ネガティブな感情も愛したい。Z世代シンガーみゆなは、人の多面性を肯定する

ネガティブな感情も愛したい。Z世代シンガーみゆなは、人の多面性を肯定する

文:森田 大理 写真:須古 恵

デジタルネイティブ。モノよりコト。社会問題への関心が高い。起業家精神が旺盛…。激変する社会のなかで育ったZ世代の生き方から、現代のビジネスパーソンに求められるスタンスを学ぶ。

1990年中盤以降生まれの「Z世代」が、いよいよ社会で活躍をはじめている。彼らは、「スマートフォンが当たり前」「大災害による社会の混乱」「SNSで世界中と交流できる」など、まったく新しい環境で育っており、「社会課題への意識が高い」「学校・会社以外のコミュニティを持つ」「慣習に縛られず一直線に目的を目指す」といった傾向が強いそうだ。

そんなZ世代の一人が、シンガーのみゆなさん。16歳で音楽活動を本格化し、2019年には「FUJI ROCK FESTIVAL'19」にも出演。音楽配信サービスでも1位を獲得するなど、今期待のアーティストだ。現在18歳の彼女が若い世代を中心に共感を呼んでいるのはなぜなのだろう。Y世代インタビュアーの視点でZ世代の価値観を探った。

「明るく頑張ろう」なんて、私は無邪気に歌えない

――Z世代は、幼少期~10代までの人格が形成される時期に、震災などの大きな出来事を経験していることが価値観に影響を与えていると言われています。みゆなさん自身はいかがですか。

そうですね。生きていれば決して良いことばかりではないし、自分の力ではどうにもできないことも起こるんだと、割と早いうちに悟ったかもしれません。でも、私は辛い出来事を忘れたいとは思っていなくて。

不幸も私の一部分じゃないですか。ちょっとしたことで落ち込んだり、人間関係で悩んだりすることもあるけれど、それがまったくない人生も面白くない。私は表現者として不幸も歌っていきたいから、人が"闇"を抱えてしまう一面を否定しないですね。

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――では、そういった経験も楽曲に反映されていると。

いえ、自分の体験を歌詞にすることはないんです。たとえば失恋した経験を歌詞にしたら、歌うたびにそのときのことを思い出しそうじゃないですか。完全に忘れたいわけではないけれど、急にフラッシュバックするのも辛いから、ちょうどいい距離を保っていたいんです。

――なるほど。みゆなさんは負の感情や出来事を否定するわけでも、近づきすぎるわけでもなく、上手くバランスを取って自分のものにしているんですね。上の世代なら、落ちこんだり悩んだりするのは弱さを見せるようで、ためらいのある人も多い気がします。

ずっと幸せな人なんて、この世にいないと思います。周りからすればいつも元気そうに見える人でも、何かしら抱えていることがあるかもしれない。だから、私は無邪気に頑張ろうなんて歌えないです。人知れず悩んでいることがあるときに、ただ明るく歌って励まされても共感はできないじゃないですか。私は誰かが幸せになるための道標ではありたいと思うけれど、私の幸せを提供したいわけじゃない。それって押し付けになっちゃう気がするんですよね。

人はみな多重人格。いろんな顔があって当然だと思う

――悩みといえば、新型コロナウィルスの影響で普段よりストレスを感じていたり、気分が落ち込んでいたりする人が増加しているとも言われています。みゆなさんは今の状況をどう受け止めているんですか。

たしかに、予定していたライブやイベントは次々と中止になったのはショックでした。でも、地元の宮崎にとどまって生活ができたのは、私にとっては意味のあることだったんですよ。のんびりと毎日を暮らしてみると気づいたことがあって。やっぱり、それまでは急に忙しくなったこともあって家族や友達と過ごす時間がとれず、気持ちに余裕がなかった部分もあったんです。

一度立ち止まってみたことで心が軽くなった気がしますし、私が東京へ行けない間もスタッフのみなさんが動いてくれたり、ファンのみなさんからいろんな声をいただいたりと、改めて周りの人たちに感謝できた期間になりました。だから、今はこうして活動できることが楽しくて仕方ないです。

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――コロナ禍で悔しい想いをしている反面、この期間をポジティブに考えるようにもしているんですね。そんな風に、物事を多面的にとらえられる力は、変化の激しい現代に必要な力とも言われています。みゆなさんが自然と実践できるのは、なぜだと思いますか。

うーん、私自身もいろんな顔を持っているからかもしれないですね。ころころと感情が変わっていっちゃう。「みゆなって何人いるの?」なんて聞かれることもあるんですが、誰だってそういうものじゃないですか。学校一の人気者がSNSの裏アカで闇をつぶやいているかもしれないし、ネットで誹謗中傷している人がリアルでは優等生かもしれない。

そこまで極端でなくても、相手によって話し方やテンションを変えるのって、みんな当たり前にやっていますよね。人は誰でも多重人格だと私は思っているんです。だから相手の一面だけを見て分かった気にならないようにしているし、違う一面が見えても受け入れたいと思っているから、それが影響しているかもしれません。

