コロナ禍、DX、ユーザーの変化...。営業の最前線で語られる2020年代のキーワード

コロナ禍、DX、ユーザーの変化...。営業の最前線で語られる2020年代のキーワード

文:森田 大理 写真:須古 恵 (写真は左から森、宮脇、山田、織茂)

生活も経済も一変する波乱の幕開けとなった2020年代。激動の時代を生き抜くには何が求められるのか。営業現場で起きている兆しから社会の変化を読み解く。

今、社会は多くの変化に直面している。国内人口の減少、デジタル化、価値観・生き方の多様化など、かねてより起きていた変化はますます顕著に。加えて、新型コロナウイルス感染対策としての新たな生活様式など、2020年代の変化の振れ幅はこれまでの10年よりも更に大きなものになるかもしれない。この環境に対応していくには、何が重要なのだろうか。

今回はそのヒントとして、リクルートの営業たちの声をお届けしたい。リクルートの営業は、『タウンワーク』や『ホットペッパーグルメ』などのメディア提案だけでなく、クライアントの事業・経営課題からともに考え、解決に向けた支援を目指している。

たとえば「女子会」。男性の利用イメージの強かった居酒屋店だが、実は主婦や女子大生など女性同士の食事の場としても利用される機会が増えつつあった。そうした世の中の変化に気づいた『HOT PEPPER』の担当者は、女性同士でも気兼ねなく利用でき、店舗側も新たな客層を迎える機会になるようなプランが作れないかと、顧客である居酒屋チェーンに女性専用のプランメニューを提案。これをきっかけに飲食業界に「女子会」という新たな市場が生まれたと言われている。今から10年以上も前のことだ。

社会の変化にあわせ顧客やマーケットに真摯に向き合うことで、変革のヒントは見えてくる。新しい価値を提供すること、それはリクルートが大切にしている事業のあり方だ。取り組みの中では各マーケットで起きている様々な現象を自然と目にすることになるが、今の時代と向き合う彼らはどんな変化・兆しを感じ取っているのだろうか。

登場するのは、リクルートグループが毎年開催している「TOPGUN FORUM」(リクルートグループ横断でナレッジのシェアを行う社内イベント「FORUM」の顧客接点部門)の2020年登壇者。人材領域の織茂尚之(おりも・なおゆき)、進学領域の山田直子(やまだ・なおこ)、飲食領域の森 高史(もり・たかふみ)、そしてFORUM運営組織から宮脇大(みやわき・だい)がファシリテーターとして参加し、座談会を実施した。

※座談会は2020年10月に実施しました。

コロナ禍の危機感をバネに、新たな挑戦を模索する企業が増えた

宮脇 直近の大きなクライアント課題は、やはりコロナ禍で事業をどう継続させるかだと思います。人材や飲食の領域は、報道などでもコロナの影響がよく語られているマーケットですが、実際の現場を知る営業の目にはどう映っているのでしょうか。

織茂 私は人材業界の中でもアルバイト採用が専門ですが、長年続いていた求職者優位の売り手市場が一変しています。求人倍率の急降下が示す通り、採用をする側の企業よりも求職者に厳しいのが現状です。ただし、企業も景気後退の影響を受けていますから、経営的には厳しい状況が多いですね。

危機意識を持って採用業務の改善に力を入れる企業も出てきており、コロナ禍を契機に採用を進化させる企業と、これまで通りの採用を続ける企業の二極化が進む気がしています。そのため、私たちの動き方もクライアントの採用充足を支援するだけではなく、経営や事業へ直接的に貢献できるかを強く意識するようになりました。

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株式会社リクルートジョブズ 織茂尚之/アルバイト・パート採用を中心とした人材領域のソリューションコンサルタントとして、大手フード系クライアントを中心に担当。

森 飲食の場合、刻々と状況が変わっていくなか、店舗の休業・閉店、従業員の雇用、感染防止対策など、いくつもの難しい判断を迫られています。ただ、これほどの事態なんて誰にも経験したことはないですから、先が見えない中で決断できずにいるところも多い。私たちもメディアの営業にとどまらず、経営上の様々な決断を支援できるようになっていかねばならないと感じています。

宮脇 山田さんの進学マーケットはどうでしょうか。

山田 私のクライアントである大学にも、大きく変化しています。校舎での授業ができなくなり、なんとか学生に学びを届けようとオンライン授業へ切り替えるなど、学校側は急ピッチの対応に追われました。ただ、この経験のおかげでクライアントが変化を恐れないようになったとも感じていて。

というのも、大学や専門学校は以前から人口減少に伴う学生数の問題など長期的な課題を認識してはいたものの、これまでのやり方を変えるリスクを心配される意見が根強かったんです。"慣例"や"前年踏襲"が重んじられ、変化はごく一部の大学に留まっていました。それが、コロナによって存続の危機に直面し、新しいチャレンジに踏み切る動きが一気に加速していますね。

