不動産業界の人材不足を解決したい! 『SUUMO』営業が見つけた採用と離職防止のカギ

不動産業界の人材不足を解決したい! 『SUUMO』営業が見つけた採用と離職防止のカギ
不動産業界の人材課題に向き合うリクルート従業員の髙尾侑太朗(右)と朝野由寛

不動産業界では今、求人数は多いものの、人材獲得の難易度は高く、離職も多いという状況が発生。普段は『SUUMO』の広告営業として不動産会社に接しているリクルートの営業が、不動産会社の働き方にも意識を広げ、動き始めています。業界全体で良い方向に変わっていくお手伝いができたら…。実際に結果が見えてきた事例を手掛けた、リクルート従業員の髙尾侑太朗と朝野由寛が語ります。

不動産業界の人材不足は業界特性にも関係

―おふたりは『SUUMO』の営業として、日々不動産会社の方々に向き合っているとのことですが、不動産業界の採用状況は厳しいのでしょうか?

髙尾:なかなか厳しいと思います。不動産業界の求人票の数の調査データがあるのですが、2018年に比べて、22年には求人数が2.35倍に増えていることを見ても、人材が不足していることが読み取れます。また、私は定着率が低いことも不動産業界の難しいところだと感じています。多店舗経営をしている大規模な会社様でも、オンボーディングや離職防止の仕組みが確立されていないところも多く、人材が定着しにくいという状況があると思っています。

不動産業界の求人枚数
※出典:リクルートエージェントデータ分析

―おふたりは『SUUMO』の営業として日々不動産会社に向き合っていると思いますが、実際に人材不足を感じていらっしゃいますか?

髙尾:私は中国・四国エリアの中小規模の不動産会社様を担当しているのですが、なかなか厳しい状況と伺っています。広島県・岡山県で多店舗展開をしている不動産会社様のお話なのですが、新卒で13人採用したにも関わらず、離職率が高いことを悩まれていました。

―離職率の高さの背景は何なのでしょうか?

髙尾:不動産、なかでも賃貸業界は1~3月が繁忙期なのですが、その時期の忙しさに驚き、辞めてしまう人が多かったと伺っています。ですが、これは業界全体に言えること。業界全体の離職率が高いと、就職希望者が減ってしまい、さらに人材不足に拍車がかかるという悪循環が発生してしまいます。不動産業界のなかでも、賃貸仲介、接客においては営業担当の人数が売上に直結します。業績が良くても人材が足りなければ、店舗数拡大などさらなる業績成長も見込めません。今後の業績成長や利用客の満足度向上のためにも人材採用や新人育成は重要課題なんです。

新人定着には教育制度の強化と分業化による負担軽減が効く

―髙尾さんは、新人離職に悩むそのお客様に対してのお手伝いもされたんですよね?

髙尾:新卒入社者の育成と離職防止の課題に一緒に向き合って欲しいというお話をいただきました。私はあくまで『SUUMO』という集客メディアの営業でしたが、『リクナビ』なども運営し、採用や教育への知見がありそうな「リクルートの従業員」ということで、前任の営業担当含めて信頼をいただいていたんです。これは何とか期待に応えたいと課題解決のお手伝いをさせていただきました。

今回させていただいたお手伝いは新卒教育制度(OJT)の強化と、営業業務の分業化です。お客様は広島では大きな規模の会社様で従業員数も多いのですが、当時は新人教育の制度が整備されておらず、また、配属先の先輩たちも日々の業務に忙しく、新人教育にあまり時間を割くことができていない状況でした。

そこでまず新卒教育制度(OJT)の仕組みを整えることに。既に自分たちのチームで行っているオンボーディングの経験を基にした仕組みをお客様仕様にアレンジし、ご提案させていただきました。また、新人営業ロードマップの作成だけでなく、教育方法も一新。教育担当者と当人の振り返りの機会を作り、その教育担当も店長・リーダー候補者に担っていただくことで、新人さんが「会社から自分は大切にされている」ことを実感できる状態を醸成するようにしました。

加えて、離職者が増えてしまっていた繫忙期前には、新卒入社者のロールプレイング大会を実施。繁忙期を乗り切れるだけの営業スキルやモチベーション担保ができる機会を設けました。

不動産業界の採用状況について語るリクルート従業員の髙尾侑太朗
不動産業界の採用状況について語るリクルート従業員の髙尾侑太朗

―入社者に対し、会社の期待を暗に伝えつつ、相互のコミュニケーションが取れるようにしたんですね。業務負担を感じ離職してしまう方に向けてはどのような提案をしたのでしょうか?

