大人になるまで待たなくたって良い。22歳の環境活動家が日本の学生たちに伝えていること

大人になるまで待たなくたって良い。22歳の環境活動家が日本の学生たちに伝えていること
文:森田 大理 写真:今井 駿介

大学を休学して気候変動に関する講演を全国220校以上で実施。22歳の環境活動家 露木しいなさんの生き方から、Z世代ならではの価値観を学ぶ

1990年代中盤以降生まれの「Z世代」が、いよいよ社会で活躍をはじめている。彼らはどんな社会背景を持って育ち、どのような価値観を持っているのだろうか。今回話を聞いたのは、環境活動家の露木しいなさん。高校時代を「世界一エコな学校」として知られるインドネシアのGreen School Bali(以下、グリーンスクール)で過ごし、2019年に帰国。国内の大学へ進学した後、現在は休学して気候変動についての講演会を全国の小学生から大学に行っている。

Z世代は環境問題への関心が高いと言われており、日常生活で意識するだけでなく、社会起業家として自ら課題解決に乗り出す人も登場しはじめている。しかし、そのなかでも露木さんが際立っているのは、「活動家として啓蒙する」というアプローチを取っていることだ。グローバルでもグレタ・トゥーンベリさんのように若き活動家が登場しているが、22歳の露木さんはどのような思いで社会に働きかけているのだろうか。

社会を変えた高校生を間近に見て、純粋に憧れた

── 露木さんはどういった教育方針のもとで育ったのでしょうか。

私の母は、子どもに何かを強制するようなことは言わない人でした。幼少期からいろいろなことを母に相談していましたが、私のやりたいことに対して反対された記憶がないです。ただ、否定はしないけれど「何でやりたいの?」と必ず聞かれるんですよ。自分の思いや考えを言葉にしてプレゼンすることを求められていた気がします。

── ということは、バリのグリーンスクールへの留学もお母さんにプレゼンしたのでしょうか。グリーンスクールは、「世界一エコな学校」としてグローバルで注目されていますが、露木さんはなぜこの学校への留学を希望したのですか。

実は、入学前から環境問題に強い関心があった訳ではないんです。留学を考えたそもそもの動機は、「英語が話せるようになりたい」。ただ、いつものように母に相談してみると、「語学を学ぶだけなら日本の英会話スクールでもできる。せっかく行くなら日本ではできないことを学ぶために行ったらいいんじゃない?」と言われました。

そこでインターネットで面白そうな学校を探して、たまたまヒットしたのがグリーンスクール バリ。本当に偶然の出会いでした。私は、地域の竹を使って建てられた校舎の写真にすっかり魅せられてしまって。「大自然の中で勉強できるなんて楽しそう」という気持ちでしたし、日本の授業とは全く違うスタイルにも惹かれたんです。

露木しいなさんが通っていたバリのグリーンスクールの仲間たち

── では、環境問題への思いはグリーンスクールでの経験から育まれたのでしょうか。

そうですね。もちろん、留学前から「環境問題」が世の中に存在することは認識していましたが、日本では自分の普段の生活からどこか遠いものだと感じていました。それが、バリ島では近くで“見える”問題だったんです。例えばゴミの山を授業で訪れたこと。ニュース映像などで見たことはありましたが、実際に五感で感じて、これがいかに深刻な問題かを認識することができた。そうした体験を沢山できたことが、私と環境問題との距離を縮めてくれたと思います。

── 環境問題との距離が近かったことが活動する動機になっている、と。

いえ、実はちょっと違うんです。私は問題を間近に見てすぐに行動を起こせたわけではありません。もちろん、なかには問題意識を原動力に活動している人もいるとは思うんですけど、私の場合はそうした正義感というより、環境問題へ取り組む同級生たちへの憧れでした。

