「私達がやらないと国がなくなってしまう」Z世代が民主主義のDXに挑む理由

「私達がやらないと国がなくなってしまう」Z世代が民主主義のDXに挑む理由
文:葛原 信太郎 写真:須古 恵(写真は左から藤井 海さん、栗本拓幸さん、栗栖翔竜さん)

民主主義のDXを推進するスタートアップ・Liquitousのメンバーはその多くがZ世代だ。彼らはなぜ政治や合意形成の未来を憂いているのか。

1990年中盤以降生まれの「Z世代」が、いよいよ社会で活躍をはじめている。彼らはどんな社会背景を持って育ち、どのような価値観を持っているのだろうか。

今回話を聞いたのは、オンライン合意形成プラットフォーム「Liqlid(リクリッド)」の開発・社会実装をすすめる株式会社Liquitous(リキタス)の3名。代表取締役で1999年生まれの栗本拓幸(くりもと・ひろゆき)さんと、2000年生まれの栗栖翔竜(くりす・しょうた)さん、藤井 海(ふじい・かい)さんの話を前後編にわけてお届けする。前編は民主主義のDXに取り組むことになった3人の思いや背景から、それぞれのビジネスにおける価値観とその形成について紐解いた。

後編:多様性を一つの価値観とは捉えない?民主主義のDXに挑むZ世代からみた同世代

このままでは未来が変わるとは思えなかった

── まずはLiquitousの事業について教えてもらえますか。

栗本 Liquitousは民主主義のDXを推進するスタートアップです。いわゆるGovTechやCivicTechと言われる領域で「一人ひとりの影響力を発揮できる社会」の実現を目指しています。

主な事業内容は3つ。1つは、対話・熟議に基づいた合意形成を実現するオンライン・プラットフォーム「Liqlid」など、民主主義のDXを具現化するソフトウェア群の開発や販売。2つ目は、民主主義のDXに関する参考事例・政策の収集・分析と政策提言。3つ目は、ソフトウェア開発や政策研究に基づいた自治体向けの企画・コンサルティングです。未公開も含めて、既に10を超える自治体で実証や事業導入を進めています。

写真
代表取締役CEOの栗本拓幸さん

── 会社内ではそれぞれどのような役割を担っているのでしょうか。

藤井 僕はリサーチャーとオペレーターを務めています。リサーチャーは、国内外の市民参画の事例を調査して、記事としてまとめて発信する仕事。オペレーターとしてはウェブサイトのデザインを担当しています。

── デザインを専攻しているのですか。

藤井 いえ、特にデザインを専攻していたわけではありません(笑)。なので、ゼロから勉強しながら業務にあたっています。

栗栖 私も藤井と同じくリサーチャーをしながら、コミュニケーターとしての業務も並行しています。これはいわゆる広報。SNSなどのメディアの運用や、企業や行政に対する情報発信・PR、動画配信などもやっています。また、私も藤井も、さまざまな自治体と取り組んでいるLiqlidの実証実験におけるプロジェクトマネージャーも務めています。

── さまざまな業務を兼務しているんですね。

栗栖 ふたりとも、調査と現場を行き来しているんです。私たちの仕事は、サービスをつくって終わりというものではありません。行政や議員のみなさんと密にコミュニケーションを取り、場合によってはロビー活動などもしながら、新しい社会をつくっていくアクションを起こさねばならない。私も常に現場に出て、関係をつくっていくことを大切にしています。

── そもそも栗本さんが起業したきっかけはなんだったのでしょうか。

栗本 小さい頃から統治(ガバナンス)に興味があり、学校の生徒会やNPO活動に参加してきました。そうした経験を通じて、「もっと日常的に市民の声が政治に反映される仕組みや、市民が政治に参加する回路をつくりたい」と思うようになったのがはじまりです。

大学に入学した2018年以降、2019年春の統一地方選挙や夏の参議院選挙などをはじめさまざまな選挙戦で党派を超えて20弱の候補者陣営のコンサルティングを経験しました。選挙活動をサポートし、公約に厚みを持たせていくことで、市民の政治参加につながる糸口が見えるのではないかと思ったんです。

