報道、バラエティ、VTuber...。テレビ東京 相内優香が習得した変幻自在の距離感

報道、バラエティ、VTuber...。テレビ東京 相内優香が習得した変幻自在の距離感

文:森田 大理

アナウンサーでありながらVTuberデビューを果たし、大学院にも通う。様々な立ち位置で社会に向き合っている相内優香アナウンサーと考える、人と人の適切な距離感のつくり方

現代の社会における「ほどよい距離感」とはなんだろうか。

デジタルテクノロジーの進化により物理的に離れた人同士が気軽にコミュニケーションできるようになる一方、リアルな場での対話の大切さも見直されている。スマートフォンやスマートスピーカーに喋りかけることで情報を得たり、ロボットを愛でたりすることが人々に受け入れられ、人と物の距離感も縮まった。「人と人」や「人と物」などさまざまな距離感のこれからについて考えていきたい。

今回話を伺ったのは、テレビ東京の相内優香アナウンサー。相内さんは、経済報道番組『WBS(ワールドビジネスサテライト)』に出演する傍ら、バーチャルキャラクター「相内ユウカ」としての活動や、2020年には大学院へ進学するなど、硬軟織り交ぜた柔軟さで社会と接している。そうした多様な経験を紐解きながら、人との適切な距離感をつくるヒントを探った。

※本インタビューは、新型コロナウイルス感染防止のためにオンラインで実施しています。

話すよりも聴くこと。新人時代に痛感したアナウンサーの必須スキル

── まずは、相内さんのキャリアの原点を教えてください。

中学時代に興味本位で参加した、NHK杯全国中学校放送コンテストがきっかけです。宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」を朗読したカセットテープを送ったところ、入賞したのが嬉しくて。朗読の楽しさや人に何かを伝えることの面白さを知り、高校でも放送部と新聞部を掛け持ちしてNHK杯の放送コンテストや弁論大会の全国大会に出場していました。

── その延長線上にアナウンサーの仕事があったのですね。では、新人時代の相内さんはどのようなアナウンサーでしたか。

学生時代から趣味で毎日発声練習をしていたこともあり、基本的なアナウンス技術の習得を学ぶことははとても楽しく、さほど苦労とは思わなかったんです。ところが、アナウンサー以前に社会人としての心構えが足りなくて、新人の頃は上司や先輩との距離感を間違えていました。私としては親しみを込めたつもりの言動が先輩への敬意を欠いていたり、自分に非があるのに「でも...」と素直に謝れなかったりしていましたね。

── 先輩との距離感を間違える。これは多くの人が通ってきた道かもしれませんね。相内さんはどう克服したんですか。

自分の話をする前に相手の言葉に耳を傾けるように意識を変えていきました。振り返ってみると、当時の私は自分を理解してほしいと意見を主張するばかりで、傾聴の姿勢が足りなかった。これは、アナウンサーとして大切なスタンスを身につけるなかで気づいたことなんですよ。

── 話すよりも聴くスキルが求められるということでしょうか。

アナウンサーは話す仕事だと思われがちですが、実際には聴くことに費やしている時間が圧倒的に多いです。番組のアシスタントを務めるときは、出演者の皆さんの言葉やリアクションに目を配ってスムーズな進行の橋渡しをする"潤滑油"になることが求められますし、インタビューや取材では相手の話をいかに聞き出すことができるかが仕事です。

また、アナウンサーの役割は、野球に例えるとキャッチャーのようなものかもしれません。試合全体の状況を捉えて、空気を作る。ピッチャーに気持ちよく投げてもらえるようにボールをしっかりと受け止める。出演者やスタッフの方たちと円滑なコミュニケーションを通して相手との信頼を築きながら、心の距離を縮めていくことが番組作りには大切なのだと教えられました。