一番影響を受けたのは、バリ島で脱プラスチックを呼びかける「バイバイ・プラスチックバッグ」のキャンペーンをはじめたワイゼン姉妹。彼女たちはゴミ拾いからはじめて、地道な努力の末に使い捨てプラスチックの使用を禁止するという条例の改正に成功しています。姉のメラティと同級生だった私は、彼女たちが格好良く見えた。楽しそうに行動する姿に憧れ、私もそうなりたいと思ったのが行動の原点です。

環境問題に興味のなかった私が、環境問題を語ることの意義

── 露木さんの具体的な活動としては、まずグリーンスクール在学中にオーガニックコスメのブランドを立ち上げていますよね。これにはどんな背景があるのですか。

きっかけは、私の妹が化粧品を使用して肌荒れを起こしてしまったことです。妹のために肌に優しいオーガニック化粧品をつくろうと学校の設備を借りて研究していたところ、次第に周囲も興味を持ってくれ、活動が広がっていきました。

露木しいなさんがインドネシアで立ち上げたブランドは、現在「SHIINA organic」として、日本展開をはじめている
インドネシアで立ち上げたブランドは、現在「SHIINA organic」として、日本展開をはじめている

── 高校卒業後は、日本の大学に進学しています。これは当初からの計画だったのでしょうか。

これも母への“プレゼン”のおかげですね。グリーンスクールの卒業生は世界中の大学へ進んでいたので、当初は私も海外の大学で学びながら環境問題に取り組もうと思っていました。でも、母に話すと「環境問題に取り組むのは良いけど、あなたは誰のために活動したいの?」と聞かれて。そこで、「日本の人たちに世界で起きている実態を伝えたい」という自分の思いに気づいたんです。日本に戻るなら、もう大学は行かずに活動しようとも思ったんですが、その時点では活動の具体的な中身は見えていなかった。そこで母のすすめもあって一度大学に進学することにしました。

── 大学へは進学したものの1年で休学を決断し、現在は講演活動などを行っています。なぜ活動に専念することにしたのですか。

日本に戻ってみると、人々の暮らしと環境問題があまりに結び付いてないことを再認識したんです。例えばビニール袋。ある日コンビニのレジで見かけたのは、あるお客さんが買ったおにぎり1個を当たり前のように店員さんが袋に入れる光景でした(当時はレジ袋が無料)。しかもお客さんはすぐ食べるつもりだったのか、店を出るなりおにぎりを取り出し、袋は備え付けのゴミ箱に捨てていた。果たして袋は必要だったのか疑問に思うと同時に、それが特別な出来事ではなく、日常として何の疑いもなく多くの人が受け入れていることに危機感を覚えました。

ただ、私自身もかつて同じように生活していた一人なので、環境問題に興味がない人の気持ちも分かるんです。当たり前に過ごしている日常の中で、問題を認識するのはなかなか難しい。自分ごととして考えづらいのは無理もありません。けれど、私はバリでの高校生活を通して環境破壊の現実を目の当たりにし、問題を認識したことで意識が変わっていきました。それなら、私が海外で見てきたものを日本に伝えたい。そうやって自分のやりたいことが固まったから、今すぐやってみようと休学したんです。

環境活動家としてのキャリアを語る露木しいなさん

── 環境問題に興味がない人の気持ちも分かるからこそ、環境活動家の道を歩むことにしたんですね。

今の自分にできることを精一杯やりたかったので、休学は自然な決断でした。ただ私は“環境活動家”になりたかったわけではないんですよ。私は何者かであるより「何をするか」が大事だと思っているので、肩書きには興味がなかった。でも、口紅づくりのワークショップや講演活動、日常でゴミを減らすための暮らしをしているうちに、段々と周りからそう呼ばれるようになって。自分のやりたいことを端的に説明するには「環境活動家」が分かりやすいのかもしれないと気づき、環境活動家を名乗るようになりました。

