500万円のキャラメルのおまけが「家」? Z世代起業家が語る、時代が求める価値観

500万円のキャラメルのおまけが「家」? Z世代起業家が語る、時代が求める価値観

文:葛原信太郎 写真:須古 恵

デジタルネイティブ。モノよりコト。社会問題への関心が高い。起業家精神が旺盛…。激変する社会のなかで育ったZ世代のモバイルハウスの暮らしから、現代のビジネスパーソンに求められるスタンスを学ぶ

1990年中盤以降生まれの「Z世代」が、いよいよ社会で活躍をはじめている。彼らは、「スマートフォンが当たり前」「大災害による社会の混乱」「SNSで世界中と交流できる」など、まったく新しい環境で育っており、「社会課題への意識が高い」「学校・会社以外のコミュニティを持つ」「慣習に縛られず一直線に目的を目指す」といった傾向が強いそうだ。

今回話を聞いたのは、1996年生まれの村上大陸(むらかみ・りく)さん。複数の事業を展開したのち、SAMPO inc.を創業。モバイルハウス事業を展開し、 日本だけでなくシンガポールでもプロジェクトを進めている。

なぜ村上さんはモバイルハウス事業を展開するのか。その価値観の原点はどこなのか。Y世代インタビュアーの視点でZ世代の価値観を探った。

村で育った幼少期の経験がSAMPOの原点

――まず、SAMPOのモバイルハウス事業について教えてください。

SAMPOでは、軽トラの上に居住スペースMOC(Mobile Cell:モバイルセル)を載せ、モバイルハウス生活を提案しています。MOCは完成品の販売ではなく、買った人と一緒に自らの手でイチから作っていきます。

また、MOCが集う場所としてHOC(House Core:ハウスコア)というものも用意しています。ここは、MOCが集まる基地のような位置づけで、トイレや風呂などの生活に必要なインフラを利用できるようにしています。

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東日暮里にあるSAMPOの工場。MOCの作成、イベントスペース、HOCとしても機能する。

――モバイルハウスだけでなく、ユーザーが集う場所も用意しているのですね。村上さんがモバイルハウス事業をやろうと思った原点はどこにあると思いますか。

生まれた地域での生活が影響していると思います。僕は福岡の北九州にある小さな村の出身。住んでいるのは高齢の大工さんが多かったのですが、彼らのものづくりの技術に影響されました。日曜大工で何かを作るなんてレベルじゃない。レンガで一軒家を建てるとか、山を切り開いて駐車場を作るとか、おじいちゃんたちがなんでも作っちゃう。小さい頃から、工具の使い方や、物を作るスキルを教えてもらっていました。

――面白いですね。そういったお年寄りの背中を見て「自分でモバイルハウスをつくる」というアイデアに繋がっていくんですね。

もう一つ影響を受けているのは、村の人たちのオープンさです。僕は小さい時に両親が離婚して母子家庭で育ちました。村の人たちは「あそこの家はお父さんがいないから、皆で育てよう」と、とても親身に接してくれたんです。村の中には自分の家以外にもたくさんの居場所があり、家庭や学校とも異なる価値観に触れながら過ごしました。その幼少期が自分独自の価値観を作っていったように思います。だからこそMOCが集まるステーションとしてのHOCがあるんです。

一般家庭とは少し違う環境で育ったからか、大学に進学しても自分と合わな過ぎて1年でやめちゃいました(笑)。

――中退後はどうしたんですか。

東京に出て、積極的にいろんな人に会いに行きました。大学とも合わず、地元にも深い話ができるような価値観が合う同級生はいない。「自分の居場所」を探すには、普通に生活していたらなかなか会わないような人に会うしかないと考えました。僕はずっと理系の勉強が得意で、エンジニアリングなどにしか興味がなかったのですが、東京ではアートや、建築、音楽など多様なジャンルに出会い、影響を受けるようになりました。

それと並行して、さまざまなビジネスも始めてみました。日本酒にスニーカー、VRなど...なんでも勉強だと思っていたので「できる?」って聞かれたら、全部「できます!余裕です!」って請け負ったんです。全然やったことがなくても(笑)。でも、仕事にするからこそたくさん勉強するし、身につく。修行のような毎日でした。

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――いろいろなビジネスをやったあと、なぜSAMPOにフォーカスしていったんでしょうか。

軽トラを改造したモバイルハウスをオフィスにしながらVRのビジネスをしていたころのことです。ある日、川の脇に移動して仕事していたときふと「この川はVRで再現できない」と思ったんです。だって、ただ水の流れを表現するだけでは川にはなりえず、川沿い特有の湿気や温度、風が吹いて木が揺れる様子など、たくさんの要素があってこそ川になる。