宮脇 コロナ禍は良くも悪くも多くのマーケットに変化を迫っているということですね。

森 飲食店の場合はGo To キャンペーンのおかげもあってお客様が戻りつつあるとはいえ、それでも最大の商戦期である年末の飲み会需要は例年のようにいきません。従来のような戦い方では存続できなくなるお店も出てくるはず。生き残りをかけて大胆な業態転換をおこなう企業も現れています。

その一方、はコロナ禍で日常が一変したことで「集う楽しさ」を再認識するカスタマーも増えています。たとえサービスの形は変わっても、マーケットの火は絶やさない。そんな想いをクライアントの経営者からは耳にする機会も増えました。

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株式会社リクルートライフスタイル 森高史/飲食領域でリテール営業、法人営業を経験。後に総合企画グループを立ち上げ、現在は総合企画部の部長を務める。

"新しい手法"に惑わされず、本質を見極める力が求められている

宮脇 デジタル化・ICT活用の動きは各マーケットでいかがでしょうか。非対面・非接触のニーズが加速させている側面もありませんか。

山田 大学の進学広報では、「オープンキャンパス」をオンラインで実施する支援をしています。その際、私がクライアントに伝えているのは、「デジタル化ではなく、DXをしましょう」。アナログなプロセスを、単にデジタルに載せ替えるだけではもったいない。

デジタル化をきっかけに、これまでよりも大学と高校生の距離を近づけることを目標に置いて検討を進めていますね。すると、オープンキャンパスの中身もオンラインに適したコンテンツへと変わっていきます。一例を挙げると、これまで20分で話していた内容をそのまま録画するくらいなら、高校生が普段スマホで動画を閲覧している習慣にあわせて1分×20本のショート動画を作成する、といった形です。

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株式会社リクルートマーケティングパートナーズ 山田直子/進路領域の営業として私立難関大学を担当しており、高校生向けの広報活動支援や大学運営に関わるコンサルティングを行っている。

織茂 人材領域ではコロナ以前からDXの動きが強まっていました。企業が採用に感じている課題が年々高度化しており、私たちに求められることも、単に応募を集めることだけでなく費用対効果や採用業務の生産性向上へと変化していたんです。そのため、アナログな業務をデジタルツールによって効率化したり、採用活動における店舗(現場)と本社の役割を見直し、業務プロセスの一部にシステムを導入するようなコンサルティングを行うケースも増えています。

加えて、コロナ禍によってリモート面接やAI面接といった非対面の面接を導入するケースも増加。コロナを追い風にDXが進んでいるのは間違いありません。ただ、私は「何のための業務効率化なのか」をクライアントとよく話すようにしています。企業の生産性は上がっても、応募者や配属現場がその手法に納得していないケースは割とあるんですよ。業務効率化が目的化すると、かえって採用の質を下げかねない。私は生産性向上を支援する立場でもあるけれど、それが本質的な貢献にならないなら、敢えてアナログな部分を残した方が良いと提案することもあります。

森 「やらないことを決める」のはたしかに大切ですね。飲食業界も慢性的な人手不足などの課題を背景にデジタルを活用した業務変革が進みつつありますが、クライアントの経営リソースは限られていますから、あれもこれもは手を出せない。たとえば、飲食では自粛期間中にテイクアウトやデリバリーを始める店舗が増えましたが、そのお店にとって長期的にメリットがあるのかを見極めないとシステム投資など無駄に経費がかかるだけ。目の前の危機をなんとかしたい気持ちはもっともですが、飛びつくのは危険です。

織茂 こういう変化の時期は、「新しい手法」への投資に目が行きがちです。ですが、失敗すればそこにあった雇用が失われてしまうし、カスタマーにも不便をかけてしまう。今は本質的に何をすべきなのか、変化に惑わされず客観的視点で提言することが強く求められているのかもしれません。

これからのユーザーには、一方的な情報発信よりも多面的な情報提供を

宮脇 消費者や求職者・高校生など、カスタマー(ユーザー)側の変化はいかがでしょうか。

山田 私たちの商品である『スタディサプリ進路』を利用する今の高校生は、いわゆるZ世代とよばれる人たち。情報に対する接し方が上の世代とはまるで違います。彼らは、学校やメディアから発信される情報よりも個人からの情報が信頼できると思っている。パンフレットに掲載されているような情報は「美化されている」と感じるそうなんです。学校からの情報も読むけれど、その情報の裏を取るために在校生のSNSをチェックしている。また、「溢れるほどの情報がほしい」というニーズが強いのも特徴的です。

織茂 なるほど。少し上の世代では、ネットにいろんな情報が溢れているからこそ、メディアが情報を要約して提供することや、レコメンド機能などでその人にあった情報を提供することが良いとされてきました。これは明らかに違いますね。

山田 子どもの頃から圧倒的な情報量に触れて育ってきているから、情報リテラシーが高いんです。編集された情報を鵜呑みにはせず、いろんな角度から情報を集めて自分で取捨選択をするのが今の高校生らしい行動だと思います。

森 飲食でも近しい変化は起きていますよ。広告でお店の魅力を訴求することや、ブームを仕掛けることが昔よりも難しくなってきている。その一方、個人がインスタグラムにアップした一枚の写真がきっかけで、入店待ちの行列ができることもある。個人が人を動かす力をつけてきたのは大きな変化です。

