リクルート社長 北村吉弘が、高校生に伝えたい「これからの社会を生きる5つのポイント」

リクルート社長 北村吉弘が、高校生に伝えたい「これからの社会を生きる5つのポイント」

2023年7月、リクルート代表取締役社長の北村吉弘が、母校である新潟県立十日町高校で講演を実施。自身の経験を交えながら、高校生活の充実や進路・希望する将来のために大切なことについて語りました。高校生の皆さんは「考え方がガラっと変わった」「これからどんどん挑戦していこう」などさまざまな気づきや心境の変化があったようで、講演後には急遽、校舎で臨時の「個別質問教室」が開催されたほど。そんな白熱した講演のなかでも、特に反響の大きかった話題を抜粋してレポートします。

高校時代は「自分で決める訓練」の期間

北村:私が皆さんと同じこの高校に通っていた時、テニスに夢中になっていました。県の代表選手に選ばれ、強化合宿や遠征などもあったので、存分に活動するには多額の費用がかかります。

そこで1年生の秋から隣町にあるスキー場のロッジでアルバイトを始め、自分で活動費用を稼ぐことにしました。お正月も家で過ごしたことがないぐらいハードな生活でしたが、辛いと思ったことはありません。ただひたすら楽しかった。

東京からアルバイトにやってきた大学生、インドネシアからの留学生、首都圏からやってくるお客様…いろんな人がいて、いろんな経験を聞き、知らなかった世界に触れることで、好奇心がものすごく刺激されたからです。

高校卒業後の進路は、「違う世界を見たい」と主張して東京の大学に進学しました。それは親の期待とは異なっていたこともあり、学費以外は自分で稼ぐ約束をして、大学時代は勉強しながら、ものすごく働きました。

昼間に授業を受けて部活も行った後、夜9時以降にアルバイトをする。そのまま学校に行って教室で仮眠をとり、授業が始まったら起きて受講する…そんなめちゃくちゃな生活を送ったりもしました。周りの学生とはやや異なる大学生活でしたが、「自分で決めたこと」という納得感は非常に大きかったように思います。

こうして振り返ってみると、今につながるあの高校時代は、自分のために自分で何かを決める訓練の期間だったように思えてきます。社会に出ると成果のないことに対して決断することの連続。皆さんも意識的に「自分で何かを決める」ことを行ってみてはいかがでしょうか。

北村の話に熱心に耳を傾ける高校生たち

進路や希望する将来のために大切にして欲しいこと

北村:次に、皆さんの進路や希望する将来のために大切にして欲しいことについてお話ししていきます。それは「理性について」です。

「感情と理性」は、「象と象使い」に例えられることがあります。誰にも制御されていない野生の象は、ときに人を襲うこともある危険な動物。そんな象のように、感情もまた、制御しないと勝手に暴れ出します。

だからといって、感情を殺してしまうことは、絶対にやってはいけない。なぜなら、「何かを実現しよう」「こうなりたい」「楽しい・嬉しい」あるいは「悔しい・悲しい」といった感情は、象と同じように、ものすごいエネルギーを持っているからです。ですから、皆さんが元々備えている感情という立派なエネルギーを適切に使うためには、象使い、つまり理性が必要なのです。

では、その理性をどのように使っていったら良いか。5つのポイントをお話ししていきます。

①情報の偏りを認識し、数字で理解しよう!

北村:まず、自分の目で確かめ、数字で理解するということです。

インターネットは非常に便利なツールですが、そこで得らえる情報はアルゴリズムによって自動的にフィルターがかかり、自分が見たい情報しか見えなくなっています。

しかし、総務省発表の2023年版情報通信白書によると、「SNSなどで自分の考え方に近い意見や情報が表示されやすいことを知っているか」についての調査で「知っている」の割合は、アメリカ78%、ドイツ71%、中国80%に対し、日本はわずか38%という結果でした。

