経験を活かしコロナ禍で活躍する人々から学ぶ、今求められる課題解決のヒント

経験を活かしコロナ禍で活躍する人々から学ぶ、今求められる課題解決のヒント

文:葛原 信太郎

新型コロナウイルスの影響下で生まれる新たな課題。組織づくり、自立分散、クリエイティビティで解決に挑む事例を、過去にMeet Recruitで取材した方々の活動から紹介する。

世界中で新型コロナウイルスの感染拡大に伴う厳戒態勢が続いている。日本でも、2020年4月7日に初となる緊急事態宣言が発出。感染防止策として、人との物理的な距離を取って接触を減らすソーシャルディスタンスの実践が強く求められており、医療や生活の維持に必要な業種を除いて、不要不急の外出は自粛されるようになった。5月25日に緊急事態宣言は全面解除されたが、油断のできない状況であることに変わりはない。

この社会状況に対し、自粛のような社会を構成するあらゆる人々ができるアプローチもあれば、医療従事者のように職責やこれまでの経験が重要な役割を果たす人もいる。本記事では、過去にMeet Recruitでお話を伺った方々から、この社会情勢に対し自身の経験や境遇を活かし独自の活動に取り組む方々を紹介する。

1.5億円以上集めた支援プロジェクトと次の有事を見据えた仕組みづくりを(ジャパンハート)

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ジャパンハート 吉岡秀人さん

新型コロナウイルスを契機に、この状況を乗り越えるためさまざまなクラウドファンディングが立ち上がっている。

例えばクラウドファンディングサービスを提供するCAMPFIREが実施する「新型コロナウイルスサポートプログラム」には約2,900件の申し込みがあり、資金調達を開始したプロジェクトは850件、支援者数は延べ15万人、支援総額は14.5億円(2020年5月2日時点)を突破。2020年3月単月流通額は、昨月対比約2倍、昨年同月比約4倍に跳ね上がったそうだ。

数あるクラウドファンディングの中でも、特に大きな金額を集めたのが、医療が十分に行き届いていないアジアの貧困地域で無償の医療支援を行う、特定非営利活動法人ジャパンハートのプロジェクトだ。

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ジャパンハート提供

同法人は、感染リスクが高いにも関わらずマスクを調達できない医療従事者にマスクを届け、彼らの身を守り、医療崩壊を防ぐプロジェクト『【#マスクを医療従事者に】あなたの拡散や寄付が医療の力に』を立ち上げた。プロジェクト終了近くには、プロジェクトページのウェブサイトがつながりにくくなるほどのアクセスを集め、15,000人から総額1億5千万円以上の寄附が集まった。この寄付は200万枚のマスクとなり、700を超える医療機関や介護施設、福祉施設へ配布を実施した。

さらに、医療・介護現場と衣装物資の供給者をつなぎ、最適な物資供給や医療体制を確保するためのプラットフォーム「ジャパンハートソーシャルネットワーク」も設立。今回のコロナウイルスに限らず、有事の際に必要な物資が必要な分量、医療や福祉の現場へ速やかに行き届くような仕組みを作り、支え合う有志のコミュニティだ。

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ジャパンハート提供

同法人最高顧問をつとめる小児外科医の吉岡秀人さんは、特定の個人に依存せず活動に再現性を持たせることの大切さを、2019年末におこなったインタビューで以下のように語っている。

"(編注:吉岡さんが最初にミャンマーを訪れた時に)現地にはヨーロッパの医療団体がいたのですが、誰でも専門性を持った役割分担が確立しており、医療も含めて全ての活動がシステム化されているのを目にしました。かたや僕は日本でのキャリアを捨てる覚悟で単独で乗り込んだのに、たった一人では医療の規模や仕組みで彼らに到底太刀打ちできなかった。

このままでは現地の人々に最善の医療を提供し続けることは困難だと思われた。だから個人の努力で何とかしようという精神論はやめて、科学的にやろうと決意しました。再現性のある活動にするための組織をつくろうと決めたんです"

「ジャパンハートソーシャルネットワーク」の取り組みは、まさしく医療現場が同じ課題に直面しないようにする、仕組みづくりだ。目の前の課題に対処しつつ、課題が生まれないよう再現性のある仕組みをつくる。アジアの厳しい医療現場で長年経験を積んだ同法人だからこそできる、コロナ禍での取り組みだろう。

過去のインタビュー記事はこちら
アジアの貧困地域で医療活動25年。ジャパンハート吉岡秀人の「継続する力」

オープンソースと、地域の力で課題に挑む(Code for Japan)

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Code for Japan 関治之さん

2011年の東日本大震災でも、発生した多くの課題を解決するプロジェクトやコミュニティが生まれた。それらの中には、継続的に活動を続け、コロナ禍の課題を克服するために力を発揮しているものも少なくない。

災害情報と地図情報を紐付けしたウェブサイト「sinsai.info」の立ち上げから生まれた一般社団法人Code for Japanもそのひとつだ。  "『ともに考え、ともにつくる』をCodeで支援する" というコンセプトのもと、テクノロジーを使って地域の課題を解決していくために主体となる市民コミュニティを運営し、Code for Kanazawa、Code for SAPPOROなど、各地に地域コミュニティが存在する。Code for Japanはそれらのハブとなる法人だ。

