対談:不確実性の高い環境下における「失敗」とは何か?

対談:不確実性の高い環境下における「失敗」とは何か?
写真は左からリクルート弓場、熊谷さん、リクルート大島

リクルートグループのバリューズ(大切にする価値観)のひとつに掲げられている「新しい価値の創造(WOW THE WORLD)」。細則には「良質な失敗から学び、徹底的にこだわり、変わり続けることを楽しもう」と記されています。
ではそもそも、失敗とは何か? 失敗を学びに変えるには、どんな組織環境が必要なのか?東京大学 先端科学技術研究センター 准教授 熊谷晋一郎さんをゲストにお迎えし、リクルートでサービスの企画・開発に試行錯誤した経験を持つ大島將義、弓場央嗣がともに語り合いました。
リクルートグループ報『かもめ』2021年6月号からの再編集記事です/敬称略

失敗を糧に前進し、キャリアを形成

―今日のテーマは、失敗です。まず、皆さんの失敗体験から教えていただけますか?

大島:初めまして、大島です。今、『リクナビ』『タウンワーク』など、HR領域で展開されているサービスのシステム開発を担当しています。実は、失敗体験が私のキャリアに直結しており、過去を振り返るなかで、システム開発が上手くいっても、それが使われない、意味がないといった経験を何度もしてきました。これが「成功なのか?」「失敗なのか?」と向き合い続けた結果が、今だと思っています。

弓場:弓場といいます。リクルートに入社してから13年、失敗の連続だったかもしれません。日常消費領域の営業、商品企画・開発に携わってきたのですが、新サービスを担当することが多く、お手本がない世界ばかり。直近7年は、自ら立ち上げた『Airリザーブ』のプロデューサーとして、壁にぶつかっては跳ね返されるなかで、サービスを磨き込んできました。

熊谷:熊谷と申します。東京大学先端科学技術研究センターに所属しており、主に3つの仕事をしています。ひとつ目は、小児科医としての仕事。加えて、障がいを持っている人や病名は付かないけれど苦労を抱えているご本人が研究の主体となる当事者研究※と、障がいのある学生や研究者の支援に取り組んでいます。私は、生まれつき脳性麻痺で、ずっと車椅子生活。小さい頃からリハビリをしていたこともあり、空気を吸うように失敗を体験してきたように思います。

kamome_01自身の失敗談を交えながらの自己紹介。対談はオンラインで実施。

※当事者研究
北海道浦河町にある、べてるの家と浦河赤十字病院精神科で始まった、主に精神障がい当事者やその家族を対象としたアセスメントとリハビリテーションのプログラム。障がいや病気を持った本人が、仲間の力を借りながら、症状や日常生活上の苦労など、自らの困りごとやその対象法について研究するユニークな試み。現在では、依存症や脳性まひ、発達障がいなど、さまざまな困りごとを持つ人々にプログラムが拡がっている。

成長につながるかどうかが大きな分かれ道。長期的には失敗とは言いきれない?

―そんな皆さんにとって、失敗とは何だと思いますか?

大島:失敗の定義は難しいですが、敢えて言うなら、良くないことを同じように繰り返すことが、〝失敗オブ失敗〞だと思います。繰り返すということは、学習すらできなかったということだから。短期的に失敗であったとしても、それが長期的な知識として個人や組織に蓄積されるならば、失敗とは言いきれないと考えます。どの視点で失敗・成功と評価するのかによって変わるくらい、曖昧なものかもしれません。

弓場:失敗をどう捉えるかによりますよね。単なる一過性の失敗なのか、それとも機会なのか。自分の体験からいうと、失敗は次の機会につながるものでした。失敗しても、自分のなかで軌道修正し、リカバリーできる状態にまで持っていけたら、次のステップに進むことができ、仕事の幅も一気に拡がり成長実感がありました。

熊谷:おふたりの話にとても共感します。失敗には、まず、こうなりたいという「期待」や、こうなるのではないかという「予測」があります。そして、現実が、期待通りにいかなかった、想定外であった時、出来事を解釈して失敗と名付けます。誰もが期待や予測を持っており、それが現実と違った時、失敗が生じるのです。そして、その失敗が成長につながるかどうかの分かれ道となるクライテリア(判断基準)のひとつが、期待や予測をアップデート(学習)できるか、できないか。アップデートできない失敗を経験すると、知識や信念体系の学習につながらず、同じ失敗が繰り返されます。

弓場:自分は失敗経験から予測をアップデートし、対応策や予防策を考え、次につなげていたのかもしれません。

―失敗から学習できると、良い失敗となるのですね。

「人生は試験ではなく実験」。失敗を隠そうとする力学を働かせないための研究姿勢

熊谷:もうひとつ、失敗を成長につなげられるかどうかのクライテリアは、失敗を共有できるか、できないかです。想定外の出来事は閾値(いきち)を超えるとトラウマになる。だから、似たような経験をした人と共有することが大事で、それによってトラウマが回復に向かっていくと言われています。