(出典)総務省(2023)「ICT基盤の高度化とデジタルデータ及び情報の流通に関する調査研究」

フィルターを介して見ているという自覚なしにインターネットの情報にさらされていると、考え方が偏ってくる恐れがあります。そして、その考え方に合わないものに触れた時、なんだこれは! と感情的になってしまう。

そんな個人の集合体として考え方が均一化した社会が形成されることに、私は大きな危機感を持ちます。本当は重要な意見が、異質なものとして排除され、全員で間違った方向に行きかねないからです。皆さんには、ぜひインターネットの特性を十分理解して活用して欲しいと思います。

その上で、情報を「数字」で理解することが大切です。その時「この町の人口と同じぐらい」「県の人口の約3倍」のように、わかりやすい別のものに例えて理解する癖をつけることをお勧めします。

近年、感情を煽る表現をする情報が目立ち、それを見て憤りを感じることも多いかもしれません。しかし、自分のなかで状況を数字で把握することで、煽り表現に惑わされることなく、感情の疲弊を防ぐことができるのではないでしょうか。

②全経験は成功と失敗にわかれない! すべて学習のネタである

北村:ふたつめは、全てが経験学習だということです。経験学習とは、ある機会によって得た経験について、「ここがうまくいった」「もうちょっとこうすれば違う結果が得られた」などと内省し、持論をつくり出し、次の機会に活かすというサイクルを回していくこと。アメリカの教育学者コルブが提唱した考え方です。

コルブの経験学習モデル

例えば、小さい子どもがブランコに近付いて頭をぶつけると、「揺れているものに近付くのは危険」という持論が生まれ、次は近付かないようになります。そんなふうに経験学習を繰り返し、人は成長していくのです。ですから、全ての経験は、「成功」か「失敗」かではなく、「学習するためのネタ」と認識したほうがいいでしょう。

しかし、人はとかく「経験」したことについての「内省」と「持論」のステップを飛ばして、次の「機会」を求めてしまいがちです。それでは次の「経験」のクオリティを上げることはできません。

勉強や部活についても、やみくもに努力するばかりでは非常にもったいない。頑張っても望むかたちにならないなら、頑張り方を変えてみることが大切です。そうして経験学習のサイクルを正しく回すことができれば、皆さんの経験はより豊かなものになるでしょう。

③キャリアは目標に向かって登っていくだけじゃない!

北村:「あなたは将来どうなりたいですか?」「どんな進路に進みたいですか?」―そう聞かれた時、今はうまく答えられなくても安心してください。

キャリアの考え方には2種類あると言われています。

キャリアに関するふたつの考え方

ひとつは「山登り型」で、若いうちに大きな目標を立てて、それに沿って突き進むという考え方です。元日本代表サッカー選手の本田圭佑さんが、小学校の卒業文集で「セリエAの背番号10番になる」という夢を語り、実現させました。まさに「山登り型」ですね。

一方、私自身はなんの旗も立てずにここまできています。高校時代には叶えたい夢など無く、こんな人になりたいというイメージすらありませんでした。社会人になってからも、どんなキャリアを歩んでいきたいかを問われ、旗が立てられずに悩んだこともありました。

そんな時出会ったのが、スタンフォード大学のクランボルツ教授が提唱する「計画された偶発性理論」です。論文によると、ビジネスに成功した人のキャリアを調査したところ、ターニングポイントの8割が、本人の予想しなかった偶然の出来事によるものだったそうです。クランボルツ教授はその理由を調べ、好奇心、持続性、柔軟性、楽観性、冒険心という5つの行動特性を大切にしながら、目の前にある仕事や勉強などに一生懸命取り組んでいけば、結果的に満足できるキャリアを築きやすいと指摘しています。

これがもうひとつのキャリアの考え方、「川下り型」です。私は完全にこちらのタイプです。川は下流に行くほど川幅が広くなるように、川下り型は目の前のことに一生懸命取り組んでいるうちにできることの幅が広くなるという良さがあります。

ふたつのキャリアは、どちらが良い・悪いということはなく、自分に向いているほうを選べばいい。あるいは、状況やタイミングに応じて「今はこっち」と使い分けていくのも手でしょう。

