女性活躍の前に、男性だけの部長会をどうにかしたい -リクルートの営業組織長から見たダイバーシティ

女性活躍の前に、男性だけの部長会をどうにかしたい -リクルートの営業組織長から見たダイバーシティ

リクルートグループが2021年に発表した、サステナビリティへのコミットメント。「2030年度までに上級管理職・管理職・従業員、それぞれの女性比率を、グループ合計で約50%にする」というジェンダー平等の目標を掲げ、株式会社リクルートでも具体的な取り組みが始まっています。それは管理職要件の明文化、つまり管理職候補者選びの段階で、画一的な働き方やリーダー像といったバイアスを排除し、個々人の能力に基づいた候補者選びを徹底する取り組みです。女性を含め、多様なリーダーが生まれることを目指しています。
このチャレンジに昨年から先行して取り組んできたのが、『リクナビNEXT』や『タウンワーク』などを通じた中途採用支援の領域でクライアント接点を担っている、リクルート 中途Divisionです。Division長を務める加藤剛史に、トライアルを通じて感じたことや気づいたことを率直に聞きました。

ほぼ全員が年上のおっちゃんだった部長会。ダイバーシティなくして事業成長なし!

-本日はよろしくお願いします。加藤さんは熊本での『タウンワーク』の営業からキャリアをスタートし、『リクナビNEXT』などの社員領域のサービス担当、そしてその過程で上京、マネジャー任用、人事総務部への異動などを経て2019年にリクルートジョブズ(現在のリクルート 中途Division)の役員となって、現部署に着任されていますね。

加藤:そうですね。入社した2006年当時は、拠点のPLがメンバーに公開されていて、自分は新人で全く組織に貢献してないのに人件費食ってるなあ、と思った記憶があります。さまざまなルーツや雇用形態のメンバーが営業として切磋琢磨していて、頑張っている皆に追いつきたい一心で、当時は深夜3時まで思いっきり仕事したりもしていました。今はそんな働き方、許されないですけどね(笑)。

-今回のテーマはDEI(ダイバーシティ、エクイティ、インクルージョン)なので質問ですが、「さまざまなルーツや雇用形態」といいますと?

加藤:学歴も性別も出身地も働く目的もいろいろということです。自分は社員で転勤でしたが、3年と期間を決めて入社している地元の方もいた。でも営業という役割においては全員同じフィールドで競い合い、教え合い、助け合っていて、サークルのような活気に溢れていました。その後配属になったいくつかの組織も同様で、それこそワーキングマザーや、女性メンバーも常にたくさんいました。

-ところが、19年に今の部署に着任された最初の組織長の集まりで、伝説のセリフを吐いたわけです。

加藤:「ヤバいすよこれ、全員おっちゃんばっかやないですか!」みたいなことを言っちゃったかな(苦笑)。でも本当に、4人の部長はもちろん、その配下の地方拠点の課長たちも全員男性だったんです。「これや、あかんのは!」と思って、ほとんどの方は自分より先輩でしたが思わず言ってしまいました。皆さんも「確かにそうだよね」という雰囲気で…。

-何がヤバいと思ったんですか?

加藤:採用事業を通じ、多種多様なクライアント企業様に営業訪問してきたなかで感じていたことがあったんです。それは、伸びている企業、世の中の変化にキャッチアップして頑張ろうとしている企業、チャレンジしている企業ほど、お会いする方々の多様性が一目で分かるほど豊かである、ということ。当然、見た目の多様性の先には広い意味でのダイバーシティに通じる部分があって。自分のなかで組織の多様性と事業成長は切り離せないという確信につながっていたのだと思います。

-なるほど。事業成長とダイバーシティはセットであると。

加藤:ニワトリたまごなんです。事業成長なくしてダイバーシティ無しですし、その逆もしかり。昨年、配下の男性マネジャーからポロっと言われたことがありまして。「ここから先の任用は、僕たちより女性のほうが優先されるんですよね?」と。いやいや、ポストの奪い合いじゃなくて、そもそも事業を成長させようと思ってやってるんだよと。その際に画一的な任用要件だとポストが埋まらないでしょ。そんな心配をしている暇があったら一緒に事業成長させようよ、と伝えました。

