プロダクト企画とR&Dエンジニアが協働して『カーセンサー』のUX改革を実現

プロダクト企画とR&Dエンジニアが協働して『カーセンサー』のUX改革を実現

2023年1月、中古車情報メディア『カーセンサー』のR&Dでは、画像カテゴリ判別AIを用いた「アノテーション」機能が搭載された。この新機能開発によって、ユーザーがスマホひとつで、店舗でのクルマ探しを疑似体験できるUXを実現しました。中心となって手掛けたのは、新卒入社4年目、技術未経験でプロジェクトリーダーを務めた桒原元芳と、大手総合電機メーカーの研究所を経て2021年に中途入社した機械学習エンジニア・中田百科。職種も実務経験も異なる二人が、どのようにしてお互いの強みを活かし、リクルート初の新機能開発に至ったのでしょうか? その協働の裏側について聞きました。

社内の技術的な限界で一度は挫折した案件。新任エンジニアの好奇心から道が開けた

桒原元芳(以下桒原):近年、Web上のマッチングサービスでは、ユーザーのニーズに合致した情報にであえるように豊富な情報を掲載することが重要視されてきました。これまで、中古車情報メディア『カーセンサー』でも掲載情報のリッチ化に取り組み、80枚もの商品画像や360°画像を見られるようにすることで、多くの情報をユーザーにお届けしていました。しかしながら、情報が膨大になるがあまり、かえってユーザーが本当に欲しい情報に辿り着けないという状況に陥っていました。

そこで打開策として取り組んだのが、ユーザーが直感的に見たい情報にスマホ上でアクセスできるUXの実現。具体的にはAIの技術「アノテーション機能(※)」を用いることで、車体の360°画像と各パーツの画像を連携させ、360°画像のなかで詳しく見たい部分をクリックするだけで、その部分の詳細画像を見られるUXを実現したいと考えたんです。
※画像上にタグを表示させ別の画像に遷移させることができる機能

中古車メディア『カーセンサー』の商品表示画面。ユーザーが車内の画像を左右にスワイプすると、外装・内装を360°好きな角度から確認できるようになった
中古車メディア『カーセンサー』の商品表示画面。ユーザーが車内の画像を左右にスワイプすると、外装・内装を360°好きな角度から確認できるようになった

中古車メディア『カーセンサー』では、「アノテーション機能」を独自開発。画像カテゴリ判別AIの技術を用いることで、360°画像と複数の詳細画像を自動連携できる。

実は、それまでも社内では開発の構想自体はされていたものの、『カーセンサー』のサービス上で実現できるかどうかは、明確な答えがなかったという。画面に表示する360度画像上のパーツと詳細画像を紐づけるにはAIの力を借りる必要があるが、実際の「車」には特有の歪みやノイズがあるため、従来の物体検出法では難しいことが基礎検討時点で分かっていた。

中田百科(以下中田):既に社内で「こういう仕組みを作りたい」というイメージはあったのですが、技術的に実現する術が無かった。私の所属するリクルート横断でR&Dを行う部署に「やってくれそうな人はいないか?」と打診が来て、手を挙げたのが私でした。

これまでのキャリアでは量子コンピュータの研究が専門で、画像解析自体は未経験でした。ですが、昔から得意な物理学が車の画像解析に活かせそうだと思って、やってみたくなったんです。こういった自分の興味関心をきっかけに、自由度の高い実践的な研究をできることがリクルートの醍醐味だと思い、飛び込むことにしました。

プロジェクトアサインされ、偶然出会ったふたり。目的を明確にして目線を揃え、とにかく話し合った

『カーセンサー』のプロダクトデザインを担当する桒原が、本件のプロジェクトリーダーとしてアサインされたのは、開発の具体的な要件定義について話が進んだ後のこと。桒原自身は機械学習に関わるプロジェクトが未経験だったため、キャッチアップには苦労したという。

桒原:自分以外のプロジェクトメンバーの皆さんは、案件をある程度理解できているものの、リーダーであるはずの自分が一番分かっていない。まだ自分事化できていない状況のなかで、プロジェクト上は開発要件定義の締切が迫っていて…。とにかく焦りました。

中田:傍から見ていると、桒原さんは2022年4月の合流後から凄い勢いでキャッチアップしていたので、焦っているとは思いませんでしたが、中古車業界の繁忙期である1~3月に向け、8ヶ月後にはリリースをしたいという目標があったので、着任早々決断を急がねばならないタイミングではあり、大変だったと思います。