そこまで再現しようと思ったら、パラメーターがありすぎてVRではとても実現できない。「バーチャル」では「リアル」には勝てないと考え、リアルにもっとコミットしたいと思うようになりました。そこで、VR事業の投資家に「VRやめてモバイルハウス事業を始めます」って宣言したんですよ。

――VRを追求した先にリアルの面白さに気づくのが面白いですね。上の世代だとどうしても技術にフォーカスしてしまう傾向があると思います。

とはいえ、当然、投資家にはすごく怒られました。でも、モバイルハウスのイメージは膨らむばかり。自分の考えるモバイルハウスをブログに書いたら、投資家の孫泰蔵さん(編注:大学在学中にYahoo! JAPANの立ち上げに参画し、ガンホーの創業者でもある著名投資家)が読んで連絡をいただき投資していただけることになりました。

偶然、泰蔵さんに会う前日に塩浦一彗と出会ったんです。彼は高校のころからヨーロッパにいて、ロンドン大学バートレット校で建築を学んで卒業し、日本に帰ってきたところでした。彼とモバイルハウスへの考え方で意気投合し、二人でSAMPOを立ち上げることにしました。

既製品ではなく、特注品。家をオートクチュールにする

――SAMPOのウェブサイトには「我々が提供するのは『動く家』ではない」とあります。この言葉は、SAMPOのアイデンティティを知る上で重要なフレーズだと思ったのですが、どういった意図があるのでしょうか。

僕も、最初は単純に家として住んでいたんです。でも、実際に移動しながら住んでいると、ずいぶんと注目される。道の駅はもちろん、高速の料金所でさえ「これは何ですか」と聞かれるんです(笑)。普通、他人に突然「あなたの家の中を見せてほしい」とは言いませんよね。でも、うちの場合は言われるんですよ。そうなると、デザインや中に置くものは他人の目を意識せざるをえない。

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――本来はプライベートな"家"が、パブリックな空間にもなるんですね。

そうなんです。そこから自分の家をどんな家にするかを突き詰めて考えていくと、「自分」と向き合うことになりました。「自分」を様々な角度から分析して、それをデザインや内装に落とし込む。これはおもしろいと思ったんです。

家って洋服と一緒で、自分が滲み出るんですよ。ただオシャレにすればいいんじゃない。どんなデザインにするか、どんな家具を配置するか、どんな音楽や映像を楽しむか。家賃で浮いた分のお金をどんなふうに使うのか。そのすべてに、その人らしさが見えてくるんです。

だからこそ、SAMPOでは完成品のMOCを販売しません。1週間、住み込みで一緒に作ります。工具の使い方からスタートして、イチから作ってもらう。僕らは一緒に銭湯に行ったり、音楽を聞いてまったりしたり、さまざまな場面を過ごすことで、その人らしさを見つけ、MOCに活かせるようにアシストする。言い換えるなら、その人にマッチしたオートクチュールなんです。

こうしてつくるものは「動く家」ではなく、もはや「動く"その人"そのもの」なんです。

――「オートクチュール」ですか。なるほど。

例えば僕がMOCに載せているイスは、かかとを床につけるよりも、床とかかとの間にクッションを挟んだほうが座り心地が良くなります。他にも肘当ての高さや、座面の素材などさまざまな要素を調整して、ミリ単位で自分にフィットさせているんです。オーダーメイドよりももっと自分にぴったりなものを仕上げるイメージです。

――僕らの世代は既製品から一番自分に近いものを選ぶのが当たり前でした。多少合わなくても、使い手の自分がものに合わせる。村上さんは、それとは逆に自分に製品をフィットさせるんですね。

そうです。オートクチュールは高級品ですが、自分で作る技術があれば、自分のオートクチュールをリーズナブルにつくれる。それはとても楽しいことです。その楽しさを伝えたいという思いもありますね。

誰にだって必要な家。とにかくカジュアルにしたい。

――SAMPOが新しくはじめたコンテナハウス「CARAMEL POD」についても教えてもらえますか?

CARAMEL PODは、コンテナハウスとMOCを組み合わせた一軒家なんです。コンテナに寝室以外の生活に必要なインフラを載せ、MOCを寝室としてコンテナにドッキングさせます。

田舎に行くと、捨てられているコンテナがけっこうあるんですが、僕たちはそれらを譲り受け、改造・販売しているんです。コンテナハウスであれば、4トントラックで動かせますし、MOCよりもさらに柔軟に間取りを考えたり、物を配置できたりします。

これも自分の変化に合わせて、家をオートクチュールする延長でできたアイデアです。実は、今度結婚するんです。家族ができて、子どもが生まれたりすることを考えた次のプロジェクトです。