髙尾:業務負担を感じる原因として、ひとりの営業が抱える業務量の多さがありました。そこで細かい業務を可視化・整理。分業化して、営業は営業に専念できる体制化を前任担当者よりご提案しており、お客様にも同意をいただけたので、実際に進めていきました。契約や広告掲載手配など営業でなくてもできる業務を切り離したことで、営業担当者の接客数を純増させつつも、残業の短縮(閑散期約2時間/日)に成功しました。

また、お客様ご自身が主導され、分業された仕事を担う方たちの負担増にならないよう、切り離した広告掲載業務などはチーム評価制にし、評価は賞与で還元する仕組みも作られました。

―営業負担を皆で支えられる体制にしたのですね。教育と負担軽減の仕組みを整えたことでどのような結果が生まれたのでしょうか?

髙尾:13人採用して半数以上が辞めていた前年度に対し、21 人の新卒採用者が誰ひとり辞めないという成果が生まれました。また、分業制を取り入れたことで、営業の仲介件数アップと帰宅時間を早めることの両立が可能になり、業績を上げるために長時間労働をするという構造が改善されてきました。離職に悩んでいた組織でも、教育方法を最適化することや業務負担の改善を図ることで状況は変えられる可能性はあると実感しています。

20230515_v004

業績に関係する人材不足 採用要件の緩和がカギ

―離職者0というのはすごいですね。働き方も改善し、組織がグッドスパイラルに入っていきそうです。髙尾さんは地域密着の不動産会社でのお話でしたが、朝野さんは全国展開をされているお客様へのご提案を担当されたのですよね?

朝野:はい。ただ、私の場合は、最初から人材不足が課題に上がっていたわけではありませんでした。『SUUMO』を通して掲載物件への問い合わせはかなりあるのに、なかなか成約に結びつかずに悩んでいるという状況だったため、その原因を探っていった結果、人材不足に行き着いたという形です。

―どのように行き着いたのでしょうか?

朝野:お客様は、全国規模で低価格帯賃貸マンションを手掛けていらっしゃる会社です。毎月多くの広告出稿をいただいており、そこからの問い合わせ数も多かったのですが、問い合わせ数に対して成約数がかなり低かったんです。成約という最終的なお客様の利益に結びついてない。裏を返せば、『SUUMO』ユーザーもせっかく問い合わせをしてくださったはずなのに、実際の入居にはつながっていない…。これは良くないことだと、自分でも原因を探ってみることにしたんです。

そこで見えてきたのは、ユーザーが『SUUMO』の掲載物件を見て最初に連絡を入れる、内見予約受付のコールセンターの接客に改善点があるのではということでした。

不動産業界の採用状況について語るリクルート従業員の朝野由寛
不動産業界の採用状況について語るリクルート従業員の朝野由寛

―成約数の少なさはコールセンターに理由があると思われたんですね。

朝野:実際に自分もコールセンターの接客を体験した上で、コールセンター責任者に話を聞きに行きました。そこで分かったのは、コールセンターは内見予約受付以外に入居者からの問い合わせ対応もしており、本来理想とする人員よりかなり少ない状態で回していて、じっくり時間をかけた新人教育の時間がなかなか取れずに新人スタッフの離職率も高いということでした。人材不足によりコールセンターの対応が追い付いていなかったんです。

―ここでも人材不足が会社の業績に大きな影響を与えていたと…。いち集客広告の営業だったかと思いますが、どのように採用課題を探っていったのでしょうか?