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人生史まで見つめてキャリアを創造する人材開発委員会

-加藤さんのダイバーシティの捉え方が理解できたところで、実際のところ、多様性を実現するマネジメントってできるのか? についても聞いてみたいのですが。

加藤:それはもう、リクルートのWill-Can-Must面談と人材開発委員会に象徴されていると思います。

-人材開発委員会というのは、半期に一度、ひとりの従業員に対して直属のマネジャーだけでなく、斜め上やひとつ上のマネジャーが複眼的に、中長期的なキャリアを議論して、今後の育成計画や、先々の配属などを検討する会議ですね。

加藤:はい、自分のマネジメントの原型はマネジャー2年目の時の上司に影響を受けています。当時の人材開発委員会で自分のメンバーについて見解を共有したんですね。自分なりに真剣に考えて、この人はこういうことが得意で、こういうことは苦手なので、こういうポジションが向いていると思いますと。すると、そのメンバーと普段たいした接点もないはずの上司が「いや、この人はこういうことを大事にしていて、それはこういう人生経験からきていて、だから今これを頑張っていて、そう考えるとこっちのほうが本人にとってフィットするんじゃないか」と言い出したんです。えー!?っと。いつの間に人生観まで捉えてた、という驚きと、その深さからキャリアを見立てていたことが衝撃で。以来、そのスタイルを真似しています。

-すごいですね、その上司。そして加藤さんは具体的にどうしたんですか?

加藤:Will-Can-Must面談(半期に一度、上司とメンバーでミッション設定を行う場)への臨み方が変わりましたね。それまではどこか形式的だった面もあったと思います。でもその後は面談の前に、相手のことを理解する時間を別に取るようになりました。はじめましての場合は1時間くらい質問攻めをして(笑)人生史を掘り下げるんです。すると何を大事にされているかなど、その方なりの意思決定の基準が見えてくる。その背景にも納得できる。相手も分かってもらえた安心感から、相互理解が深まる。

-一人ひとりと1時間も!? 仕事が滞りませんか?

加藤:合理性もあるんですよ。相互理解が進む分、その後の日々のマネジメント効率は上がるんです。何かあっても「この人はこういう背景でこう言動したんだろうなあ」と想像がつくので、良い意味で楽になり、生産性が上がります。メンバーから見ても同じだと思います。

-そういうことですね。にしても、それだけ一人ひとりのことを深く考えているなら、もうそれでダイバーシティが実現しそうな気もしますが…?

加藤:ある程度はそうでしょう。個の尊重という経営理念もあるくらいですから。ですが、こと女性管理職となると、ロールモデルがいなさすぎると個人的には思っていました。

-ロールモデルがいない?

加藤:はい。2014年頃、人事総務部を担当していた頃のことです。会社としては女性のキャリア開発に取り組み始めた頃で、女性従業員に女性管理職の先輩を引き合わせる研修などもやっていたのですが、実際の反応としては「ああはなれない」という声が多くて。「仕事を優先してここまで来た」ように見えるくらいパワフルな方ばかり。先輩方はロールモデルのひとつではあるんだけど、他にバリエーションはないのかな、あったほうが良いのにな、とは思っていました。でも、これって男性も一緒だと思っていて。例えば土日もゴルフや接待でハードに生活している管理職が当たり前な時代もありましたが、男性から見ても画一的なロールモデルだと思います。自分自身もそうでない働き方を示したいと思いましたし、ダイバーシティというか働き方のバリエーションの開発は自分のなかではテーマになっていったんです。

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コロナ禍で一層シャープになった「管理職要件」。訪問営業や会食よりも、対面の社内会議がダイバーシティを阻んでいた!?

-その経験の延長線上に、「管理職要件明文化」トライアルの打診が来たわけですね。どう思いました?

加藤:正直、戸惑いとかなくて、何とも思いませんでした(笑)。だよね、やろうよ、と。ただ、正式にプロジェクトとして取り組めることで、加藤個人の問題意識だったところから、飛躍的に推進力が上がりますよね。配下の部長陣も、ただの合言葉ではなくて、これは本気なんだと感じてくれます。

-具体的にはどんなことを行ったのですか?

加藤:先ほどお話しした半期に一度の人材開発委員会の場を、DEI推進室の方が第三者的に視察して、私たちおっちゃん軍団の会話に切り込んでくれるんです。「さっきの会議で話題に上がった“○○ができる”ってどうして大事なんですか?それはマネジャーを務める上で本当にマストなんですか?」と。例えば、いざという時にお客様のもとへ駆けつけられるか、対面で対応できるか、年に数回としても会食や接待はできないと営業組織としてはまずいだろう、などいろいろと浮上するわけです。その時にピシャっと「でも今、コロナ禍で実際そんなことできてないじゃないですか。既に違う方法で価値発揮していませんか?」と指摘してもらえる感じです。

-おお、なるほど、イメージ湧きます。コロナ禍が重なったことも影響はありましたか?