④強み・弱みは表裏一体。理解して活かそう

北村:自分が生まれながらに備えた性格を変えることは難しく、その性格を構成する因子は、ストレス状態によってポジティブにもネガティブに働くと言われています。

例えば私は、自分の「強み」は好奇心旺盛なところ、「弱み」が飽きっぽいところです。ストレスが過剰でも不足でもなく適正な時は好奇心が働いていろんなことにチャレンジするという「強み」になるけれど、ストレス状態が適正ではない時はすぐに飽きてやる気を失い「弱み」として表出してしまいます。

このように強みと弱みが表と裏の関係にあるのだとすれば、弱みを消そうとすると、強みも発揮できなくなる可能性があります。つまり、弱みは「消す」のではなく「理解して活かす」ことが大切なのです。

例えば、こだわりが強く物事をはっきりさせたいタイプで周囲から「独善的」と思われがちな人も、発言のタイミングを見極めるなどコントロールすれば、「意志が強い」といった高い評価を得ることができるでしょう。

また、発明家やイノベーターは、たいてい「面倒くさがり」と言われています。「面倒くさがり」のように弱みに思えることも、使い方次第で大きな強みにすることができるのです。

⑤不安を自分で「コントロール」しよう

北村:皆さん、高校生活を送るなかで、次のテストや将来のことなどを考えて不安に思うこともあるでしょう。私も不安だらけの日々です。それで、この不安というものの正体について、じっくり考えたことがあります。

不安とは、これからやってくる未来を想像した時の脳の反応といえます。脳は自らの生存のために、いろんなことを想像する能力に非常に長けています。その脳の力をうまくコントロールすることによって、不安のコントロールも可能ではないかと思っています。

不安のコントロールの仕方を提案

不安になるのは未来を想像しすぎて悲観的になっている時で、安心するのは今を満喫して満足している時です。そこで、不安な時は、先々のことは一切考えずに目の前のことに集中する。逆に安心している時は、先々を想像して、もしもに備える。そんなふうに脳をコントロールすると、不安の量は激減します。

また、不安が生じたら、それを脳から取り出して眺めてみることも有効です。私の場合は、不安に思うことを書き出し、「なぜこれを不安に思っているのかな」「こういうことを想像しているから不安なんだな」などと口に出しながら客観的に眺め、最後に「これは自分が勝手に想像していることだから不安がっても仕方がない」と言って、ごみ箱に捨てます。

皆さんも自分なりの不安のコントロール方法を見つけ、実践してみてください。

迷ったら、ドキドキする方へ。

北村:人は大人になるにつれ、だんだん現実が見えてきたり、お世話になった人を気づかったりして、心の内にある本当に望むものを選びにくくなることがあります。そんな時、自分の心に問いかけてみて欲しいのです。どちらがドキドキするか、と。

正解はないのですから、自分のドキドキを基準に選択すれば、きっと後悔しないはずです。そうして選択した道を、先ほどお伝えした5つのことを頭の隅に置きながら進んでいけば、皆さん自身も想像していなかった自分になれるのではないでしょうか。

少なくとも私自身は、前半にお話ししたような人生を送るなかで、ドキドキする経験というのはより多くのワクワクした出来事を連れてきてくれたことを実感しています。

「迷ったら、ドキドキする方へ。」これを最後のメッセージとして、皆さんに贈りたいと思います。

講演後に校舎移動途中の談笑する様子

プロフィール/敬称略

※プロフィールは取材当時のものです

北村吉弘(きたむら・よしひろ)
株式会社リクルートホールディングス 常務執行役員/株式会社リクルート 代表取締役社長

1997年 リクルート入社。『ゼクシィ』『ホットペッパービューティー』などの分野でさまざまな職種・役職を経験した後、2012年 株式会社リクルートライフスタイルなど、国内主要子会社(現リクルート)の代表取締役社長に就任。15年 リクルートホールディングス常務執行役員(現任)、18年 リクルート代表取締役社長に就任し、現在に至る

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