブ。モノよりコト。社会問題への関心が高い。起業家精神が旺盛…。激変する社会のなかで育ったZ世代の生き方から、現代のビジネスパーソンに求められるスタンスを学ぶ

1990年中盤以降生まれの「Z世代」が、いよいよ社会で活躍をはじめている。彼らは、「スマートフォンが当たり前」「大災害による社会の混乱」「SNSで世界中と交流できる」など、まったく新しい環境で育っており、「社会課題への意識が高い」「学校・会社以外のコミュニティを持つ」「慣習に縛られず一直線に目的を目指す」といった傾向が強いそうだ。

村木風海(むらき・かずみ)さんもそんなZ世代の一人。幼少期から独自に続けてきた二酸化炭素研究が、総務省主催のイノベーター育成プログラムに採択されたことをはじめ、地球温暖化を解決する技術として注目されている。しかしそれ以前の長い間、村木さんの活動は全く認められず否定され続けていたそう。それでも信じた道を突き進めたのはなぜなのか。Y世代インタビュアーの視点でZ世代の価値観を探った。

Z世代にとっての22世紀は、遠い未来の話じゃない

――村木さんが二酸化炭素の研究をはじめようと思ったのはなぜですか。

原点は小学4年生のときに祖父からもらった本です。物理学者のスティーヴン・ホーキング博士が執筆した『宇宙への秘密の鍵』という冒険小説シリーズで、当時の僕と同じ年くらいの子どもが宇宙旅行をするというストーリー。小説の世界にのめり込むうち、人類が移住する可能性が最も高いと紹介されていた火星に、いつか僕も行こうと決意しました。

そんなとき、僕が通っていた小学校で、生徒それぞれが一年をかけて好きなテーマを研究する学習がはじまり、これも後押しになりました。僕が選んだ研究テーマはもちろん火星です。調べるうちに火星の大気の95%は二酸化炭素だと分かり、二酸化炭素を酸素に変える技術を発展させれば住めるんじゃないかと思ったんですよね。

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――火星に住むための研究としてスタートしたわけですね。それが今では地球温暖化の解決も目的とされていますが、地球環境にも関心が向かったのはなぜだったのでしょうか。

二酸化炭素を調べるうちに気候工学の書籍にたどり着き、地球温暖化の深刻さを理解したからです。もし今すぐ世界全体で二酸化炭素の排出をゼロにしたとしても、温暖化による海面上昇は西暦3000年まで止まらないと言われており、人類全体で「エコな暮らし」に転換するだけではこの流れを変えられないレベルまで来ています。

だからこそ、科学の力で人工的に地球を冷やすという気候工学に興味を持ち、その考えをもとに温暖化の原因である二酸化炭素を空気中から直接回収する研究をはじめました。

――地球温暖化は人類にとって深刻なテーマではある反面、日常の生活とは距離がある話題で、自分事に感じづらいという意見もあります。村木さんがこうしたテーマに真剣でいられるのはなぜですか。

僕は2000年生まれなので、22世紀の未来が他人事ではないのも関係していると思います。人生100年時代ですから、これからますます技術が進歩すれば同世代の多くは西暦2100年を越えて生きているでしょう。

その一方、温暖化がこのまま進めば2050年には気候変動による干ばつなどの影響で食糧が不足し、世界的に飢餓のリスクが高まると言われている。僕たちはそんな時代を50年以上生きるかもしれない。だからこれは遠い未来の話でも子孫のための話でもなく、自分自身に関係のある問題として捉えていますね。

どんなに否定されても、いつかは応援してくれる人に出会えるもの

――村木さんの研究は社会問題を解決するものだと言えますが、研究が世間から認められるようになったのはつい最近のことだそうですね。否定され続けていたのは何が理由だったのでしょうか。

実は、二酸化炭素直接空気回収の原理自体は、小・中学の理科で習うレベルの知識を組み合わせたもの。中学生の自分が研究できたくらいですから、さほど新しいものではありません。僕がこれまでやってきたのは、言うなれば「すでに発見された理論を、誰も取り組んだことのない問題に応用する」こと。しかし、化学の世界は未だ解明されていないような世紀の大発見をすることが王道であり、僕の研究はあまり理解してもらえませんでした。

研究発表をしても反応は冷ややかで、「その研究には意味がない」と頭ごなしに否定されたり、話すら聞いてもらえなかったりしたことは何度もありましたね。学校で研究の指導教官の先生からも「君の研究の何が面白いんだ。今すぐ辞めちまえ」と言われて実験室を使わせてもらえず、自宅でひっそりと研究をしていた時期もあります。

――でも、たとえ応援されなくても簡単には諦められなかった。それくらい、強い想いを持って取り組んでいたんですね。

もちろん本気で実現させたかったのも続けられた理由ですが、挫けずに済んだのはそれだけでもないんですよ。自分自身はメンタルが強いとは思っていなくて。やっぱり、人から否定されれば落ち込むし、悔しいです。でも、自分のやっていることは意味があるんだと信じていました。

信じ続けるためには、「どうせ上手くいかない」と否定されてもそこで諦めるのではなく、一度やってみることが大切。先生から意味がないからやるなと言われた実験をこっそりやってみたところ、僕が予想した実験結果が得られたことがありました。人から否定されたことが必ずしも反対された通りにはならなかった経験のおかげで、それからは「人に反対されればされるほど上手く行くんだ」と自分の中で思い込むことができ、挫けずに続けてこられました。

