持続可能性を阻むのは、孤立かもしれない。脱プラごみ活動に学ぶ社会課題解消の秘訣

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文:森田 大理 写真提供:Social Innovation Japan

プラスチックごみを減らし人々の消費行動を変えるプラットフォーム「mymizu」。共同創設者のマクティア・マリコさんが環境問題に取り組んできた道のりから、持続可能な社会の実現に必要な視点を学ぶ

国連が掲げるSDGs(持続可能な開発目標)など、サステナビリティ活動へ取り組む機運が高まって久しい。特に気候危機や海洋汚染などの環境破壊は地球全体の問題。日本では2020年7月にレジ袋が有料化し、飲食店でも続々と容器やストローの脱プラスチックに動き出しているが、以前として世界有数のプラスチックごみ排出国だ。

こうした状況の中、2019年の立ち上げ以来、10万本以上のペットボトル削減、3万7千kg以上相当のCO2削減効果につなげている活動がある(2021年7月現在)。無料で給水できるスポットとマイボトルを利用するユーザーをつなげるプロジェクト、その名も『mymizu(マイミズ)』。環境省グッドライフアワード2020「環境大臣賞」や、国連開発計画(UNDP)Social Innovation Challengeの日本受賞者にも選出された。mymizuはなぜこのように注目される取り組みになったのだろうか。共同創設者であるマクティア・マリコさんに話を訊いた。

優れた技術・リソースがある国なのに、その使い道がもったいなくて

イギリスで生まれ育ったマクティア・マリコさん。彼女のキャリアは中日新聞社ロンドン支局からはじまる。記者として扱ったテーマは、チャリティ活動、政治、経済…と実にさまざま。世の中の問題を深く・幅広く調べ、当事者や識者に話を聞くことが刺激的だった。環境問題の活動家や社会起業家とも出会い、社会をより良くしていきたいという想いを強めていく。それと同時に日系の新聞社に在籍していたからこその気づきも得たのだという。

「気候危機などの環境問題をテーマに記事を書こうとしたところ、『正直、こういうテーマは日本の読者に読まれにくいんだよね』と言われたことがあります。イギリスでは当たり前に議論されているテーマなのに、日本で関心が低いのはなぜだろうと疑問に思いました」

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インタビューは世界海洋デーの6月8日に、オンラインで実施した

こうした経験も少なからず影響し、マクティアさんが次のキャリアに選んだのは駐日英国大使館。もっと日本のことを理解したいと、イギリスから日本に渡った。大使館ではイノベーションを加速させる目的で、イギリスと日本の間に立ってスタートアップや研究機関・投資家をつなぐ役割を担当。この仕事を通して更に両国の違いを感じたそうだ。

「イギリスのスタートアップは環境問題をはじめとした社会課題に向き合っている企業が多いのですが、日本はその割合が少なかった。技術やアイデアが面白い企業は多いのに、それが社会レベルの課題解決にあまり使われていない。日本は世界トップクラスの経済大国で教育水準も高く、技術力もリソースもあるのに“もったいない”って思ったんです」

マクティアさんは日本で環境問題に対する関心が相対的に低い原因の一つに、情報へのアクセスしづらさを挙げる。世界で起きている問題や取り組みを日本の人々が認知するには言語の壁を乗り越えなければならないが、日本語で紹介されているのは全体のほんの一部。見聞きする機会が海外に比べて圧倒的に少ないからこそ、意識を向けづらいのではないかと考えた。そうした問題意識もあって、マクティアさんは自分自身の手でも社会課題の解決に取り組もうと決意する。

変えるべきは、プラスチックではなく人々の消費行動

マクティアさんは、同じ志を持つ仲間と共に一般社団法人Social Innovation Japanを設立。社会課題の解決につながるイノベーションの創出支援や、企業のサステナビリティ活動に対するコンサルティングをおこなってきた。mymizuも、Social Innovation Japanが取り組むプロジェクトのひとつ。きっかけは、マクティアさんが旅行先である光景を見てしまったことだという。

「沖縄のとあるビーチを訪れてみると、海から漂着したプラスチックごみで辺りが埋め尽くされていました。沖縄は海の美しさが世界的にも知られている場所だけに、その光景がショッキングだった。以前からプラスチックごみによる海洋汚染の問題を気にしてはいたのですが、目の前に広がるごみの山を見て本気で何とかしなければと思いました」

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プラスチックごみによる海洋汚染を目のあたりにしたことがきっかけで、mymizuは生まれた(画像提供:mymizu)

マクティアさんが着目したのは、特にペットボトルごみが目立ったこと。日本は水資源が豊富で、世界トップレベルの浄水システムを持つにも関わらず、大量のペットボトルが消費されていることに疑問を感じたそうだ。きれいな水が飲める国だからこそ、脱ペットボトルを進める責任もチャンスもあるはず。使い捨てを前提にペットボトルが大量生産・消費される社会のあり方を見直すべく、mymizuが生まれた。

「私たちが本質的な問題だと思うのは、プラスチックそのものではなく人々の使い方。本来は何度も使える優れた素材にも関わらず、過剰な使い捨て消費によって原料である石油を消費し、生産の過程でCO2を排出し、ゴミとなり海を汚染しています。こうした環境破壊を食い止めるには、生産・消費・廃棄が一直線の経済から、生産→消費→再利用と円を描くような循環型の経済“サーキュラーエコノミー”に変えていく必要がある。私たちは単にプラスチックごみを削減するというよりは、持続可能な消費行動に社会全体を変えていきたいんです」