しかし、正直なところ「一人ひとりの影響力を発揮できる社会」とは程遠いと感じました。候補者のみなさんは「市民の声が重要だ」「市民の声を聞かなきゃいけない」とおっしゃるのですが、実際に選挙でやるのは街頭や選挙カーからの演説。演説中に要望を伝えてくれる市民はいるにはいますが、あまりにもアナログな手法で市民の声が政治に届いているとは言い難かった。

これを解決するにはテクノロジーを使うしかないと考えました。実際、すでに海外には市民の声を行政や政治に届けるようなオンラインプラットフォームも存在します。日本の現状もどうにかしたいという思いが募り、2020年2月に合同会社として法人登記をしました。その時点では、目の前でお金になるかどうかは二の次だったんです。社会に必要な事業になるはずだから、どこかでは採算がとれるようになると考えていました。

ここで偶然にも起きたのが新型コロナウイルスの世界的な感染拡大です。あらゆる業界でDXの重要性が増し状況が大きく変わりました。ここは一気に仕掛けるべきタイミングだと考え、いわゆる「スタートアップ」として動けるように2021年に株式会社へと変更したんです。

写真

海外に出てから気づけたこと

── そこに参画したのが、栗栖さんと藤井さんなのですね。お二人はなぜLiquitousに参加しよう思ったんですか。

栗栖 私が入社したきっかけは、高校時代の研究にあります。私の高校は文部科学省からスーパーサイエンスハイスクールに指定されており、理科学系の研究活動のカリキュラムがありました。そこで私は、魚を使った集団心理を研究していました。というのも、人間の脳とおおまかな構造が似ている種がいるんです。小型魚類を対象とした研究を通じて、人の集団としてのコミュニティやコミュニティ内のコミュニケーションの構造を知れるのではないかと考えていました。

政治・行政への関心も、集団コミュニケーションへの興味からです。さまざまな人が各々の考えを持ち、それをやり取りしながら何かを決めていくのが政治・行政ですから。それに加えて、政治的な社会課題にも関心がありました。自分にとって大きな出来事だったのは、魚の研究で訪れたタイでの経験です。学校のプログラムで王立学校を訪ね、タイの王族の方に研究成果をお話する機会をいただきました。

しかし、そこで大きな矛盾を感じたんです。いきなり日本からやってきた私たちが王族と話せる一方で、現地の同世代は私たちの身の回りの世話に従事していた。私たちの研究成果を聞いてもらえるのはとてもありがたいですが、本当に話を聞くべき人は別にいるんじゃないか。解決すべき課題がたくさんあるんじゃないかと思ったんです。

そんな思いを抱えていたときに知ったのが、民主主義のDXに取り組むLiquitousでした。デジタルのコミュニケーションやプラットフォームによって世界を変えていけるのではないかと考えて参画したんです。

写真
リサーチャー・コミュニケーターの栗栖翔竜さん

藤井 僕も中学生のときから社会的なことに興味がありました。好きなテレビ番組は「報道ステーション」でしたし、特に投票率の低さが気になっていたんです。でも、友人と話すことはなく、そういった話はもっぱら家族としていました。

関心を持ち始めたころは、投票に行かない大人が悪いんだと思っていました。大人としての意識が低すぎると。でも、中学2年生のときに訪れたデンマークで、その考えがガラッと変わりました。

現地では、同じ年の学生たちもオープンの政治を議論し合っていた。それにも驚きましたが、何より制度や法律が国によってまったく異なることをそのときはじめて知ったんです。もしかすると、人の意識の問題ではなく、「制度やシステム」が変われば人は変わるんじゃないかと思ったんです。

よくよく考えれば、年に何回もない投票くらいでしか自分の思いを政治や行政に伝えるチャンスがなく、投票に行ったとしても自分の思いが伝わっているかどうか分からない。であれば、投票率が低くなるのも仕方ないのかもしれない。意識を変えるのではなく、仕組みを変える必要があると思うようになりました。

── 確かに、現状だと自分の思いと政治の実態にはどうしても距離を感じますね。

藤井 しかし、問題意識は持ちつつも、なかなか行動には移せませんでした。というのも、サッカーにも夢中で、高校3年生までは本気でプロを目指してサッカー漬けの毎日だったんです。大学進学を機に、政治や行政参加に関して何かしらのアクションに参加しようと思っていたところ、栗本さんの会社が立ち上がることをアルバイトの先輩から聞き、ぜひ参加させてほしいと連絡したんです。自分と同じようなことを考えている同世代がいて、さらに起業するだなんて非常に驚きました。