桒原:そのなかでまず自分がやったのは、全員で案件の「目的」に納得することでした。私たちもそうだったように、人の入れ替わりがあるプロジェクト体制だったので、まずは目指す姿を明確にして、全員で目線合わせすることが必要だと思いました。

そこで、自分なりに体制図含めて整理して皆さんに提示してみたんです。それを皆で議論してブラッシュアップし、目的をはっきりとさせ、目線を揃えました。未経験な自分が一番知りたかったことを言語化しにいっただけなのですが、最初に基準をしっかり作ることで、判断に迷う際に立ち返ることができ、迷わず進めるようになったと思います。

中田:開発する側としても、目的が明確になり、自分の責任がどこにあるのかも明らかになったため、動きやすくなりました。

加えて、桒原さんのフラットさには助けられました。既に組織ででき上がっている関係性や結果に忖度せず、本当にフラットに「一番良い形が何か」を広い目で見てくれるプロジェクトリーダーだったので、開発側としてものびのびと意見することができました。

桒原:R&D経験も技術知識も無さすぎてフラットだったのかもしれませんが…(苦笑)。

技術系の方同士の会話で使われる言語は私には理解が難しいことも多いのですが、中田さんが初心者にも分かるレベルで丁寧にかみ砕いてコミュニケーションしてくれるのが心強くて。中田さんのような方と組めたことは、貴重な成功体験になりました。今でも中田さんは私にとっては尊敬できる天才エンジニア。ついついその頭脳を借りたくなって、空き時間の雑談でも気になる最新技術について質問攻めにしています(笑)。

社内のナレッジ共有イベント「FORUM」登壇の様子。中田の分かりやすい技術解説が話題に
社内のナレッジ共有イベント「FORUM」登壇の様子。中田の分かりやすい技術解説が話題に

協働相手から学んだ観点を活かして、他サービスにも技術実装を仕掛けていく

2023年1月、桒原と中田が担当した、画像カテゴリ判別AIを用いた「アノテーション機能」が『カーセンサー』のサービス画面に実装された。クライアントにとっては、入稿した最大80枚の画像が、360°画像を中心に充分に閲覧されるようになった。また、ユーザーにとっては商品検索の利便性が高まった結果、掲載商品を見た後の「在庫確認・見積依頼」などの問い合わせが10%増加したという。

桒原は、今回の中田との協働を通じて、プロダクトマネジメント職としての視野が広がったと話す。

桒原:リクルートの他サービスを見ると、たとえば旅行予約サイト『じゃらん』では、生成AIを用いた旅行提案があったり、社内でもAI以外も含めて最先端のテクノロジーが実装されている事例がいくらでもあるんです。

ですが、自分の担当サービスに集中しているだけでは、その実績自体を知らなかったり、いざ新技術を実装したいとアイデアを持ったとしても、具体的な進め方が分からない。中田さんに技術の専門的な話を教えていただくうちに、実際に自分の引き出しが増えていったと実感します。

中田:エンジニアの立場からすると、リクルートのサービスには、まだまだ技術実装の白地があると思っています。私自身も、今回の協働を通じてその勘所を養ったり、サービス設計の担当者とコネクションができたので、今後は自分から声をかけて、どんどん世の中に価値を提供していけたらと考えています。

中古車情報メディア『カーセンサー』に実装された「画像カテゴリ判別AI」のR&Dに取り組んだ桒原元芳(左)と中田百科(右)

プロフィール/敬称略

※プロフィールは取材当時のものです

桒原元芳(くわばら・もとよし)
株式会社リクルート カーセンサー 営業統括室 総合企画部

大学卒業後、2019年にリクルート入社。『カーセンサー』のプロダクトマネジメントに携わり、「B-MATCH」を担当。2021年からプロダクトデザインへ。本件で社内ナレッジ共有イベント「FORUM」に登壇。大学時代に数ヶ月インドに住んだことがあり、毎朝の瞑想習慣が身についた

中田百科(なかだ・ひゃっか)
株式会社リクルート プロダクト統括本部 プロダクト開発統括室 データ推進室 データプロダクトユニット データテクノロジーラボ部 事業ソリューション開発グループ

大手総合電機メーカーの研究所を経て、2021年量子コンピュータに関する研究がしたいとリクルートに入社。以来、新技術に関する研究・開発を担当。量子コンピュータのR&Dにも取り組み、2023年9月から社会人博士課程へ進学中。本件で社内ナレッジ共有イベント「FORUM」に登壇

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