大島:共有可能な失敗という観点が重要だと感じました。何かが「上手にやれるようになること」と「下手を打たないこと」は、組織力の向上という点では同義ですよね。ただ、前者は未経験の問題と対峙している一方、後者は経験した問題と対峙しているので、共通認識を持ちやすい。だから、ポータビリティが高いのだと思います。そういう意味で、失敗は学びの源泉だなと。

熊谷:当事者研究においても、失敗は発見の種であり「研究」という言葉を大事にしています。というのも日々皆が体験しているさまざまな失敗の共有や、そこからの学習を阻む力学が働くことがあるからです。失敗したら恥ずかしい、罰せられるかもしれないという失敗に対する素朴な感情が、「共有する」ではなく「隠す」という方向に動く傾向にあります。先ほども触れましたが、失敗とは期待や予測と現実がマッチしていないというシグナル。そのシグナルに気づき、先人たちの失敗経験からも学びながら、個人や組織のなかにある期待や当たり前をアップデートし、皆で共有する。そういう取り組みを研究と呼ぶことで、ポジティブに失敗を捉えられます。

大島:失敗を共有する恥ずかしさを軽減するため、上手くいかないことが8割、上手くいったら奇跡くらいの姿勢のほうが良い。そう言って、「実験」という言葉をよく使っている気がします

熊谷:私も「人生は試験ではなく実験です」と言っています。試験には揺るぎない評価基準があって人が評価される。でも、実験にはそういう基準がなく、試行錯誤を許容する余白があります

―研究や実験と言われると、前向きな気持ちでトライできる気がします。

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緊張感の高い環境で生まれる助け合いの文化

弓場:実は、入社3年目で、失敗に対する恐れがマックスになった経験があります。『じゃらんnet』の予約システムと新しいポイントサービスや利用料の改定の仕組みを構築するディレクターを任された時のこと。クライアントに請求するポイントや利用率料金の算出にも関わっており、失敗が許されない重要な案件でした。少人数のプロジェクトで、自分がシステムの要件定義、法務や営業との調整、営業資料の作成などさまざまなタスクや役割をこなしながら、短期間に判断しなければならない状況でした。そんな緊張感の高い毎日が続くなかで、何かのスイッチが入って失敗への恐れが、建設的な思考に切り替わるタイミングがあって。失敗してもここでリスクヘッジできればいいよねとか、失敗に対する向き合い方が変わったことで対応力がつき、自己成長にもつながりました

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熊谷:私も同じような経験があります。小児科での研修医時代、1年目はプレッシャーでお子さんや赤ちゃんに注射する時、体がガチガチに。未熟な研修医で、かつ障がいがある私に注がれる周りの目は苛烈で、私自身も自分に監視の目を向けており、悪循環に陥ってしまったのです。

弓場:よく分かります。私も、失敗を恐れれば恐れるほど、リスクマネジメントしなければと自分で自分を抑制し、できる範囲を狭めてしまうことがありました。そこにベクトルが向かうと、新しい学びも得にくくなってしまう。

熊谷:ところが研修先のふたつ目の病院で転機がありました。人手不足だったその病院は、誰もが膨大なタスクを抱え、自分ひとりでは仕事をこなせないことを承知していたのです。次に何が起こるか分からないという圧倒的な不確実性を認識している職場で自然発生していたのが、助け合いの文化でした。パーソナルな部分も含め、お互いに何ができ、何ができないのかを共有する。失敗が起こることを前提に、失敗が起きた時は、犯人捜しではなく、なぜ起こったのかを膝を突き合わせて考える研究的な文化が育まれていました。
 そして、赤ちゃんの採血が苦手だった私に、先輩の医師がこう言ったのです。「採血が難しい患者さんはたくさんやって来る。教科書通りにやっているだけではダメだ。私たちは、採血が難しい患者さんに対する何種類もの採血方法を持っている」と。命を助けるという目的に対し、たくさんの手段があり、そのなかから、障がいがあっても自分の体に合う方法を見つければいいと気づけたのは、大きな発見でした。

大島:そうやって、心理的安全性が担保されていたのですね。

熊谷:実は、絶対に失敗が許されない環境で、心理的安全性の概念につながる文化の重要性が発見されたと言われています。例えば、宇宙ステーションでは、閾値を超えたひとりの失敗が全員の命を奪ってしまう。失敗から学習しない、失敗すると罰せられる組織ではかえって皆の命が危うくなるので、自然と助け合いの文化が生まれるのだと思います。

