新規事業支援制度の現場から見えてくる、 スタートアップを成功させるためのヒント

新規事業支援制度の現場から見えてくる、 スタートアップを成功させるためのヒント

文:Meet Recruit編集部 写真:斎藤隆悟

さまざまなスタートアップが世の中を賑わせている昨今。日々多くのサービス・企業が生まれ、そのうちの幾つかの企業が「新進気鋭のスタートアップ」から「成功企業」として大きく世の中に羽ばたいていく。日々紙面やニュースサイトをにぎわすスタートアップに関しては、興味を持たれている方も多いのではないだろうか。

そんな状況だからこそ、今まさに起業を考えている、あるいは既に動き出している人も多いはず。世界中がITインフラやプラットフォームで繋がり、グローバルでのスタートアップ企業が増えてきた今、スタートアップに追い風の要素は多い。

とはいえ、なんとなく「起業」と言われると、ハードルが高そうなイメージがあるのも事実。実際、自力で0から始めて成功へと導くのはたやすくはないだろう。

「まずは"企業"にいながら"起業"する」という選択肢も、社内イノベーションを求める多くの企業が用意している。会社によって色々な呼称があろうが、新規事業提案制度、事業開発支援制度といった制度群が、それだ。多くは上長や経営陣にプレゼンテーションを行い、プレゼンテーションが承認されると起案者みずからが新たな事業を開発・推進する権利を得ることが出来る。また、それにともない会社からの事業推進費として、予算を割り当てられることも多い。リクルートホールディングスでいえば現在は「New RING ‐Recruit Ventures‐」(以下RecruitVentures)がそれに当たる。(リクルートホールディングスの子会社・関係会社でも、同一の制度を行っている場合が多い)

RecruitVenturesは1982年から始まった「RING 」(Recruit INnovation Group)を基にする。「社員皆経営者主義」(=リクルートが創立当初から掲げる、社員一人ひとりが経営者的マインドを持って事業や仕事の推進にあたろうとする考え方)を浸透させるため、新規事業を創造するシステムとして生まれた。「RING」は1990年にはイノベーション(新規事業)案件に特化して「New RING」となり、「ゼクシィ」「ホットペッパー」「R25」「受験サプリ」などがこの制度から生まれるなど、まさにリクルートグループのサービスの登竜門といえる。2014年4月からは、ITを前提に新たなビジネスモデル開発を目的とするRecruitVenturesとしてリニューアルされた。

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「日々の仕事の中で、特に非エンジニアの方からすると「毎回毎回開発環境をお願いして、用意してもらって、けど差分を作るためにまた環境を用意して...めんどい!」と思うだろうなぁ、と思ったのがきっかけです(笑)。そこで同僚と組んで、業務の合間でプロダクト開発を進めました。当初は自分達でも使いながらソース共有サービスにコミットしていたのですが、予想以上にコメントやお褒めをもらえて、手応えを感じました。世の中的にも多くの企業でITエンジニアの採用・育成を強化していますし、デベロッパー向けのサービスにも需要はあると考えたんです」

続いては、来年度からリクルートで働く事が決まっている学生たちのチーム。プレゼンターの小原さんは、学生ならではのリアルな実情を活かし、飲み会の幹事などで飲食店を探すユーザーが、新しい方法で店舗を探す事ができるアプリを提案した。

「大学で飲み会を企画する時に、毎回店舗とやりとりをして場所を探したりすることが非常に手間だったんです。リクルートの『HOT PEPPERグルメ』をはじめ、他にも色々な飲食店が掲載されている媒体はありますが、むしろ情報が多すぎて探すのが大変。そんな中で、居酒屋のほうからオファーが来るような仕組みがあったら面白いな、と思ったのが、今回開発しはじめたきっかけです」

RecruitVenturesで提案した所、審査員から色々な質問を受け、答えに詰まるシーンも見られた小山さんたち。提案に対してフィードバックをもらった事で、より開発に対してのモチベーションが高まった、という。

「自分は理系なので、大学院で研究を続ける選択肢もありました。けど、就職しようと決めたんです。僕は社会に価値を提供したり、課題解決をしていくのが面白い、と思っているて、今現在それが出来ていない。自分の存在価値が無いんじゃないかな?って(笑)それが、就職の理由であり人生の目標でもあるんです。今までにも他社のビジネスコンテストに参加しましたが、実際はまだ何も価値を生み出せていません。その時にちょうどRecruitVenturesに参加できる機会と、協力してくれる仲間に恵まれました。もし今回審査に通らなくても、"ユーザー"という"クライアント"がいる限り、今回提案したサービスをサービスインできるようにしていきたいと思っています」

