正直に「似合わない」とも言う。移動型ビンテージウェアショップが築く顧客との関係性

正直に「似合わない」とも言う。移動型ビンテージウェアショップが築く顧客との関係性
文:葛原 信太郎 写真提供: Blanche Market(写真は左からYuriさん、Michelleさん)

固定店舗を持たないビンテージウェアショップ「Blanche Market」が大切にする率直な姿勢は、顧客との信頼関係を生み出す。スモールビジネスの試みから見える、企業と顧客の新しい結びつき。

企業と顧客のコミュニケーションは、大きく変化した。SNSでの相互コミュニケーション、販売だけに留まらない店舗体験、企業から顧客に直接販売するD2C…。企業と生活者は「買って終わり」な関係ではなく、むしろ「買ってからから始まる」時代と言える。

お客さんは友達、もしくは年の近い姉妹のような関係なんです── 。顧客との“近い関係”を大切にするのが、固定店舗を持たないビンテージウェアショップ「Blanche Market(ブロンシュマーケット)」を運営するYuri(ユリ)さんとMichelle(ミシェル)さんだ。

彼女たちは顧客が待つ街に自ら出向き、ポップアップショップで服を提案する。オンラインで世界中の顧客とつながれる時代に、会いに行くことを重視する彼女たちから新しい顧客との関係性を探る。

お互いに弱みを補い、強みを活かせる関係

Blanche Marketは、実店舗を持たずイベント主催やマーケット出店、オンラインストアで販売をする移動式ビンテージウェアのブランドだ。YuriさんとMichelleさん二人が自らブランドの看板となり、彼女たちの思想や価値観の発信がファンを広げ、集客や販売につなげている。これまで当たり前だった「売り手・買い手」という企業と顧客の間にある明確な隔たりとは異なり、シームレスで自然な関係を築いている。

BEAMS WOMEN SHIBUYAでいわゆる「カリスマショップ店員」だったMichelleさんと、“ビンテージウェアを日本へ輸入しブランドを立ち上げる”ことを夢にしていたYuriさんは、Blanche Marketを始める前から友人同士。しかも好きなことや自発的な行動が創業のきっかけになっている。顧客との緩やかな関係性は、Blanche Marketの出自にも影響を受けているのかもしれない。

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Yuriさん

Yuri 「私は昔からフランス好きで、フランス語を使う仕事がしたいという希望がありました。同様に古着もずっと好きだったので、フランスで古着を買い付けて売る仕事は、私にとって最高の組み合わせなんです」

Michelle 「もともと私のInstagramにはそれなりに多くフォロワーさんがいたんです。個人で出店したフリマの告知をしたところ、お客さんもたくさん来てくれました。ちょうどそのころ、自分なりのお店づくりや服の見せ方をもっと追求したいと思っていて。これを機に独立するのもありなんじゃないかと考えたんです」

タイミングがよかったことに加え、お互いの個性が弱みを補い合えることも、創業の後押しになった。例えば、YuriさんはSNSが苦手だがMichelleさんは得意。人を覚えるのはYuriさんが得意で、Michelleさんは苦手。イベント資材や在庫のパッキングはYuriさんが苦手でMichelleさんが得意。それぞれが無理せずせずとも、役割を分担すればやりたいことをやれる目処が立った。

Michelle 「昔は、苦手なことは努力しなきゃいけないし、努力すればできると思っていました。でも、ひとりじゃなければ苦手なままでも良いのかなって。自分が苦手な部分を無理にどうにかしようとする努力はやめました(笑)」

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Michelleさん

イベントでは、販売よりもコミュニケーションを

移動式店舗ゆえに、固定店舗とは顧客とのコミュニケーションも異なる。Blanche Marketのコミュニケーションは、一人ひとりの顧客の性格や購入スタイルに合わせてきめ細かく対応するのが特徴だ。顧客リストの管理は、Yuriさんの仕事。顧客の性格や買い物の仕方、ファッションの好みなどがメモされていて、一人ひとりに合わせたコミュニケーションを選んでいる。

Yuri 「私の特技は人を覚えること。このお客さんは、何のイベントに来たか、何を買ったか、一度話をしたら忘れことはまずないんです。そんな特技を生かして、お客さんと近い距離感を築けています」

Michelle 「私たちのお店には、服を買わずに相談や日常の雑談をしにくるだけの人もいます。その際、私たちもゆっくりコミュニケーションが取れるように、コーヒー屋さんと一緒に出店したり、のんびりできるスペースをつくったりといった工夫もしています。無理に買ってもらうための場にはしていません」

年に1回ほど、ファンミーティングも開催する。全国のお客さんを招待し、20人程度の食事会形式で行われるそうだ。

Michelle 「ファンミーティングでは、私たちの価値観をより深く知ってもらうために、一緒にご飯を食べながら自分たちがその時々に考えていることを話します。例えば、最近ではビーガン料理を用意し、環境問題や社会問題について話をしました。ファンミーティングは、私たちとのコミュニケーションの場だけでなく、お客さん同士で仲良くなってもらえる貴重な機会にもなります」

一人ひとりに合わせた接客スタイルは、オンラインにも活かされている。

Yuri 「オンラインで買ってくれた人は顔が見えないやりとりになるので、商品を送る箱にすべてを詰め込みます。必ずメッセージカードを添えていて、買ってくれたお客さんにむけて1枚1枚書いています」