フィールドキャスターは熱っぽく。メインキャスターはおだやかに

── 番組の内容やシチュエーションによって、人(共演者や視聴者)との距離感は変わる気がします。それにあわせて相内さんが意識していることはありますか。

声のトーンや話し方を調整していますね。バラエティ番組なら高めで元気な声色で話しますし、夜の報道番組なら声のトーンを落とします。私が担当している『WBS』は夜11時時からの放送(2021年1月現在)なので、寝る前にご覧になっているかもしれないし、仕事が終わってほっと一息つくタイミングかもしれない。地域によっては周囲がシーンと静まり返っているかもしれませんよね。そんな風に番組をご覧になっている光景を想像しながら、相手に心地よく届く伝え方を意識しています。

── 『WBS』では元々フィールドキャスターを務められ、現在は火・水曜のメインキャスターを担当されています(2021年1月クール)。取材に出掛けるフィールドキャスターと、スタジオでニュースを読むメインキャスターでは、伝え方に違いはありますか。

フィールドキャスターは、主に現場でリポートしてきたものを伝える役割なので、経済ニュースの現場の臨場感が伝わることを意識してきました。言葉に熱を乗せるイメージですね。一方、メインキャスターは番組の中心となってニュースを伝える役割ですから、情緒的なニュアンスは極力抑えて落ちついたトーンにしています。

── 今私たちは、新型コロナウイルス感染防止のために人と一定の距離を取ることが求められています。オンラインインタビューの機会も増えていると思いますが、相手との距離をどう縮めていますか。

オンラインで特に意識しているのは、「アクティブリスニング(積極的傾聴)」ですね。物理的な距離が離れているからこそ、相づちなどのリアクションで「話が伝わっている」という安心を感じてもらいたい。小さな画面では分かりづらいかもしれないから、いつもより大きめに頷くようにしています。

── マスク越しのコミュニケーションについても教えてください。『WBS』では1月からスタジオ内で主演者同士が会話する際はマスクを着用していますよね。物理的には距離を縮められないという制約が前提にあるなかで、心理的距離を近づけるための相内さん流の工夫はありますか。

マスクで顔の半分を覆われると表情がほとんど分からなくなるので、ただですら不安なニュースが多い中で余計に視聴者の皆さんを怖がらせることになるのではないか。当初はそんな心配もありましたので、視聴者の皆さんに少しでも安心感を持ってもらうには、どうしたら良いのかを自分なりに考えました。

マスクは目元しか見えないので優しい印象が出るように茶色のアイラインを使って引き方を少しだけ垂れ目風にしてみたり、髪型を直線的ではなく柔らかい雰囲気が出るように曲線が強調されるように変えてみたり、言葉がはっきり伝わるように声をいつもより少し張りつつも、トーンは落としてゆっくり、優しい言葉を意識して話してみたり。これまで実践してきた状況に応じて使い分けるスタンスを、コロナ禍でも続けている感覚ですね。

自分の立場を変えてみたら、遠いところにも手が届いた

── アナウンサーの枠を越えた活動についても教えてください。相内さんはバーチャルキャラクター「相内ユウカ」としてVTuberデビューをしています。"ユウカ"として番組出演や書籍の出版もされていますが、生身の相内さんとキャラクターの"ユウカ"では、インタビューをする相手との距離感がかなり変わりませんか。

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たしかに全く違いますね。"ユウカ"の時は敬語を使わなかったり、辛辣な質問を投げかけたりと、普段の私にはできない大胆なコミュニケーションをします。そのせいか、"ユウカ"がインタビューをすると、相手の本音を自然と引き出せることがあるんですよ。コミュニケーションは鏡のようなもの。私が"ユウカ"になって敢えて言葉を崩すことで、相手もフランクに話をしてくれるような効果を感じますね。

また、キャラクターと話すことは非日常体験。インタビュー相手の皆さんもバーチャル世界の一員に加わったような気持ちになるそうです。子どもたちに教えるようなわかりやすく優しい口調に変わっていくなど、解説者と視聴者の距離が一気に近づくんですよ。

── 難しい話を分かりやすく伝える効果も大きいのですね。

そうですね。VTuberとしてネットコンテンツも展開したことで、見た目がアニメキャラクターということもあり、普段ネット中心でテレビを見ない人や若年層に関心を持ってもらうきっかけになったと思います。経済ニュース番組とは遠いところにいる層との距離を一気に縮められる効果も感じています。