朝野:まずは時給を確認しました。しかし既に他社に比べても高い。そこで、同じリクルートグループの人材派遣会社の担当者にも連絡を取り、実態を調査したところ、見えた原因が採用要件でした。「土日祝を含むシフト制・かつ翌月から働ける人」を募集していたのです。この条件に合致する方は多くはありません。会社様としては「これまでは同じ条件で集まっていた」という経験があるのですが、時代はコロナ禍というのもあり、出社を伴うコールセンタースタッフは希望者が少ない職種になっていたんです。

そこで、人事側にも連絡を取り、コールセンターの実情をお話しするとともに、採用要件の緩和の検討を打診。一部土日祝休み制の導入や翌々月からの勤務開始も可能にしたことにより、ご紹介できるスタッフの数が4倍以上に増えたんです。これにより、理想としている数のスタッフが集まり、新人教育に力も入れられるようになりました。しかし、新人定着率の向上や従業員満足度の向上など課題はまだ残っていました。

そこで私は、同じ営業部のメンバーと一緒に、コールセンターの現場を見学させていただき、業務プロセスを分解し、現状の研修内容を細かくヒアリング。新人さん向けの研修マニュアルを編集し、新人さんでも分かりやすいようにカスタマイズしてご提案しました。さらに、定期的に疑問解消の場を設けてもらうなど、スタッフの方に気持ち良く働いてもらえる環境を作れるようご支援しました。結果、定着率も改善し、スタッフのエンゲージメントも向上していきました。もちろんその先には『SUUMO』ユーザーにとって良い体験があるはずです。

本件を経て、業績不振やサービスの質低下の裏側に人材不足が隠れている可能性があることや、人材不足の解決策は給与だけではなく、働きやすさも大きく関わってくるということが見えてきました。そして、働きやすさは採用要件をひとつ見直すだけでも変わるんです。

20230515_v006

働き方改善への取り組みが業界全体の課題解決につながれば

―給与だけが解決方法ではない…。ちなみに今回のご提案については、『SUUMO』の集客営業の枠は外れていますが、どうしてそこまでできたのですか?

髙尾:私は6年程、賃貸領域で広告営業をして、さまざまな不動産会社様を担当させていただきました。そこで感じていたのは不動産業界の離職率の高さと、求職者側にも業界に対して“忙しそう、離職率が高そう“といったイメージがあること。ですが、不動産業界は他業種に比べても正規雇用での採用が多い業界ですし、小規模店舗ですとお客様や不動産オーナー様との距離も近く、貢献実感を得ながら働かれている方もたくさんいらっしゃいます。暮らしに欠かすことのできない業界ですし、多くの方にとって魅力的であり得る職場だとも思っていました。だからこそ働き方を変え、離職率を減らすことで、業界全体を盛り上げるお手伝いができるはず、と思っていたんです。また、業界もお客様自身もその課題を感じ、変わろうとしていたタイミングだったからこそ、私たちがお手伝いをさせていただけたんだと思っています。

朝野:私も不動産会社様から採用や働き方改革についてのご相談を頂く機会も多く、より良く変化していく兆しを感じています。それに、こういった解決の事例が出ていくことで、全国で同じように人材不足で困っている不動産会社様に広げていけるかもしれない。そうすれば不動産業界全体の課題解決の一助になれるかも。半ば使命感のようなもので動いていた気がします。

髙尾:お客様の人材不足が解消することで、接客品質が向上したり、営業店舗が増やせたりと『SUUMO』ユーザーの方の満足度や利便性も向上していきますもんね。

不動産業界の人材課題について語るリクルート従業員

朝野:そうですよね。いつか教育現場の労働環境改善などの社会課題に携わりたいと思っていた私にとって、領域は違いますが、不動産業界の労働環境の改善や人材課題解決に微力ながら取り組めている今は本当に充実しています。引き続きこうした支援活動を通じて、不動産業界で働くことを選んでくれた方々が気持ちよく長く働いていけるように、少しでもお手伝いができたらなと。頑張ります!

プロフィール/敬称略

※プロフィールは取材当時のものです

髙尾侑太朗(たかお・ゆうたろう)
株式会社リクルート 旅行Division 地域創造部 関西グループ
※取材時2023年3月末は、賃貸Division 西日本賃貸営業部 中国・四国グループ

メーカー営業を経て、2017年に入社。賃貸営業部に配属され、関西で4年半、中国・四国エリアで1年半、不動産会社向けに『SUUMO』の広告営業を行う。2023年4月より現部署

朝野由寛(あさの・よしひろ)
株式会社リクルート 賃貸Division 賃貸総合企画営業部 総合企画1グループ

大学卒業後、2020年に入社。賃貸総合企画営業部に配属され営業や企画に携わる

関連リンク

最新記事

この記事をシェアする

シェアする

この記事のURLとタイトルをコピーする

コピーする

(c) Recruit Co., Ltd.