サステナブルをトレンドワードにしない。ファッションブランドが考える持続可能な事業

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文:葛原 信太郎 写真:須古 恵

ファッションビジネスを通じて社会的課題の解決に取り組むKUONは、サステナビリティという「言葉」では勝負しない。代表の藤原さんがブランドに込められた思いと、その実現方法を聞く。

「サステナビリティ」という言葉が日々飛び交う現代のビジネスシーン。SDGsへの取り組みを国や株主、市民から要請されるがゆえ、中身はさておきまずはキーワードを多用してしまうケースも散見される。

そんな状況と一線を画す形でサステナビリティに取り組むのがファッションブランド「KUON(クオン)」だ。神宮前にフラッグシップショップを構え、パリでの展示会やニューヨークファッションウィークでのコレクション発表などで、世界のファッション感度の高い人々・メディアから注目を集めている。

そのクリエイティビティを支えているのは、東日本大震災の被災地に住む人々がつくり出す日本の伝統技術を使った生地だ。服づくりに欠かせない生地の制作工程に、被災地支援・障がい者支援・伝統技術の継承といったサステナビリティに寄与する仕組みを取り入れている。

こうしたアクションは、ブランドにおいてどのような意味を持っているのか、創業者の藤原新(ふじわら・あらた)さんが考えるサステナビリティとビジネスの関係性を聞いた。

いいことをすれば、いいことが返ってくる

── なぜKUONでは「ファッションビジネスを通じて社会的課題の解決に取り組む」ことを活動理念としているのでしょうか。

それを説明するには、創業の経緯からお話をさせてください。僕はそもそもファッションについて専門的に学んだわけでもなければ、ファッションの仕事一筋だったわけでもありません。キャリアのスタートは法律の仕事でした。

法律の仕事では、さまざまな「困っている人」の相談に乗ります。僕は、いろんな人の困りごとを聞かせてもらううちに、「世の中は回っている」と感じるようになりました。要は、いいことをすると、いいことが返ってくる。悪いことをすると、悪いことが返ってくる。強く実感するようになったのは2010年、30歳の頃でした。

加えて、当時読んだビジネス誌に載っていた、環境会計(編注:事業活動における環境保全のためのコストとその活動により得られた効果を、可能な限り定量的に測定し記録するもの)やCSV(Creating Shared Value:共有価値の創造)といった概念、パタゴニアの環境問題を基軸にした経営などに感動したんです。こういった要素は「これからのビジネスのスタンダードになるんだろう」と感じました。

これらを踏まえ、自分も世の中の役に立つことが前提にある事業「ソーシャルビジネス」を興そうと決意。ただ、法律の仕事を辞める気はありませんでした。30歳を過ぎてからの起業ですから、想いだけでビジネスになると思えるほど楽観視はできなかったし、これからの時代は働き方も多様化していくだろうと思ったので並行してできることを探したんです。

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── ソーシャルビジネスの手段として藤原さんが選んだのが、洋服だったんですか。

そうです。24時間365日考えていても辛くないくらい、洋服が大好きだったんですよ。そこで会社を立ち上げ、自分がデザイナーを務めるブランド「1sin(イッシン)」をスタートさせました。

その翌年、東日本大震災が発生。被災地に足を運び何かできることはないかと考えた結果始めたのが、商品の一部を被災地の人たちと一緒につくることでした。その後、1sinは順調に拡大したものの、数年後には限界も見えてきました。

僕は言ってしまえばただの服好き。デザインを専門的に学んだわけではないので、他の服をモチーフに服をつくっていたんです。しかし、このやり方ではオリジナルには勝てない。このまま10年続けても、先は見えていました。

そこで、社会問題の解決を目的としながら、マーケットを日本に限らず世界に拡げられるようなブランドを新たにつくろうと決めました。デザイナー・石橋真一郎との出会いをきっかけに、KUONを設立。2016年の春夏シーズンよりスタートしました。

── 1sinやKUONのサステナブルアクションについて、具体的に教えてください。

服づくりに欠かせない生地や技術にこだわっています。KUONでは、岩手県大槌町のお母さんたちがつくり手である「大槌復興刺し子プロジェクト」や、岩手県盛岡市で障がいを持つ方がつくり手である「幸呼来(さっこら)Japan」とともに服をつくっています。

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大槌復興刺し子プロジェクトによる「ボロ」を用いた服

大槌復興刺し子プロジェクトが手がけるのは「ボロ」と呼ばれる古い布を使った服です。使い古して役に立たなくなった布や、着古して破れたりつぎだらけの衣類を縫い合わせたボロは古いものだと150年以上前に作られたものもある。抽象画のようなアートとしての評価も得ており、欧米でも「BORO」という言葉が通じるほどです。

生産地である岩手県大槌町は、東日本大震災で大きな被害を受けた地域なんです。こうした針仕事は高い集中力が必要なので、目の前にある受け止めきれないほどの現実から少しでも離れる時間をつくってもらえればいいな、と。このプロジェクトは、人が持続的に豊かに生きていくために欠かせない「生きがい創出」でもあると考えています。

岩手県盛岡市の幸呼来Japanに発注しているのは「裂織り」と呼ばれる生地。使い古した布を細く裂き、織りこみ、衣服や生活用品へと再生する日本古来の伝統技術です。こちらも継続的な発注が、障がいを持つ人の生活を支え、持続的な人生に豊かさに寄与できます。

かつ、どちらも共通して、廃棄される生地の再利用による廃棄物の削減や日本の伝統文化の持続的な継承にもつながっています。

また、文化継承においては、三和織物の大狭健市(おおはざま・けんいち)さんが手がける「刺し子織」も特筆すべきものです。綺麗に揃った幾何学的な模様と、独特の手触りや光沢を生み出す大狭さんの刺し子は、他の誰も真似できない貴重な技術。その技術をつなぎ世界に発信するべく、一緒に服づくりに取り組んでいます。

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福島県 三和織物の大狭健市氏による「刺し子織」の生地を用いた服

ファッションブランドなんだから、ファッションで勝負する

── KUONのファンは、サステナブルアクションに取り組んでいる点を評価されているのでしょうか?