── 一方で相内さんは大学院生としての顔もお持ちです。2020年から早稲田大学大学院経営管理研究科でMBAの取得を目指されていますが、アナウンサーとは違う立場も経験することで、社会のとらえ方・距離感は変化しませんでしたか。

実際に手を動かして課題に取り組み、専門的に学ぶことで、経済のとらえ方が変わりました。例えば、テレビ東京のIR情報を分析をして今後の成長戦略を計画してみたり、他社の統合報告書を読み込んで企業の社会的価値について考えてみたり...。そんな風に自社や他の企業についてをじっくり分析する機会はほとんどなかったので、アナウンサーとして経済番組に携わるのとはまったく違う距離感で経済に接しています。

また、番組で取り上げるニュースについても、どんな戦略なのか、どんな経営理論が当てはまるのかを考えるようになりました。経済がより身近になったと同時に視座は以前よりも高く、視野は広くなった感覚。普段の仕事とは別のところに自分から身を置いたからこそ、得られたものだと思います。仕事と学業の両立は正直大変ですが、経済報道キャスターとして、番組で学ぶと同時にMBAの勉強でも経済の専門性を磨いていきたいです。

分断が進む社会。人と人の距離が縮まる情報の伝え方をしていきたい

── 報道には、時代の変化を伝える役割もありますよね。相内さんは『WBS』を丸10年担当されましたが、この10年を振り返ってみると、どんな変化を感じますか。

多くの皆さんが感じている通り技術の進化が目覚ましく、GAFAなどの巨大IT企業が代表されるようにビッグデータを活用した情報産業が大きく飛躍した10年でしたよね。ただその中では、順応した企業・人に富が集中し、できない人との格差が広がりつつあるように思います。

また、大統領選に象徴される米国の分断がニュースになっていますが、日本でも、匿名性の強いインターネット上ではこれまでにも増して攻撃的な意見が増えたように感じます。

── テクノロジーによって離れた人と気軽にコミュニケーションを取れる手段が増えた反面、立場や思想が異なる人との距離は縮まるどころかむしろ離れている、ということですね。

新しい技術を使いこなせる人や、時代の変化に対応できる人にとっては良くても、みんながこの加速度的な変化を受け入れられる訳ではないと思うんです。ましてやコロナ禍で両者の違いはますます鮮明になってきている。お互いの状況を理解できないまま、日本でも所得や教育、情報などの様々な格差が拡大し、分断が表面化してしまうのではないかと懸念しています。

── そうした社会の中で、相内さん自身はどうあるべきだと考えますか。

こんな時代だからこそ、テレビにできる役割をずっと考えています。若者はテレビをあまり見ずにインターネットに時間を割いていると言いますが、ネットは自分の興味のある情報だけをピックアップして見られるからこそ、無意識に情報を自分の都合良く捉えてしまうリスクもあると思うんです。だからこそ、視聴者が見たいニュースを選ぶことができないテレビの役割は大きいと感じています。

先行き不透明で不確実な時代、心配なニュースも多いですが、だからといっていたずらに煽るのではなく、フラットに様々な事実・意見を丁寧に伝えていきたいです。視聴者の声に耳を傾け、寄り添いながら、社会全体の距離が縮まる情報の伝え方をするにはどうしたら良いのかを真摯に考え続けていきたいですね。

プロフィール/敬称略

※プロフィールは取材当時のものです

相内優香(あいうち・ゆうか)

テレビ東京入社後、編成局アナウンス部(現:総合編成局)に配属。これまでに『バンクーバー・オリンピック』の現地キャスターや『池上彰の報道特番』など、報道・スポーツ・バラエティと様々な番組を担当。現在は『WBS(ワールドビジネスサテライト)』などの報道番組を中心に、『Mixalive presents田村淳が豊島区池袋』やバーチャルアナウンサー「相内ユウカ」など、新規事業領域の番組やイベントを数多く担当している。この春から『Newsモーニングサテライト』のメインキャスターを務める。

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