ハーバードが注目する「日本企業の強み」に迫る作家 佐藤智恵さんのリクルート考

ハーバードが注目する「日本企業の強み」に迫る作家 佐藤智恵さんのリクルート考

パーパス経営の最先端企業として革新的な価値創造で危機をチャンスに

リクルートグループは社会からどう見えているのか。私たちへの期待や要望をありのままに語っていただきました。

リクルートグループ報『かもめ』2020年10月号からの転載記事です

印象的なのは働く人たち 高い熱量とスピード感

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初めてリクルートグループの皆さんとお仕事をご一緒させていただいたのは2016年の夏のことです。ダイヤモンド・オンラインの連載やMBA関連の著書の内容に興味を持ってくださったリクルート経営コンピタンス研究所(当時)から講演依頼をいただいたのがきっかけです。

今後、リクルートグループがさらにグローバル化を加速させていくなかで、日本国外でのブランド力や認知度を高めるためにはどうしたらよいか、海外の経営大学院と連携して何かできないかを議論したい、とのことでした。

リクルートを訪問し、関係者の皆さんと意見交換させていただいた時に、最も印象に残ったのは、社員一人ひとりのエネルギーレベルの高さ。これまで多くの日本企業で講演をしてきましたが、こんなに熱心に途切れることなく質問を受けたことはありませんでした。

質疑応答のなかで、私が特に強調したのは「海外の経営大学院の授業や教材にリクルートを取り上げてもらうには、リクルートの社員をMBAやエグゼクティブ講座に派遣するのが一番早い」ということでした。実際、ハーバード大学経営大学院の教授陣は卒業生のネットワークを通じて、ケース(教材)の題材を探すことが多かったからです。

驚いたのは、その同じ年にグループ会社の役員をハーバードのエグゼクティブ講座に派遣していたことです。年末には旧知のサンドラ・サッチャー教授から「リクルートの教材を書くことになったので、もうすぐ取材で日本に行きます」と連絡がありました。このスピード感には本当にびっくりしました。

ハーバードが注目したのは危機後の成長力と起業家精神

2018年にリクルートのケース『グローバル化する日本のドリームマシン:株式会社リクルートホールディングス』が出版された後、ハーバードの教員がリクルートの何に興味を持っているかをもう少し知りたいと思い、執筆者のサンドラ・サッチャー教授と授業でケースを教えているシカール・ゴーシュ教授にインタビューすることにしました。

NHK出身の私は「リクルート事件」に焦点をあてて起業家の倫理を教えているのかと思っていましたが、両教授とも注目していたのはむしろ「リクルート事件」後の成長。なかでも「個の尊重」や、革新的な人的資本管理システム、大企業なのに起業家精神を失わない社風について熱く語っていたのが印象的でした。

著書『ハーバードはなぜ日本の「基本」を大事にするのか』を執筆するにあたって心がけたのは、リクルートの歴史もきちんと伝えることでした。ハーバードの教授が称賛する「現在のリクルート」の強みは、1960年の創業から現在に至る長い歴史のなかで培われてきたものだろうと思ったからです。

歴史をひもとくなかで、リクルートがグーグルやフェイスブックなどが出現するずっと前に、リボンモデルと呼ばれるプラットフォーム型ビジネスを生み出していたこと、ネット時代を先取りして紙メディアからネットメディアへといちはやく転換してきたこと、ダイエー傘下時代の学びがグローバル戦略に活かされていることなどを知りました。そしてそれらの全ての核となっているのが、「人材」であることに気付きました。

グローバル企業としてのガバナンスとシナジー

今後、リクルートがさらに世界市場で成長していくなかで課題となってくるのは、グループ企業間のシナジーとガバナンスではないでしょうか。これは多くの日本企業が直面している課題でもあります。

日本を代表するサービス企業であるリクルートが起業家精神を保ちながらどのように成長していくのかは、ハーバードでも引き続き研究対象になっていくと思います。

新型コロナウイルスの感染拡大が続くなか、世界経済は未曾有の危機を迎えています。こうしたなか、「会社は何のために存在しているのか」=パーパスがますます企業に問われるようになってくるでしょう。リクルートはパーパス経営の最先端を走ってきた企業であり、数々の危機をチャンスに変えてきた企業です。リクルートがこの時代ならではの革新的なサービスやビジネスモデルを生み出していくことを期待しています。

プロフィール/敬称略

※プロフィールは取材当時のものです

佐藤智恵(さとう・ちえ)
作家・コンサルタント

1970年兵庫県生まれ。92年東京大学教養学部卒業。2001年コロンビア大学経営大学院修了(MBA)。NHK、ボストンコンサルティンググループ、ウォルト・ディズニー・ジャパンを経て、12年作家・コンサルタントとして独立。『ハーバードでいちばん人気の国・日本』『ハーバード日本史教室』など著書多数。最新刊は『ハーバードはなぜ日本の「基本」を大事にするのか』(日経プレミアシリーズ)。日本ユニシス株式会社社外取締役、TBSテレビ番組審議会委員などさまざまな役職を務める

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