若き起業家 高木俊輔に気付かされた「破天荒なZ世代」という虚像

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Z世代の視点

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文:葛原 信太郎 写真:須古 恵

クラウドファンディングで学費を集めて転校し、高校生で起業。「破天荒な世代」というイメージだけでは括れない、ひとりのZ世代から新しい時代の兆しを学ぶ。

1990年中盤以降生まれの「Z世代」が、いよいよ社会で活躍をはじめている。彼らは、「スマートフォンが当たり前」「大災害による社会の混乱」「SNSで世界中と交流できる」など、まったく新しい環境で育っており、「社会課題への意識が高い」「学校・会社以外のコミュニティを持つ」「慣習に縛られず一直線に目的を目指す」といった傾向が強いそうだ。

今回話を聞いたのは、KADOKAWA・ドワンゴが運営するインターネットの高校、N高等学校の起業部出身(2021年3月に卒業)、株式会社Civichat代表取締役で、2002年生まれの高木俊輔さんだ。

高木さんの価値観形成には、小さい頃から読んできた大量の古典が大きく関わる。起業までのストーリーから、テクノロジーとの向き合い方、世代間のギャップ、それらの根底にある価値観を聞いた。

「めんどうなこと」がテクノロジーで解決できる実感

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── 株式会社Civichatの事業内容を教えてください。

自分にあった補助金をチャット機能を使って簡単に知ることができる、個人向け助成制度提案ICTサービス事業です。事業の大きな目的は、選択格差をなくすこと。そのために今フォーカスしているのは、自分にあった公共制度を利用しやすくすることです。行政では、妊娠・出産に関する助成費用、子育てに関する保険など、人々をサポートするさまざまな制度を作っています。しかし、自治体によって情報のまとめ方はまちまち。自分にあったサポートを探すのは難しく、そもそもサポートの存在すら知らないケースも多いんです。

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そこを改善するのが僕たちのサービス。最近では行政や議員などへロビイング活動もしています。公共制度を使いやすくするには、公共制度の情報の管理や、整理にも手を入れる必要があると考えているからです。こうしたサービスが普及していけば、役所への問い合わせや受付業務も減るので、職員の負担も削減できるはずと考えています。

法人化にあたっては、N高の仕組みを利用しました。N高には「起業部」があり、部内でアイデアが通れば、起業に必要な費用は学校が出してくれるのです。ビジネスモデル構築や事業計画書の作成など実践的なプログラムや特別顧問らによる指導もあります。ここでCivichatの原案になる事業計画をまとめて、部内の審査を経て、会社を起こすことになりました。その後、事業内容のブラッシュアップを重ね、学生向け開発コンテスト「Civictech Challenge Cup U-22」でも優勝しました。2020年には、熊本市と協同で熊本地震の支援制度をチャットbotを利用して案内するサービスを開発し、2021年3月にはベータ版がリリースされました。

── 起業にいたるまでには、どんなストーリーがあったのでしょうか。

世の中のめんどうな課題はテクノロジーを使って解決手段を生み出せるという実感と、「選択格差」という社会課題との出会いが大きいと思います。

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僕は大阪の郊外出身なのですが、高校の時にサッカー推薦で香川の全寮制の高校に進学しました。ただ、そこの保守的な校風やサッカー漬けの毎日に自分とは合わないと感じたんです。そのときに、インターネットではおもしろいことが日々起きていると感じ、地元では会えないようなさまざまな人たちと出会った。

他の高校とは全然違うN高の存在を知ったのもインターネット経由です。活躍している同世代には、N高在籍の人も多いらしい。「転入したい!」と思ったのですが、当然それにはお金が必要です。かつ、当時僕は特待生だったので、学費なども免除されていました。転校でかかる学費を親に頼るのはかっこ悪いと考えて、クラウドファンディングで学費を募ることにしたんです。クラファンは中学校のときに使ったことがあったので。

── 中学生でクラウドファンディングを?

文化祭がない中学校で文化祭をやるために.必要な備品代を募ったんです。そのときのことを思い出し、今回も使ってみよう、と。実際に学費として30万円もの支援をいただくことができました。僕自身は小さい頃から新しいものが大好きなんですよね。当時はまだ6歳でしたが、日本で最初に発売されたiPhoneも持っていました。今でも新しいウェブサービスはすぐに試していますね。

── クラウドファンディングの支援でN高に転入してからは、どんな活動していたんですか?

