人類を水の制約から解放したい。WOTAが自律分散型水循環システムで目指す未来

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文:森田 大理 写真:今井 駿介

排水の98%以上を再生処理する技術で、水道がない場所でも手洗いやシャワーの利用を実現。人と水の付き合い方を模索するWOTA株式会社の事業展開から、新たなビジネスアイデアを生み出す秘訣を探る

ナイル川、チグリス・ユーフラテス川、インダス川、黄河。人類史上、最も古い文明はどれも川のそばで生まれた。古代ローマ帝国の水道施設は、古代文明の偉業の一つとして数えられ、江戸の街が世界最大規模の都市として栄えたのは、優れた水道システムがあったのも理由の一つだと言われている。このように人類の歴史は常に水と共にあり、水道インフラなくして人類の発展はなかったと言えるだろう。

今、この常識を覆すかもしれない事業に取り組んでいる企業がある。その名もWOTA株式会社。同社では、水再生処理技術とAIやIoTをかけあわせて、生活用水の98%以上を自動で再生処理できる小型のシステムを開発している。同社から、現代の日本で暮らしていれば当たり前ともいえる水道インフラと一線を画すビジネスはなぜ生まれたのだろうか。代表の前田瑶介さんに話を聞いた。

既存の水道インフラだけでは、世界の隅々に衛生的な水は行き渡らない

WOTA株式会社は、2014年に東京大学出身の仲間が集って設立されたスタートアップ企業だ。現在代表を務める前田さんは大学・大学院で建築を専攻。建物や都市の構造が水道などのライフラインによって制限を受けていると感じたことが、事業のヒントになっているという。

「例えば住宅のキッチンや浴室・トイレなどの水回り設備は水道管がつながっていないと使えず、設計上の自由度を下げる要因になっています。また、私たちが衛生的な水を安心して利用できるのは、高度な技術を有する水処理施設のおかげです。ただ、多くの人がその恩恵を受けるためには、水道管を街中に張り巡らせ、毎年巨額の費用を投じて維持しなければいけない。建築や都市の視点で水道の存在を捉えてみると、制約としての側面があると感じました」

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水道によって人類が栄えたことは事実であり、少なくとも現在の日本の暮らしにおいてなくてはならないものだ。しかし、前田さんがそれをあって当然のものとしなかったのは、建築という専門的な視点だけでなく、他にも理由がある。

徳島県西部出身である前田さんの故郷では、近くの湧き水から家に引き込むような小規模給水設備(自家水道)を利用している地域が多くあり、都市部のような大規模設備が当たり前ではなかった。また、大学入試の合格発表で東京を訪れた際に東日本大震災が発生。インフラが止まり、都市機能が麻痺する様子を目の当たりにした。こうした経験が積み重なって、大規模なライフラインを絶対視しすぎることに疑問を持つようになったという。

「水道はかれこれ2000年以上の歴史があり、ろ過・消毒などの水処理を行う近代的な水道システムがはじまったのも約数百年前。それだけの時間が経過しているのに、世界に目を向けてみると安全な水を手に入れられない人たちがまだたくさんいます。水道事業は莫大なコストと時間がかかってしまうものですから、おそらく現在主流の水道インフラを世界中に張り巡らせるのは、現実的にかなり難しい。

また、世界人口がこのままのペースで増加すれば、2050年には人口の約4割が安定的に水を利用できない“水ストレス”状態に陥ると言われている。この問題を解決するには、従来のように大規模な水道インフラを構築し続けるのとは違うアプローチが必要なのではないかと考えました」

様々な用途に活用しながらたどり着いた、被災地支援や感染症対策の道

WOTAのプロダクトを支えるのは、独自開発した水の再生処理技術だ。高度な水処理に欠かせなかった大規模な処理施設を小型の機械で実現。なおかつ、従来は専門の技術者の経験と勘に支えられていた水処理の微妙な調整を、独自のセンシング技術やAIの活用によって自律制御することに成功した。

この技術によって、一度使用した水の98%以上が再生・循環利用可能となり、「どこでも簡単に水再生処理が行える」という画期的な価値を提供する。簡単に言えば「水処理施設を移動できるサイズに小型化」し、「場所の制限なく置けるようにした」ような形だ。

WOTAの技術があれば、水道インフラがない場所でも水を利用できるようになる。WOTAは当初、この仕組みをレジャー向けや、暮らしを便利にする製品として売り込もうと考えていたそうだ。

「アメリカのキャンピングカー市場に目をつけたんです。実際のRV車にシステムを搭載して、アメリカ横断の旅をしても最後まできれいな水が使い続けられることをアピールしたら、現地でも好評でした。また、日本のコワーキングスペースに配管工事不要で設置可能な簡易シャワーブースとして設置したときも、通勤時や仕事中に汗をかいたビジネスパーソンの需要にマッチしていることが分かりました」

ビジネスの定石としては、これらの個別のニーズにマッチした製品に仕上げて売り出すべきだったのかもしれない。ただ、WOTAの面々はあえてそこに限らない可能性を模索した。

「技術屋としては、自分たちの技術の可能性を安易に狭めたくない気持ちもあって、素直にこの道を進めなかったんです。かといって汎用的なモジュールを提供するだけでは、新しすぎてユーザーは使い道がわからない。どうすれば世の中に受け入れてもらえるか、いろんな用途を試しながら模索している時期がありました」

試行錯誤のなか転機となったのが、2018年に発生した西日本豪雨だった。被災地でライフラインが止まっていることを知り、とにかく何かの役に立てばという想いで機材と共に現地入りをしたそうだ。