写真
リサーチャー・オペレーターの藤井海さん

栗本 実は私も、起業するほどまでに民主主義のDXに思い入れを持ったのは海外での経験からなんです。私は高校3年生の時にスウェーデンとエストニアを訪れました。両国とも行政のDXが進んでいる国で、現地でそれらに取り組む若い起業家とディスカッションしました。彼らは「私たち若い世代が頑張らなければ、この国はなくなってしまう」と本当に真剣に取り組んでいました。

── 今の社会情勢を踏まえると、その言葉の重みを実感します。

栗本 政治や行政、民主主義といったものがどれだけ社会に重要か、改めて実感したのです。もうひとつ印象的だったのは、たまたま同席したチュニジアのメディアに「なぜ日本人が視察に来ているのか?」と聞かれたことでした。「日本ではとっくにテクノロジーの活用は進んでいるだろう」と思われていたのです。こうした経験は自分にとってとても大きな出来事でした。

いますべきは、日本での事例を増やすこと

── そうした思いを背景に、実際にさまざまなプロジェクトに取り組まれているかと思います。業務にあたってはどんなことを大切にしていますか。

栗栖 私は、さまざまな方と顔が見える関係で仕事を進めることを大切にしています。デジタルプラットフォームとは言え、自治体や住民などさまざまな関係者のみなさんと直接お会いするからこそ情熱や葛藤、困っていることを肌で感じられますから。

藤井 海外ではさまざまな民主主義のDXの事例がありますが、日本ではまだわずか。今はとにかく一つでも実例を増やしていくことが大切だと思います。実証実験を通じて、自治体の方の「どうにか行政システムを良くしたい」という気持ち、住民の皆様の「もっと自分たちの声を聞いてほしい」という切実な願いが常に伝わってくる。僕たちが現場で試行錯誤することで、市民の社会への参画の可能性を広げていくことに少しでも貢献できているのであれば、こんなに嬉しいことはありません。

栗本 自らの手で実例をつくっていくことは非常に重視しているところです。「海外ではこういう事例がある」と啓蒙してればいいというフェーズでもなければ、日本の事例を紹介するだけでも足りない。「つくっていくこと」が大事なのです。

私たちがご一緒している自治体の職員さんは、街の存続や発展のために、真剣に知恵を絞っています。どの自治体でもあるような一般的な議論もありますが、その中には土地ごとに文化があって、住んできた人々がいて、時代を遡ればその街を切り開いてきた先人もいる。それらを踏まえると、すべてを合理性のみで片づけることはできません。

だからこそ、人々の知恵や意見を集めて、どのような未来を切り開いていくか、いかに次の世代に紡いでいくのか、市民の声や意見、知恵を含め一緒に考えるステップが必要です。私たちのビジネスは、ここに貢献できる。だからこそ、1つずつでも実例を増やして、その価値を証明していかないといけないと思っています。

(後編に続きます)

プロフィール/敬称略

※プロフィールは取材当時のものです

栗本拓幸(くりもと・ひろゆき)

1999年生まれ。株式会社Liquitous 代表取締役CEO。市民の社会参加/政治参加にかかる一般社団法人やNPO法人の理事、地方議員コンサルタントなどとして活動。現場の声や自らの経験をもとに、デジタル空間上に、市民と行政をつなぐ「新しい回路」の必要性を確信し、2020年2月にLiquitousを設立。

藤井 海(ふじい・かい)

2000年生まれ。株式会社Liquitousリサーチャー・オペレーター。法政大学法学部政治学科を休学中。中学生の頃、デンマーク海外派遣に参加し、日本とデンマークの教育や政治などの社会システムの違いに衝撃を受ける。以来、政治に関心をもち、大学では主に経済分野から政治を学ぶ。

栗栖翔竜(くりす・しょうた)

2000年生まれ。株式会社Liquitousリサーチャー・コミュニケーター。慶應義塾大学総合政策学部に在学中。集団での研究活動などの経験から、「コミュニケーションのあり方」に関心を持つ。以来、郊外のコミュニティ運営を支援する学生団体の設立等に寄与したのち現職。大学では主にメディア政治学と精神分析学を学ぶ。

関連リンク

最新記事

この記事をシェアする

シェアする

この記事のURLとタイトルをコピーする

コピーする

(c) Recruit Co., Ltd.