2チームを含めた参加チームのプレゼンテーションは、共通して"自分達の身の回りや世の中で起こっている課題やニーズ"をきっかけとして企画されていた。自分たちで感じる、ユーザーの声として感じる、社会の声として感じる、などさまざまな「不」(不便・不満・不安)を解決したい、という気持ちがやはり強いモチベーションになっているようだ。

事業開発としてはそこからさらに一歩踏み込んで、その「不」を解決することがどれくらいの価値を生み、ユーザーや社会に対してどれくらい貢献するのか、を考え抜くことが重要なのだろう。

さて、次にそれら新規事業を審査する審査員の意見を聞いてみよう。

ここに着目! 成功するチームに共通することとは?

発表会の当日、実際にプレゼンテーションの審査をしていたひとりが、ジェームズ・レヴィン氏(500 Statups Resident Mentor / Limited Partner)。20年以上に渡りシリコンバレーでITに携わり、米国の"スーパーエンジェル"として有名な500 Startupsのメンターとして培ってきた経験や知見を活かした投資を行うスペシャリストだ。

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ジェームズ・レヴィン氏

「New RING ‐Recruit Ventures‐」審査員

「RecruitVentures参加者はアーリーステージのチームが大多数。なので、プレゼンテーションの中で説明された"成功するであろうという根拠"を信じられるかどうか、にも注視しています。考えている市場の大きさなども見ますし、質疑応答の受け答えでどこまで深く考えているのか、も判断基準の一つですね」

最後に、笑いながら「個人的には熱意があって頭が良いチームと仕事をしていきたいと思っていますね」とも教えてくれた。

続いては、RecruitVenturesへのリニューアルを主に取り仕切り、その後毎回審査委員を務めている石山洸氏に話を聞いた。過去には、リクルートの雑誌・フリーペーパーから、デジタルメディアへのパラダイムシフトを牽引。その後、リクルートとエンジェル投資家から支援を受け、資本金500万円で会社設立、3年でバイアウトしたという異色の経歴を持つスタートアップ経験者。2014年からは、リクルートホールディングス内で新規事業開発の責を負うRIT(リクルートテクノロジーインスティチュート)の実証機関「メディアテクノロジーラボ」の責任者として、リクルートの新規事業開発に従事している。

RecruitVenturesの審査では、どういった点を評価しているのだろうか。

石山洸氏

「New RING ‐Recruit Ventures‐」審査員

「まず1つ目は"不の解決"が出来るか、そしてそれに対する本人の思いが強いかどうかです。2つ目は、その不に対して"具体的な解決手法を提案出来ているか"。つまり、提案内容と推進するためのチームですね。提案内容はもちろんですが、チームの中に、企画者、デザイン、エンジニア、場合によってはアライアンスのための人員だったり、営業だったり、と提案内容を具体的に推進出来るか、を見ています。基本的にはその2点。その2つがあった上で、テクノロジーに独自性があったり、高度なテクノロジーを駆使して、物事を解決しているかどうか、というのも見ますね」

2人のコメントからも分かるように、「社会課題の解決」や「チーム力」などは、どんなサービスにも当てはまる基本ポイント。その上で、実際にプロジェクトを動かすため効果的な手法も聞いてみた。

ジェームズ・レヴィン氏

「New RING ‐Recruit Ventures‐」審査員

「事業の開発手法としては、リーン・スタートアップを推奨しています。このやり方は、今後進化することがあっても無くなることはない。ですから、上手く活用してください」

と語る、ジェームズ氏。リーン・スタートアップがどんなものかは色々な記事、セミナー、文献などが発表されているが、石山氏はこう付け足した。

石山洸氏

「New RING ‐Recruit Ventures‐」審査員

「自分たちのアイデアを短期間で仮説検証できる『リーンキャンバス』も、IDEO社のCEOであるティム・ブラウン氏が新たなイノベーションを創出する手法として提示した『デザインシンキング』も、基本的な思想は同じなんですよね。どれを活用しても良いと思いますが、ちゃんと正しく・高い位置に自己目標を設定して、それを前倒して実行するスピード感を、チームが共有して実践できているか。マインドの部分として目線が揃っているかどうか、それが大切ですよね」

