台湾と日本。双方の越境クリエイターが語る、2020以降に期待するビジネスの可能性

台湾と日本。双方の越境クリエイターが語る、2020以降に期待するビジネスの可能性

文:紺谷 宏之 写真:樋口 隆宏(写真は左から、田中さん、Chadさん)

日本と台湾を横断し、双方をつなぐ活躍を続ける、それぞれのプレイヤーが語る、日本の可能性と台湾から見た日本とは。

訪日外国人が3000万人を突破。2018年末、こんなニュースが報じられた。その内訳をみると、中国、韓国に次いで、第3位に名が上がったのが台湾だ。観光庁によると、同年の訪日台湾人は475万人。5人に1人が日本を訪れたことになる。他方で、2018年の訪台日本人は197万人。こちらも過去最高を記録した。

歴史的背景から海外文化の受容に積極的な台湾では、昔から親日家が多く、近年は若者世代が日本のポップカルチャーに親しんでいることでも知られている。トレンドの発信地・台北では日本のファッション、カルチャーを紹介するセレクトショップも数を増やしている。

いま、台湾は日本をどのように捉えているのか。そして、日本にみる可能性とは。日本と台湾、両国をつなぐカルチャーマガジン『離譜(LIP)』発行人・田中佑典氏と、台湾と日本のデザインやアートを交流させるプラットフォームを運営する『Designsurfing』代表・Chad Liu氏に聞いた。

それぞれの国の"良さ"を入り口に、国を繋げる活動へ

「台日系というカルチャーを作りたい」という想いのもと2011年に創刊された『離譜(LIP)』は、日本と台湾をつなぐカルチャーマガジンだ。新しい旅や交流のカタチの提案を7年間14号にわたり展開してきた。その功績が評価され、2018年にはロハスデザイン大賞を受賞した。発行人である田中佑典氏は台日系カルチャーのキーパーソンといえる。

一方、『Designsurfing』代表のChad Liu氏は、越境する台湾人クリエイターだ。現在、台湾と日本を行き来しながら二拠点で活動。台湾と日本のデザインやアートを交流させるプラットフォームの運営や執筆活動等を行う傍ら、人と場をつなぐコーディネーターハブとして、台湾に進出する日本人クリエイターのサポートも行っている。
インタビューは、それぞれの国に関心を持った体験からはじまった。

田中 佑典さん
『離譜(LIP)』発行人・田中佑典氏

田中 僕が初めて台湾に行ったのは24歳の時、2009年です。同じアジアでも、上海や香港、タイを旅行していた時はずっと旅行者の感覚だったのに、台湾では違ったんです。

Chad 訪れたのは、台北ですね?

田中 そうです。台北の街を歩いているとアジア独特の雑踏やエネルギッシュな風は感じるけれど、気持ちの半分は日本に居るような居心地の良さがあった。振り返って思うのは、台湾に、海外の文化や新しい物事を受け入れる風土が根づいていたから、すっと馴染めたんだと思います。

Chad 台北は台湾の中でも、かなり独特な文化をもっていますよね。

田中 後で、他の地域とは違うと知って驚きました。ただ、台湾で仲良くなった同世代のクリエイターと話してみると、お互いに好きなカルチャーやファッション、ものづくりの考え方が似ていたんです。それが「台湾に関する何かを始めたい」という気持ちの後押しになり、現在の活動につながっています。

Chad クリエイターがきっかけだったんですね。僕は最初、台湾でプロダクトデザインの勉強をしていました。ただ、卒業した2002年頃は台湾のデザイン業界が全然盛り上がっていなかった。一度セレクトショップに就職したんですが、結果的には「日本のようなしっかりとデザインされたプロダクトを作りたい」と思い、日本の学校に再度通うことにしたんです。

田中 なぜ日本に関心を?

Chad 学校での教育がきっかけです。僕が通っていた学校は、台湾のメーカーが作った学校だったのですが、日本語が必修科目で、日本企業とのコラボもあるなど、かなり親日の環境でした。その中で、「日本のお客さんはデザインに対する理解が圧倒的に高い」と知ったんです。日本の学校では、卒業して就職というタイミングで東日本大震災があり、台湾に帰ることになってしまいましたが、あの頃日本で学んだことは僕にとっての財産になっています。

Chad Liuさん
『Designsurfing』代表・Chad Liu氏

田中 そこから、Designsurfingの立ち上げへ?