一つの企業、一人の力ではなく、みんなで解決できる仕組みが必要

mymizuは、無料でマイボトルに給水できるスポットが検索できるスマートフォンアプリ「mymizuアプリ」をローンチ。外出先で気軽に給水できる仕組みを提供することで、マイボトルを持つ(ペットボトルを消費しなくて済む)日常をより便利で持続可能なものにしようとしている。

このように、mymizuアプリの基本的な機能は給水スポットとマイボトルを持つ個人のマッチングだ。しかし、マクティアさんたちがこのアプリで実現したいのはそれだけではない。店舗や企業に給水パートナーとして登録してもらうことで給水スポットを増やすこと。mymizuは、みんなの力を束ねて社会課題を解決するようなモデルの提案でもあるという。

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公共の施設・設備や店舗・企業をあわせ、現在約200,000か所の給水スポットが表示されている(画像提供:mymizu)

「もし新しく給水スポットを全国に設置しようとすれば莫大な費用がかかり、とても1社では実現できませんよね。多くの企業は自社のリソースだけでなんとかしようとするから、上手くいかなかったり断念したりするケースが多いように感じます。そうではなくて、同じ問題意識を持つ人や企業が手を取り合い、みんなの力をあわせて取り組みを広げていく。持続可能な社会は自分だけ、1社だけが頑張っても実現できるものではなく、社会全体の意識を変えていくことが必要。だからこそ、私たちは誰もが参加できるプラットフォームをつくったんです」

立ち上げた当初は、マイボトルに給水をすることに賛同してくれる場所なんてあるのかと懐疑的な声も投げかけられたという。しかし、実際にはビーガンレストランやオーガニックカフェ、プラスチック容器の使用を見直した店舗などが続々と登録。サステナビリティに感度の高い店舗・企業からmymizuの活動が広まり、今ではアプリを開けば地図上には飲食店だけでなくホテルや小売店、企業なども含め1,000社を越える給水パートナーが表示されるまでになった。

データで示す、意思表示をする…。持続性を高める“可視化”の力

また、mymizuアプリでは個人が給水した回数を記録できるようになっており、コミュニティ全体でのペットボトル削減本数やCO2削減量も表示される。マクティアさんたちがこの仕組みにこだわったのは、mymizu以前の活動において、日本でのサステナビリティ活動を阻むある壁に何度も直面したからでもあるそうだ。

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アプリのトラッキング機能により一人ひとりの成果が
可視化される仕組みになっている(画像提供:mymizu)

「企業のサステナビリティ活動を支援する中で、『取り組む意義は理解しているが、消費者が求めていないので実行できない』と言われ続けてきました。多くの企業が、消費者はサステナビリティに無関心だと捉えていたのです。だからこそ、企業に関心を持つ人の存在を示しビジネス的にも成立する可能性を伝えたかったんです」

このようにmymizuが活動の成果を可視化する機能を搭載していることは、企業が納得するデータを示したかったからだとマクティアさんは語る。また、それだけでなく今まさにマイボトルを利用している人たちにとっても大きな意味があった。自分と同じように脱ペットボトルに取り組む仲間の存在を感じることができたのだ。

「私たちがこのプロジェクトで一番力を入れていることは、コミュニティ活動。日本でもマイボトルを使っている人たちはいますが、せっかく始めても周りに使っている人がいないと孤立して、続ける気力を失ってしまいます。だからこそ、mymizuを使うことで自分が一人ではないことを感じてほしかった。mymizuは、同じ価値観を持つ人やお店同士でつながるコミュニティを目指していますし、私はmymizuアプリを使う人のことを“ユーザー”とは呼びたくありません。サービスを提供する相手ではなく、大きな目標を共有する仲間だと思っています」

そうした想いに呼応するように、mymizuコミュニティはローンチから1年9ヶ月で着実に拡大。SNSでは「#mymizu」をつけて給水報告を投稿する人たちも現れている。mymizuのオンラインショップでは、mymizuのロゴステッカーが予想以上に売れているそうで、購入者は脱プラスチックの意思表示として使ってくれているのではないかと、マクティアさんは話してくれた。また、個人同士でつながるだけでなく脱プラスチックに取り組むお店を知るきっかけにもなり、お店同士の交流も生まれているという。こうしたコミュニティの広がりの先にマクティアさんたちが目指しているのは、人口の3.5%がマイボトルを使う生活に変わることだ。

「人口の3.5%以上が参加する社会運動は、社会を変える力を持つと言われています。日本の人口に換算すれば、427万人。この規模を実現するには、マイボトルを持つことに賛同する人を増やしていくだけでなく、より多くのパートナーに参加いただき給水スポットを充実させる必要もあります。企業にも消費者にも行政にも働きかけることで取り組みを広げていきたいですね。そして、mymizuを成功事例として他の社会課題にもアプローチしていきたい。無駄や犠牲の上に成り立っている社会を見直し、さまざまな立場の人と手を取り合って社会システムをリデザインしていくことが、私の目標です」

プロフィール/敬称略

※プロフィールは取材当時のものです

マクティア・マリコ(Mariko McTier)

ロンドン大学卒業後、中日新聞社ロンドン支局に勤め、2014年からは駐日英国大使館の国際通商部に勤務。2017年よりフリーランスとしてプロボノやコンサルティングの活動を行う。同年、一般社団法人Social Innovation Japanを立ち上げ、サステナビリティ関連プロジェクトを開始。その一環として、ペットボトルの削減をミッションにした日本初無料給水アプリ「mymizu」をローンチ。サーキュラーエコノミーを促進する「Circular Economy Club」の東京担当も担う。

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