―失敗が許されない職場は殺伐とした雰囲気になると思っていたので、意外です。

体制図とフォーメーション。その使い分けが重要

大島:絶対に失敗が許されない環境では、「人の命を助ける」というような抽象度が高いゴールに向き合うケースが多く、タスク分解などできないですよね。そういったなかで問題が起きた時、「これは私の仕事ではないので、対応しません」とは、言っていられません。サッカーのフォーメーションのように、残り5分、勝つためにゴールを守り抜かなければいけない場合、皆がゴール前に戻るはず。重要なのは、タスクではなく目的に準じた役割。プロジェクトマネジメントでは、最初にゴールが規定され、逆算的にタスクが規定され体制図を作るのが正しい順番です。タスクが決まり役割が作られ、良くも悪くも、タスクの責任が明確になる。逆にフォーメーションだと、良くも悪くもタスクの責任は不明瞭になりますが、問題に対し、責任追及というよりは、どうすれば良いかを考えるようになります。

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熊谷:職場研究において、組織を統制する仕組みが、「構造(モノや文書による統制)」と「文化(人の価値や慣習)」に分類されることがあります。構造が肥大化した時、事故が起こる。逆に言えば、構造に負けない文化を備えた組織は、複雑な組織でも事故を起こしにくい。構造を否定するわけではないのですが、構造は平時にのみ役立ち、効率的。一方、有事とは、構造が破たんし機能停止している状況で、このような時、前に出てくるのが文化です。ただし、抽象度が高いミッションを皆で共有し、お互い責め合わずに目の前の問題に向き合う冗長性のある文化は、平時から育まないと有事で機能しません

大島:構造は計画を効率良く進めるためにあるので、計画に意味がある時代・仕事には機能するんですよね。でも、最近、計画をきっちり組み過ぎると、それが悪になることも。ロードマップなどを計画的に捉えると、どうしても効率化するための構造が発生しがちで、計画変更には弱くなる。大事なのは、ひとつ取り組んだ後、それを踏まえ次はこう進めようと、臨機応変に計画を組み換えられるかどうか。構造と文化の特性を上手く使い分けたいです

弓場:特にサービスの立ち上げ期は、不確実性しかありませんでした。だから、不確実性や失敗に対する許容度の高いメンバーが入ると、上手くプロジェクトが進みました。逆にゴールとスケジュールをきっちり設定して進めようとすればするほど失敗したり、サービスが思ったほど成長しなかった経験も。サービスが立ち上げ期なのか、グロース期なのか、どの段階にいるのかによって、求められる人材やフォーメーションが変わることも認識しておく必要があると思いました。

熊谷:人材の成長についても同じようなことが言えます。入社直後の新入社員は、不確実性が高い。本人も何ができるのか、職場から何を求められているのかが分からない。私の研修医時代もそうでした。でも、新人の私をリーダーがリスクテイクしながら、組織として実験的領域、試行錯誤できる余白を持って、大きな仕事を任せてくれたことが、自分の成長につながりました。繰り返しになりますが、不確実性が高まるなかで成長できるかどうかの分かれ道は、期待や予測をアップデートできるか、失敗を堂々と共有できるかどうか。当事者研究の一歩目にある失敗の捉え方のパラダイムシフトが、ビジネスの場でも求められているのかもしれません。

プロフィール/敬称略
※プロフィールは取材当時のものです

熊谷晋一郎(くまがや・しんいちろう)
東京大学 先端科学技術研究センター 准教授
小児科医。新生児仮死の後遺症で、脳性麻痺に。大学時代は全国障害学生支援センタースタッフとして活動。東京大学医学部医学科卒業後、千葉西病院小児科、埼玉医科大学病院小児心臓科での勤務、東京大学大学院医学系研究科博士課程での研究生活を経て、現職。専門は小児科学、当事者研究。主な著作に、『リハビリの夜』(医学書院)や『当事者研究と専門知』(編著、金剛出版)など

大島將義(おおしま・まさよし)
リクルート プロダクトディベロップメント室
HR領域プロダクトディベロップメントユニット
システム開発会社を経て、2014年リクルートジョブズに入社。業務系・メディア系システムの企画・開発を担当し、20年よりHR領域開発ディレクションユニット長に。21年より現部署

弓場央嗣(ゆみば・ひろつぐ)
リクルート AirプロダクトDiv. セールス部
セールスエンジニアリンググループ
2008年リクルートに入社。旅行領域で営業、『じゃらんnet』予約管理システムやポイントサービスのディレクターを経験。その後『SALON BOARD』や『ポンパレモール』の立ち上げに携わり、14年より、自ら起案した『Airリザーブ』のプロデューサーを務める。21年4月より現部署

 

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