Chad 最初は、台湾のプロダクトデザイナーとして就職しました。ただ、その会社で作った製品を僕自身使いたいかと言うと、Noだった。これは続けられないと思い、いろんな道を探ったのですが、その中のひとつではじめたのが日本の超有名人ではないクリエイターを紹介するブログだったんです。それをきっかけに、メディアを手伝ってほしいという話が出て、デザインを軸に日本と台湾をつなぐ仕事がどんどん増え、Designsurfingを立ち上げました。2014年頃です。

ここ数年で、日本と台湾の交流は加速した

2011年からLIPをはじめた田中氏に、2014年にDesignsurfingを立ち上げたChad氏。両者とも、この「2014年」頃が日本と台湾の関係性において大きな転換点だったと振り返る。

田中 ちょうど2014年頃から、台湾での日本、日本での台湾が盛り上がりはじめ、お金が動き出した印象がありましたね。僕がLIPをはじめた2011年頃は、言うなればインプットの時期だった。それが2014年頃から、アウトプットの時期に入ったような印象でした。

Chad わかります。僕自身、独立しようと思ったのも直感に近い部分がありました。着実に日本が台湾に興味を持っている足音のようなものが聞こえていた。だから、ブームが来るよりも先に独立しなければと思っていました。

田中 そうですよね。僕は、2013年頃から「台湾好塾」「日本好塾」と題し、日本と台湾でお互いの国の情報やカルチャーを体感するイベントを定期開催してきたのですが、その頃から着実に潮目が変わっていった。場を開いたことで、ビジネスチャンスを求める人が声をかけ始めたんです。

Chad Liuさん、田中佑典さん

ここ数年、そのトレンドは強まっている。ただ、日本における台湾への関心と、台湾における日本への関心にはギャップがあると両者は語る。

Chad ここ2-3年で、日本と台湾の文化面における"時差"がどんどん縮んでいるように思います。日本人気が高まり、TSUTAYAやアトレといった日本の文化を持った企業がどんどん出店している。テレビドラマも、日本で放映された翌週には台湾でも見られます。日本文化全体が台湾に浸透していますね。

田中 その点、日本はまだまだです。広がってはきているけど、ギャップがある。2018年でいえば、タピオカミルクティーが爆発的に人気を博し、台湾好きの日本人は増えましたが、興味のない人もまだまだいます。ただ、台湾へ旅行される方は増え続けていますね。台湾の方にとって日本への旅行はどうなのでしょうか?

Chad 最近は、東京以外への注目が高まっています。もちろん、東京は流行のものを買える場所や、美術を見る場所として引き続き人気はあります。ただ、最近は外国人用の安い観光パスがあるので、地方を回る人も多い。これから広がる余地はありますね。

"人の環流"が次世代の台湾・日本を作る

台湾と日本、濃度の差はあれど、双方の文化の環流が起こり、人の行き来も増えている。お互いへの関心は高まる中、ビジネス面ではどのような可能性があるのか。日本と台湾双方を行き来し、事業を展開する両者が口を揃えて期待するのは、"人"だ。

田中 ビジネスの面で言うと、時代的にはモノを売っていくことがどんどん難しくなっています。その中で僕が注目しているのは、人材ですね。

今後、台湾の人が日本にきて、仕事を探す可能性は増えてくる。一方、日本も国内での人手が減り、国外からの人材が必要になるでしょう。日本人と感覚が近く、文化的にも、風土的にもマッチしやすい。加えて、中国語も話せる台湾の方は、今後注目されると思っています。

Chad 僕も人が大事になってくると思います。特にクリエイターは魅力的だと思いますね。僕が携わった新潟県長岡市のプロジェクトでは、日本酒のPRのために、台湾からクリエイターを連れて行き、パッケージをデザインしてもらいました。今の台湾のクリエイティブは、私が就職した頃と比べものにならないほど品質が高い。パッケージも非常に好評でした。にも関わらず、物価が安いこともあり、コストは日本と比べ割安です。

田中:日本から発注がたくさん生まれれば、経済も潤い、みんな幸せになれますね。逆に台湾では日本のものがどんどん当たり前になり、新鮮味が薄れている印象があります。食も商業施設も文化もフラット化していく中で、最終的に残るのは人なのかなと。

プロフィール/敬称略

※プロフィールは取材当時のものです

田中佑典(たなか・ゆうすけ)

「LIP」代表
1986年生まれ、福井県福井市出身。日本大学芸術学部卒業。アジアにおける台湾の重要性に着目し、2011年から日本と台湾を行き来。日本と台湾をつなぐカルチャーマガジン『離譜(LIP)』の発行(最終号 vol.14)をはじめ、台日間での企画やプロデュース、執筆、クリエイティブサポートを行う。2017年12月、東京・蔵前に台湾カルチャーを五感で味わうTaiwan Tea & Gallery「台感」をプロデュース。語学教室「カルチャーゴガク」主宰。著書に『LIP的台湾案内』(リトルモア)。2018年度ロハスデザイン大賞受賞。

Chad Liu(チャド・リュウ)

「Designsurfing」代表
1981年生まれ、台湾出身。桑沢デザイン研究所卒業。2015年、台湾と日本のデザインやアートを交流させるプラットフォーム『Designsurfing』を立ち上げる。情報発信だけでなく、作品やイベントなど実在の形に落とし込み、G-MARK海外メディアパートナーとなる。雑誌やウェブマガジンにてコラムを多く執筆し、主に台湾や日本人クリエイターに取材。作家・諸橋拓実個展「満漢全席展」のプロデュース、カメラマン・川島小鳥の作品『明星』、GKデザイン機構新宿駅サイン企画の展示、芸人・渡辺直美個展「Naomi's Party in Taipei」ほか、多岐にわたり活動し、多くの日本人クリエイターのサポートを行う。画廊Admira Gallery日本代表としても、芸術界を跨いで活躍。

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