今、世界が注目する『人的資本経営』の実現モデルとは?“働く人”こそ企業の競争優位性を生み出す時代を見据えて

今、世界が注目する『人的資本経営』の実現モデルとは?“働く人”こそ企業の競争優位性を生み出す時代を見据えて

今、雇用をめぐる動きは、雇用主と従業員だけでなく、株主やユーザーなどの多様なステークホルダーから関心を集めている。世界では投資機関などから、経営情報のひとつとして人的資本情報の開示を求める動きが始まっており、欧米を中心に人的資本に関する開示指針が展開されているのだ。

そんななか、創業当時から手掛けてきた雇用事業を柱のひとつとしているリクルートでは、『人的資本経営に関する人材マネジメント調査』を敢行。2021年12月に第1弾の調査結果を、22年1月に第2弾をリリースした。担当したリクルートワークス研究所 所長 奥本英宏、HRエージェントDivisionリサーチグループ 津田 郁に、調査企画の背景にある思いについて話を聞いた。

「人的資本」情報の開示を求め始めた世界的潮流。その背景には4つの視点が。

── なぜ今、『人的資本経営』が世界で注目されているのでしょうか?

奥本:世界の潮流が今、大きな転換点を迎えています。行き過ぎた金融資本主義を反省し、中長期にわたって価値を生み出す「人材」こそが重要な資本という考え方が拡がっているのです。この流れを読み解くと、1.社会的観点、2.経済的観点、3.戦略的観点、4.世代的観点の4点で整理できると考えています。

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まず、1.社会的観点について。
コロナ禍を経験した世界は今、欧米を中心に、行き過ぎた金融資本主義を見直し、『人的資本主義』への移行を提唱し始めています。世界経済フォーラムで掲げられた『ステークホルダー資本主義』では、株主だけではなく、いわば経営のパートナーである従業員や、仕入れ先や顧客である事業パートナーまで含めて大切にしていくことで、初めてサステナブルな経営が実現するというゴールに共感が集まっています。

2.経済的観点で見ると、1970年代は工業中心の社会で、企業価値は財務指標で決まっていたといっても過言ではありません。しかし、90年代に入るとITやサービス業へと主軸が移るなか、企業価値の決め手は、イノベーションを生み出すための技術力、人的資本などに変化。そして近年では、企業の財務指標と株価との乖離がさらに大きくなっている。株主が企業の成長性や価値を算定するために、企業成長のカギを握る「人的資本」の公開を求める動きにつながっていきました。
この流れに伴い、ISO(国際標準化機構)や米国サステナビリティ会計基準審議会などが、次々と「人的資本に関する開示指針」を打ち出し始めています。

3.戦略的観点についても重要な視点です。技術革新のスピードが速く、経営効率を上げるためのDX化が企業価値を上げる欠かせない取り組みとなっていますが、企業全体のDX化と業務効率を上げていくためには、技術力のある人材を外部調達するだけでは実現できない。今、働いている人たちに教育投資をし、DXに対応できる人材に変えていかなければなりません。イノベーションを生み出し、汎用・拡大していくスピードが求められているこの時代では、お金だけがいくらあっても生き残れない。人材こそが企業の競争優位性を生み出すと考えられているのです。

4.世代的観点については、実感値のある方も多いと思います。国内では「Z世代」というキーワードが話題になっているように、世界の気候変動や格差社会の改善など、SDGsについて学校教育で学び、サステナブルな社会づくりに意識の高い層が、次世代を支える中心の世代となっていきます。この世代の価値観として、働く人と企業がより対等で、支援し合えるフラットなつながりを求める傾向があります。これまでの、金融資本型経営とは異なり、多様な能力を持つ人を惹きつけ続け、一人ひとりの能力を引き出して新たな価値を生み出せる制度やマネジメント手法、風土醸成が必要となってきているといえるでしょう。

62年前の創業時から、「人を大切にする企業」と「働く人」を応援してきたリクルート

── なぜ、リクルートとして『人的資本経営』に対し、踏み込んだ調査をしようと考えたのでしょうか?

