社長 山田雅裕さんに問う ―ノルマ・残業ゼロで高収益を生む未来工業のしくみ

社長 山田雅裕さんに問う ―ノルマ・残業ゼロで高収益を生む未来工業のしくみ

写真/佐坂和也 文/小山和之

平均年収600万以上ながら、残業禁止、年間休日140日、上司から部下への命令禁止など、社員を大切にした制度が数多くありながら、高い経常利益を上げる優良企業としても知られる岐阜県の未来工業。創業者の山田昭男さんの長男で2013年に社長に就任した山田雅裕さんから「私たちが未来工業から学べること」を探る。

本記事は『働き方変革プロジェクト』サイトに掲載された記事を転載したものです。

「常に考える」ことが社員の幸せにつながる

― 未来工業さんと言えば事業面・制度面ともにさまざまなメディアから注目を集めています。背景にある考え方とはどんなものなのでしょうか?

私たちの社是「常に考える」という言葉につきると思います。「生きてるうちに頭を使え」という言葉がありますがまさにこの通りで、頭を使わかなかったら何のために生まれてきたんだということです。今日玄関から入られましたよね? 玄関から入ってこの部屋に入ってくるまで「常に考える」という看板がいくつあったと記憶されていますか。実はそこら中にありまして、注意して見ると2、3個ではないことにすぐ気づくと思われます。

何故そこまでと思うかもしれませんが、まずは視覚にすり込んでいるんです。それくらいこの「常に考える」という言葉は未来工業にとって大事な言葉です。例えば、未来工業の管理職は命令する権利を持っていないのですが、それもこの「常に考える」につながっています。命令できないならどうするかというと、説得して納得させて仕事をしてもらうんです。

命令させない理由は2つあります。1つは、命令することがとても簡単だからです。命令は子供同士でもできますよね。私は自分の会社の管理職の人間に、子供と同じレベル・方法論で社員に接してほしくない。未来工業の管理職であることに誇りを持って、難しい方法を用いて接して欲しい。そのために部下を説得し納得させて仕事をさせる。この背景には「常に考える」という言葉があります。

もう1つは、命令されて「さあ頑張るぞ」となる人は少ないからです。社員のモチベーションを下げてしまうことはするべきではない。なので、基本的には納得して動いてもらうようにしています。納得するということは自覚することです。「この仕事は自分のために、会社のために、人々のためになるんだ。絶対にやり遂げなきゃいけないんだ」と思う心のパワーは強い。だから部下を説得し、その人が納得した時のパワーやモチベーションを発揮して欲しいと思っているんです。社員がイキイキ働けるのは、自分の考えにもとづいて仕事をするからです。

― 主体性を持つということでしょうか?

その通りです。15年以上前に、ある先輩社員にこんなことを言われました。「俺この会社大好きなんだよ。この会社ってさ、提案したことを何でもやらせてくれるんだよ。しかも失敗しても怒られないんだ」まさにこういうことなんだと思います。「自ら考えること」が社員の幸せにつながっているんだと思います。

山田雅裕

制度は社員のモチベーションにつなげるため

― 5年に1度の海外への全社社員旅行や70歳定年、年間休日140日、残業禁止といったさまざまな社内制度はどのようにして生まれたのでしょうか?

スタートは全てバラバラです。例えば年間休日140日は採用のためでした。バブル期に我々のような製造業は3K(きつい・きたない・きけん)と呼ばれ、就職活動の中で製造業というだけで候補から外されるという風潮がありました。また、我々のお客さまである建築業界も一緒で就職先から外されてしまうわけです。いろいろ勉強してきた人が、すごいビルを建てたい、すごい家を建てたいという気概で会社や業界に来てくれるようにするためにはどうすればいいかと先代(創業者 故・山田昭男先代社長)は考えました。

昭和40年代頃、私たちのお客さまである工務店や建設会社は12月31日くらいまで仕事をするのが普通でした。でも未来工業は運送会社を持っていなかったので、運送会社と同じ27日くらいから休みに入っていたんです。お客さまには31日まで必要とされるけれども休むしかなく、当然怒られました。そこで、どうせ怒られるんだから休みを伸ばそうかというふうに考えたんです。(笑)

20年位前、私が営業として長野県の担当をしていた当時は、お盆に9連休をとっている会社は当時の松下電工(現・パナソニック)と未来工業と他に2社くらいしかありませんでした。でも今は、大手企業のほとんどで9連休が当たり前です。そうでないと、就活生が見学にすらも来てくれないんです。今の若者にとって休みというのは凄く重要な要素なんです。だから未来工業は休みます。今年の正月は17日休みました。今でもお客さまにはものすごく怒られますけどね。

― 提案制度も独特とお伺いしています。提案さえすれば不採用でも報奨金が出るんですよね?