転入後は、オンラインで授業を受けながら、Twitterで「株式会社ハッシャダイ」の人と知り合い、フリーランスとして働くことにもなりました。ここで「選択格差」の問題と出会ったんです。ハッシャダイは、いわゆる地方のヤンキーに、東京での職・食・住を無償で提供し、選択格差のない社会をつくることを目指す会社です。そこで出会うヤンキーはとてもパワフルで、必要な機会があれば活躍できる人も少なくない。ただ、その機会がないから人生の選択肢が少ないんです。

ハッシャダイでは、自分にあった奨学金を教えてくれるウェブサービスを作りました。世の中には本当にたくさんの奨学金があります。しかし、フォーマットは統一されていないし、情報整理もされていない。自分の希望にマッチする奨学金を探すのはとても面倒。でも、テクノロジーを使えば解決できる部分が多い。奨学金によって少しでも「選択格差」を解消できればと、熱中して作り込みました。

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そんな折り、サンフランシスコに行く機会を得ました。ハッシャダイの親会社であるDMM.comが運営するプログラミングスクール「42 Tokyo」の視察に同行させてもらえたんです。費用は自分持ちだったので、僕にとっては大きな金額を支払うことになる。やっぱり、身銭を切るとなると心構えが全然違うんですよね(笑)。ひとつでも多くのことを学んで帰ろうと意気込みました。

ここではとても刺激を受けました。特に影響されたのは、ハーバード大学に通う学生たち。日常的に世界最先端のビジネスやテクノロジーについて語り、それらを実装できる人たちで、とにかく視座が高かった。これまでもなんとなく思っていた「自分のイメージするものは、どんどん自分でつくればいいんだ」ということに確信が持てたんです。

図書館中の本を読み漁り得た真理

── 実際にコードを書き、サービスをつくっていくテクノロジー分野の人たちに影響されたんですね。

僕は「スケーラビリティ」こそ、テクノロジーの魅力だと思うんです。自分で生み出したサービスや技術は、インターネットで瞬時に世界中に共有できる。その影響は計測でき、どのくらい広まったのか。どんなふうに使われているのか、どんなところに改善の余地があるかも知れる。そこで改善を加えれば、さらにスケールしていく可能性もあります。

他方で、スケーラビリティへの熱量が暴走している現状もあります。ソーシャルメディアからインフルエンサーが生まれて、情報はものすごい勢いで広まり、すぐに忘れられて、次々と新しい情報が求められる。サービスもどんどん生まれて、それぞれがユーザー増やそう、課金してもらおうと、情報の往来をさらに加速させている。かつてないほどたくさんの情報が溢れていて、ものすごいスピードで世の中が変わっていく。こんな時代は歴史を振り返っても存在しません。

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加速に疲れた人もでてきています。大衆迎合主義と訳される「ポピュリズム」と言われる政治思想の台頭や、ゆったりやまったりを意味する「チル」という言葉が支持されるのも、加速へのアンチテーゼでしょう。社会が変われるスピードは一定なのに、変わろうとする力が働きすぎて、軋轢が生まれている。この加速についていけない人は、とてもつらいはずです。

急進主義と漸進主義の関係性のような(参考:「フランス革命についての省察 (光文社古典新訳文庫)」)、こういった状況は決して21世紀の問題ではなく、過去にも繰り返し起きていました。「歴史は揺れ返す」ということを頭に入れながら古典を読むと、少しだけこのあとの未来も予想できる気がしてきます(笑)。

── 加速への反動は政治にも、社会の流行にも影響を与えているんですね。俯瞰的に物事を見る高木さんのこういった価値観は、どうやって育まれたと思いますか。

小さい頃から読んでいた、たくさんの本から影響を受けています。小学校の頃から、授業を聞かずに(笑)ひたすら本を読んできました。家の近くに図書館があって、そこの本を片っ端から読み漁ってたんです。

図書館には1回で借りられるのは10冊・1週間というルールがあったのですが、1週間待たずして10冊読み終えてしまい、週に2度ほど通っている時期もあったくらい。子供の頃からずっとそんな感じで、今も活字中毒なんですよ。昨日もふらりと入った古本屋で持ちきれないほどの本を買ってしまいました。

──週に10冊としても年間では500冊以上、すごい数ですね。どんな本を読むんですか。

小説やビジネスの本も読みますが、特に読んでいるのは哲学などの古典です。最近の本は、ジャンルが全く違うのに同じようなことが書いてあったりする。それらの多くはすでに古典に書かれているんです。

いつの時代もどんな場面でも、変わらない本質が書いてあるから、今でも古典が読まれ続けているのでしょう。ぼくがここまで話したことも、自分で考えたというより、昔からある真理に共感して「いいね」を押して「シェア」したようなものです。

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──幼少期からの読書を通じて、特に影響を受けて、現在の活動にもつながっている部分はありますか?