販売イベントの集客はInstagramが中心。SNS上ではキリッとカッコよく見せるようにセルフプロデュースしているが、イベントではそのイメージを崩して、気軽に何でも話せるような親しみやすさを心がけている。

Yuri 「イベントに来てくれるお客さんは、半分くらいがリピーターです。また来てほしい気持ちを込めて、イベントの後には必ずお礼のメッセージを送っています。パリでの買付の際に買っておいたポストカードを送ったり、Tシャツをつくってプレゼントしたこともあります」

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ポップアップショップの様子

無理せず続けられる自然体を大切に

二人の話を聞いていると「無理をせず自然とできることやる」ことを大切にしていることに気づく。そのスタイルはInstagram上での服の見せ方にも反映されている。モデルとして誰かを雇うのではなく、彼女たちが自ら着て見せているのだ。当初は二人だけではじめたブランドで自然と始めたスタイルだったが、今ではそれも顧客に支持される一つのポイントになっている。

Yuri 「がちがちのモデル体型じゃなくて、ごくごく普通の庶民的な体格な私たちが着てみせる。お客さんにとっては、自分が着る場面をイメージもしやすいのだと思います」

「無理せず自然とできることをする」ということは、違和感がある方法を選ばない、違和感を抱えたまま無理に続けないということでもあるだろう。今まで当たり前だった広告手法やブランド運営の違和感も無視せず、二人は自分たちが自然にできる手法を選んでいる。

店舗を構えず移動式を選んだのも、無理せずできるスタイルだったからだ。とくに前職でショップ店員だったMichelleさんは、店舗を構えることにデメリットを感じていた。

Michelle 「店舗を持つと、販売の時間よりもお客さんを待つ時間のほうが長いんです。その待つ時間の長さが、自分のモチベーションを下げていました。それはお客さんにも伝わり、負の連鎖が起きてしまうと思うんです。それならいっそ、お客さんに直接会いに行こうと考えた結果、移動式になりました。移動式ならば、地方でも海外でも自分たちの世界を表現できますから」

信頼関係があるから正直に言う。それがさらに信頼関係をつくる

運営のあらゆる場面で二人はさまざまな選択肢を自然と選び取びとっている。ただ、そのすべて良い方向にいくわけではない。うまくいかないと思ったら、素直に話をしてストップする。

Michelle 「例えばメンズウェアの販売を始めたものの、あまりうまくいきませんでした。レディースウェアほど、自分たちがワクワクしなかったんです。男性への接客も勘所がつかめず、自分たちがいまやるべきでもないと感じました。そんなときは、お客さんには正直に『やっぱりできませんでした』と言います」

Yuri 「接客でも率直にコミュニケーションを取っています。お客さんが買おうしている服が似合わないときは、似合わないって言っちゃうんです(笑)」

二人がこうも率直に言えるのは、それを受け止めてくれる顧客との信頼関係があるからこそ。その信頼関係は「売り手・買い手」という関係を飛び越えているように思える。二人にとって、顧客はどんな存在か。そう聞くと「そもそもお客さんをそれほどお客さん扱いしていないのかもしれない」と、やはり率直な答えが返ってきた。

Michelle 「もっと近い関係性なんです。あえて表現するなら友達でしょうか。お客さんは自分たちよりちょっと年下が中心なので、年が近めの姉妹のような感覚があるかもしれません」

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2019年、パリでの買い付けの様子

目の前の売上よりも、率直であれることを優先するような接客や運営。それが商売として本当に良いことなのか、「正解はわからない」と二人は言う。でも今の時点で「こっちだろう」と思える方向を選ぶ。

Yuri 「前にイベントをやったとき、私たちのお客さん層の中では、地味で表情も暗く、あまり楽しそうじゃない子がいました。話しかけてもリアクションが薄くて、当初は不思議な子だなと思っていたんです。でも、実はそのあと、何度もイベントに来てくれたんですよ。単純にすごくシャイでコミュニケーションが苦手なだけだった。話すたびに少しずつ彼女のことがわかっていきました」

Michelle 「あるときその子が手紙をくれたんです。『自分とは違う価値観を知り世界が広がった』といった旨が書かれていました。確かに、黒系ばかりだった服は段々とカラフルになり、その着こなしから自分に自信がついてきていることが目に見えてわかる。こういうとき、本当にうれしいなと思うんです。私たちとお客さんの近い距離感だからこそ、その過程を見守ることができた。そんな距離感を大事していきたいです」

プロフィール/敬称略

※プロフィールは取材当時のものです

Yuri(ユリ)

大学生時代、パリへ約2年間の留学。その頃からの夢である“ビンテージを日本へ輸入しブランドを立ち上げる”ことを実現。2019年11月にMichelleと共に立ち上げた。ブランド内では、オーナーを務め主に経営や顧客管理を担当。流暢なフランス語で買い付け中も、積極的に現地の方とコミュニケーションを取り、情報収集をおこなっている。

Michelle(ミシェル)

BEAMS WOMEN SHIBUYAのカリスマショップ店員として活躍後、2019年11月に優里と共にビンテージブランド“Blanche Market”を立ち上げる。持ち前のバランス感のあるファッションセンスでインスタグラムを中心に発信、注目を集めている。ブランド内では、ブランドディレクターを務めPRを含むSNSや、お店づくり、オリジナル考案など幅広く担当している。

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