「被災した方々は、2週間も入浴ができない状況でした。そこで現場の環境を見渡すと、たしかに水道は止まっていたけれど、プールには水があった。僕たちの技術があれば、これを処理してシャワーが浴びられるようにできる。被災地には水がないというより “安心して使える水がない”状態だったんです。このとき、安全で衛生的な水を提供することこそがWOTAのやるべきことだと確信したんです」

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「WOTA BOX」を活用すると、通常2人分の水で100人分のシャワーが可能(画像提供:WOTA)

こうした被災地支援の経験が、WOTAの事業展開をシャープにしていく。翌年には、災害発生時に水道インフラの代替となることを想定して開発した「WOTA BOX」を発表。2019年は過去最大級の台風が猛威を振るった年でもあり、すぐに各地の避難所で活用された。

また、2020年には手洗いに特化した製品「WOSH」をリリース。以前から検討が進んでいたものだったが、新型コロナウイルスの感染拡大を受けた“手洗いニーズ”の急増が追い風となった。商業施設・飲食店・オフィス・工場など社会の様々な場所に導入が進んでいる。

「水は昔から公衆衛生と密接に結びついており、WOTAが目指している安全な水を世界中に届けることにもつながる大切なテーマです。手洗いスタンドのWOSHを通して私たちが実現したいのは、一過性の感染防止策というよりは人類に手洗いを習慣化させ、公衆衛生をアップデートすること。すべての接触感染症に対する社会的なレジリエンスを高めることに貢献していきたいです。

その意味で言うと、WOSHは水道のない場所に設置できるため、お店の入り口や街中などで手洗いを“見せられる”のも習慣化に一役買っています。これまでは水道設備の関係上、手を洗う行為は人目につかない場所ですることが多かったのですが、手洗いが可視化されることは安心安全の証にもなる。日常の風景に手洗いが溶け込むことで意識が高まり社会全体の習慣が変わっていくと良いですね」

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「WOSH」は、水道の敷設が難しかった場所にも容易に設置できる(画像提供:WOTA)

莫大な投資のいらない、ユーザー参加型の水消費モデルを構築したい

2021年5月には、ソフトバンク社との資本・業務提携を発表。同社を販売代理店としてWOSHの普及・推進は更に加速している。社会での利用実績が蓄積されつつある今、前田さんたちが注力しているのは全国から集まる利用データを検証し、製品の改善や手洗い体験の質を上げていくことだ。

「例えば、利用時間や頻度のデータ。手洗いの回数が多い設置場所にどんな傾向があるかを割り出し、そこではどんな人がどんなシーンで使っているのかを探る。行動データから最適な使い方を導きだし、体験価値を上げていくことを重視していますね。そうやってたくさんの人に使い続けてもらえれば、より安価に提供できるようになる。1台あたりのコストを下げて事業を成立させることは、日本中・世界中の人々に行き渡らせるためにも必要なことだと考えています」

このように前田さんがプロダクトのコストに言及するのは理由がある。それは従来の水道インフラとWOTAのプロダクトではコストモデルが全く異なり、その違いが人類と水の新たな関係性にも影響するからだ。

「一般的な水道事業は、莫大な費用をかけて大工事を行い、数十〜数百年という長い期間たくさんの人が利用し続けて採算を取ることを前提にした一大事業です。しかし大都市圏ならいざ知らず、過疎地域では人口に対してコストが見合わなくなっているところも少なくありません。

その点、小型で持ち運び可能な水処理システムであれば大規模な工事を前提としないため、人口密度に関わらず一人当たりのコストは一定。一ヶ所の大規模水処理施設で大人数に供給する仕組みよりも、小さな水処理システムを誰もがそれぞれの場所で利用できる自律分散型の仕組みの方が、安全な水を地球の隅々に届けやすいのではないでしょうか。ちょうど携帯電話の普及によって世界中の人々が通信手段を手に入れたように、WOTAのプロダクトで誰もが自由に安全な水にアクセスできる世界を実現したいです」

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人類の歴史に欠かせなかった水道という仕組みを根本から見つめ直し、新たなあり方を世に広めようとしているWOTA。それは気候変動や人口減少、パンデミックなどの大きな変化が立て続けに訪れている現代の時流にもあったビジネスアイデアだといえる。

しかし常識や習慣とは、人々の中に自然と定着しているからそう呼ばれるのであり、意識的に目を向けるのは難しい。WOTAが従来の水供給の常識を疑い、これまでにないビジネスアイデアへと昇華できたのはなぜなのだろうか。その質問を前田さんにぶつけてみると、子どものころからのある“癖”を教えてくれたので、最後に紹介したい。

「気になることはなんでも調べてみる、詳しそうな人に聞いてみることです。小学生の頃、蜘蛛に夢中で自分なりに研究をしていたのですが、はじめは百科事典で調べていたところ、次第に辞典や図鑑には答えが載っていない疑問が湧いてきて…。そこでインターネットを使って調べものをするようになり、それでも分からないことは詳しそうな大学教授を探してメールで質問していました。そうやって子どもながらにどんどん外の世界と接点を広げていったことが、さまざまな気づきを得ることにつながったきっかけかもしれません」

プロフィール/敬称略

※プロフィールは取材当時のものです

前田瑶介(まえだ・ようすけ)

1992年徳島県生まれ。 東京大学工学部建築学科卒業、同大学院工学研究科建築学専攻(修士課程)修了。 幼少期より生物研究に明け暮れ、高校時代には食用納豆由来γポリグルタミン酸を用いた水質浄化の研究を行い日本薬学会で発表。 大学・大学院在学中より、大手住宅設備メーカーやデジタルアート制作会社の製品・システム開発に従事。 その後起業し、建築物の省エネ制御のためのアルゴリズムを開発・売却後、WOTA株式会社に参画しCOOに就任。 現在同社CEOとして、自律分散型水循環社会の実現を目指す。

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