顧客向けのアンケートでは、80%以上がKUONのサステナブルアクションについて知っているし、取り組みを応援していると答えてくれています。しかし、ここは順番を間違えてはいけません。

そもそもKUONは、「ファッションブランド」です。「かっこいい」と顧客が思える服をつくれないブランドは、ファッションブランドではありません。つまり、見た目のかっこよさがなによりも優先されるべき要素。僕らのファンは、サステナブルであることの前に「ファッションとしてのKUON」を支持してくれているんです。

ブランドを気に入ってくれさえすれば、ブランドが何を大切にしているか知りたくなるはず。ウェブサイトには、僕らのサステナブルアクションに関する情報も掲載しています。そこで僕らの思いを知ってくれればいい。KUONにとって、サステナビリティはあくまでも付随要素なんです。

── サステナブルだから売れる、ということはないのでしょうか。

どんなビジネスであっても、基本的に商品やサービスがいいから売れるんであって、サステナブルだから売れるわけでないと考えています。若い子たちは関心が強いと言われていますが、実際に話すと人によって関心の度合いは異なる。

若くても若くなくても、興味がある人は興味があるし、ない人はない。むしろ若い子たちは、サステナビリティに「疲れている」とすら感じます。

もちろん、前提としてサステナビリティやソーシャルグッドな活動に注目が集まるのはいいことだと思っています。10年前、自分がやりたいことを他の経営者に説明しても、多くの人は理解してくれませんでしたから。

ただトレンドワード化には違和感があります。「サステナビリティ」を目的におくブランドの中には、持続的どころか短期的な結果に囚われているのではないかと思うこともある。

KUONを評価していただいているのは、サステナブルアクションを何年も続けてきたからこそ。若い子たちは、「トレンドだから取り入れているんだろう」と見抜く目は持っていると思いますよ。

── 「サステナブル」はなぜこれだけトレンド化してしまったのでしょうか。

SDGsへの対応も求められていますし、世間の注目を集めるためという側面もあるでしょう。特にファッションは環境負荷が高い産業ですし、服が売れない時代なので、注目を集める意味でもサステナビリティをテーマにしたくなる気持ちはわかります。

しかし、その結果生まれた企画は、大量廃棄や環境破壊への対応など、どこがやってもだいたい似たようなものになってしまう。考え方を変えていく必要があると思います。サステナブルはあくまで「概念」。その言葉が包括する範囲が広い。ファッションは「物」を扱う商売なので、余計にその本質を捉えるのが難しいのかもしれません。

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ビジネスの根底に仕組みとして存在する「サステナビリティ」

── 藤原さんは、ビジネスにおける「サステナビリティ」をどのような意味で捉えているのでしょうか。

文字通り「続いていくこと」です。僕らにとってサステナブルアクションは、ビジネスを回し可能性を広げるための「燃料」。ビジネスの根幹に組み込み、適切な利益が発生させられていなければ、ビジネス自体が持続的とは言えないと考えています。

KUONで言えば、大槌復興刺し子プロジェクトや幸呼来Japanなどの技術があることで、ブランドの表現の幅もクリエイティビティも向上しています。彼女/彼らの生地があるからこそ、ブランドの可能性が広がっている。

一方、僕らもそれぞれの持続性に寄与していかなければいけません。そのために、これからは関わる組織や人々がつながる仕組みにしていきたいと考えています。

── つながる仕組みというと?

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たとえば地域活性化ですね。大槌復興刺し子プロジェクトや幸呼来Japanが活動する地方ではどんどん人が減っています。人口減少は税収を減少させ、行政サービスやライフラインの維持が難しくなるなど地域のバランスを崩す引き金になってしまう。僕らは、発注額を増やし、経済的支援や労働環境の向上には寄与できますが、それ以外の部分ではコミットできません。

ここからさらに踏み込むには、地域活性化の支援ではないかと考えています。僕らが培ってきたノウハウを使って、例えば店舗をオープンし雇用を生み出す。KUONと共に、ファッションに関連する街の新しい産業をつくれれば、観光のコンテンツにもなるかもしれないですし。

また、昨年からは僕らのノウハウなどを使い「サスティナブルやSDGsに取り組もうとしてはいるけれど、どこから手をつけて良いのか分からない」といった課題を抱えている企業や行政のコンサルティングにも取り組んでいます。

── 「サステナブルアクション」の先に「サステナブルな社会」まで思い描いているんですね。

すぐに実現できるとは思っていません。僕の世代では実現できないかもしれない。だから人と会うときは「自分の後継者はいないか」という目線で見ています。繰り返しになりますが、サステナブルは持続可能性。ビジネスもサステナブルアクションも、続いていくことが大切なんです。

プロフィール/敬称略

※プロフィールは取材当時のものです

藤原 新(ふじわら・あらた)

メンズブランド「KUON」創業者であり株式会社「MOONSHOT」代表。2011年「1sin」を立ち上げ、2016SSシーズンより新たに石橋真一郎をデザイナーとした「KUON」をスタート。現在も法律に携わる仕事を継続しながら、日本伝統の技術を一体にしたメンズウエアを提案し続ける。

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