加藤:ありますね。対面の必要性を見直すことができたのは大きかったと思います。

-営業がオンライン商談になったことなどですか?

加藤:それもありますが、実は一番大きかったのは、社内会議の効率化でした。コロナ禍前までは、会議は対面じゃないとコンテキストが伝わらない、というような思い込みがあったのか、うちの組織は絶対対面という雰囲気だったんです。よく考えたら狭い会議室にこもって5時間も会議して能率が良いわけないですよね。でもそれが管理職の重要な仕事のように思われてきていて、日中のコアタイムは会議予定でロックされる。するとメンバーとの打ち合わせやクライアントワークは朝晩に詰め込まざるを得ないという状況でした。

-その時点で、その働き方ができる人しか管理職になれませんね。

加藤:ところがコロナ禍で全員テレワークになり、オンラインで会議をせざるを得なくなると、物理的に問題は全くないことに気づいた。移動の時間も要らないし、議題がなければさっさと終わる。しまいには毎週5時間やっていた会議が1時間になったんです。いったい何をやっていたんだ、と思いましたね。

-それはすごい変化。日中4時間捻出できるとかなり違いますね。

加藤:上位管理職の時間の使い方が変わっていくと、その下の会議体運営も変わっていき、組織全体の無駄な時間が減って、生産性高く働けるようになっていきます。すると、育児などで時間的な制約のあった人も時間内に成果が出せるようになり、制約のない人でも生産性が上がった分、余暇を積極的に楽しめるようになる。

-それこそ本当の、全ての人にとってのDEIですね。

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アンコンシャスバイアスを解いたら、女性管理職候補が2倍に

-つまるところ、管理職要件を明文化した、というよりは、明文化できるほどの要件だけに削ぎ落されていった、という感じでしょうか。

加藤:そうです。要件だとぼんやり思っていたことの半分くらいは、アンコンシャスバイアスだったと気づかされた取り組みでした。今のところ絶対必要な要件はこれ、それ以外は個性の数だけやり方にバリエーションがあって良い、と皆が思えたことが良かったと思います。

-トライアル開始から半年以上経ちますが、変化はありますか?

加藤:おっちゃんしかいない状態は脱しましたよ(笑)。最近では、どうすれば能力のあるこの人やあの人が管理職として活躍できるか? コロナ禍を契機に加速しているインサイドセールス(顧客先を訪問しない内勤型営業)やカスタマーサクセス(既存顧客の課題解決や満足度向上)の組織であればこんな人も活躍できるよ、などマネジャー達がどんどんアイデアを競い合っていて、正直すごいなと思っています。部署単位でみれば、女性の管理職候補者の合計が2倍になったところもあるくらいです。一方、おっちゃんしかいない状態は脱したと言いましたが、彼らの経験や能力が活かされる組織開発もテーマだと思っています。キャリアのある男性が活かされる場も同様に重要だと思っていますし、そうあるべきと考えてます。

-かなりの意識変化ですね。

加藤:というか皆初めから、いろんな状況の人が活躍できる職場であることは大事だと気づいていたんですよ。ただ、本気で取り組むきっかけがなかっただけ。私の組織では、組織のミッションを「働く機会を、もっと自由に。もっと速く。日本の隅々まで。」 と定めているのですが、まず自分たちの足元から、働く機会を自由に広げていっている実感があります。

-その先に、日本の隅々までポジティブな気運を創れたらよいですね。

加藤:まだまだそこまではおこがましいですが…そうなれるように頑張ります!

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プロフィール/敬称略

※プロフィールは取材当時のものです

加藤剛史(かとう・たけし)

リクルートDivision統括本部 HR本部 中途Division Division長

2006年新卒入社。営業としてタウンワーク熊本事業部、中途事業本部などを経験し、13年リクルートキャリアにてアントレユニット部長へ。人事総務部部長、新卒事業の総合企画部長を歴任した後、19年よりリクルートジョブズ(現 中途Division) 執行役員に。21年より現職。趣味はフットサル。28歳まで社会人サッカーと仕事を両立してプレー。仕事もプライベートも存分に楽しめるよう生産性高い働き方にこだわり、年間労働時間を2000時間以内におさめているそう

 

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