奥本:実はこの流れは、これまで何度か起こってきたことではあります。しかし、金融資本主義の流れに押し流されてきた印象です。コロナ禍や、気候変動を突き付けられる現実のなかで、今ようやく、本気で取り組もうという機運が生まれていると思います。
加えて、リクルートは創業以来、「個の尊重」を掲げ、人が価値の源泉と信じて経営を行ってきた企業でもあります。社会に対しても同様に、創業事業である雇用事業を通じて、自分の持ち味を活かして活躍していきたいと考える個人と、人材重視の経営をする企業の双方を支援してきました。いわば、62年も前から「人的資本経営」を応援してきたのがリクルートともいえるわけで、このテーマにリクルートが取り組まない理由はないと思うのです。

津田:冒頭でお伝えしたように、ステークホルダーが企業の持続的な価値を把握していくために人的資本の開示を求めるようになっています。欧米を中心に人的資本に関する開示指針も展開され始めました。公開するべき情報、いわばKPIのようなものは見えてきましたが、人的資本経営を実現するために必要な、具体的な「人材を活かすマネジメント」ということはどういうものか、個人の才能を伸ばす支援、豊かな人間関係による職場の活性化とはどうすればよいのか、など、まだ明確な答えはどこにもありません。だからこそ、「個を生かす」マネジメントを磨き続けてきたリクルートが、いち早く現状把握し、新たな時代に向けた企業と人のあり方を考え社会に示していくべきだと考えています。

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国内企業では人的資本の測定が進む。但し、社外への開示は14.9%に留まる現状

── 『人的資本経営と人材マネジメントに関する人事担当調査』とはどのような調査ですか?

津田:12月21日にリリースさせていただいた『人的資本経営と人材マネジメントに関する人事担当調査(2021)第一弾:「ISO30414」に基づいた主要11 領域の調査結果』では、企業の人事担当3007名に対して調査を実施。ISO30414の主要11領域に基づいた人的資本の開示状況、人的資本経営を実現するための課題などを確認しました。

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── 今回の調査結果のなかから、どんな気づきがありましたか?

津田:人的資本経営を測定している企業は既に約半数ありましたが、社外開示している企業は15%程度でした。世界的に人的資本の重要性がクローズアップされるなか、企業は内部及び外部のステークホルダーへ情報を開示して、人的資本を高めていくための建設的な対話を始めるべき時期に来ているといえます。

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また、人的資本経営を推し進めるための課題には、「従業員のスキル・能力の情報把握とデータ化」が最も高かった。誰がどのようなスキルを持っているのか、どのような経験をしているかを把握することが、人的資本経営を実践する第一歩といえるでしょう。
ポイントは、常に変化する人間の動態的な情報をどのようにキャッチするか。現場の管理職と人事が連携してアンテナを張り、従業員の定性面や多様な側面に関心を持って把握していくことです。

調査は結果を出すだけでは意味がありません。よりよい社会創りのために、さまざまなステークホルダーとの対話、人的資本経営実現に対して活用いただけるように働きかけていかなければなりません。今後は産官学を巻き込んでの対話や、働く人たちへの調査も予定しています。引き続き、幅広い方々に、私たちからの発信にご関心を持っていただけたらと思っています。

※詳細は、本サイトのニュースリリースにて順次公開予定

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プロフィール/敬称略

※プロフィールは取材当時のものです

奥本英宏(おくもと・ひでひろ)

リクルート専門役員/ リクルートワークス研究所 所長

1992年株式会社リクルートマネジメントソリューションズ(旧社名:人事測定研究所)入社。2011年10月株式会社リクルート ソリューションカンパニー カンパニー長、株式会社リクルートマネジメントソリューションズ代表取締役社長に就任。企業の人事制度、人材評価、人材開発、組織開発全般のソリューションに従事。2018年4月リクルートワークス研究所に参画し、2020年より現職

津田 郁(つだ・かおる)

リクルート HRエージェントDivision顧客ロイヤルティ推進部 リサーチグループ 研究員

2011年リクルート海外法人(中国)入社。グローバル採用事業『WORK IN JAPAN』のマネジャー、リクルートワークス研究所研究員などを経て21年より現職。現在は労働市場に関するリサーチ業務に従事。専門領域は組織行動学・人材マネジメントなどの組織論全般。経営学修士

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