それは、たくさんありますよ。例えば、古典に書いてある普遍的な思想や、歴史上何度も繰り返す似たような出来事を学ぶと「どうにもならないこと」が存在し、諦めるしかない場面もあることがわかりました。だからといって、黙っておけばいいかというとそういうわけでもないと思うんです。どうにもならないことはスパっと諦めることで、自分の好きなこと・本当にやりたいことに集中できる。

Civichatでは選択格差をなくしたいとビジネスをしていますし、なくなれば会社を畳もうと思っていますが、実際のところ「0%」にはならないと思ってるんです。なくならないものをなくそうとするって、合理的じゃないですよね。だから、同じような領域でビジネスをやる人は少ない。でも、やらなきゃいけないことってあると思うんです。

──Civichatが取り組む選択格差という課題にも、“どうにもならないこと”が存在する。でもそれはやらない理由にはならないと。

いろんな本を読んで、いろんな人の考え方を知ったことで、僕の頭の中は、自分と相反する思考や感情が同居しています。自分の意見を考えると、その反対意見も同時に浮かぶんです。だからこそ、考えが深まっていく。

その中で、何かを選び取っていく基準が「思想」だったり「ビジョン」になる。そんなふうに考えるようになったのも、古典をはじめとするあらゆる本を読んだから。わかりやすい帯がついてるような最近の本ばっかり読んでちゃダメなんですよ(笑)。

「Z世代らしさ」という虚像

── 耳が痛いです…。ここまで聞いたような高木さんの行動や思想は「Z世代らしさ」なのでしょうか。

価値観は人それぞれだと思います。「Z世代は無礼だ」って思う人は、そういうZ世代に囲まれている。イケてるって思う人は、イケてるZ世代が身近にいる。

例えば、僕の所属していた起業部には当然アントレプレナーシップがある人が多いです。でも、N高には16,000人くらいの生徒が在籍しているんで、本当にいろんな人がいる。世界レベルのスポーツ選手もいれば、不登校だった子もいる。いろんな人がいるんだから、話が合う人も合わない人もいます。

── これまでのZ世代の人たちへの取材では、地元の友だちとは話が合わないという方が多かったのですが、高木さんはどうですか?

確かに興味の対象があわないと感じることが多いですが、価値観が違う人と話すことこそ大事だと思っています。同じだと思える部分もあるし、やっぱりわかりあえない部分もある。自分と相手との差を知って、そこになにがあるのかを考えるんです。

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大人から若い世代を見ると、TikTokでなぜ動画をシェアするのか、Zenlyでなぜ位置情報をシェアするのか、よくわからないことも多いと思います。でも、自分の目の前にあることばかりキャッチアップするんじゃなくて、わからなくてもとりあえず試してみる。起業家として、ぼくはそう行動しています。「パーティーにいってる暇があれば、勉強したほうがいい」って話もわかるけど、それだけでいいんだろうか、とか。とにかくいろんなことに手を出していきたいです。

起業もその延長ですね。とても大変だけど、経験のないことをやってみれることがとにかく楽しいんです。最近はVJもやってるんですよ。プログラミングやコンピューターを使ってロジカルに映像を作っていくのに、表現すると音楽と共に身体性を帯びるのがおもしろいです。

でもこの僕の感覚が「Z世代らしさ」というわけでもない。「Z世代は、今までの常識をどんどん壊していく」という文脈にしたいのはわかります(笑)。でも、いろんな人がいるんだから「Z世代」なんて一括りにはできないんじゃないでしょうか。

プロフィール/敬称略

※プロフィールは取材当時のものです

高木俊輔(たかぎ・しゅんすけ)

2002年生まれ。大阪府出身。小さい頃からテクノロジー分野に興味を持ち、新しいサービスやデバイスが出るとすぐに試してきた。中学生時代には文化祭の予算確保のためクラウドファンディングを実施。Twitter上で話題になっていたN高等学校に興味を持ち、転校のための費用もクラウドファンディングで募り、無事にN校生に。高校生活の傍ら、株式会社ハッシャダイでサービス開発にも従事。2020年には株式会社Civichatを創業し、2021年3月N高等学校卒業。

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1990年代中盤以降に生まれた、新たな価値観を持つ新世代「Z世代」。幼少期からインターネットが身近に存在し、思春期にはスマートフォンもSNSも当たり前に存在する―。こうした環境は、個人が触れられる情報量や人々の関係性、物事の捉え方を大きく変化させてたといわれている。これからの社会の中核を担っていくこの世代独自の価値観を、多様な方面から紐解いていく。