環境問題の解決以前に、自分がやりたいからやる

── 露木さんは約3年で全国の小中高大学220校で講演活動を行っています。子どもたちや社会に出る前の学生にフォーカスして活動しているのはなぜでしょうか。

一番の理由は、「社会を変えたい気持ちがあるのなら大人になるまで待たなくても良い」と伝えたいからです。私はグリーンスクールで環境問題に関してたくさん学びましたが、それ以上に刺激を受けたのは、生徒を子ども扱いせず一人の人間として扱ってくれたことでした。周囲の大人たちがそうであるだけでなく、クラスメイトも「自分は子どもだから」なんて遠慮はせず、自分の意見を主張するのが当たり前。バリ島の脱プラスチックを前進させたワイゼン姉妹のように10代で社会に働きかけて社会に変化が起きた事例を、私は目の前で見て知っているんです。そうした私の体験を日本の学生たちに伝えたくて活動しています。

── とはいえ、講演活動を始めた頃の露木さんは19歳。現在でも22歳という若さでこれだけの数の講演を実現するのは困難もあったでしょう。諦めずに続けてこられた原動力は何ですか。

環境のためである前に、私がやりたいことだからです。講演活動はたくさんの人の前で話すことで、新たな出会いを引き寄せてくれるところが楽しいですし、口紅の開発もモノづくりを通して身近な人に喜んでもらえるのが嬉しくてやってきました。私は純粋に講演活動や商品開発が好き。それがたまたま気候変動や海洋汚染といった解決したい問題とつながっている感覚で、私の原動力は地球環境を守りたいこと以上に「自分のやりたいことに思い切りチャレンジすること」なんです。

それに、私は「環境問題に取り組もう」というある種の“正しさ”を押し付けるようなことはしたくなくて。講演でも私や知人の活動については話しますが、「だからみなさんも行動しましょう」とは言わないようにしています。環境問題にあまり関心がない人にただ大切さを説いても、いたずらに義務感や罪悪感を植え付けるだけです。それよりは、かつて私が同級生に憧れたように、「格好いい」「楽しそう」「あの人みたいになりたい」と思ってもらうこと。私の話を聞いて、何か一つでも学べるものがあったら光栄だなというスタンスで臨んでいます。

Z世代の価値観について話す環境活動家の露木しいなさん

── 露木さんが自分のワクワクを大事にしており、その生き方を子どもたちにも広めようとしているのは、リクルートの「FOLLOW YOUR HEART」というメッセージとも共通点があって、私たちも嬉しいです。そうした価値観は、みなさんの世代では多いのでしょうか。

私たちは個性を大事にと言われて育ってきた世代なので、どんなに正しいことでも上から強制されるようなメッセージには違和感を覚える人が多いかもしれません。でも、だからといって人の意見を聞かないわけではなくて、フラットに情報に接しつつ良いものは取り入れていきたい。同世代の友人には、SNS上で私の活動をみるうちにオーガニックのシャンプーを調べて買うようになった人や、ヴィーガンレストランに行ったと報告をしてくれた人もいて、関心を持ってくれたことが嬉しいです。

そんな風に、私とのつながりや関係性の中で少しでも多くの人たちに関心を持ってもらいたい。例えば今、新しく開発しているオーガニックリップはクラウドファンディングで一部資金を調達したのですが、これはお金を集めるためというよりできるだけ多くの人に関わってもらうための試みでもありました。そんな風につながりを持てた人に情報発信をしたり、一緒に活動に加わってもらったりしながら、共感の輪を広げていきたいです。

プロフィール/敬称略

※プロフィールは取材当時のものです

露木 しいな(つゆき・しいな)

2001年横浜生まれ、中華街育ち。15才まで日本の公立学校に通い、高校3年間を「世界一エコな学校」と言われるインドネシアの「Green School Bali」で過ごし、2019年6月に卒業。2018年にCOP24(気候変動枠組条約締約国会議) in Poland、2019年にCOP25 in Spainに参加。肌が弱かった妹のために口紅を開発し、Shiina Cosmetics(現在のSHIINA organic)を立ち上げる。2019年9月、慶應義塾大学環境情報学部に入学。現在は、気候変動についての講演会を全国の小学校から大学にて行うため、休学中。

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