震災以降も積極的に活動を続けた彼らは、新型コロナウイルスの適切な情報発信のために、東京都の委託を受け、東京都の感染状況が分かる『新型コロナウイルス感染症対策サイト』を開発した。このウェブサイトは、オープンソースで公開され、全国のCode for◯◯や有志が自発的に各都道府県版のウェブサイトを開発、次々と公開されている。

このコードの修正に台湾のIT担当大臣オードリー・タンさんが参加したことで話題にもなった。

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Code for Japan提供

さらに、濃厚接触者の追跡に役立つ「コンタクト・トレーシング・アプリ」の開発(その後サンプル実装としてオープンソース化)、在宅・福祉施設向けの「新型コロナウイルス(COVID-19)情報まとめサイト」の開設、新型コロナウイルスに関する意見募集サイト「VS COVID19アイディアボックス」の開始など、次々とプロジェクトを立ち上げ、テクノロジーを使って地域ごとの課題解決に取り組んでいる。

Code for Japan代表の関治之さんは、2019年春頃のインタビューで各々の地域で課題解決に取り組める必要性について、以下のように語っている。

"そもそも地域の問題は地域で解決できたほうが良い。我々は解決ができる仕組みを作れないかと今考えています。今後は、プロフェッショナルの思考やスキルを細分化して型をつくり、さまざまな人が地域の課題や社会課題の解決に取り組める状態を作りたいと考えています"

東日本大震災から活動を継続し、自律分散型に広がったネットワークが、地域の課題解決に取り組んでいる好事例だ。

過去のインタビュー記事はこちら
「社会課題解決」をビジネスに。シビックテックの挑戦者から学ぶビジネスマインド
淡泊さ、チーム作り、現場感覚――シビックテックから学ぶ課題解決思考

クリエイティブの力で情報を届ける(NOSIGNER)

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NOSIGNER 太刀川英輔さん

社会が進化するためのデザイン戦略を追いかけるデザインファーム「NOSIGNER」を主宰する太刀川英輔さんは、デザインの力で社会課題を解決する手法を実践し続けている。

東日本大震災のタイミングでも、地震から40時間後にオープンした被災地での生活で使えるアイデアやデザインが集まったWiki「OLIVE」、東北を防災産業の拠点にという思いから生まれた防災キット「THE SECOND AID」、全都民に配布された防災ガイドブック「東京防災」を展開。そのほか、国内外で地場産業や教育、公共などのプロジェクトに携わり、領域横断的なデザイナーとして活躍している。

太刀川さんがコロナ禍で立ち上げたのはパンデミックから命を守るための情報サイト「PANDAID」。世界中で考えられた暮らしや習慣の変化を助ける知恵をまとめた共同編集ウェブサイトで、科学的ファクトに基づいた感染症の基礎知識から予防法、体力の維持やリモートワークのノウハウ、自宅での過ごし方、助成金情報などが網羅されている。例えば、A4のクリアファイルを使い、安価で安全なフェイスシールドの作り方を紹介。身近なもので手軽に安全性を担保する手法を浸透させようとしている。

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NOSIGNER提供

他にも、インフォグラフィックやわかりやすいイラストなどを独自に制作し、直感的に理解しやすいコンテンツが発信されている。

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NOSIGNER提供

"人間誰しも、自分が暮らしている領域外のことなんて、そう簡単に想像できないんですよ。自分の持っている興味の範囲はとても狭いんだけれど、そこから興味を引くために、ある種の階段を設計するんです。

たとえば以前クリエイティブ・ディレクションを手がけた、全都民に配布したブック『東京防災』では、まずアイコンとなるキャラクターで印象付け、イラストをパラパラめくって眺めても、何らかの情報が目に入ってくるように入り口を低く設計しています。

その先にはマンガがあって、一つひとつ読み込んでいくと、実はかなりディープな情報まで受け取ることができる。「社会課題のために何かしましょう」と呼びかけても人は動かないけれど、自分の日常や、普段やっていることに置き換えてみたときに想像がぐっと広がると思うんです"

2016年の取材時に太刀川さんが語った東京防災の情報設計は、PANDAIDにも活かされている。例えば、ソーシャルディスタンスとされている2mははたしてどのくらいの距離かを伝えるために、自転車1台分、畳1枚分といった身近な単位を例に出し、情報の間口を可能な限り広げている。

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デザインやクリエティブの力を取り入れることで、命を守る情報が分かりやすく伝わり、実践へのハードルが下がる。太刀川さんのこれまでの知見が発揮された活動だ。

過去のインタビュー記事はこちら
【前編】クリエイティブで勝負する社会課題 MOTHERHOUSE 山口絵理子 × NOSIGNER 太刀川英輔
【後編】クリエイティブで勝負する社会課題 MOTHERHOUSE 山口絵理子 × NOSIGNER 太刀川英輔

今回紹介した3人の取り組みに共通しているのは、クラウドファンディングや有志によるボランティアなど、個人が参加できるスモールステップを用意していることだ。課題に直面した時、全員が何かを立ち上げるリーダーにならなくてもいい。スモールステップをつくり、一人ひとりが少しずつ貢献することで、プロジェクトは前進する。

大きな課題だとしても、小さな力を積み上げられる仕組みさえあれば、少しずつ課題を乗り越えていける。全員が当事者と言える課題と直面しているからこそ、一人ひとりの小さな力を集める仕組みが、社会を少しでも良い方向に進ませてくれるはずだ。

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