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日本にある土地に建てれば、建築基準法に従わなければいけません。でも、コンテナや軽トラの上を家にすれば、法律の縛りからも抜け出て、積載物の範囲内で自分のオートクチュールが作れます。

ドイツ語には、治外法権が認められているような場所、あるいは「聖域」「自由領域」「避難所」などを意味する「アジール」という単語があります。コンテナの中も、軽トラの上もアジールなんです。

MOCもCARAMEL PODも根本的な意図は同じで、とにかく「家をカジュアルに」したいんです。本来、土地は誰のものでもないし、どこにどう建てようと自由なはず。にもかかわらず、30年もローンを組まないと買えません。家は誰にだって必要なものなのに、です。

――ローンを組んで一軒家を買う。少し前まで当たり前でしたが、今の若い世代には経済的に難しいという話もよく聞きます。

そうなんですよ。もっと家を気軽なものにしたい。だから、お菓子のキャラメルの「おまけ」として家がついてくるという販売方法をとっています。家に500万円を払うのではなく、500万円のキャラメルに家がおまけでついてくる(笑)。500万円が払えなければ、500万円分の情報やなにかのスキームとかで払ってもらってもいいんです。「家なんてキャラメルの『おまけ』だよ」っていうくらい、家を気軽にしたい。

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CARAMEL PODは災害に対応した家でもあります。ここ数年、大きな自然災害に日本は何度も見舞われています。事前に災害が分かれば、コンテナを安全な場所を動かせる。緊急時には、 MOCだけでも動かして避難すれば良い。僕はこういう場所にしか住みません。面倒くさいことを全部取っ払ったアジールに家を作りたいし、本当に必要な要素をもった家に住みたいんです。

みんながそうじゃなくていい。必要な人への選択肢を増やす

――500万円で住めて、災害にも強い。SAMPOが提案する家にたくさんの人に住んでもらうのが理想ですか?

必ずしも、そうとは思ってないんですよ。選択肢のひとつとして提案できればいいかな、と。みんながMOCやCARAMEL PODに住むのが良いわけじゃないですから。自分の身の回りを見ていても、アパートやマンションなど、誰かに作られた家に住むことに少し違和感を覚えている人も少なくありません。例えば、ヨーロッパに行くと川沿いにボートハウスが浮かんでいて、それらも自分の手で作り上げたボトムアップな家です。

日本でボトムアップな家に住みたいと思う人だったら、MOCやCARAMEL PODがあるよって教えてあげたいですね。

ただ、マンツーマンで作っていく過程を大事にしたいから、その選択をするひとは少しずつ増えてくれればいいと思っています。リアルな場所を持っているのも、そういう理由です。SNSでバズって1日に1万人に広がる情報よりも、1回のイベントで50人に実際に会って話をして分かってもらうほうが良いですね。

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――なるほど。上の世代は、多くの人に広めたいと思ってしまいがちですが、分かる人にちゃんと伝えることを大切にしているんですね。

なにごとにも「実感」を大切にしたいんです。情報はあふれているから知っていることはたくさんあるんだけど、見たり触れたりして実感が伴っていないと信じられないというか。僕、自分の足で踏んだことがない場所は、いまだに海だと思っています(笑)。

先日はじめてニューヨークに行ったんですが、飛行機を降りてその地に降り立ってはじめて「あ、ちゃんとニューヨークがあった」って、自分の中の地図が上書きされました。まだ行ったことないモンゴルは僕の中ではまだ海です(笑)。

SAMPOという名前も、今の時代に必要だと実感することを提案したいという思いに由来しています。フィンランド神話に出てくる伝説的な鍛冶職人イルマリネンが作り出したマシンの名前が「SAMPO」なんです。SAMPOは必要なものを吐き出せる。小麦粉が必要なら小麦粉を出すし、金が必要なら金を出す。時代を読みながら、その時代に必要なものを吐き出し続けるマシンなんです。

僕たちも今はモバイルハウスが必要だと実感しているから続けてきました。今後は、もっと小さいものをつくるかもしれないし、物理的な"もの"じゃないかもしれない。これからも、時代にフィットすると実感したものを提案しつづけていきたいと思っています。

プロフィール/敬称略

※プロフィールは取材当時のものです

村上大陸(むらかみ・りく)

SAMPO inc. Chief Exective Officer, Co-founder
1996年生まれ。大学を一年経たずに休学したのち東京で日本酒、スニーカー、VR等複数の事業を行う。VRの会社を経営している際、軽トラの上にモバイルハウスをセルフビルドし自宅兼オフィスにしていた。モバイルハウス生活をしながらVirtual RealityとRealityの違いを思考しているとVRの「V」などいらないことに気づいたため、モバイルハウスの事業に転換し現在に至る。

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