うちの会社の提案制度は1級から5級までありまして、5級で500円。不採用でも500円もらえます。つまりどんな内容でも提案を出せば500円もらえるというわけです。200件出して全て不採用でも10万円もらえるわけですし、さらに提案数が200件を超えると追加で10万円もらえるんです。だから結婚する、車を買う、家を建てるといった時には皆頑張るわけなんですよ。

10年くらい前の話ですが、熊本工場に年間で提案を200件出した人が出たことがありました。そして、それに負けてたまるかといった具合に工場内で競争になっていたんです。それと同時期、養老工場でも同じような状態になっていました。そしてたまたま、当時の熊本工場の工場長が元養老工場の工場長だったんです。どちらのこともよく分かっていたその工場長はそれぞれの従業員をけしかけるわけです。すると今度は熊本工場vs養老工場になるわけです。今は年間で10000〜15000件程度なのですが、その当時は最大23000件位までいきましたね。

この話をするとたまに「未来工業は社員をお金で釣るのか」と言われるのですが、そのとおりです。でもそれは社員が喜ぶから。社員が頑張ってくれるからやるんですよ。社員のモチベーションアップにつながるのであれば、やるべきだと考えているからです。

― このような制度は会社側が考えて提供しているものなのでしょうか?

140日の休みは採用のためだったので会社側からでしたが、他のものは必ずしもそうではありません。例えば海外旅行のスタートは、まだ会社が小さかった時に、年商が1億円突破したらお前たちを海外旅行に連れていってやると先代が言ったからです。これは社長と社員との約束がスタート。つまり社員側がそういいましたよね?というのがスタートなので社員からの提案ということになっています。

山田雅裕

アイデアとシリーズ化で価格勝負をしない

― 社員のための制度だけでなく、ビジネス面での成功も知られています。なぜ御社は大手企業も含めた競合の中で選ばれているのでしょうか?

その話は創業時にさかのぼります。未来工業は、岐阜県大垣市で趣味の劇団グループのリーダーだった先代が、劇団の相棒だった清水昭八と共に創業した会社です。未来工業は、当時政府が発表していた高額所得法人に載るような会社になるという目標を掲げていました。そこで普通だとその高額所得法人に掲載されている企業の真似をしようと考えるんですが、そうではなく、残りの掲載されていない企業とは違うことをすればいいと、山田・清水は考えたんです。

そこで具体的に何をするか。例えば、既存製品と同じものを製造しても「これいくら?」というコストメリットだけの話になります。でも、ちょっと違いがあってそれによって相手にメリットが生まれるとしたら「これいいね。これ買ってみようか」と言い値で買ってもらえるんです。

「よりいいものをより安く」という言葉がありますが、高品質で、お客さまがいいと言ってくれるものはどうしても高くなってしまいます。研究費もありますし、それを製品化するまでは数多くの失敗もあります。それでも儲けるために「いかに安売りを避けるか」ということをずっと考えています。それによってこの高収益体質が実現できているんです。

― 価格競争にならないように、ということは多くの企業が考えることではないでしょうか。他社が低価格で販売しているから追従せざるをえない、といったことはないのでしょうか?

電線管

それは製品によります。例えば電線管は完全に価格勝負の商品です。JIS規格品なので特長をつけることができないからです。そうなると電線管自体は赤字ギリギリまでは我慢して、それに使う付属品で利益を確保したりしています。大手さんは生産量が違いますから大量に作ることで原価も抑えられる。うちみたいな中堅企業では太刀打ちできません。そうなると、付属品など+αのところで勝負しないと生き残れないんです。

私が長野にいた時、当社のある製品に関して大手メーカーで長年プラスチック部品の成形をしていた人にこんなことを言われました。「正直、大手メーカーの商品と未来さんの商品を比べると、成形品の質が全然違うんですよ。この製品はコンクリートに埋めてしまうものなんだから、こんなに高品質に作る必要はないでしょう」と。長年成形をやってきた人にお褒めの言葉を頂いたのはとても誇らしかったのですが、それが未来工業のスタイルなんです。大手企業でもそのクオリティなんだから、そのクオリティでやればいいと思うかもしれませんが、それではうちは勝てないんです。価格勝負になってしまうからです。

