リクルートをテーマにしたケーススタディ執筆者 サンドラ・サッチャーさんのリクルート考

リクルートをテーマにしたケーススタディ執筆者 サンドラ・サッチャーさんのリクルート考

Globalizing Japan's Dream Machine

リクルートグループは社会からどう見えているのか。私たちへの期待や要望をありのままに語っていただきました。

リクルートグループ報『かもめ』2019年6月号からの転載記事です

理想的な研究テーマ リクルートとの出会い

リクルートグループとの出会いは、ハーバードビジネススクールの同僚である竹内弘高教授にご紹介いただいたのがきっかけでした。この出会いが、独特の文化・慣行を持つ企業を発見するにとどまらず、自分自身や自らの目標までを変えてしまうとは思ってもいませんでした。

ハーバードビジネススクールの教授を務めた7年間は、世界の企業における労働力移行のベストプラクティス(解雇やリストラ)を専門としていました。調査対象企業には、ミシュラン、ロイヤルダッチシェル、ハネウェル、ノキアなどがあったのですが、私は次第にサラリーマン文化や終身雇用の歴史を持つ日本において、企業が労働力の変化をどのように管理しているかに興味を持つようになりました。

そして2016年の秋、竹内教授がハーバードビジネススクールAMPの参加者であった仲川薫さん(現リクルートコミュニケーションズ執行役員)をご紹介くださったのです。仲川さんは、後に私のリサーチアソシエート・共著者となる、シャレーン・グプタさんも紹介してくれました。仲川さんはリクルートグループについて、またその社風について手短に説明してくれました。

その後、ケーススタディ開発を担当していたリクルート経営コンピタンス研究所との初回の会議で、ビジネスや組織のあり方についても独自で革新的な思想を持っていることが分かりました。その後も電話会議を重ね、17年1月にリクルートの研究のために自ら東京に赴きました。

当時、私たちの研究プロジェクトはあるジレンマを抱えていました。日本企業であるリクルートの社風と経営理念のどのような部分が海外でのビジネスに活かされているのか。これはリクルートの上層部でも明確な解があるわけではなかったテーマでした。企業が直面している問題に解決の糸口を提供することは私にとっても、理想の研究テーマであると感じました。

来日して実感。一人ひとりに息づくリクルートの生命力

企業の能力と価値観は、現場の効率性や理解力を最大限に発揮できるプロセスをいかに確保するかという企業努力に表れるものです。今回の研究のためのインタビューに際しては、多大なる協力を得ました。

渡されたスプレッドシートには、リクルートの社歴に残る重要な出来事、事業活動や人事施策に対する情報はもちろん、インタビューにご協力いただくメンバーそれぞれの専門分野やバックグラウンド、提供できる情報などが記載されていたことをはじめ、あらゆる面で細かな配慮や尽力が見えた素晴らしい内容でした。

研究の成果は、ハーバードビジネススクールのケーススタディ(※)「GlobalizingJapan's Dre am Ma chine: Recruit Holdings Co. Ltd., (「日本のドリームマシーン、リクルートのグローバル化」英語版/日本語版)」として上梓し、18年10月よりハーバードビジネススクールMBAプログラムの講義に採用されています。また、日本滞在で得られた豊富な情報は、Harvard BusinessReviewの記事や、現在執筆中の企業の信用獲得、喪失、回復に関する書籍にも反映されています。

リクルートは、人々を変え、またその人々が自分自身を変えることを可能にする企業です。自身の研究テーマ「workforce transitions (労働力移行)」に特に焦点を当てた研究過程においてリクルートを通して分かったことは、これまで研究したベストプラクティス企業の多くが、いずれも共通の方法で顧客、従業員、投資家、社会などのステークホルダーとの関係を築き、信頼回復に至っていたということです。

これは私が知り得た情報のなかで特にお伝えしたい重要なことです。リクルートのスキャンダルや負債からの回復、今日の姿に至らしめた意志・意欲の力を研究したからこそ、そのことをさらに実感することができたのです。

※ケーススタディ:ハーバードビジネススクールを源流とした世界中のビジネススクールで行われているケースメソッドに使用される教材。企業の成功事例や経営判断など が描かれているケーススタディをもとに、学生と教授でディスカッションを行う。

リクルートの皆さんへ 今後の課題と期待

リクルートは今後、業界最多のインターネットカスタマー数の獲得を目指していると伺いました。それにより、リクルートのマッチングスキルに関する顧客満足度の高さが明らかになるでしょう。財務目標達成よりも、顧客満足度獲得を重視するべきだと思います。財務目標は顧客の価値創造に関係なく達成することもできます。リクルートが持続的な成長を遂げるには、サービス利用者の獲得だけでなく、サービス品質の向上に努める必要があります。

現在、リクルートの海外収益比率は全体の約半分を占めています。今やリクルートは、さらに大規模で多様なマネジメントとインスパイアをすることが求められる組織へと変貌を遂げたということ。今後は少なくともふたつの倫理的な難題に取り組まなければなりません。

ひとつめは、リクルートが作り上げるアルゴリズムで差別のパターンを繰り返さないことです。就職活動では、女性やマイノリティ集団などが、企業側の対応経験不足により、仕事の紹介を受けづらい状況が発生していく可能性があります。

ふたつめは、企業が及ぼすあらゆる影響について配慮を怠らないことです。Facebook、Uber、Google などの企業は、事業活動で生じた弊害や今後参入する業種に対する責任を果たしていないせいで反発を受けています。

スキャンダル後のリクルートがそうであったように、全ての企業活動の影響に伴う責任を常に全うする必要があります。これからもさらなる成長を期待しています。

プロフィール/敬称略

※プロフィールは取材当時のものです

サンドラ・サッチャー(Sandra Sucher)
ハーバードビジネススクール教授

ミシガン大学で「イギリスと極東」に関する研究によりB. A(. Phi Beta Kappa会員)を取得後、ハーバード教育学大学院に進み、Masters of Arts in Teaching を取得。ハーバードビジネススクールでは、First- and second-year Honors を授与されるなど優秀な成績でM. B. A.を取得。専門はジェネラル・マネジメント。フィデリティ・インベストメンツ社など20年以上の産業界での経験を基に、企業が社会的責任という曖昧な領域を歩むためのナビゲートをしてきた。投資家からの信用、社会的倫理に基づくリーダーであり続けると同時に、企業変革、改善、イノベーションを起こしていく方法を研究。現在、企業の信用獲得、喪失、回復に関する書籍を執筆中。

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