また、研究資金のためにダメ元で応募した総務省の「異能vationプログラム」に採択されたのも転機になりました。破壊的イノベーションを起こすことを期待して選んでいただけたこともあり、「あなたはそのままでいい。堂々と人と違う道を進みなさい」と言われたような感覚でしたね。たとえ身近に理解してくれる人はいなくても、世の中のどこかには応援してくれる人がいると思えたことが原動力になっていったんです。

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――事実、10年前は見向きもされなかった研究が今注目を集めているのですから、"今の価値基準で否定されること"が未来も同じとは限らないわけですね。

そうなんです。たとえば、宇宙開発が発展した先に必要になると言われているのが、"暇つぶし"の方法。火星に行くとなれば約半年を狭いロケットの中で過ごすことになるので、乗組員がメンタルに不調をきたすのではと心配されています。

今、新型コロナウィルスの感染拡大に伴い、偶然にも人類は自宅に閉じこもってロケット生活と近い経験をしました。すると、自宅で遊べるゲームや動画コンテンツが重宝されるようになった。これまではどちらかといえば「時間を無駄にするもの」として扱われてきたゲームやYouTubeのようなものが、宇宙開発という人類の挑戦に役立つかもしれないと、図らずも証明された気がしませんか。ひょっとしたら、初めて火星に行く船に乗り込む人の中にYouTuberがいる可能性だってあると僕は思っています。

「中身は最先端、見た目はゆるふわ」で化学をもっと身近に

――現在は、家庭・オフィス用に販売している二酸化炭素回収マシンは「ひやっしー」、回収した二酸化炭素からロケット燃料を生産するプロジェクトは「そらりん計画」と名付けられています。硬派な研究内容とはギャップのあるネーミングも、他の研究者とは異なる村木さんの特徴に感じました。

化学を壮大なものにしたくないんです。特に環境問題って専門家が研究室に籠って何かを発明すれば良い話ではなく、みんなの意識が変わる必要があるじゃないですか。だから、親しみやすい名前で興味を持ってほしかった。

家庭用やオフィス向けに開発を進めてきたのも、ひやっしーのボタンを押すだけで地球環境に貢献できる手軽さを味わい、化学を身近に感じてほしかったからです。「中身は最先端でも、見た目はゆるふわ」が、僕のプロジェクトのコンセプトですね。

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二酸化炭素回収マシン「ひやっしー」(写真:CRRA提供 撮影:Shunichi Oda)

――つまり、化学を一部の人のものにするのではなく、 裾野を広げてみんなものにしようと。

よく誤解されるんですけど、そもそも僕が理系一辺倒の"一部の人"ではないんです。得意科目は英語・国語・社会でド文系。数学なんてむしろ苦手な方で...。でも、たまたま火星に行ってみたいという夢ができて、二酸化炭素の奥深さにも出会って、夢中になって活動していたら今がある。だから化学の楽しさに触れる機会が世の中で限られている現状は、すごくもったいないと思っているんです。

――根っからの理系ではない村木さんが化学を探求しているから、既存のやり方にこだわらない型破りな印象を受けるのかもしれませんね。

"理系"や"化学者"って一般には少し取っつきにくいイメージを持っている人が大半だと思うんです。地味・オタク・陰キャ......みたいな。それによって壁が生まれたり分断されたりするのは悲しいじゃないですか。だから僕は化学者のパブリックイメージを変えたいです。

また僕は化学者ですが、大学生であり一人の若者です。多くの同世代がそうしているように、友達と渋谷で遊ぶのも大好きなんです。だからこそ、研究活動も大学生活もプライベートも優劣はなく、好きなことにはどれも全力投球していたい。もしかしたらそれが他の研究者とは違うイメージになっているのかもしれません。

――村木さんの世代は、好きなことであれば世の中のスタンダードから外れることを恐れない人が多いのでしょうか。

いえ、そうでもないと思います。一人になること、人と違うことを恐れる気持ちは僕たちの中でも強いと感じますね。親世代から「安定志向」を刷り込まれている人も多いですし。でも、それって上の世代も同じですよね。

研究が注目されてから、いろんな人にお会いできる機会が増えましたが、一般論を振りかざして否定してくる人もいれば、子どもみたいな冒険心を持って無邪気に話を聞いてくれる大人もいます。

多分、いつの時代であろうと何か新しいことをはじめようとすれば賛否が起こるのは当然で、結局は「好きなことを、好きなだけやるんだ!それが周り回って社会の役に立つかも!」というマインドを貫き通せるかどうかではないでしょうか。温暖化を解決するのに大人も子どもも関係ないし、化学者も一般の人も関係ない。僕自身はそんな想いでいたからこそ、人と違うことを恐れずにいられたのかもしれません。

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プロフィール/敬称略

※プロフィールは取材当時のものです

村木風海(むらき・かずみ)

2000年生まれ。小学4年生から二酸化炭素研究をはじめ、2017年には自身の研究活動が総務省主催の「異能vationプログラム」に採択される。2019年には世界を変える30歳未満の日本人30人として、「Forbes Japan 30 UNDER 30 2019」サイエンス部門受賞。現在は東京大学に在学しながら一般社団法人 炭素回収技術研究機構(CRRA)代表理事・機構長として地球温暖化を止め、人類の火星移住を実現させるべく活動している。

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