― とはいえ、お休みが多く、働く時間もある程度決まっていることと高品質で高く売るということは、ある意味相反するような気もしますが。

残業しないということは、定時の時間の間にいかに集中できるかの勝負だと思っています。その集中力を高めるためにも、海外旅行に5年に1度連れて行くということも必要だと思っていますし、効果があると思っています。やはり社員のモチベーションの違いだと思いますよ。定まった時間内できっちりと納めることによって残業がなくなれば、残業代がゼロになるのと同時に照明だったり冷暖房費、光熱費だったりといった経費も削減できます。本当に削りたいのは残業代といった人件費ではなく経費なんです。ですから未来工業の社内は普段から電気をこまめに消すようにしていますし、無駄な経費を削減できれば、最終的には人件費に還元することもできますから。

そうやって残業代や経費を削って利益を貯め、外に出ないようにする。それと同時に商品は相応の値段で売る。もちろんどうしようもない製品は先ほどのような感じですが、それ以外のところでどれだけ高く売れるかという勝負だと思っています。利益を上げるために売るわけですから、利益の出ない売り方は意味がないと思っています。

配線カバー

― 高く売るために必要なのはアイデアなのでしょうか?

そうですね。アイデアとシリーズ化だと思います。例えば、オフィスなどによく半月型の配線カバーがありますよね。あれは未来工業が20〜30年くらい前に世に出した商品です。当時は「こんな高いもの誰が買うんだ」と言われていました。20〜30年かけて、この商品を育ててきたのです。

配線カバーには種類がとてもたくさんあります。サイズもそうですし、色も付属品も同様です。そういったかたちで商品を育てていくんです。もちろん簡単に真似ができてしまう製品ですし、類似品もたくさんあります。でも、種類を増やすことで、何とか相応の値段で売れるように、他の追随を許さない立ち位置に持っていこうとしました。

他にも、コンセントの裏側で壁に埋まっているスイッチボックスも作っているんですが、これは100種類以上もラインナップしています。他の企業さんの場合、10種類以上持っているところはまずないと思いますね。

― 10倍以上もラインナップしているんですね。

本当の売れ筋だけで勝負するから価格競争になるんです。未来工業は価格は安くないですが、たくさんの種類を用意しています。「工事現場で問題が起こった時に、未来さんのカタログを見ると欲しい商品が載ってるんですよ」と言われることがあります。これは、さまざまなお客さまやユーザーさんの声を聞いて作っているからなんです。未来工業はお客さまのニーズを大事にします。お客さまの声を聞くだけでなく、それをもとにちゃんと商品まで作る。それも高く売れる要因のひとつだと思っています。

山田雅裕

残業は「悪」だという考え方のシフト

― 他に、未来工業の背景にはどんなものがありますか?

芝居の影響も大きいかもしれません。劇団をやっていた時の学びとして、任せればみんなそれなりのことをやってくれるというのがありました。メイクや衣装といった自分が専門ではない分野は、どうしても専門の人にゆだねるしかない。もし気にいらないところがあれば、希望通りにもやってくれます。

そこから「自分が専門でないところは、その専門の人に任せればいい」ということを学んだんです。それは会社経営も一緒ですから。無駄を削るのも同じです。素人の演技って、見ればすぐに分かるんですよ。例えば、芝居をやらない人が舞台に上がると、手が所在なさげにぶらぶらしてて、観客から見るとすぐわかるんです。それに比べてプロは無駄な動きをしない。私たちが無駄を削っているのは芝居の影響も大きいと思いますね。

― 他の会社が未来工業のようになりたいと思った時に、ハードルになるのはどんなところだと思われますか?

残業でいえば、基本的に多くの企業にとって残業する社員はいい社員なんですよ。それに対し、未来工業にとっては金を使うよくない社員なんです。どこかでその頭を切り換えなければいけないと思いますね。

また、給料が安くてどうしようもないから遅くまで残業すると、残業代は出るかも知れませんが、毎年の昇給が厳しくなってきます。残業代で稼いでもらうのではなく、残業をせず成果を上げることを評価し、給与も上げる必要があるんです。

人間は睡眠等々で8時間、会社で拘束されるのが8時間、残り8時間は自分の時間のはずです。その8時間を会社が取ってどうするんだという話です。自分の時間は自分のために使って、次の朝元気に出社し、昨日以上に高いクオリティで仕事をして欲しいですから。

例えば、開発部に最も多くの図面を書く社員がおりますが、いつも7時ぐらいに出社してきて16時ぐらいに帰っていきます。そして17時からは、テコンドーの先生をしています。彼自身、世界大会にも出場する選手ですが、現役選手を続けながら後進の育成もしています。そういう自分の趣味があるから、早い時間から出社して仕事をしているんです。会社は会社、プライベートはプライベートと切り分けています。それでも彼は開発部で一番図面を書く男です。プライベートが充実しているからこそ仕事ができるというのは、間違いなくあると思いますね。

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