――なるほど。ネットとリアル、裏アカと表アカのように、使い分けることが当たり前の世代だから、人や物事にはいろんな顔があることを自然に受け入れているんですね。

そうかもしれません。SNSだって言葉の暴力にがっかりするときもあるけれど、結局は使い方次第ですよね。ファンのみんなに直接会えない期間も、リモートライブをやって宮崎にいながら交流することができたし、10月28日に発売したミニアルバム「reply」に収録されている楽曲「歌おうよ」「瞬き」は、SNSでエピソードを募集してみんなと一緒につくったんです。

そこで気づいたのは、匿名性の高いSNSだからこそ、リアルで話を聞くよりもエピソードに本音を感じたこと。圧倒的に辛いときのエピソードが多かったんです。人ってどんなに良い思い出がたくさんあっても、たった一つの嫌なことをいつまでも思い出しちゃう。そう思うと、「ネットに悪口を書いている人も、過去の何かに縛られてしまっているのかな」なんて、少しだけ気持ちが分かるかもしれない気がしました。もちろん悪口はダメですけどね。

共感を求めあうのではなく、違いを認めあう

――多面性を当然とすると、人付き合いが怖くなりませんか。コミュニケーションや、信頼を築くうえでみゆなさんが意識していることがあれば教えてください。

相手の感情に入り込みすぎないこと、共感しようとしすぎないことですね。気になることがあっても相手から話そうとしない限りは触れないです。たとえ親友が悩みを話してくれたとしても、自分が同じ立場や経験がない限りは、本当の意味では共感できないじゃないですか。無理に分かろうとするのも分かったふりをするのも失礼だし。

でも、決して人に無関心なわけではなくて、相手のことを知りたい、近づきたいという気持ちはもちろんありますよ。だから、心の距離を縮められるように、初めて会った人には必ずハグをするようにしています。今はソーシャルディスタンスのために"エアハグ"ですけどね(笑)。考え方や気持ちは人それぞれでも、その場の空気感や温度感を分かち合えたら良いかなと思っています。

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――この夏配信リリースした「あのねこの話」では同世代のクボタカイさんと共演されています。同じZ世代という意味で、ふたりのコミュニケーションに共通点を感じる部分はありますか。

クボタくんは同世代ですけど3歳年上。18歳の私からすると、成人している彼とは大きな差を感じてもおかしくないはずなんです。でも、まったく年下と見られていなくて、フラットにリスペクトしあう関係でいてくれる。そのスタンスが私と似ていると思います。

あとは、相手にあわせて自分の一面だけを見せるのではなく、お互いにいろんな面を隠さずに見せられるところかな。すると、私自身も気づいていない一面に気づかせてくれることがあって。「あのねこの話」も、クボタくんが私のことを「海辺の野良猫みたいだね」と言ってくれたのがきっかけで生まれた楽曲。私は昔から犬っぽいって言われてきたから、その発想が面白かったんです。共通点も多いけど違う視点や知識も持っていて、刺激しあえるから仲が良いのかもしれないですね。

――ひとつの側面に縛られないというスタンスは、アーティストとしての今後のキャリアや楽曲にも影響しそうですね。

そうですね。音楽家として目指したい最終地点は明確にあるんですが、そこにたどり着くまでにはいろんな道を歩んでみたいんです。ファンのみんなにいろんな顔を見せていきたいし、「みゆなとは」と固定概念をつくりたくないからこそ、特定のジャンルや形式にこだわりたくない。回り道をしてもいいし、ときには転んだっていいじゃないですか。そう思って自分の道を進めば、他の人と比べて落ち込んだり妬んだりして心をすり減らすこともないと思っています。

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プロフィール/敬称略

※プロフィールは取材当時のものです

みゆな(みゆな)

宮崎県在住。2018年の夏より地元のストリートや福岡・下北沢へのライブ遠征など音楽活動を本格的にスタート。同年10月にインディーズ系音楽配信サイトのウィークリーチャートで1位を獲得して以来、楽曲ランキング、アーティストランキングともに何週にも渡り1位を記録。配信1stシングル「ガムシャラ」2ndシングル「天上天下」はTVアニメ「ブラッククローバー」第五クールのOP&EDテーマに抜擢。19年には「FUJI ROCK FESTIVAL'19 」に出演。楽器メーカー"ギブソン"が行う全世界的に新しい世代(21歳以下)のギタープレイヤーを育成するプログラムに日本から選出されるなど、国内外で今後の動向が期待される新人として注目を集めている。

『reply』(A.S.A.B)みゆな

『reply』(A.S.A.B)

みゆな
定価:本体1,800円+税

前作「ユラレル」から約1年ぶりにリリースする3rdミニアルバム。コロナ禍において音楽を発信し続けるみゆなが一人ではない安心感、反して不安や孤独、そして、ファンや九州エリアから生まれた繋がりやパワーを詰め込んだ"今"だからこそリリースするべき注目の作品。

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