企画に対して魅力がある無しは、すぐわかる。

参加チームとメンターの声を聞いたところで、更にもう一歩踏み込んだ部分に触れてみたい。ここで再び石山氏から、これまでにRecruitVenturesの一次審査を通過したサービスを例に挙げて、評価した理由について語ってもらった。

RecruitVenturesにリニューアルされてから、記念すべき初回。その初めてのプレゼンテーションで、入社1年目の社員だけで結成されたチームのサービス提案が一次審査を通過した。「うさぎノート」と名付けられたそのサービスは、保育士〜保護者間のコミュニケーション&情報管理プラットフォームだという。

石山洸氏

「New RING ‐Recruit Ventures‐」審査員

「評価した理由は、やはり"社会の不"に対する設定が非常にしっかりしていたこと。保育士と保護者の情報交換にタイムラグが起きているという状況は、社会において確実に存在している問題だと感じました。また、実際にプレゼンテーションを聞いて、"アントレプレナーシップ"(起業家精神)の高さを感じましたね。モックの作り込まれ方のレベルが高く、子育てママさん・幼稚園・保育園へのヒアリング結果などもしっかりしていた。提案の時点で、既に動ける限り動いていたことが大きな評価ポイントの一つです」

もうひとつRecruitVenturesの一次審査を通過したのは、2020年、東京オリンピックに向けて見込まれる外国人観光客に向けたソリューション。テクノロジーとしても文字認識のDeepLearningを活用し、高い技術水準を駆使したサービスとなっている。

石山洸氏

「New RING ‐Recruit Ventures‐」審査員

「もちろん「不」の設定もしっかりしていましたし、既存のテクノロジーよりも、圧倒的に高難度のテクノロジーを組み込んでいる点も評価しました。文字認識を高精度に行う、という取り組みと、今後見込まれるインバウンドの拡大により、リクルートの既存ビジネスとのシナジーが生まれるのではないか、と思っています」

スタートアップは決してスタートすることがゴールではない。ユーザーが満足し、収益も生みながら結果的に社会貢献に繋がった時に本当の成功」いえる。成功しそうな企画、に対して、石山氏はこう付け足した。

石山洸氏

「New RING ‐Recruit Ventures‐」審査員

「企画に対しての"魅力の有る無し"は、すぐに分かります。いい企画には自然といい人が集まりますしね。その事業に対する熱意も、プレゼンの内容ですぐわかります。あとは成功に至るまでにその"やりたい"という熱意を持って、ひたむきに頑張ることですね」

今後は誰もがアントレプレナーになる

今回、スタートアップする立場と見極める立場からの声を聞くことで見えてきたのは、以下のようなポイントだった。

・「社会的な課題や"不"」に目を向け、それを解決したいという「想い」

・高い「チーム力」と、どんどん前倒しして事を進める「スピード感」

・高い"アントレプレナーシップ"を持ち、高い目標に対してひたむきに動き続ける「実行力」

「当たり前だ」という声が聞こえてくるかもしれない。ただ、色々なサービスが取り沙汰され、群雄割拠となっているスタートアップ界隈。多くの成功者は、「アイデア」に対してひたむきにやり続けた結果、と語る事が多い。とにかく圧倒的なモチベーションを持ち、他社を圧倒するスピードで、ひたむきにやり続ける。成功のヒントは、そんな"当たり前だけど難しい事"の中にあるのだろう。

最後に、未来の日本のスタートアップに対する希望を込めて、ジェームズ・レヴィン氏と石山洸氏の両者からのメッセージを。

ジェームズ・レヴィン氏

「New RING ‐Recruit Ventures‐」審査員

「日本は今、経済的にも難しい状況ですので、何らかの変化をもたらすメカニズムが必要だと思います。個人的には、さまざまなスタートアップが日本の活性化に繋がる役割を担っていけるほど大きくなっていってほしいですね。「日本経済を再生させるんだ!」というくらい、大きな意思を持って取り組んでもらうことを望んでいます」

石山洸氏

「New RING ‐Recruit Ventures‐」審査員

「昔、コンピューターって大きな箱に技術者が1人必要でした。それがダウンサイジングされ、GUIが開発され、パーソナルなコンピューターになった。誰もが使えるようになったおかげで誰もがコンテンツをUPできるようになった。そして、インターネットのサービスを使っていると、自然に色々なスタートアップのサービスに触れことになりますよね。誰もが、コンテンツ提供側=アントレプレナーになれるんです。リクルートは、創業当初からそういった事に必要な風土作り、人材育成のノウハウに取り組んできた。だから、どんどん挑戦していってほしいですね」

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