宮脇 カスタマーの消費動向や意思決定の鍵になるものは、確実に変わってきているわけですね。こうした時代の変化は、クライアントへの提案内容にも影響していますか。

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株式会社リクルート 宮脇大/アルバイト領域の求人広告営業、ブライダル領域の大手法人へのソリューション営業を担当。現在はリクルート経営コンピタンス研究所 コンピタンスマネジメント推進部を兼任。

森 カスタマーごと飲食店に求めるものが違うからこそ、それぞれのお店の売りをつくっていくような支援のあり方が増えていますね。広告掲載による集客支援だけでなく、たとえば飲み会のはじめに気分を上げるための乾杯ドリンクを企画するなど、ソリューションが多様化しています。

山田 今のカスタマーにあわせて、私たちも一方的な情報発信にならないように気を付けないといけませんよね。私がある女子大学と取り組んだのは、現役の大学1年生に広報スタッフになってもらうこと。彼女たちがつくるコンテンツは、プロの視点からするとやや素人っぽい表現や、私には面白さが理解できないものもありました。でも、たとえば"学生がジャンプしているだけ"の動画を見た高校生からは「大学の楽しい雰囲気が伝わってきた」という感想が届きましたし、女子大学生の必需品として"日傘"を紹介した投稿には、「先輩たちの日常生活がリアルに想像できて嬉しい。受検勉強のモチベーションが上がった」と大好評。個の力を巻き込むのは、これからのソリューションのキーワードだと思います。

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会議室にこもって考えた企画では、どんなお客様にも刺さらない

宮脇 今は前例のない提案を行うことも特に多い時期ですよね。はっきりとした答えがないなかでクライアントに貢献していくにはどうしたらいいか。最後に、みなさんが大切にしていることを教えてください。

織茂 普段やり取りをしている採用の担当者だけでなく、経営層から現場の人たちまで様々なレイヤーと接点を持ち、彼らが何に関心を持っているのかを知り尽くすことです。同じ企業の中でも、視座や視点によってすれ違っていることは少なくありません。その事実を客観的に整理し解消する手立てを考える。それがリアリティのある提案として受け入れていただける気がします。

山田 一つは大学以上に今の高校生のことを知ること。カスタマーは日々刻々と変化しているので、実際に会ってみたりアンケートで生の意見を収集したりして、こまめに自分の認識をアップデートさせています。もう一つは、大学以上に大学を知ること。大学の資料館を訪問して創立からこれまでの歴史を調べたり、普段お付き合いのある入試広報の部門だけでなく隣の部署のみなさんとも会話のきっかけをつくってみたり。立体的にクライアントを理解することを大事にしています。

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森 経営者の気持ちにどこまで近づけるかだと思うんです。うちの若手メンバーによく言っているのは、「会社員が会議室に籠って考えた企画なんて、お店の経営者には口先だけの提案にしか聞こえない」。だからこそ、店舗に足を運んで現場を知ることは必須だし、究極は経営者が日々どんな悩みにぶつかり、決断し、成功・失敗しているのかまで知りたい。そこまで分かって、はじめて納得のいく提案ができると信じています。

宮脇 なるほど。みなさんのやり方はそれぞれですが、共通しているのはクライアントやカスタマーに対してどこまでも深く知ろうとアンテナを張っているところ。常に「まだ何かあるんじゃないか?」と貪欲に向き合うところが印象的でした。私も営業として大変刺激を受けます。こんな風に、担当する領域は違っても同じリクルートの営業同士で話す機会をまた持ちたいですね。今日はありがとうございました。

プロフィール/敬称略

※プロフィールは取材当時のものです

織茂尚之(おりも・なおゆき)

2016年リクルートジョブズに入社。アルバイト・パート採用を中心とした人材領域のソリューションコンサルタントとして、大手フード系クライアントを中心に担当。『タウンワーク』等の自社メディアによる採用支援に留まらず、業務支援・経営支援を手掛けている。

山田直子(やまだ・なおこ)

朝日新聞社 広告局の営業を経て、2018年にリクルートマーケティングパートナーズに入社。進路領域の営業として私立難関大学を担当しており、高校生向けの広報活動支援や大学運営に関わるコンサルティングを行っている。

森高史(もり・たかふみ)

2008年リクルートに入社。飲食領域(現:リクルートライフスタイル)で、リテール営業、法人営業を経験。2017年に自ら立上げた総合企画グループのマネジャーとなり、2020年4月より総合企画部の部長を務める。

宮脇大(みやわき・だい)

2008年リクルートHRマーケティング(現:リクルートジョブズ)に入社。アルバイト領域の求人広告営業を経験した後、2017年にリクルートマーケティングパートナーズへ転籍。ブライダル領域の営業として大手法人へのソリューション営業を担当し、2019年よりマネジャー職。2019年よりリクルート経営コンピタンス研究所 コンピタンスマネジメント推進部を兼任。

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